炎翼鳥が見送る人柱
炎翼鳥が見守る悲しき定めの少女と傭兵の話
八百刃は、自立を求める。
それが時には、死より辛い苦痛を伴っても。
一人の傭兵が居た。
彼の名は、マルク。
千人斬りの異名を持つ彼だったが、強すぎる彼の名だけを求める雇い主に呆れ、今は、フリーであった。
そんな彼が、休暇と割り切って旅をしている最中であった。
一人の少女がわき道から突っ込んできた。
「おいおい嬢ちゃん、危ないぜ」
気楽に言うマルクにまだ、十歳にもなっていない少女が驚いた顔をするが、直ぐに叫ぶ。
「逃げて下さい! 悪い人たちが来ます!」
その言葉にマルクの表情が鋭くなる。
そして、完全武装の男達が駆け付けた。
「男、その娘と関わるな。その娘をこちらに渡せば見逃してやる」
高圧的な言葉にマルクが馬鹿笑いをする。
「ずいぶんと舐められたみたいだな。それじゃ、俺がお前等みたいなガキを大人数で追いかけまわすクズより弱いみたいじゃないか?」
「なんだと!」
若い男が剣を抜こうとするが、リーダーと思われる男が淡々と言う。
「言い方を変えよう、その娘を助けたところでお前に利益は、無いだろう。無益な殺生は、お互い止めないか?」
マルクは、剣を抜いて答える。
「そうでもないぜ、ガキを追いかける害虫を殺せばそれだけ世の中が住みやすくなるぜ」
「引かぬのか?」
男の言葉にマルクが笑みを浮かべる。
「引く理由があるのか?」
「ふざけるな!」
若い男が斬りかかるが、マルクは、一振りで斬り殺す。
「散開しろ! 娘の確保を優先するのだ!」
リーダー格の男の言葉に部下達が従う。
マルクは、先程までの余裕を捨てて真剣になる。
「単なる人攫いかと思ったが違うみたいだな。だが、結果は、変わらないぜ」
一斉に襲い掛かる男達に対してマルクは、自ら前に出ることで間合いを外し、相手を盾にするように一人ずつ確実に倒していく。
そして、最後にリーダー格の男が残った。
「ただものじゃないな?」
マルクが剣を突き付けて言う。
「お前もな。そこらへんの奴とは、格が違う。どこかの王国の隊長クラス。このガキにここまで執着する理由は、なんだ?」
「私も知らない。だが、命じられれば全うするまで」
男は、自分の命を顧みない一撃を放ってくる。
マルクは、舌打ちをし、腕に剣を掠らせながら男の腹に剣を突き刺した。
全てが終わった後、少女が見ると、悲しそうに祈りをささげていた。
「このもの達に安らかなる眠りをお与えください」
呆れた顔をするマルク。
「お前な、自分を狙っていた奴らのために祈るか?」
少女があっさり頷く。
「この人達も仕事だっただけです。それでも私は、死ぬわけには、いきませんでした。ありがとうございます」
頭を下げる少女に、マルクは、気勢をそがれてしまう。
「それで、家族は、何処だ?」
少女は、つらそうな顔で答えた。
「両親は、もう居ません。妹は、居ますが、もう会えません。私は、遠い処にいくのですから」
それを聞いて頬をかくマルク。
「それじゃ、今の男達は、人買いの連中か?」
少女が首を横に振る。
「違います。私を保護者は……」
そこに神官達がやってくる。
「巫女様、無事で何よりですか!」
「皆さんの方こそ、大丈夫でしたか?」
少女の言葉に、高神官が言う。
「何名かの者が神の御許に召されましたが、巫女が無事でしたら彼らの大いなる徳となる事でしょう」
苛立つマルク。
「それで、お前等がこの娘を買った奴らか?」
高神官が少女の前に立ち、言う。
「お前は、何者だ! まさか巫女様を狙う邪教の手のものか!」
「違うのです。このお方は、私を救ってくださったのです!」
あわててフォローする少女。
「本当なのか?」
高神官の言葉にマルクが歯ぎしりをして言う。
「別に助けた訳じゃない。単なる害虫駆除だ。とにかく、お前達が保護者なんだな。きっちりと保護しておけよ」
