百爪に降りかかる所属問題
百爪は、実は、所属無しだったのです
このお話は、最上級神、聖獣戦神八百刃に仕える八百刃獣の活動記録である。
百爪、数多の八百刃獣の中でも異色の存在である。
元々は、別の魔獣の力を基礎としている上、第一の八百刃獣、白牙と蒼牙の力をベースに生み出されている。
その為、白牙を父親、蒼牙を母親と認識している。
正確に言えば、八百刃こそ生みの親なのだが、この認識は、八百刃獣の統一認識になっていた。
上位の八百刃獣に含まれないが、白牙の後ろ盾もあり、八百刃獣の中では、強い立場に居た。
今回は、そんな立場な故のトラブルの話。
「その仕事したくない」
百爪が我侭を言った。
「そうなのだったら、他の仕事にしようか」
八百刃もすんなり受け入れたが、それに待ったをかける存在が居た。
「八百刃獣が、八百刃様の命令に逆らうなど許されると思っているのか?」
白牙である。
「お父さん、そんな固い事を言わないでよ。大体、その八百刃様が気にしてないんだから……」
「父親じゃないって言っているだろうが! そもそも、仕事の時にそんな物は、関係ない。八百刃様、今回の仕事は、百爪にやらせます!」
白牙が強固に主張する。
「本人がやりたがらないのを無理やりやらせても、良い事無いよ」
八百刃の主張も白牙が反論する。
「他の八百刃獣に、示しがつきません! 元々、百爪は、自分の立場を弁えない態度が多いのです」
「立場を弁えない態度って何よ?」
百爪が不満そうに聞くと、白牙が睨む。
「先日も水流操竜に仕事を押し付けただろう」
百爪が視線を逸らす。
「あれは、あいつがやってくれるって言うから……」
白牙がきつく言う。
「水流操竜は、お前より年上で先輩だ。敬意を持て!」
頬を膨らませる百爪。
「うるさいな! 他の八百刃獣だったら、そこまで言わないよ! なんだかんだ言って、父親だからって娘を躾けてるつもりでしょ!」
「そういう訳じゃない! 上位の八百刃獣として当然の事を言っているだけだ!」
舌を出す百爪。
「それだったらあたしは、八百刃様の直属って扱いだからお父さんだって命令する権限ないだからね!」
そうなのだ、百爪は、中位八百刃獣だったら居る筈の直属の上位八百刃獣が居ない。
水産蛙や風乱蝶と同じ八百刃直属の存在である。
これには、複雑な事情がある。
八百刃の養女であり、代行者だった西刃とその子孫の守護者として人間界で長く居た事もあり、特別な立ち位置である上、八百刃獣としての活動を再開した後も白牙の娘と認識されている為、上位の八百刃獣もあまり口を出し辛い存在だった。
白牙が部下を持つタイプなら、白牙の部下に居るのが普通なのだが、白牙自身が八百刃の秘書や副官って役割を担っている為、部下を作っていない。
例外としているのが、秘書としてのサポートの白金虎と自分の代行をやる白暫虎ぐらいなのだ。
それでも今まで問題にならなかったのは、西刃の守護者をしていた百爪をホープワールド時代からの八百刃獣が可愛がっていたからなのだ。
「解った。これからお前の所属を決める。すいませんが、しばらく席を外します」
白牙は、そう告げて、百爪を連れて八百刃の執務室を出るのであった。
「白牙様、何処に?」
白金虎の質問に白牙が不機嫌そうな顔で言う。
「この馬鹿を躾ける上位八百刃獣を決めてくる」
「白金虎さん、後よろしくね」
気にした様子も見せずに手を振る百爪とそれを引張る白牙を見て白金虎がため息を吐く。
「何か大変な事になりそう」
白牙が最初に行ったのは、闘威狼のところであった。
「こいつをお前の所で鍛えてやってくれ」
白牙の言葉に闘威狼が困った顔をする。
「おいおい、百爪ちゃんを鍛えるって、戦闘能力じゃ、上位に匹敵する筈だぞ。それをいまさら何を鍛えるって言うんだ?」
「色々あるだろう! ルールとか、先輩後輩のありかたとかが!」
白牙の主張に闘威狼が手を横に振る。
