白牙の孤独なる旅立ち
現シリーズ最後の話
「状況は、どうなっている!」
白牙が怒声が八百刃神殿を震わす。
「白牙、怒鳴っても何も変わらないよ」
八百刃は、淡々と資料に目を通す。
「状況は、最悪だ最上級神の一柱、影星命神、月桜玉が滅ぼされたというのだぞ!」
白牙が声を荒げるが八百刃は、冷静に白金虎に指示を出していた。
「この資料を中心に調査する様に指示を出して」
「了解しました」
駆け出す白金虎を横目に白牙が告げる。
「状況は、一刻を争う。八百刃獣の総動員するべきだ」
「駄目に決まっているでしょう。通常任務中の八百刃獣は、現行のまま作業を続けさせる」
八百刃に即座に棄却された事に白牙が苛立つ。
「多少の被害は、容認する。そうしなければとてつもない被害が出るぞ!」
「その判断は、あちきの仕事だよ」
八百刃は、揺るがない言葉で答える。
「せめて、上級八百刃獣だけでも召集をかけるべきだ!」
白牙がそれでも食い下がる。
「逆だよ。ここで、上級八百刃獣を広域に展開かけて、何処でトラブルが発生しても対応出来る様にしておくのが最善手だよ」
即答する八百刃に白牙が悔しげな顔をする。
「お前は、先の先まで見えているのだろうな?」
八百刃は、短い沈黙の後に指を鳴らす。
『なんでございましょうか?』
答えたのは、新名の神殿に居る闘甲虫だった。
「新名に伝えて、あちきに万が一があった場合、八百刃獣のバックアップを頼むと」
『……仰っている意味が解りません?』
闘甲虫の返事に八百刃が続ける。
「今回の事案は、不明確な事が多い。あちきも嫌な予感が強く感じる。最悪のケースを想定しておかないといけない。それと間違っても新名には、動くなと釘をさせいておいて。これ以上、最上級神が半数になる事態は、容認出来ないからね」
『新名様への進言は、了承しました。それならば、八百刃様こそ御身の重要性をお考え下さい!』
闘甲虫の答えに八百刃が苦笑する。
「戦神の長であるあちきが戦いから逃げるわけには、行かないのよ。新名、そして狼打によろしく言っておいて」
連絡を終える八百刃に白牙が詰め寄る。
「状況がそこまで悪いのか?」
八百刃は、辛そうに頷く。
「月桜玉が亡びた時点である程度は、予測できた。相手は、極無神だよ」
白牙の顔がひきつる。
「まさかあれは、全てを滅ぼす神として、古代の神々が多くの犠牲をもって完全封印を行った筈だぞ!」
「管理派の過激派にそれに関わった古代神の生き残りが居た。そして、劣勢を覆す一手として解放したみたいね」
八百刃の答えに白牙が歯軋りをする。
「ふざけおって、そいつを直ぐに捕らえて、情報を引き出さないとならないな」
八百刃は、首を横に振る。
「この可能性が考慮された時点で影走鬼に直接監視をさせていたけど、他の管理派の妨害で居場所をロスト、その直後に周囲の世界が消失、居場所をロストした神の存在も完全に消失した」
舌打する白牙。
「滅びるんだったら自分だけにしておけと言いたいな」
「今更だよ。水際で防げなかったこっちの手落ち、その責任は、ちゃんととらないとね」
八百刃の言葉に白牙が慌てる。
「馬鹿を言うな。もしそうなら、逆にお前は、自分の安全を最優先しろ。我々八百刃獣は、その為に居る。やはり上位八百刃獣をここに戻して、極無神発見に合わせて全投入が一番確実だろう」
「それは、駄目。極無神を相手にするのは、あちきだけだよ」
八百刃の主張を白牙は、認めない。
「それだけは、容認できない! お前を万が一の事態から護るのは、俺達の絶対の使命だ!」
八百刃は、真剣な顔で言う。
「相手は、無なの。数を投入する事は、逆に事態を悪化する。対処方法は、一つ、完全閉鎖した世界で、最大の力であたる事」
「お前は、自分が滅びるつもりか?」
問い詰める白牙に八百刃が苦笑する。
