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白海鯨が苦悩する世界の週末

元二股使徒、白海鯨の出番です

 白海鯨ハクカイゲイ、白き巨大な鯨の八百刃獣、元々は、八百刃と金海波の共同の使徒であったが、八百刃が神になった際に正式に八百刃獣となった。

 強大な力を持ち、八百刃獣の中でもかなり高位に居るが、他の八百刃獣と異なり八百刃に対する忠誠心は、高くなかった。



「あちきに逆らうって言うの?」

 八百刃の一言に冷や汗を垂らす人の姿をした 白海鯨ハクカイゲイ

「そういう訳では、ございません! ただ……」

「あちきの命令に従えないって事は、そういう事なんだよ」

 冷たい視線を向ける八百刃。

 白海鯨が八百刃の傍で控えている白牙に視線を送る。

「諦めろ。今回の事は、お前の意見は、通らない。あの世界は、滅びる定めにあるのだ」

 白牙の冷徹な言葉に白海鯨が搾り出すように訴える。

「もう少しだけ時間を下さい。まだ、まだ可能性がある筈です!」

 八百刃は、遠い目をする。

「可能性は、何処にでもある。でもね、全ての可能性を護れるほどあちき達には、時間も力も無い。貴方がしようとしているのは、一部の世界だけに優遇する事になるんだよ」

 白海鯨が押し黙る。

「とにかく、あちきの命令に従えないのだったら、この一件からは、外れてもらうよ」

 八百刃の宣言を受け入れ、退室していく白海鯨。

「酷いことを言ってるよね?」

 八百刃の言葉に白牙が呆れた顔をする。

「自分の使徒に何を気を使っている、お前の命令に逆らったんだ、厳罰を与えても良い位だ」

「本人がこれ以上あちきに従うことに疑問を抱くようだったら、金海波の所に帰るって選択肢も提示するしかないね」

 寂しそうな八百刃であった。



 白海鯨が神殿を歩いていると水流操竜がやって来た。

「白海鯨様、あの世界の資料の引継ぎに参りました」

「そうか、お前が引き継ぐのだな?」

 白海鯨の問い掛けを水流操竜が肯定する。

「はい。あの世界の人類を一掃する準備が始めています」

「それは、変更にならないのだな?」

 白海鯨の辛そうな質問にも水流操竜が即答する。

「当然です、あの世界の住人は、自分達の利益の為に下位世界の人間の魂を消耗品にしたのですから」

 白海鯨が悔しげに告げる。

「それを行っていたのは、一部の者だ! 多くの者がそんな事実を知らずに暮らしているんだぞ!」

 感情的な言葉に水流操竜が戸惑って居るとその上司、天道龍がやってくる。

「その者たちもとて、下位世界の人間の魂に拠る恩恵を受けていた。真に罪の無い人間など居ない」

「しかし、是正するチャンスを与えるべきでは、無かったのか!」

 白海鯨の訴えに小さなため息を吐く天道龍。

「八百刃様が、そのチャンスを与えていなかったと思うのか? お前にあの世界の人類の一掃の指令を出す前に数度に渡る是正の機会を作っていた。それらが全て無駄に終わった」

