白牙が悩む隠し子問題
白牙の隠し子では、ありません
最上級神の第一使徒達は、定期的に会合を開いたりしている。
特に八百刃の第一使徒、白牙と新名の第一使徒、狼打は、ホープワールド時代からの付き合いで、何かと話し合いの場をもっているんであった。
大半が神々の動向など、重要な用件によるものだが、彼等もストレスが多い職務、羽目を外すこともある。
八百刃神殿。
「ねえ、この人って似てない?」
資料を見ていた八百刃の問いに白牙が怪訝そうな顔をする。
「お前が見ているのは、人界の特殊強者リストの筈だ。似たような人間の一人や二人居るだろう」
「ホープワールド時代の知り合いだよ」
八百刃が補足しながら資料を差し出す。
問題の資料を持ってきた白金虎が訊ねる。
「確かその資料は、管理派の神々の干渉が無いかのチェックに使用していた物ですが、何か問題がありましたか?」
八百刃は、手を横に振る。
「資料自体には、問題ない。チェック済みで、今後の干渉の参考資料程度に目を通していただけから。問題があるのは、この人が似ているという事だけ」
「誰に似ているっていうんだ?」
白牙が資料を覗き込み、暫く沈黙する。
「……確かに似ているな」
「そうでしょ?」
八百刃の言葉に白金虎も気になりだす。
「どなたに似ているのでしょうか?」
「何度か会ったことがあると思うけど新名の第一使徒、狼打だよ」
八百刃の言葉に白金虎が首を傾げる。
「確かに何処となく似ている気がしますが、この程度なら不自然とは、思いませんが?」
「白金虎がそう思ってもおかしくないね。あちき達は、狼打が人間の頃からの知り合いなの。そしてその頃の狼打、ローダとかなり似ているのよ」
八百刃の説明に白金虎が驚く。
「狼打様って人間だったのですか?」
「そうだ。もっと驚かせてやろう。元々は、八百刃の信望者だ」
白牙の一言に正にめを見開く白金虎。
「そんな、六極神の一人の第一使徒がですか!」
「白金虎、その名称は、禁句だよ」
八百刃の指摘に慌てて白金虎が訂正する。
「すいません。しかし、最上級神の一人の第一使徒が他の最上級神の信望者だなんて信じられません」
「実際は、その関係で色々と繋がりが出来て、新名の第一使徒の役目を半ば押し付けたのがあちきなんだけどね」
八百刃が懐かしむようにいう中、白牙が資料を抱え込み言う。
「この件は、俺が処理しよう。他の資料の確認を先行させてくれ」
「了解、結果が解ったら教えてね」
八百刃は、あっさり別の資料の確認を始める。
退室した白牙は、ついてきた白金虎に告げる。
「これから新名様の神殿に行って来るから後の事は、頼む」
「態々白牙様がですか? 狼打様への確認でしたら、私が参りますが」
白金虎の気遣いに白牙が即答する。
「他にも相談することがある。くれぐれもあいつから目を離すなよ」
「重々承知しています」
何度も辛い目をあってきた白金虎が頷き、白牙が移動する。
新名の神殿。
「失礼する。我は、八百刃様の第一使徒、白牙。新名様の第一使徒、狼打様に緊急の会談する為に参った」
門番が慌てる。
「はい。直ぐにお取次ぎしますので、お待ち下さい」
慌てまくる門番がふと見ると白牙は、苛立ちを隠せない様子であった。
早く繋がれと心の中で願い、涙目になる門番。
『はい、こちら第一執務室です』
「白牙様が来られ、狼打様との緊急の会談を要望されています。急いで対応をお願いします!」
門番が力の限り叫ぶと相手側も動揺する。
『了解しました。直ぐに狼打様にお伝えします。白牙様には、会談室でお待ちくださるように伝えてください。間違っても失礼が無いように!』
緊張した面持ちで門番が激しく頷き、白牙の方を向く。
「狼打様には、直ぐに話が行きます。白牙様には、会談室でお待ち頂けますでしょうか?」
ビクビクする門番の様子に自分がかなり苛立っている事を自覚し白牙が告げる。
「すまない。事は、急を要する事でな。会談室は、何時もの場所で問題ないのだな?」
「はい。ご案内致します」
先導しようとする門番に白牙が首を横に振る。
「場所は、知っている。汝にも仕事がある。その仕事を優先されよ」
こうして白牙が会談室に移動した後、早々に狼打と闘甲虫が現れる。
「お前も来た。まあ丁度いい」
狼打が真剣な顔で訊ねる。
「お前が直接来るとは、相当の問題なのだな」
白牙は、腕を振るい、空間を遮断した。
「これでこの中の事は、外部には、漏れない」
「おいおい、他の神の神殿で何やってるんだ?」
闘甲虫の突っ込みに白牙が即答する。
「万が一にもばれたら大変な非常事態だ。構わないだろう?」
狼打が頷く。
「白牙がそう思うことなら構わない。それより本題を頼む」
白牙が先ほどの資料を見せる。
「ヤオがこれが人間時代のお前にそっくりだと指摘してきた」
「そんなに似ているか?」
まるで想定外の情報に狼打が眉を寄せる中、闘甲虫が肯定する。
「物凄く似ているな。それもこの世界って俺達三人で、女遊びした世界じゃねえか?」
その一言に一気に狼打の顔が切羽詰った物になり、資料を細かくチェックする。
