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水流操竜が勤めるモデル

あの水流操竜がまた口を滑らしました

 戦闘能力に長けた八百刃獣は、他の神様に出向する事がある。

 水流操竜に関して言えば、色々とトラブルの影響でもあるが。



 戦場に近い芸術が盛んな町、そこに一人の天才画家が居た。

 彼の名は、ドロン。

 彼の夢は、竜を描くこと。

 その世界の神が彼の絵に惚れ、竜を描かせる約束をしてしまった事から、問題が始まった。

 しかしながら、その世界には、制限があり通常の竜が立ち入る事が出来なかった。

 それも常時だったら、幻覚などを使って誤魔化せるのだが、戦場が近いため、大規模な魔法も使えず、困り果てた時、偶々居合わせた八百刃が胸を叩いて約束してしまった。

 八百刃獣から、誰か連れてくると。

 現地の神は、最初遠慮をしたが、八百刃に約束を反故しては、いけないと説得されて受ける事になった。



「そんな訳で、誰か手の空いてる竜は、居ない? 何だったらあちきが仕事を代わるよ」

 八百刃の発言に天道龍が大きなため息を吐く。

「八百刃様は、この神殿で大人しくしてくださる事が一番助かります」

「でも、勝手に約束した事をお願いするんだもん、お願いするだけじゃいけないと思うの」

 八百刃の言葉に影走鬼が答える。

「八百刃様は、我々の主。八百刃様が為さった約束ならば、我々も全力をもってあたらせてもらいます」

 他の上位八百刃獣も頷く。

「人員の方は、こちらで調整しますので、気にしないでください」

 炎翼鳥が告げ、九尾鳥が続く。

「そうです。八百刃様もお忙しいお方ですので、後のことは、お任せください」

「そう?」

 首を傾げる八百刃だったが、白牙がやって来て怒鳴る。

「何時までサボってる! 急いで戻って仕事しろ」

 そのまま執務室に連れ戻されるのであった。



「そういう訳で、絵のモデルになる竜を派遣する事になった」

 天道龍の言葉に、集められた竜の八百刃獣達が嫌そうな顔をする。

「またですか? 八百刃様は、直ぐにそうやって簡単に約束されますが、実際に動くのは、我々なのですよ?」

 そう言ったのは、水流操竜だったが、他の面子にも同じような気持ちがあったみたいだ。

「不満があるのか?」

 天道龍の言葉に水流操竜が視線をそらしながらも答える。

「不満というか、我々は、八百刃獣としてもっと重要な仕事があると思うのですよ。それなのにどうして、その様な小事に関わりあわなければいけないのですか?」

 天道龍が沈黙しているのを同意と見たのか、水流操竜が続ける。

「前から思っていたのですが、八百刃様は、神名者時代の癖が抜けていないのでは、ないでしょうか? 八百刃様は六極神の一柱、もっと行動に重みを持ってもらわないと」

 勢いに乗って続ける水流操竜は、周りの八百刃獣達が離れていくのに気付かなかった。

「水流操竜、取り敢えず、六極神って名前は、使ったら駄目だよ」

 後ろから聞こえる八百刃の声に水流操竜の顔から滝のような汗が流れ落ちる。

 天道龍が引きつった顔で問う。

「八百刃様、どうしてこの様な場所に?」

「あちきが勝手にした約束の為に本来の業務外の仕事をしてもらうんだから、お礼の一つでも言おうと白牙にお願いして、席を外して来たんだけど、皆そんな風に思ってた?」

 八百刃の質問にその場に居た全八百刃獣が首を横に振る。

「全ては、そこの水流操竜の勝手な思い込みです」

 天道龍が断言すると八百刃が言う。

「水流操竜、あちきが気に入らないのなら、別の神様の所に行く? 同等の地位を保証してもらうようにあちきが相手先にお願いするから、言って」

「とんでもございません! 八百刃様以上の神は、存在しません! 出過ぎた発言、申し訳ございませんでした!」