立ち去ろうとした時、少女が憂いを込めた目でマルクを見た。
「これは、多少ですが、お礼です。本当にありがとうございました」
赤毛の神官がマルクに金貨を渡す。
「こんな物をもらうためにやった訳じゃない! 要らねえよ!」
突っ返すマルクだったが、赤毛の神官が首を横に振る。
「何かお礼を形にして渡したいだけなのです。よく知らない貴方にお礼をするならこれが確実だと思っただけなのです」
真っ当な意見にマルクは、受け取るしかなかった。
そして、マルクは、少女と神官達と別れた。
「色々と気になる連中だったが、二度と会う事は、ないだろうな」
しかし、その予想は、あっさり覆された。
その日の夜、焚き火をするマルクの処に、少女を連れた赤毛の神官がやってきた。
「お前ら、なんで居るんだ?」
戸惑うマルクに赤毛の神官が言う。
「昼間の者達に襲われて、仲間は、死にました」
呆れた顔をするマルク。
「おいおい、一日ももたなかったのか?」
「全部、私が悪いのです」
少女の言葉に、マルクがため息を吐いてから少女の頭をなでる。
「どんな理由があるかは、知らないがお前が責任を感じる問題じゃないぜ」
そして、武装した男達が再び現れた。
「昼間、仲間を殺したのは、お前だな? 今回は、簡単には、行かないぞ!」
マルクは、剣を抜いて言う。
「そうかい? また同じ結末になるだけだと思うがね」
余裕の笑みを浮かべる男達にマルクが胸元に手を入れるとナイフを掴み、放つ。
人が倒れる音が響き渡り、男達が驚く。
「まさか、あれで伏兵のつもりだったのか? この千人斬りのマルク様も舐められたもんだな」
男達が動揺する。
「まさか、千人斬りが相手に力を貸すとは?」
「おいおい、今更逃げるなよ!」
一気に突っ込むマルク。
次々と倒される男達。
そして、全部の敵を殺した後、マルクが言う。
「いい加減、事情くらい聞いておこうか?」
赤毛の神官が難しい顔をして少女を見ると、少女が頷く。
「このお方は、封印の巫女様なのです。あの者達は、鮮血の魔王を封じる血筋である巫女様を殺して、魔王の復活を狙っているのです」
呆れきった顔をするマルク。
「魔王、封印だって? 何お伽噺をしてるんだ。そんなのの為に命を取り合ってると言うのか?」
「はい。ですから、全ては、私がいけないのです」
少女の言葉に、マルクが苛立つ。
「何度も言わせるな! ガキのお前が責任感じる必要なんてないんだよ! よく解った。そんなくだらない理由で子供の命を奪おうなんて奴らをほっておいてもろくな事にならないから、俺が守ってやるよ」
「よろしいのですか? しかし、私達には、貴方様に支払える程のお金は、ありませんが?」
赤毛の神官の言葉にマルクが手をひらひらさせて言う。
「気にするな、俺が気に入らないからやるだけだからな」
「ありがとうございます」
頭を下げる少女の健気な態度を見て、マルクが少し気分を良くする。
「そういえば、名前は、なんて言うんだ?」
少女も嬉しそうに答える。
「ルクって言います」
それを聞いてマルクが笑う。
「俺の名前に似てて良い名前じゃないか。よし、俺が守ってやるから、大船に乗ったつもりで良いぜ」
こうしてマルクとルクの旅が始まった。
襲撃は、何度もあったが、マルクの超人的な実力に、その成果をあげる事は、出来なかった。
ある街で、宿に泊まる中、赤毛の神官が言う。
「本当に感謝をしています」
酒を飲みながらマルクが言う。
「別に良いぜ。大した事は、してないんだからな」
赤毛の神官がしみじみという。
「護衛の件もですが、巫女様を普通の子供と接して下さる事にも感謝しています。我らには、決して叶わぬ事ですから」
半目になるマルク。
「これだから宗教家って奴は、駄目なんだよ。どんな血筋だろうが、子供だろう? 普通に扱ってやればいいんだよ」
「それほど簡単な話では、無いのです」