「俺の勘違いでなかったら、そいつの母親は、お前があの日寝た女だろ?」
白牙の指摘に狼打が小さく頷くのを見て闘甲虫が気楽に言う。
「見事なホールインワンか。大したものだな」
「他人事の様に言うな、お前も同罪だぞ」
白牙の指摘に闘甲虫が余裕の笑みを浮かべる。
「俺は、お前達と違ってフリーだからな女遊びした所でどこからも文句は、出ないさ」
「俺もフリーだ」
白牙の反論に闘甲虫が苦笑する。
「クッキング対決を始めとする嫁候補の勝負をやらせておきながらか?」
「あれは、ヤオと百爪辺りが楽しんでるだけだ!」
怒鳴る白牙だったが、大きく深呼吸をして言う。
「今は、狼打の事だ。妻子持ちが、何ドジをやってるんだ?」
頭を抱える狼打。
「あの時は、完全に人間のふりしてたんで、その手の事は、野暮だと思ってやらなかったんだ」
呆れた顔をする白牙と気楽に頷く闘甲虫。
「解る解る。それで認知するのか?」
「馬鹿が、そんな事をすれば大問題になるだろうが」
白牙の言葉に闘甲虫が何かを思い出す。
「そうだったな。前に狼打が浮気した時の新名様を考えれば、かなりの大問題だな」
「噂でしか聞いていないが、かなり大変だったのだろう?」
白牙の確認に闘甲虫が頷く。
「そうそう、新名様は、基本的に相手を責めないからな。自分に問題があったんだと、ひたすら落ち込んでな、モロに影響が出まくった。あの時って幾つの世界が消滅したんだっけ?」
「言うな、公にならないように処理を総出でやったんだからな」
重い口調の狼打に白牙も嫌そうな顔をする。
「隠し子が居るなんて知れたら、どうなるかを想像したくないな」
嫌な想像がその場を席巻する中、白牙が言う。
「俺の立場から言わせて貰えば、そいつを始末して、全て無かった様に隠蔽工作するのが妥当だと思うがな」
「おいおい、いきなり始末っていうのは、どうなんだ?」
闘甲虫の文句に狼打が難しい顔をする。
「俺も白牙の立場だったら、同じ提案をしている。だが、出来ればもっと穏便な方法を取りたい」
白牙が肩をすくめる。
「仕方あるまい。万が一にもばれた場合、八百刃の逆鱗に触れそうだからこの案は、最終候補としておこう」
「残すのかよ?」
闘甲虫の突っ込みを無視して白牙が告げる。
「様は、お前の子供だとばれなければ良いんだ。いっその事、新狼の血族、魔磨辺りと関係がある風に誤魔化そう」
「人の所の孫に勝手な役割をふるな」
不機嫌そうな顔をする狼打に白牙が睨む。
「そんな口が利ける立場だと思っているのか?」
「どんな立場だって譲れないものがあるって事だ」
狼打が睨み返すと場の空気が重くなる。
「おいおい、そんな喧嘩している余裕があるのか?」
闘甲虫の指摘に白牙が引く。
「そうだったな。とにかく、この案が気にいらないんだったら、対案をだせ」
悩みながら狼打が言う。
「運命コントロールで別の父親をつけたらどうだ。俺に外見が似ている父親をあてがえば、誤魔化せないか?」
「ヤオが気付く前だったら通じただろうが、今となっては、手遅れだ」
白牙が否定すると狼打が腕を組んで悩む。
「そこだ。八百刃様に気付かれているから下手な手を打てば、気付かれる可能性が高い」
闘甲虫が手を叩く。
「ならいっその事、八百刃様に頭を下げればどうだ? 八百刃様だって新名様が落ち込み影響が出ると解っているなら協力してくれるだろう」
想いっきり嫌そうな顔をする白牙と狼打だったが闘甲虫が追い込む。
「俺達がどんな小細工した所で八百刃様を騙せる訳が無いだろう」
苦虫を大量に噛み砕いた顔をして白牙が言う。
「確かにそうだが……」
「八百刃様にこんなつまらない尻拭いさせるのは、心苦しいんだが……」
苦悩する狼打。
暫くの葛藤の後、白牙が告げる。
「それが一番の妥当な手段だな」
「俺は、暫く立ち直れない気がするぞ」
くらいを顔をする狼打。
八百刃神殿に狼打と共に帰って来た白牙。
執務室で出迎えた八百刃が言う。
「それで、狼打の隠し子の事は、隠す事にするの? それとも新名に言って平謝りするの?」
意地悪な質問に狼打が言葉に詰っていると白牙が舌打する。
「お前は、最初から気づいていたのか?」
八百刃が苦笑する。
「情報にある気のパターンを解析すれば直ぐ解るって。それでどっち。どっちにするとしても協力するよ」
狼打が頭を下げて言う。
「隠す方向でお願いします」
不満そうな顔をする八百刃。
「そういうのは、嫌いだな。まあ、決めるのは、狼打だし、協力するよ」
「本当に申し訳ございません」
頭を何度も下げる狼打であった。
少し後の八百刃神殿。
「ヤオは、何処に行った!」
白牙が駈けずり周る中、報告のついでにやって来た闘甲虫が言う。
「そういえば狼打が前回の件で弱みつかまれてるからって八百刃様移動封じの術を弱める手助けしているって噂があるんだが知ってるか?」
「あいつは、自分の所の問題解決に協力させておきながら、こっちの問題を大きくしおって!」
クレームをあげに行く白牙であった。




