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闘威狼が代理する神との戦い

闘威狼、その私怨とは?

 戦闘力が高い八百刃獣だが、上位の八百刃獣は、特に好戦的な性格をしていない。

 そんな中で、一番好戦的な性格をしているのは、闘威狼である。

 しかし、そんな闘威狼でも、八百刃の命令に逆らって戦う事は、殆ど無い筈であった。



「いい加減休んだ方が良いのでは?」

 和怒熊の助言に闘威狼が取り合わない。

「管理派の奴等は、まだまだ動いているんだ、休むわけには、いかない!」

 前線に駆け込んでいく闘威狼。

 そのフォローに動き回る和怒熊であった。



「態々和怒熊を送ったのに闘威狼が休んでないけど、あちきからの命令に従わない理由なんだろうね?」

 八百刃の言葉に白牙が舌打ちする。

「私が直接行って、謹慎させてきますか?」

「意味無いよ」

 八百刃の言葉に白牙が言う。

「奴に何があったのですか?」

「今、調べさせてるけど、何を背負ってるんだか」

 遠い目をする八百刃であった。



 闘威狼の圧倒的な戦闘能力に管理派の残党が壊滅状態になっていた。

 小休止をしている闘威狼に和怒熊が告げる。

「何があったのですか? いくらなんでも八百刃様の命令に従わないなんて事は、貴方らしくないです」

 闘威狼が視線を逸らす。

「八百刃様は、現場の判断を優先してくださる。それに多少休まなくても影響は、無い」

「多少では、ありません。本格的な休養を取られないままの連戦、このままでは、存在に歪みが生まれ崩壊が始まりますぞ!」

 何時に無く強気の発言の和怒熊。

「今戦っている神の一派だがな、奴等は、天人を道具のように使っている奴らだ」

「西刃様が移住なされた世界を襲った八種の存在の中では、天人は、まだ良い方の筈です。神鳥などは、自由を一切許されなかった為への自由をかけた戦いだったのですから」

 和怒熊の言葉に闘威狼が頷く。

「理解している。デンゴースが滅びたのは、自業自得だ。それでも、その原因になった神を見逃す気には、ならない」

 短い沈黙の後に和怒熊が告げる。

「我々が私怨で動けば、八百刃様がお困りになります」

 闘威狼は、地面を砕く。

「解っている! だからこそ、奴が管理派に組している証拠が見つかるまで待っていたのだ!」

 和怒熊が悲しそうな顔をする。

「八百刃様は、どんな相手でも許されます」

「知っている。八百刃様が本格的に力を入れてきたら最後、奴は、絶対の力の前に屈服する。そうなる前に……」

 闘威狼の暗い決意に和怒熊は、言葉を掛けられなかった。



「くそう! 何故だ! 何故上位八百刃獣の闘威狼がこれ程までに強固に抵抗してくるのだ!」

 困惑する管理派の神、金王冠キンオウカン

「本当です。紫縛鎖様との連携の証拠を見つけられなければ、こんな事にならなかった筈なのに」

 使徒も首を捻る。

「たかが、使徒の分際で生意気な奴だ!」

 その時、金王冠に従う天人の一人が、倒れる。

 舌打ちする金王冠。

「無能者が! 下位世界の奴等に滅ぼされたデンゴースといい、天人は、無能者の集まりだな!」

 天人達が悔しそうにするが、ただ、堪え続ける。

 その時、壁が吹き飛び、闘威狼が現れる。

「見つけたぞ、金王冠、貴様だけは、ここで滅ぼす」

 慌てて逃げ出す金王冠。

「お前たち、私が逃げる時間を稼げ!」

 金王冠の命令に愚直なまでに従う天人達。

「お前は、どこまで、下の者を道具にすれば気が済むのだ!」

 闘威狼が叫ぶと金王冠が失笑する。

「神以外の者など、どれもこれも幾らでも作り出せる道具。偉そうにするお前だって、八百刃の道具の一つでしかなかろう!」

「八百刃様をお前と一緒にするな!」

 闘威狼が天人を蹴散らし突進しようとした時、和怒熊が押さえつける。

「怒りで我を忘れないで下さい!」

「邪魔をするな!」

 闘威狼の一撃が和怒熊に大ダメージを負わせる。

 それでも和怒熊は、退かない。

「ここで、彼等を無駄に犠牲にする事が八百刃様の望まれる事だと思われますか!」

 和怒熊の言葉に死の覚悟で金王冠の逃亡の時間を稼ごうする天人を見る闘威狼。

「お前たちは、それで良いのか! 奴は、お前達を道具にしか思っていないのだぞ!」

 すると天人の一人が告げる。

「貴方様の事は、デンゴースから何度も聞いています。我々を神の束縛から護ってくれた偉大なる神の使徒として」

 驚きの表情を浮かべる闘威狼。

「お前達は、神に絶対服従では、無かった筈だ!」

 天人が頷く。

「デンゴースは、納得の上であの世界に攻め入りました。あの世界は、神も信じずる者が少なすぎた。自分達は、貴方様が仕える八百刃様を含む、偉大な神の慈悲で生きていける。それを蔑ろにする事をデンゴースは、許せなかったのです」