「もう一度だけ、私が全責任を持って行うから、もう一度だけチャンスを与えて欲しい!」

 詰め寄る白海鯨に天道龍は、一つの資料を渡す。

「その台詞は、この資料を見てから言ってもらいたいな」

 白海鯨は、その資料を見て言葉を失う。

「これほどに下位世界での被害が出ているのか?」

「もはや、自己浄化を待つ時期は、終わったのだ。我々の手による、浄化それだけが多くの世界の安定に導く事に繋がる」

 天道龍がそう会話を終わらせて、水流操竜を任務に向かわせた。



 白海鯨は、滅びの定めにある世界の海岸に降り立ち、広い海を見ていた。

「またいらっしゃっていたんですか?」

 そう話しかけてきたのは、近くの民宿の少女だった。

「綺麗な海だ」

 白海鯨の言葉に少女が微笑む。

「でも、お祖母ちゃんの時代の海は、公害で凄く汚かったらしいです。それをクリーンエネルギーの活用でここまで回復させたんですよ。それが私達の自慢なんです」

 その穢れ無き笑顔に辛そうな表情を浮かべる白海鯨。

「君は、クリーンエネルギーがどの様に作られているか解っているのか?」

 恥かしそうにする少女。

「私、そんな頭が良くないから難しい事は、解らなくって……」

「それじゃ駄目なのだ!」

 白海鯨のいきなりの絶叫に少女が戸惑う。

「いきなりどうしたのですか?」

 そこで平静を取り戻す白海鯨。

「すまない。知らない事を咎めるのは、間違っているな」

 その場を離れようとする白海鯨の手を少女が掴む。

「すいません。私は、確かに知りません。もし良かったら教えて貰えますか?」

「どうして、知りたいのだ? 知った所で君達の生活には、何の恩恵をもたらさないぞ」

 白海鯨の質問に少女が苦笑する。

「そうかもしれません。でも、言われて初めて気付いたんです。自分達の誇りであるこの綺麗な海がどうやって作られているのかを知らないままでいい訳が無いって」

「そうか、それならば話そう」



 少女の家がやっている民宿の食堂、そこで白海鯨は、紙にクリーンエネルギーの仕組みを書き示す。

「今までのエネルギーが何かしらの原料を燃焼させる等してタービンを回す事で発生させていたが、このクリーンエネルギーは、最初からエネルギーの状態で得られるのだ」

 眉を顰める少女。

「それってどういう事ですか?」

「そこがクリーンエネルギーと呼ばれる所以。このエネルギーは、この世界で発生したエネルギーでは、無いのだ」

 目を見開く少女。

「異世界で発生したエネルギーなんですか!」

「そうだ。君くらいの年齢なら、異世界がある事を学校で習っている筈だね」

 白海鯨の確認に少女が頷く。

「この世界の他にも様々な世界があって、基本的に行き来は、禁じられているんですよね?」

 白海鯨が肯定する。

「そうだ、特殊な許可を取った者か、相手の世界から呼ばれた者しか世界を超える事は、認められていない」

「それでしたら、どうやってエネルギーをもってくるんですか?」

 少女の当然の疑問に白海鯨が丁寧に答える。

「さっき説明した後者に当たる。下位世界から呼ばれて行き、その世界の人間と契約してエネルギーを貰ってくるのだ」

「なるほど、ギブアンドテイクの関係なんですね。でも、こちらからは、何を提供しているんですか?」

 少女の今度の質問に白海鯨は、顔を引きつらせる。

「何か不味い事を聞きましたか?」

「詳しいことは、この世界では、公表されていない」

 白海鯨が視線をずらすと少女が回りこむ。

「知っているんですか?」

「どうしてそう思うのだ?」

 怪訝そうにする白海鯨に少女が少し悩んでから答える。

「知っているけど言えない。そんな顔をしていました」

 白海鯨が何かを言おうとした時、少女の後ろからポニーテールの少女が声を掛けてくる。

「お嬢さん、もう休憩時間終わりですよ!」

「ああ、ごめんなさい。直ぐに戻るね」

 少女が去っていった後、ポニーテールの少女が白海鯨の前に行く。

「今、何を言おうとしたのかは、問いたださないよ。でも、今更な事は、止めた方が良いよ」

 白海鯨が戸惑いながらも確認する。

「私を処罰に来られたのですね?」

 肩をすくめるポニーテールの少女、八百刃の分身。

「こんなタイミングよく来れないよ。元々、ここに居たんだよ。滅び行く人々を心に刻み付ける為に」

 その顔には、白海鯨では、思い描くことも出来ない深く、濃い闇を含んだ瞳があった。