深刻そうな顔で告げる赤毛の神官に肩をすくめるマルク。
「俺には、解らないね。酒も切れたし、買いに行くか」
そういって部屋を出ていくマルク。
出る前に、ベッドで寝ているルクの寝顔を見ていく姿は、まるで父親の様であった。
マルクが出て行った後、ドアがノックされる。
「どちら様ですか?」
赤毛の神官の言葉に若い娘の声が返ってくる。
「ルームサービスです」
赤毛の神官があわててドアを開けると、そこには、ポニーテールのウエイトレスが居た。
「どうして、ここに?」
ポニーテールのウエイトレス、八百刃が部屋の中に入り、告げる。
「忠告しに来たの。入れ込みすぎだよ、炎翼鳥。貴方以外が全滅した処で、彼女を放棄するのが、最善だったんだからね」
赤毛の神官、人の姿に変化した炎翼鳥が言葉に詰まる。
八百刃は、ルクの寝顔を見ながら言う。
「気持ちは、解るけど、余計に干渉は、認められない。理由も解ってるでしょ?」
炎翼鳥が即答する。
「あくまでこの世界の住人が解決しなければいけないことだからです」
八百刃が頷く。
「万が一の場合は、貴方が鮮血の魔王を処理する。貴方の仕事は、それ以上でもそれ以下でもないよ」
炎翼鳥が辛そうに頷く。
「申し訳ありませんでした」
八百刃が苦笑する。
「やってしまった事は、仕方ないね。あのマルクさんの事は、許可する。でもこれ以上は、駄目だからね」
頭を下げる炎翼鳥。
「ありがとうございます」
部屋を出ていく際、八百刃が言う。
「最後は、一発殴られてきなよ」
炎翼鳥が今までで一番辛そうな顔で言う。
「解っています」
入れ替わりにマルクが帰ってくる。
「何、つまらなそうな顔をしてるんだ。もうすぐ、お前等の聖地なんだろ? そこにつけばもう狙われないんだ。安心しろよ」
炎翼鳥がルクを見て言う。
「そうですね。もうすぐ、この旅も終りなのですね」
「何を解りきった事を今更言ってるんだ?」
呆れるマルクであった。
そして、聖地まであと一日って処で、マルクとルクを待っていたのは、百人を超す武装兵だった。
「このまま、その娘を聖地に入らせる訳には、いかない。どうしても我が国の世界征服には、魔王の力が必要なのだからな」
将軍の言葉にマルクが怒鳴る。
「年端もいかない子供を殺さなければ魔王を復活させる事も出来ないって時点でお前達は、終わってるんだよ!」
将軍が高笑いをする。
「なんとでも言うが良い。千人斬りだか知らないが、同時に百人の兵を相手には、できまい! 巫女共々殺してしまえ!」
号令と共に一気に攻めてくる兵士達。
「マルクさん……」
不安そうなルクにマルクが自信たっぷりな顔で答える。
「任せておけ、あんな連中は、ちょちょいのちょいで倒して、安全な処に連れてってやるからな」
「でも、あんな大勢の人を相手に……」
ルクの言葉にマルクが大きな背中を見せて言う。
「千人斬りの名前の由来を見せてやるぜ!」
マルクは、闘気を高め、剣を振り払う。
その一撃で数十人の兵が切り裂かれた。
驚く将軍。
「なんなんだ!」
マルクは、体力の返り血を浴びた凄惨な顔で言う。
「これが俺の奥の手だ。いくらでも掛ってきな!」
最初の一撃で圧倒したマルクの前では、まだ百近い兵が残っていたとしても烏合の集団でしかなかった。
「待ってくれ! 金を払う。奴らの十倍、いや百倍払うから我らに雇われろ!」
将軍の必死の命乞いにマルクが苦笑する。
「残念だな、最初から金をもらってねえんだよ!」
振り下ろされた剣が将軍の命を断った。
自分の命を狙った兵士達の冥福を祈るルクの姿を見てマルクが言う。
「あんなルクの命を奪おうなんて、本当に最低なやつらだったな」
炎翼鳥が頷く。
「そうですね。本当に最低ですね」
珍しい同意にマルクが首をかしげる。
聖地に入り、ルクが頭を何度も下げた。
「ここまでありがとうございました。本当になんとお礼をしたら良いか解りません」