「あの馬鹿が、そんな事に命を懸ける必要などないのだ!」

 悔しそうにする闘威狼。

「それでも、デンゴースは、自分の生き方を後悔していなかった筈。彼は、最後の最後まで天人としての自分の判断の元、神の意志でなく、自分の意思で戦い続けたんだからね」

 闘威狼が振り返るとそこには、八百刃が居た。

 悔しそうに力を抑える闘威狼を見て金王冠が急ぎ、八百刃の前に出る。

「八百刃様! 私が間違っていました。貴方こそ真に従う者だったのですね? どうか紫縛鎖の甘言に惑わされた愚かな私をお許し下さい」

 従順そうな顔で頭を垂れる金王冠を睨みつける闘威狼。

「勘違いしないで、あちきは、誰かを許すなんて事が出来る程、偉くないよ」

 八百刃の答えに金王冠が苦笑する。

「ご冗談を、六極神の一柱で在られる八百刃様より、偉い存在が居るわけがありません」

「ふざけるのも大概にしておけ!」

 今にも襲い掛かりそうな闘威狼。

「八百刃様、この者をどうか、お諌め下さい!」

 哀願する金王冠の言葉に八百刃が頷く。

「闘威狼、私怨で戦うのだったら、八百刃獣を止めてもらうよ」

 闘威狼は、無念そうに下がるのを見て、笑みを浮かべる金王冠。

「因みに貴方を許すかどうかは、まだ決められる事じゃないね」

 八百刃は、天人を初めとする金王冠の使徒達を見る。

 困惑する金王冠。

「どういう意味ですか?」

 八百刃は、淡々と告げる。

「あちきは、正しい戦いを助ける神。だから、自ら戦うものを助ける。その上で貴方達に聞くんだけど、金王冠のこの戦いは、正しかったの?」

「全ては、紫縛鎖の甘言に騙されただけで……」

 必死に言い訳をする金王冠にプレッシャーが襲い掛かる。

「貴方の意見は、もう聞いた。詰まり、間違いだったと自ら認めているのでしょ。あちきは、周りの意見を聞いて、それを見定めるだけ」

 八百刃の言葉に沈黙するしかない金王冠。

 それでも金王冠は、自らの使徒に睨みつけ、余計な事を言わないようにした。

 多くの使徒が沈黙する中、先ほどの天人が告げる。

「私達は、金王冠様に従ったのは、愚かな人間に粛清が必要だと思ったからです。八百刃様の様な偉大な神が居る事を信じる事無く生きる、それがどれ程愚かな事かを人々は、知る必要があると確信しています!」