「八百刃様は、いつもこんな事をしているのですか?」

 驚きを隠せない白海鯨に八百刃は、苦笑する。

「白牙達には、内緒だよ。あちきの単なる自己満足だから。こんな事をした所で滅んでいった人々の救いには、ならないから」

 白海鯨が搾り出すように言う。

「どうして八百刃様は、平気なのですか? あの少女の様に変われる可能性を持つ者が居ると知っていながら、それでもこの世界全ての人間を滅ぼせと命じるのですか?」

「それがあちきの責任だからね。多くの世界を維持する為、必要な悪を背負う。それこそが戦いと言う何も産み出さない現象を司るあちきの役目なんだよ」

 八百刃の一言一言が重さは、白海鯨を追い詰めていく。

「それでも、救われるべきものは、居る筈です!」

 八百刃は、鋭い目をする。

「勘違いをしないで。真に救われるべき者は、自らその道を見つけ出せる。人は、貴方が考えてるほど弱くない」

「人間の小さな力で神に、最強の神である八百刃様に抗うことなど出来る訳がありません!」

 白海鯨の叫んだ時、八百刃が笑みを浮かべる。

「そうかしら」



 静かだった海が荒れだし、一気に竜巻を起こし、一気に全人類を襲い掛かった。

 絶望的な自然の驚異、いやそれは、水流操竜が八百刃の命令で起こした天罰。

 全人類は、僅かな抵抗も出来ずに滅びるしか無い筈であった。

 多くの建物が崩壊し、地上部には、何も残らない中、あの民宿の少女が地下から顔を出す。

「私達、生き残ったんだ」

「水害が多かった昔の避難場所が使えて、運が良かったですね」

 八百刃の言葉に少女が頷く。

「ここの整備なんてずっと無駄だって思っていたのに、本当に役立つなんて」

 少女の母親が言う。

「そういう物よ。クリーンエネルギーがどんな素晴らしいエネルギーかは、よく解らない。でもそれは、他人様からの借り物。最後に自分達を護れるのは、自分達なのよ」

 その様子を言葉も無く見ていた白海鯨を八百刃は、外に連れ出す。

 そこには、悲惨な光景が広がっていた。

「多くの恩恵を与え続けたクリーンエネルギー、この世界のエネルギー発生に伴い出た有害物質を使った凶悪破壊兵器と引き換えに手に入れた魂のエネルギーの強大な力で災害準備していた人々は、死に絶えた。残ったのは、自らの力で自分の大切な者を護ろうとした者だけ。いま、この世界に残った人類は、元の一パーセント以下。はっきり言って元の文明を取り戻す事すら不可能なレベル。このまま滅びる可能性も高い。それでも、あちきは、人の強さを信じている」

 八百刃の言葉に白海鯨が頭を垂れる。

「己の未熟さを痛感しております。八百刃様は、私の何倍も、この世界の人々の事を知り、そしてその可能性を信じてくださっていました。その様な深遠な考えも理解できず、己の見える範囲しか見えておりませんでした」

「深刻にならない。でもね、一つだけ思い違いをしないで。あちきは、天罰を与えたけど、救いは、与えていない。未来は、自ら掴み取る物だから」

 八百刃の視線に白海鯨が真剣な顔で答える。

「神の使徒と人を見下していたのは、私だったのですね。八百刃様、私は、貴方様の使徒で在れる事を幸運と思います。そして、その地位に相応しい存在になってみせます」

 八百刃が微笑む。

「頑張ってね」

 そこに子猫姿の白牙が現れる。

『何度も同じ事を言わせるな! お前が現場に出るな!』

 視線を逸らす八百刃。

「それは、その、個人的な事を他人任せにする訳には、いかないというか……」

『他人じゃない、八百刃獣は、お前の手であり、目でもある。お前の一部、それをちゃんと理解しろ!』

 白牙が怒鳴ると八百刃が手を叩く。

「そうだ、あちきは、仕事があったんだ。それじゃ、先に戻ってるからね」

 消えていく八百刃に舌打ちする白牙。

『本当に、現場主義にも困ったものだ』

 白海鯨が苦笑する。

「でも、そんな八百刃様だからこそ多くの八百刃獣が絶対の忠義を示すのでしょう」

 白牙が真剣な顔で告げる。

『八百刃様の負担を少しでも減らすそれが我々、八百刃獣の一番の責任なのだ。覚えておけ』

 白牙も消え、白海鯨は、海に入り真の姿に戻ると、天罰の影響で狂った海洋環境を復元してしまうのであった。

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