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天道龍が行う裏切り

天道龍が裏切ります

 八百刃獣、その戦闘力は、神々の中でも覆せない絶対的な存在であった。

 しかし、同時にその高さ故に、その主である八百刃の実力は、あまり知られる事は、無かった。



「この空間は、完全に遮断させて貰った」

 天道龍の言葉に、その場に居た神々が頷く。

「当然の配慮だ。この集会の内容を考えれば」

 この集会の中心、黒雷剣コクライケンの言葉に天道龍が苦笑する。

「集会? 密会の間違いだろう。戦いを司る極神、八百刃の暗殺を計画しているのだからな」

 神々もその言葉には、緊張を走らせるが、黒雷剣は、泰然と告げる。

「その計画の要には、貴様、自ら使える神を裏切る使徒が居る事を忘れるな」

 天道龍があっさり頷く。

「当然だ。一番のリスクを負っているのだ。例の約束を忘れるな」

 睨みつける天道龍に黒雷剣が契約書を見せる。

「解っている。次の戦いを司る極神の第一使徒は、天道龍、貴殿だ」

 天道龍が舌打ちする。

「それこそが私の正しい身分なのだ。ただ、八百刃に最初に出逢ったというだけで第一使徒をやっている白牙に、いつまでも大きな顔をさせておけるものか!」

「その憤りは、正しい。八百刃獣の力を借りなければ何も出来ない八百刃に付き従うしか出来ない無能に、その立場は、不相応だったのだよ」

 黒雷剣の言葉に満足気に頷く天道龍。

「長く八百刃との繋がりを絶っていれば怪しまれる。私は、持ち場に戻させて貰う」

 天道龍が去った後、神々の一人が告げる。

「しかし、あの様な契約をして本当に良かったのですが? 次の戦いを司る極神が誰になるかは、まだ決まっていませんが、その神にも第一使徒が居る筈ですが?」

 失笑する黒雷剣。

「構わないだろう。極神に成った直後に一時的に第一使徒をやらせても。八百刃からの力の供給が無くなれば、たかが使徒に大きな顔をさせておく必要は、なくなるのだからな。極神になる我の小間使いとしてこきつかってやるだけだ」

