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そうだ 神保町へ 行こう!



明日は休日、私は突然言い放った。


「しもべ達よ。明日は神保町へ出かけるので、そのつもりでいるように」


拒否権? そんなモノは無いのだ。二人共予定が無いのは下調べ済み。この日の為に、体調管理も万全を期した。そして最大の餌をぶら下げる。


「明日は欲しい本を何でも一冊購入してあげようではないか」


これでAは確実に釣れる。今頃、高額故自分では躊躇うあれやこれやを考えているに違いない。

でもこれだと、Bは釣れない。彼はさほど読書が好きではないのだ。ただし、思い出して頂きたい。彼の最大の弱点、すなわち


「Bよ。乗り物を専門に扱っている、古本屋があるらしい」


滅多に使わない路線には心引かれるものの、そんなとこまで、怪しい母と出かけるのはちょっと……と云う雰囲気を醸し出してアピールをしていたBも、これでバッチリ掛かった。


「よろしいか。異論は無いな? では、決まり」


こうして、私はしもべ達を引き連れ、神保町を徘徊し、最大の目的である本を無事に手に入れ、古書店で既に絶版となっていた数冊の本と共に帰路についた。


何故、しもべ達が必要だったのか? 荷物持ちである。ついでに買い物をするには、私の腰がもたないのだ。


案の定、外出でグッタリとして三日程熱を出して寝込んだが、布団の中で私は購入したての本を手に、ご機嫌であった。神保町最高! 徒歩圏に住みたい。無理だけど。



そもそも何故、わざわざ神保町だったのか。これには全く深くない理由がある。



その頃私は、とある児童書を読んでいた。因みに、児童書だろうと哲学書だろうと、私の中では同列扱いである。私自身が、面白ければ良いのだ。どんなに世間で人気があっても、合わないものは合わない。


ジャンルには全くこだわりは無い。面白そうだと思えば、かなり専門的な科学系の本にも手を出して、理解が及ばない時は、それについてわかりやすく書かれた本を探したりもするし、中央図書館まで出向く事もある。


今回私のレーダーに引っ掛かったのが、修験道だった。実際の修験者が書いた本を読み研究者の本を読んだりしたが、イマイチ理解が及ばない。成り立ちは何となく分かったが、他の宗教との関係性がよく分からなくてスッキリしなかったのだ。

そこで、日本の宗教の歴史そのものに手を広げてみた。


これが面白かった。

調べれば調べる程にその混沌とした感じに興味が湧いたのである。


例の如く中央図書館まで出向いて、本を数冊見つけた。分厚いので借りようと思ったのだが、なんと館内限定指定だった。

日参するには遠いし、そこまでしたところで、私は研究者でも学者でも無いので諦めようと思ったのだが、出版されたてで非常に興味深い本が一冊だけあったのだ。


私が住んでいる周辺にも大型書店はあるが、そこでは見たことが無かった。そもそもキリスト教関連の本や仏教の教えみたいな本は置いてあっても、日本の既存宗教を体系化して研究している書籍自体が少ないからか、客観的に書かれている物は図書館でも僅かだった。

神保町に専門コーナーがある書店を見つけたのは、たまたま見かけた本屋紹介の本である。


そこまでして手に入れた本は、厚さ3.5㎝、ハードカバー版のハリー〇ッター位の大きさで、お値段税抜き三千八百円也であった。感想? 期待を裏切らない面白さだった。正直、修験道は掠ってるだけだが、この本はひょっとしたら将来役立つ事があるかも知れない。


