どうやら僕は女装をしなければいけないようです
なんだかちょっとこの話書きにくいです。
でも途中でやめるのも何なので巻いて完結まで持ってきたいと思います。
その制服は白を基調としたワンピースで、胸には大きなリボンがありました。
とても男の着る制服ではありません。
「ぼ…、僕は男です。女の子じゃないです!」
僕は当然の主張をしました。
「あら? ふふふ、そんなのわかってるわ、もちろん。アニスちゃんはミントちゃんの若いころにそっくりだし」
なんですと?
「ではなぜわかっていながらその制服……!」
「こっちの方が可愛いじゃない?」
「そういう問題じゃありません!」
「それに、よく似合うわ、きっと。リコリスよりも似合うんじゃないのかしら?」
「もっとそういう問題じゃないです!」
うふふふふと笑うティアレラおば様に言い募る僕の肩に、ぽんっとリコリスが手を置いた。
「諦めろ。言うだけ無駄だ」
リコリスは凛々しい声でそう言った。
やはり、先ほどの返事も聞き間違いではなかったようで、リコリスはなんだか男の子っぽい。
見た目は普通(普通に可愛いけど、地味目。母親のティアレラおば様の面影はまったくない)に女の子なんだけど、佇まいとか雰囲気とか話方とかが。
「あう……。は、もしやリコリスも」
「いや、私は女だがな」
「はう……」
お仲間ではないのですね。
はっ、そう言えば……。
「僕の学院の登録はいったいどっちで……」
「もちろん、男の子で手続きしてあるわよ?」
ほ、良かった。
「じゃあ、やっぱりその制服駄目ですよね」
「あら? どうして?」
「だって、男が女の子の制服着てちゃ駄目じゃないですか」
「あら? でも規定にはどこにも駄目だって書いてないわよ?」
そんなことは書かなくても当たり前のことだからじゃ……。
「ほら、ね? なんの問題もないわ」
「あう……」
にこにこと笑うティアレアおば様を前に、僕は確かに母の親友という繋がりを感じたのでした。
荷物の片づけもあるでしょう、とティアレラおば様が一人にしてくれて、僕はしばらく部屋でぼーっとしていました。
まあ、部屋の内装はいいです。父も似たような感じで飾り付けしてたから。
でもまさか、女の子用の制服着て、学校に通うはめになるとは思いませんでした。
数日前には家を出ることさえ思ってもみなかったのに、人生ってなんて複雑怪奇。
トントン、と部屋の扉がノックされました。
僕がそろそろと扉を開けると、そこにはリコリスが立ってました。
「よ、今大丈夫か?」
「はい、どうぞ」
僕はリコリスを部屋へ招き入れました。
本当は二人っきりでいる時に、女の子を自室へ入れるようなこといけないと思いますが、なんだかリコリスは女の子という感じがしないし……。
は、これは失礼な考えですね。いけないいけない。
「やっぱすごいな、この部屋。おかんの趣味が溢れてる」
「リコリスの部屋は違うんですか?」
「ああ、私の部屋は勝手に入らないように言ってるしな。お前もあんまためこみ過ぎんなよ。もたねーぞ」
「は、はい」
「それからその口調、もっと砕けろよ。同い年なんだし」
「僕はもとからこの話方です。リコリスこそ、その口調……」
僕がそう言うと、リコリスはぽりぽりと頭をかきました。
「ああ、令嬢らしくないってか。わりーな、もうずっとこれできてるから今更なおんねーわ」
「ずっと? ですか?」
こてり、と僕は首を傾げました。
仮にもバーベナ家の御令嬢です。そんな口調になる環境にはなかったはずですが。
「ああ。市場調査の一環で、よく下町に入り浸っててな。で、うつった」
「市場調査、ですか?」
「ああ。私は将来このバーベナ商会をもっと大きなものにしたいと思ってるからな。その為の研究・勉強には手を抜かん。新たな市場の開拓もしたいし、取扱い商品リストの拡大、品質の向上、やることはいっぱいだ」
「リコリス……、すごいです。僕はそんなこと、考えたこともなかったです」
ちょっと感動しました。
僕と同じ年の女の子が、そんな事を考えてるなんて。
なんか、ますます男の子っぽい気はしますが。
僕の尊敬のまなざしに、リコリスは少し照れたような顔をしました。
ああ、無表情の中にも表情が。
「いやなに、お前も困ったことがあったら何でも言ってくれ。出来る限り力になるからさ」
「ありがとうございます、リコリス。じゃあさっそくこれ」
と、僕が制服を掲げた途端。
「あ、それは無理。悪いな。出来ないもんは出来ないわ」
はたはたと手を振られました。
やはり、僕は女装して学院に通わなければいけないようです。はあ。
ちなみにこの登場人物や名称は共通点あります。
さてそれはなんでしょうか。