「余計な事を言うな!」

 金王冠が天人を黙らせようとした時、傷ついた和怒熊が間に立つ。

「この者は、八百刃様の命に従い、発言されています。それを阻む事は、許されていません」

 悔しげに押し黙る金王冠を尻目に八百刃が告げる。

「他の者は、どうなの? 金王冠の考えが正しいと思って従ったの?」

 多くの天人が頷き、元からの金王冠の使徒が躊躇する。

 八百刃が呆れた顔をする。

「当たり前か、自分の考えを簡単に変える神の使徒が、正しい戦いを出来るわけ無いね」

 そこには、落胆があった。

 それでも八百刃は、公平な立場で告げる。

「金王冠、天人は、貴方が間違っているとした考えに従ったという。詰まり今の体制への明確な反逆者。それを粛清する覚悟は、ある?」

 金王冠が即座に答える。

「八百刃様の為に、この者達を滅ぼしましょう」

 天人達が自らの死を覚悟し、目をつぶる中、八百刃が告げる。

「闘威狼、貴方は、何者?」

 闘威狼は、助けに入りたいのを必死に堪えながら答える。

「……偉大なる八百刃様の八百刃獣です」

 肩をすくめる八百刃。

「正確じゃないね。正しい戦いの護り手のあちきの使徒で、その実行者だよ。ところでこの場で正しい戦いをしてるのは、誰?」

 闘威狼がその言葉に八百刃の真意に気付く。

「滅びよ!」

 金王冠が力を解き放ち、天人が最後の瞬間を迎えようとした時、闘威狼がその力を打ち砕く。

「貴様! 自分の主に逆らうつもりか!」

 金王冠の言葉に八百刃が笑みを浮かべる。

「あちきは、八百刃獣には、常に自分の判断で動けて言っています。それでも、ここであちきが力を貸す事は、ありませんがね」

 金王冠が八百刃を睨んだ後、蔑んだ目で闘威狼を見下す。

「所詮は、ただの使徒。八百刃様の力無しに我に勝てると思うな!」

「絶対に勝つ。この戦いは、奴の想いが篭った戦いなのだから!」

 闘威狼が駆け出す。

「身の程知らずの畜生が!」

 金王冠は、その力の象徴である金の王冠を打ち出し、闘威狼は、それに頭からぶつかる。

 両者の力は、互角だった。

 しかし、徐々に金王冠が押していく。

 闘威狼の中にあった八百刃の力が消費されている証拠である。

 そして、現状では、補給は、されない。

「まだだ!」

 金の王冠を受け止めた額から出血をしながらも前進する闘威狼。

「所詮、使徒など神の力なければ、何も出来ない道具なのだからな!」

 勝ち誇る金王冠。

 しかし、闘威狼の前進は、止まらない。

「馬鹿な、どうしてだ、奴の中にある力は、確実に減っているはずだ!」

 慄く金王冠に八百刃が闘威狼の後ろを指差す。

「闘威狼は、周囲の戦う意志を吸収して強くなる。天人達の戦う意志が闘威狼を強くしてるんだよ」

 先ほどまで死を覚悟していた筈の天人達が強い闘志を籠めて闘威狼を見ていた。

「たかが使徒の意志に我が押されているというのか? そんな訳が無い!」

 必死に否定する金王冠。

「自分が何の象徴かを忘れたの。支配の象徴で、統治する者。そんな貴方は、統治者として認められているのかしら?」

 八百刃の言葉に自分の使徒達を見る金王冠。

「お前ら、どうしたのだ? 何故、我が統治を受け入れないのだ?」

「どこの世界に自分の意見をコロコロ変える統治者の支配を受け入れる奴がいるか。お前は、統治者の力を意味する王冠を攻撃に使った時点で、統治者の資格を失った。お前に新たな力は、生まれない!」

 闘威狼がその言葉と同時に一撃を放ち、金王冠を滅ぼすのであった。



「我々は、罰せられるのですか?」

 天人の言葉に八百刃が告げる。

「あちきにそんな権利は、無いよ。貴方達は、貴方達が選んだ道を進みなさい。ただし、その道を歩み中で、再び八百刃獣の前に立った時は、滅びを覚悟する事ね」

 天人達は、粛々とその事実を受け入れる。

「それでもお前たちは、管理派の神に従うのか?」

 闘威狼の言葉に天人達が答える。

「我々は、神に作られた者。同時に、神の慈悲で存在が許された存在。八百刃様の大いなる心を知りました。今まで以上に神の意志を信じぬ者を認められません」

「お前達は、お前達の道を行くのだな」

 残念そうにする闘威狼と八百刃に何度も頭を下げながらも天人達は、去っていく。

「おかしな話です。八百刃様を信じる者が去り、信じぬものが残るのですから」

 闘威狼の言葉通り、嘗ての金王冠の使徒達は、和怒熊に連れられ、新たに仕える神の元に向かっている。

「それがあちきの選んだ道。管理をすれば完璧な世界を生み出せるかもしれない。でもそれでは、新たな可能性は、生まれてこない。よりよい未来の為、多くの犠牲と反発を覚悟し、歩み続けるつもりだよ」

 八百刃の言葉に闘威狼が頭を垂れる。

「この存在の全てをかけてその歩みを邪魔するものを排除してみせます」

 そんな主従の誓の後、白牙が現れた。

「感動的なシーンだが、現実に戻ってもらうぞ。闘威狼は、暫く謹慎だ」

 闘威狼が苦虫を噛んだ顔になる。

「和怒熊まで攻撃したんだもん、それは、我慢してね」

 八百刃の言葉に白牙が怒鳴る。

「お前もだ! 今回の事が周囲に及ぼす影響がどれだけ大きいと思ってる。対応に、暫く休憩無しだぞ!」

「事務仕事は、嫌い……」

 ため息を吐く八百刃と闘威狼であった。

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