母の親友一家
親友一家と題をつけたものの、父親は名前しか出てきません。
僕はさっそく荷造りすると、翌朝住み慣れた屋敷を出ました。
さようなら、僕の家。また帰ってくる日まで。
……ちょっと大げさでしたか、てへ。
出発とは言っても、別に一人旅ではないです。
まだ僕子供と言われる年齢ですし。
一応侯爵家の跡取りですし。
誘拐怖い。
家の馬車と護衛の馬車に守られて、ごとごと揺られていつの間にか僕は夢の中です。
おやすみなさい……。
間の街で何度か宿泊もして、やっとついたアルメリア。
母の親友の屋敷はアルメリアの首都にあるとのことです。
セントーリア学院、つまり僕が通う予定の学校も同じ首都にあるとのこと。
学校は母の親友の屋敷から通うことになるらしいです。
この辺の事情は父が手紙にして持たせてくれました。
おおざっぱな母は、こんな簡単な説明も行けばわかると省いてしまったので。
ありがとう、父。でもできれば母の暴走を止めて欲しかったです。
そして母の親友の家の情報は、行ってからの楽しみだね、っと書いてくれていませんでした。
父はこういったちょっとお茶目さんなところがたまにきずです。
アルメリアの首都の街並みを物珍しげにぼんやり眺めてると、あっと言う間に母の親友の屋敷に着きました。
さあ、これから対面の時間です。
どきどきします。
母の親友と言っても、僕会ったことありませんし。
屋敷は僕の実家よりは小ぶりではありましたが、なかなか住み心地の良さそうな家で安心しました。
執事らしき人に案内され、客間に通されました。
手持ちぶたさで待っていると、軽い足取りが聞こえ、扉が開かれました。
「まあー! あなたがアニスちゃん。まあまあまあまあ、なんて可愛いの! ミントちゃんにそっくりねえー!」
母の親友はテンションが高かったです。
見た目は、可憐な美少女です。
ふわふわぽわぽわしてます。
母より父と共通点多そうです。
……母の好みがわかるってものです。
可憐な少女、改め母の親友はいきなり僕をぎゅっと抱きしめました。
思いのほか力があって僕はびっくりです。
「私はティアレラ。ティアレラ・バーベナよ。これからアニスちゃんの第二のママになるから、仲良くしてね!」
「は、はい。よろしくお願いします」
僕が返事をすると、ティアレラおば様はやっと体を離して、にっこり笑いました。
「主人はバジル・バーベナよ。アニスちゃんは知ってるかしら? 一応バーベナ商会の代表をしてるの」
仕事の関係で今ここにいられなくて残念だわ、とちょっと曇った顔でティアレラおば様は眉を下げました。
知ってるも何も、バーベナ商会は大陸一・二を代表する商会です。バーベナ家自体は男爵とうちより家格は落ちますが、知名度ではまったくの逆でしょう。
資産なんか下手な王侯貴族よりあるのではないでしょうか。
政治や貴族の話に興味がある人は別でしょうが、一般市民からしてみれば店舗に並んでる品々に表記された「バーベナ」の名前の方が認識があって当然です。
僕がそう感心していると、ティアレラおば様は僕から離れ、今度は後ろにいた女の子を僕に紹介しました。
「アニスちゃん、こっちがうちの娘よ。リコリスって言うの。年はアニスちゃんと同じ。仲良くしてあげてね」
「は、はい。よろしくお願いします、リコリス?」
僕がぺこりと頭を下げると、リコリスと呼ばれた女の子は「おう」と頷きました。
おう……?
聞き間違いかな。女の子が「おう」だなんて。
じっとリコリスを見ると、リコリスも僕をじっと見返した。
リコリスはあまり表情がない。というより無表情?
「うふふふー、リコリスはちょっと愛想なくてぶっきらぼうなところがあるけど、いい子なの。アニスちゃん、気にしないであげてね? 今度から同じ学院に入るのだし」
にこにこティアレラおば様はそう言うけど、お、怒ってるわけじゃないよね?
「それにしても、本当に嬉しいわ。私、本当に夢だったの。アゼリアと私の子が同じ学校に通うの! 私とアゼリアも同じ学校に通っていたのよ」
「そうなんですか」
「ちょっとリコリスが女の子らしくないところがあるでしょう? 私、ずっとアニスちゃんのような女の子が欲しかったの」
「ん?」
女の子? 聞き間違いかな?
「これからいっぱい私にも付き合ってね? お茶に、料理に、刺繡に、お買いもの!」
「はあ」
まあそれなら実家の父といつもしていたことだし。
「あ、アニスちゃん、アニスちゃんの為の部屋を用意してあるの。見て見て~」
ティアレラおば様はよほど娘より少女のようにはしゃいで僕の手を引きました。
ちょっと可愛らしくて微笑ましい。
と、和んでいた僕が馬鹿でした。
「ここよー」
連れられてきた部屋の扉を開けて、僕は唖然としました。
フリルにつぐフリル。レースの洪水。白とピンクを基調にした、ザ・プリンセスルーム。
「え?」
ちょっと脳の動きが追い付かない僕に、ティアレラおば様はうきうきとドレッサーを開くと僕に掲げて見せた。
「ほおら、これがセントーレア学院の制服よ? 可愛いでしょう」
「……えええええー!」
そこにあったのは、紛れもない、女の子用の制服でした。
次回もよろしくお願いいたします。