「いいんだよ。それより、元気に生きるんだぜ!」
マルクの何気ない言葉に炎翼鳥が表情を曇らせる。
ルクは、笑顔で答える。
「マルクさんとの旅は、本当に楽しかったです」
「そうか、また会おうぜ」
そういって、上機嫌で去っていくマルクとそれを笑顔のまま見送るルクであった。
聖地から少し離れた場所にある酒場で祝杯をあげるマルク。
「あなたが、巫女様を聖地まで護ってくれたんだよね?」
店のポニーテールのウエイトレスの質問にマルクが酒を一気してから答える。
「そうだぜ。感謝するんだな」
上機嫌なマルクにポニーテールのウエイトレスが言う。
「ありがとう。これで、五十年は、魔王が復活しないで済むよ」
「そうか、そうか! 何か奢ってもらおうか!」
軽く返すマルクにポニーテールのウエイトレスが言う。
「良いよ。自分の命を引き換えに魔王を封印してくれる巫女様の代わりにいっぱい食べてよ」
「今何て言った!」
立ち上がるマルク。
「知らなかったの? 巫女様は、代々その命で魔王を封印しているんだよ」
テーブルを叩きマルクが怒鳴る。
「あの野郎!」
飛び出すマルクを見送ってからポニーテールのウエイトレス、八百刃が言う。
「出ておいで炎翼鳥」
実は、傍にいた炎翼鳥が現れる。
「八百刃様、どうして伝えたのですか?」
ため息を吐く八百刃。
「手遅れになってから真実を告げるのは、アンフェアだよ」
炎翼鳥が視線をそらす。
「結果は、何も変わりません」
八百刃が頷く。
「そうだね。でも結果が変わらなければ何でも良いんだったら、あちき達が全ての外敵を排除してもいいよね」
顔を強張らせる炎翼鳥。
「あちきは、経過も必要としているの。それが納得出来ないのなら、それでも構わないよ」
八百刃の言葉に頭を下げる炎翼鳥。
「愚かな事を口にしました。この罰は、なんなりと受ける所存です」
八百刃は、静かに告げる。
「ならば、見届け、答えてあげなさい。それがどんなに残酷な事実であっても」
「はい」
炎翼鳥も魔王の封印の地に向かう。
魔王の封印の地。
そこで、今まさにルクがその命を捧げようとしていた。
「待ちやがれ! そんな儀式は、やらせねえぞ!」
マルクが割り込んできた。
「マルクさん……」
驚くルク。
必死に止めようとする神官達を薙ぎ払いマルクがルクを抱きかかえる。
「逃げるぞ。こんな奴らの為に死んでやる必要は、ねえ!」
「待って下さい。これは、私が選んだ道なのです」
ルクの言葉にマルクが意外そうな顔をする。
「馬鹿言ってるんじゃねえ! お前は、周りの奴らに良い様に利用されているだけだ!」
ルクが寂しげな顔で頷く。
「そうかもしれません。マルクさん以外、誰も私を一人の人間、ルクと見てくれる人は、居ませんでした」
「だったら……」
マルクの口を押さえ、ルクが言う。
「それでも私が選んだ道なのです。妹の為に。魔王が復活したら、妹が死ぬかもしれません。それを防ぐことができるのは、私だけなのです」
苛立つマルク。
「うるせえ! 魔王だろうが、何だろうが、俺が倒してやる!」
『威勢の良い男だ!』
その声は、大地から染み出すように聞こえてきた。
「お前が魔王か! 俺が退治してやるから出てきやがれ!」
マルクが叫ぶと、地面から鮮血が吹き出し、人の姿を形成する。
『丁度良い、封印の力も弱まっている今、お前の血を持って封印の楔を砕いてやろう』
「なめるんじゃねえ!」
兵士達をまとめて吹き飛ばした闘気を込めた一撃を放つマルク。
『その程度か?』
しかし、鮮血の魔王は、片手でそれを防ぐ。
「馬鹿な……」
愕然とするマルクに鮮血の魔王の指が伸びていく。
「食らうかよ!」
剣ではじこうとするマルクだったが、血の固まりでしかない筈の指が逆に剣を弾いた。
「嘘だろ!」
叫ぶマルクの腕を鮮血の魔王の指が貫き、大量の出血が起こる。
『どんどん溢れろ! お前の血が、我の復活を近づける』