 次期極神が自分だと疑らない黒雷剣であった。



「天道龍、今回は、忙しい所に割り込んでゴメンネ」

 手を合わせて謝る八百刃を背に乗せた天道龍がフォローする。

「気にしないで下さい。今回は、私の部下も手が空いている者も居ない状態で、上位神達からの緊急の呼び出し。仕方なきことです」

 小さくため息を吐く八百刃。

「それにしても、あちきを呼び出さないといけないほどのトラブルって何だろう。心当たりがまったく無いな」

 首を傾げる八百刃を冷めた目で見る天道龍であったが、暫くして目的の場所に着く。

「お待ちしておりました八百刃様。お急ぎ下さい」

 現地で待っていた黒雷剣が奥に導く。

「あちき以外は、全員集まっている様だね」

 八百刃が確認すると黒雷剣が邪悪な笑みを浮かべる。

「はい。全員集まっています」

「そう、それで神々の未来を左右する程の重要な案件って何?」

 八百刃が問い掛けに黒雷剣が合図を送ると外で待機していた天道龍が空間を完全に遮断した。

「これで貴様は、独り! 八百刃獣の力を使えぬ貴様など無力に等しいのだ!」

 勝ち誇る黒雷剣と共に歓喜をあげる神々。

 しかし、八百刃は、平然と繰り返した。

「もう一度聞くけど、神々の未来を左右する程の重要な案件って何?」

 黒雷剣が失笑する。

「まだ解らないのか! 貴様がここで滅び、本当の極神がその地位に就くのだ!」

 その力の象徴たる、黒い雷を纏った剣を振り下ろす黒雷剣。

 八百刃は、あっさりかわし、黒雷剣の腹に手を当て、力を解き放つ。

 たった一撃で黒雷剣の力の大半が切り刻まれ、霧散した。

 八百刃は、徹底的な力差に圧倒されている神々に問いかける。

「これで最後になると思うけど、神々の未来を左右する程の重要な案件って何?」

 誰も答えられない。

「もう、やってしまったのだ! 今更引き下がる訳には、いかない!」

 緊張に耐えられず、何柱の神が八百刃に襲い掛かる。

 ここに居る神々が全て、戦闘に特化した戦神であったが、八百刃は、そのどの攻撃もかすりもさせない。

「何故、当たらないのだ!」

 叫ぶ神々に八百刃が頬をかく。

「戦いを力の大小で決まると思っている貴方達と違うからかな?」

「意味が解らないことを!」

 速さだけなら間違いなく上の戦神の攻撃を八百刃は、簡単にかわした。

「何故、かわせるんだ!」

 驚愕しているその戦神の後ろに八百刃が立ち告げる。

「速さを求めすぎて、その軌道があからさまなのにかわせない方があちきは、信じられないけど」

 八百刃は、右手を掲げ、その手からその力の象徴である八百の刃を生み出して、その場に居た全ての戦神に命中させる。

「この程度の攻撃で我々を滅ぼせると思っているのか?」

 戦神の一人の言葉に八百刃が苦笑する。

「あのね、逆に聞くけど、あちきが放った刃を自分の中から摘出する方法があるの? 摘出しない限り内部から貴方達を削り続ける。何時まで保つ? あちきは、貴方達が滅びるまで攻撃を避け続ける自信があるよ」

 神々が戦く中、空間封鎖が解けて天道龍が現れる。

「八百刃様、この者達の始末は、私にお任せ下さいませんか? 正直、八百刃様を見下すこの者達の態度には、腸が煮えくり返る思いをしていたのです」

 天道龍は、掌に黒雷剣の残りを収束して睨みつける。

『馬鹿な、お前は、八百刃を裏切っていたのでは、無いのか?』

 朧気な存在になった黒雷剣の言葉に天道龍が激怒する。

「私が八百刃様に叛意を持つ訳が無かろうが! それを私の偽りの言葉を信じ、裏切りを疑わなかった貴様らの存在が私には、信じられないぞ!」

 肩をすくめる八百刃。

「天道龍、それは、流石に八つ当たり。誰だって、自分の信じたいものは、信じてしまうよ。大体、今回の事で貴方を選んだのは、あちきだよ」

 その言葉に神々は、驚愕した。

『どういう意味だ? 天道龍が我々の事を密告してきたので我々の一網打尽を狙ったのでは、無いのか?』

 黒雷剣の疑問に一人の戦神が手を上げる。

「私が八百刃様の命令で、天道龍殿なら裏切る可能性があるという偽情報を流しました」

 正に戦慄する神々。

『全て、お前の掌の上だったと言うのか?』

 元々朧気だった存在を更に希薄にさせる黒雷剣に八百刃がとどめの一言を放つ。

「貴方の後任は、貴方が仕事の殆どのやり方を教えていた腹心の緑雹刀がするから安心して」

『これが極神の力……』

 消失していく黒雷剣の姿を自分達の未来の姿と知り、その場に居た神々は、絶望に襲われ、僅かな希望を求めて八百刃を見る。

「貴方達に生めた刃の動きは、止めた。でもあちきが滅びない限り消えないから覚えておいて」

 そう言い残して八百刃は、天道龍に乗って去っていく。

 一人の戦神が搾り出すように呟く。

「……勝てない。あんな我々の理解を超越した存在に勝てる訳が無かったのだ」

 その場に居た神々の総意であった。



 八百刃神殿。

「それにしても、何故八百刃獣を統べる八百刃様が我々が居ないと弱いなんて妄想が広がったのかが解らないな」

 九尾鳥の呟きに大地蛇が頷く。

「本当だ。戦いを統べる能力を持った最強の存在だと言うのに」

 大半の八百刃獣が納得行かないという顔をする中、天道龍がつまらなそうに言う。

「圧倒的過ぎたという所だ。あまりにも高みに在りすぎて、その実像が見えなくなり、見える八百刃獣の力こそがその力と勘違いしたのだろう」

「ところでどうして天道龍が裏切り者役をやらされたの?」

 怖いもの知らずの百爪の質問に多くの上位八百刃獣が視線を逸らす中、影走鬼が答える。

「他に候補に挙がったのは、大地蛇や闘威狼。ホープワールド時代に一位の座を争った事がある三刃。その中でも八百刃様の孤立させる能力を持っていると誤解されやすい天道龍が選ばれた」

「ホープワールド時代の事は、もう良いだろう。大体、あの時だって白牙が素直にまとめ役をやっていればあんな争いに成らなかった筈だぞ。そういえば、その白牙がどうしたんだ?」

 闘威狼が不機嫌そうに言うと炎翼鳥が疲れた顔をして答える。

「また八百刃様が現場に出ているみたいなので回収に向かっています」

 百姿獣がしみじみという。

「あの八百刃様の第一使徒は、白牙殿以外には、務まらない」

 上位八百刃獣が同意の意思を示すのであった。

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