書籍名をお教えする前に、これを私が嬉しそうに抱えていた時のしもべ達の反応だが、何故か恐怖を浮かべていた。どう云う理由で手に入れたのかは、質問されなかった。


書籍名は、「日本呪法○書」という。


れっきとした、研究書である。念のため。

しもべ達も、まさかあの児童書から始まったとは思わないであろう。



そうそう、しもべ達もお目当ての本を手に入れて、古書店では、好きなジャンルの本も見つかって嬉しそうにしていた。

これも計算の上である。次に私が、神保町探索が出来るだけの余裕を作れた時、彼等はイソイソと付き合ってくれるにちがいない。



後日、私の数少ない友人の一人に、事の顛末を話す機会があった。

彼女は大笑いした上で、呆れ返った顔で言った。


「AちゃんもBちゃんも、可哀相に」


何故だ? こういう風に興味を広げるのも、読書の醍醐味ではないか。それを身を持って教授したのだ。立派な教育なのである。まあ自分自身、斜めに進んでいる気はしているが。



ところで、たった一冊の本から始まった探索は、実はまだ終わりを迎えていない。昨年、式年遷宮直後の伊勢神宮に、参拝する機会があったのだ。残念ながら、児童書の舞台である熊野古道には行けなかったのだが、伊勢で感じたしきたりへの興味は、現在民俗学へと広がっている。


幼い頃歌っていた童謡に、民俗学上の深い意味があった等、誰が思うだろう。宗教と文化は、切り離す事ができない。我々が普段何気なくしている所作にも、色々な意味があったりする。実に面白いのである。


私は宗教家でも研究者でもない。特定の宗教を信奉している訳でもない。だから何が正しいかの追求はしないし興味もわかない。自分の好奇心が満足さえすればそれで良いのだ。今回の興味の対象が、たまたま宗教についてであり、民俗学だっただけである。


明日には新たな本から、また違う物をレーダーが拾うかもしれない。気まぐれな好奇心なのは自分が一番良く知っている。

でも楽しいのだ。贅沢な、けれど豊かな時間なのである。私限定だけれど。


今はネット上に色々な物が溢れている。私が調べたりしたことも、検索すれば一瞬にしてわかるのかもしれない。時間がもったいないと言われる方もいるだろう。


だがそれでは私はつまらないのだ。満足感がないのだ。模索しながら、寄り道しながら、時には立ち止まりながら、少しずつ自分を満たしていくこの過程こそが好きなのだから。


それを誰かに押し付けようとは思わない。読書の楽しみ方は、人それぞれでいいと思うし、それこそ自由であるべきなのである。



さて、こんな変な母を持ったしもべ達はどんな読書をしているのかと云うと、Aは最近三国志とラノベを平行して読んでいる様だ。推理小説や恋愛小説には興味がないらしい。SFやファンタジーが好みの様である。日本の古典も好きなようだ。そういえば、Aがファッション誌等をめくっているのを見たことがない。ゲーム誌ならあるのだが。


Bはとことんノンフィクション。絵本の頃からそうだった。鉄道が好きでも、鉄道ミステリーは別の様だ。戦国辺りの歴史には興味があるらしく、私よりも詳しい。

ただし、この知識は児童向けの学習歴史漫画からだ。想像が出来ないと本人は言っている。挿絵があればまだいいけれど、そうでないとフィクションは辛いらしい。


三者三様の三つの本棚。時々行ったり来たり、増えたり減ったり。漫画から写真集まで中味は本当に様々だ。 それを眺めているだけでも楽しい母である。








気になりますか? 日本呪法~ の内容♪


色々な、日本の宗教的儀式を、かなり詳しく解説しています。

ただし、純粋な研究書であり実践を目的としたものではありません。


主に密教関連の記述が多く、具体的に過去に行われた儀式等もあげられています。

呪詛も勿論ありますが、行うのは修行した行者であり僧侶であって、素人ができるものではありません。精々依頼する事ができるだけです。それも、相手自身を呪ったりするのではなく、相手の悪い所を取り除くと云う感じでした。


ですからどうぞ、そのような事に手を出したりなさいません様に。


そうそう、本のなかで陰陽師とかがブツブツと唱えているシーンがありますが、どんな内容の事を意味しているのか分かってスッキリです。実際にお役立ちしてくれました。(笑)


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