「安心してよ、あちきは、生き汚いから。そう簡単に滅びたりしないよ」
拳を握り締めて白牙が言う。
「その戦い、俺だけは、同行するぞ」
「それは、無理だね」
即答する八百刃を睨む白牙。
「最大の力であたるのでは、ないのか!」
肩をすくめる八百刃。
「そうしたいけど、白牙には、戦闘する世界の遮断に全力を投入して貰いたい。これは、他の相手には、頼めない一番重要の仕事。あちきの力を信じて全力で当たってね」
「無が相手では、仕方ない事か……」
白牙が納得したくないと言う顔をしていると、その存在を希釈された影走鬼がやって来た。
「八百刃様、問題の神の最終ポイントです」
八百刃は、影走鬼に力を注ぎ込みながら言う。
「ご苦労様。ゆっくり休んでて。後は、あちきが決めるから」
「いえ、少しでも八百刃様のお役に……」
無理をしようとする影走鬼を封印して八百刃が鋭い眼差しを見せる。
「白牙、追い込みをかける。参加者は、間接攻撃可能のタイプのみで、直接接触を禁じる」
「了解しました」
白牙が八百刃の指示に従い、行動を開始する。
「信用しているよ」
八百刃は、そう言い残して白牙が閉鎖をかける世界に入っていく。
「白牙殿、やはり我々も同行した方が! 少しでも八百刃様の危険が減らせるのだったら、我々は、犠牲になってもかまわない!」
炎翼鳥が詰め寄るが水産蛙が睨む。
「黙れ! 無を相手するのに余計な存在は、八百刃様の足手纏いになるだけ! ここは、八百刃様を信じて待つ。それが八百刃獣としての役目だ!」
世界遮断の手伝いを行っている上級八百刃獣全てが悔しげな顔で外部から窺う事も出来ない世界を見詰続けた。
強大な力が発動し、そして八百刃獣達は、その身で、その魂で知る。
八百刃の存在が一気に拡散していく事を。
「ヤオ!」
白牙が世界の壁を切り裂き、突入する。
しかしその先には、戦いの残滓が残るだけであった。
「……八百刃様の気配は、無い」
必死の捜索の後、天道龍が告げた。
「まだだ、諦めるな! 八百刃様がそう簡単に滅びる訳が無い!」
「落ち着け、白牙!」
そこに現れたのは、狼打だった。
「落ち着いて居られる状況か!」
怒鳴り返す白牙を抑え、狼打が言う。
「お前には、八百刃様が不在の間、八百刃獣をまとめる役目があるだろうが!」
「そんな役目など負った事等ない! 俺は、あいつの傍であいつと共に戦う。それだけの存在だ!」
暴れる白牙を狼打は、力尽くで止めた。
「理解しろ! 本当のお前なら俺に止められない! それが何を意味しているのかを!」
咆哮を上げる白牙。
「行くのですか?」
新名が声を掛けると新名の神殿から出て行こうとしていた白牙が頭を下げる。
「残った八百刃獣の事は、よろしくお願いします」
「それは、構わないわ」
新名が辛そうに言うと狼打が続ける。
「部下の心配するならお前が残ってサポートしろ」
「俺には、やらなければいけない事がある」
白牙の言葉に新名が言う。
「八百刃の気配は、皆無です。どうやって探すと言うのですか?」
「あいつは、簡単に滅びない。どうにかして生き残っている。だから俺は、そんなあいつを探すだけ」
背を向けて歩み始める白牙を悲しそうに見る新名を優しく抱き寄せる狼打。
「世界の存在を決めるお前に感じられない八百刃は、もう滅びたのかもしれない。しかし万が一、いや無量大数分の一の可能性もないだろうが、奴は、そんな塵程も無い可能性を追わずには、居られないのだ」
「私もその可能性を信じたいです」
新名の言葉に狼打は、不思議な顔をする。
「そうだな。本来なら絶対ありえないと思えるのに八百刃様ならなんとかしているのでは、と思える。本当に不思議な神だ」
こうして送り出された白牙は、まるで当ての無い八百刃探しの旅に出るのであった。