「そういった物を俺に期待するな。そういうのは、どちらかと言うと炎翼鳥の分担だ」
仕方ないので白牙は、炎翼鳥の所に行く。
「お前だったら、この馬鹿をきっちり教育してやれるだろう」
押し出される百爪を見て炎翼鳥が沈痛な表情をする。
「教育をやってやりたいのは、山々なんだが、私の仕事は、武器や兵器の管轄だ。百爪にそれができるのか?」
百爪が両手を挙げる。
「絶対に無理。あちきは、戦闘向きの八百刃獣だもん」
「努力する気は、無いのか!」
白牙の怒声にも百爪は、平然と頷く。
「八百刃様も言っているよ。自分に合わない事を無理やりする必要は、無いって。自分にあった分野でその力を発揮して、力をあわせる事でこそ強い力を生み出せるって」
白牙の苛立ちに気付いて炎翼鳥が言う。
「そうだ、天道龍の所だったら戦闘も多いぞ」
舌打ちして白牙は、天道龍の元に行った。
「百爪だったら引き受けないぞ。水流操竜にやったみたいな事をされたら堪らないからな」
冷たく言い捨てる天道龍。
「そこを含めて教育してやって欲しい」
白牙の要請に天道龍。
「あのな、どうして私がそんな面倒な仕事をしないといけない。そんなのは、父親のお前が責任を持ってやれば良いだろう」
「誰が父親だって?」
白牙の目が戦闘モードに移っていく。
「お前だ、お前!」
天道龍も気を放つ。
戦いが始まるかもと行った所で、天道龍の配下が必死に両者を止める。
「白牙様、影走鬼様の所だったら、潜入任務とかがあります。百爪もそこでだったら働ける筈です」
水流操竜の必死の言葉を白牙がしかたなく受け入れる。
「影走鬼様でしたら、出かけています」
月華猫の答えに白牙が苛立ちを感じながらも聞き返す。
「何時帰って来る?」
月華猫が遠い目をして言う。
「突然、緊急の用事が入った様で、戻りの予定は、解りません」
眉をひそめる白牙。
「突然に緊急の用事だと?」
月華猫が頷く。
「はい。突然に緊急の用事だそうです」
「逃げたな!」
白牙は、百爪を連れて駆け出す。
「誰だって、トラブルの種になる百爪ちゃんを引き受けたくなのをどうして解らないんだろう?」
残った月華猫が首を傾げるのであった。
結局、白牙は、影走鬼を捕まえられず、他の上位八百刃獣達も突然の用事を理由に神殿を離れていた。
「戻ってきたら、ただでは、すまさないぞ!」
「お父さん、そんな興奮すると身体に悪いよ」
健気な娘のふりをする百爪。
「原因のお前が言うな!」
白牙の怒鳴り声を聞いて、偶々来ていた闘甲虫がやってきた。
「白牙、何をこんな所で叫んでいるんだ?」
ターゲットを見つけた白牙は、闘甲虫の手を掴み言う。
「こうなったらお前で良い。百爪をひきとってくれ」
闘甲虫が思いっきり嫌そうな顔をする。
「おいおい、俺は、他の神々との交渉担当だぞ? 百爪になにをやらせるって言うんだ?」
「なんだって構わん! こいつの甘えた根性をビシバシと鍛えなおしてやってくれ!」
白牙の主張に闘甲虫が呆れた顔をしながら言う。
「まあ、蒼牙殿とも親交があるから使えるから引き受けても良いぞ」
「よろしく頼む!」
白牙が嬉しそうな顔をする中、闘甲虫が言う。
「それより、今日来たのは、八百刃様についてだ。またやらかしたみたいだぞ」
長い沈黙の後、白牙が神殿を揺るがす程の怒声をあげる。
「あの馬鹿が!」
次の瞬間には、駆け出す白牙。
「今度は、何をしたの?」
百爪の質問に闘甲虫が言う。
「新名様の臣下の神々が現地で活動していたら、現地の戦場監視を八百刃様がやっていたそうだ」
問題の場所を見て百爪が言う。
「ここってあたしが断った仕事の場所だ」
顔を押さえる闘甲虫。
「おいおい、八百刃獣が断った仕事を自分でやったのかよ?」
「八百刃様って、自分でやりたがるからね」
百爪が大して気にした様子も見せずに言うのを聞いて闘甲虫が呟く。
「この図太い性格は、父親譲りだな」
この後、色々あって、百爪の所属の事は、有耶無耶になるのであった。