 命懸けで謝罪する水流操竜。

「でも、さっきのは、本音だよね?」

 下手な嘘が通じないので、涙目になる水流操竜。

「そんな思いが有っても、水流操竜は、八百刃様の事を第一に思っているのです」

 天道龍のフォローに大きく頷く水流操竜。

「ですから、今回の事も自分から名乗りでるつもりだったのだな?」

 天道龍の意地悪な問い掛けに水流操竜が一瞬だけ戸惑ったが、観念して宣言する。

「はい。私、水流操竜は、八百刃様の約束を守る為に、モデルをしに行きます!」

「ありがとうね」

 微笑む八百刃と哀れむ八百刃獣達に見送られ、水流操竜は、ドロンの所に向かうのであった。



「本物の竜だ!」

 感動するドロンにため息混じりに水流操竜が告げる。

『神は、決して約束を違えぬ。ただし、この事は、他言無用。書いた絵も、想像を描いた物とするのだぞ』

「解っております!」

 元気返事をすると同時にスケッチを始めるドロンであった。

 何十枚目のスケッチを描き終えたドロンがふと呟く。

「水流操竜様だったら、あの戦いも直ぐに終わらせられるのでしょうね?」

 近くの町から立ち昇る煙が戦場の激しさを表していた。

『戦うのは、時には、多くの不幸を呼ぶ。しかし、人は、不幸を知らなければ幸せを理解できない』

 それを聞いてドロンが戸惑う。

「そういうものですか?」

 水流操竜は、しみじみと告げる。

『戦争が長期間無い世界にあるのが、それは、感動もない、まるで機械仕掛けの人形の様な毎日しかないのだ。人が争うのは、幸せを求める為だ。もしも争うのを止める時、それは、幸せを諦めたときなのだよ』

「悲しいですね。争わなければ幸せが解らないなんて」

 辛そうに口にするドロン。

『だがな、戦いの中から生まれる物もある。我々八百刃獣は、そんな物を信じ、戦いで、戦争で全てが失われないように頑張っているのだ。全ては、大いなる力と慈悲を持つ我が主の御心のままに』

 水流操竜の言葉にドロンが純粋な思いで呟く。

「すばらしき神様がいらっしゃるのですね?」

 水流操竜が頷く。

『あの方は、戦争の悲しさを知りながらも、そこから逃げる事をしない。本当の意味で強きお方なのだ』

「貴方様の顔を見れば、それが真実だと解ります」

 ドロンの言葉に水流操竜が驚く。

『私の表情が読めると言うのか?』

 ドロンが苦笑する。

「何十枚と書いてれば解ります。嫌々、モデルを為さっていたことも解っていました……」

 水流操竜は、頭を下げる。

『すまなかった。私は、お前を見下していた。お前は、真の絵描きだ。私も本気でモデルをやらせてもらう』

 ドロンも頭を下げる。

「そう言っていただけて、大変嬉しいです。出来ましたら、貴方の主様の事を考えていて下さい。その時の顔が一番輝いていますので」

『解った』

 水流操竜は、そういって頭に八百刃との思い出を思い返すのであった。



 八百刃の神殿。

「カッコイイじゃん」

 八百刃は、態々取り寄せたドロンの絵を見て水流操竜を褒める。

「ドロンの腕前です」

 謙遜する水流操竜。

 そんな中、白牙が戻ってきて言う。

「ご苦労だったな」

「ありがとね」

 八百刃もお礼を言う。

「八百刃獣として当然の事をしただけです」

 水流操竜が照れる中、白牙が八百刃に詰め寄る。

「ところで話を大本に戻すが、どうやってローカル神と人の約束を知った?」

「それは、その……」

 あさっての方向を見る八百刃。

「また、現場に出てたな! 現場に出るなと何度も言っているだろうが!」

 毎度お馴染みの追いかけっこが続く中、水流操竜は、ドロンが描いた姿は、本物と似てないのに、八百刃と解る雰囲気を持つ女神を騎乗させている絵を感慨深げに眺めるのであった。

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