鮮血の魔王の高笑いに悔しげな顔をするマルク。
そんな中、ルクが笑顔で言う。
「人生の最後にマルクさんにあえて本当にうれしかったです。初めて普通の子供で居られました」
その手には、聖水で清められたナイフが握られていた。
「待て! 止めるんだ!」
マルクの必死にもがくが、鮮血の魔王の指の力の前に近づくことすらできなかった。
ルクは、自らの首を切り裂き、大量の血を噴き出す。
その血は、鮮血の魔王を構成する血と混ざり合い、地面に戻っていく。
『次こそは、必ず復活してみせるぞ!』
捨て台詞を残し、鮮血の魔王は、完全に地面の奥底に消えていった。
即死したルクの遺体を抱き締めるマルク。
「どうしてだよ! どうしてお前が死ななければいけなかったんだよ!」
炎翼鳥が告げる。
「それしか、人の力で鮮血の魔王を封じる事が出来なかったからです」
マルクが睨みあげる。
「それじゃあ、お前達が後生大事に拝んでいる神様に頼めば良いだろうが!」
炎翼鳥は、淡々と答える。
「神の力ならば簡単ですが、神は、それをなしません」
片手でルクを抱きしめながら、炎翼鳥の胸倉に掴みかかるマルク。
「ふざけるな! 神がしないからってルクが犠牲にならなければいけない理由がないだろうが!」
炎翼鳥が頷く。
「神殿は、健康体であるルク様より、その妹君を犠牲にする予定でした。ルク様がそれを知って、自分が犠牲になると言ったのです」
炎翼鳥を殴り飛ばしマルクが怒鳴る。
「冗談も大概にしろ! そんな事実をしったら、あいつが自分を犠牲にする道を選ぶ以外の道を選べないなんて解りきった事だろうが!」
「どんなに言っても事実は、変わりません。そして、貴方が魔王に手も足も出なかった事実もまた変わらないのです」
炎翼鳥の一言に爪が掌に食い込むほど握りしめ、噛みしめた口から血が零れ出すマルク。
「そうだ、俺も何も出来なかった。偉そうな事を言っておきながら、何にも出来なかった!」
炎翼鳥は、淡々と続ける。
「そして、また五十年後、ルク様の妹君かその子孫が犠牲になる事でしょう」
マルクがルクの遺体を抱きしめて誓う。
「そんな事は、絶対にさせねえ! 俺は、強くなる! 魔王を倒せる様になって、これ以上ルクの妹やその子孫を犠牲にしたりしねえ!」
その言葉を残し、マルクは、その場を離れた。
そして、八百刃が現れる。
「あちきの想定内の結果に終わったね」
炎翼鳥が問いかける。
「あの男は、五十年後、魔王に勝てるのでしょうか?」
八百刃がはっきりと答える。
「絶対に無理だね。でもね、抗う意思が生まれた。魔王だからって運命にただ従うだけの人間だけでは、神々に全てを左右される事になる。それがどれだけ危ういかは、解ってるよね」
炎翼鳥が遠い眼をする。
「神々の勢力争いで、世界が一変し、滅びを待つしかなくなる人々。あれ程、見ていてつらいものは、ありませんでした」
八百刃が告げる。
「人は、強くならなければいけない。その為に、あちき達は、滅びない様に保護し、依存しない様に突き放す。自らが傷つくより辛い思いをしながら見守るしかないの」
シリアスな空気の中、白い子猫が現れる。
『御高説だな』
八百刃が顔をひきつらせる。
「なんで、白牙がここにいるの?」
『その言葉をそっくりそのまま返すぞ! 戦いを司る最上級神であるお前がなんでこんな場所に居るんだ!』
白牙の怒気に八百刃が視線をそらす。
「ほら、炎翼鳥がちょっと行き過ぎた事をしていたから注意しにきたの」
『お前が現場に来ている方が何倍も問題だ!』
白牙の言葉に炎翼鳥も頷く。
「裏切り者!」
叫ぶ八百刃を白牙が連れ帰る。
炎翼鳥は、本来の姿に戻り、その炎で魔王の穢れを払いルクの魂を天に昇らせる。
『ルク様、貴女が生まれ変わったその時には、再びマルク様と出会える事を祈っています』
そして、炎翼鳥も次の仕事がある世界に飛び立つ。




