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水撃太刀魚の立ち会う新兵器との対決

新兵器の登場とそれを監視する八百刃獣

 水撃太刀魚は、個人使用兵器に対する様々な調査を行っている。

 個人が使用する兵器の威力の上限など、細かい調整が必要であり、現地に行くことも多い。



「新型だぜ!」

 自慢気に人殺しの道具を見せつける同僚にまだ若い兵士が、ナイフの刃を砥ながら告げる。

「武器に使われなよ」

 それを聞いた男、サルサが睨む。

「ガキの癖に生意気な事を言いやがって、お前に何が判るんだ?」

 若い兵士、ソスケがナイフを相手の首に当てる。

「敵を殺すのには、ナイフだけで十分だ」

 サルサは、引き吊った笑顔になる。

「冗談は、止めろよ……」

 ソスケが真剣な顔で言う。

「人殺しの道具を使って冗談を言う趣味は、ない」

 サルサが冷や汗を流す中、マシンガンの弾倉を服に詰めて居た古株の兵士、ガウンが失笑する。

「だったら何でお前は、銃を使うんだ?」

 ソスケがナイフを戻しながら言う。

「仲間が居るからだ。仲間を護る為には、ナイフだけでは届かない」

 サルサが安堵の息を吐く中、ガウンが冷笑する。

「人殺しの道具で仲間を護るか? 中々面白い冗談だ。これで出来るのは、人殺しだけだよ」

 ガウンがマシンガンを仲間達に向けた。

「あんたまで、止めてくれよ……」

 サルサが冷や汗を拭いながら言った時、ガウンが引き金を引いた。

 油断していた兵士達は、肉塊に変わって行った。

 ソスケは、サルサにタックルをかけて物陰に身を隠し、銃を抜く。

「ガウン、裏切るつもりなら言っておく。俺は、裏切り者を絶対に赦さない!」

 ガウンは、サルサが自慢していた新型を手にして言う。

「ソスケ、俺は、お前を買っている。この軍は、もう駄目だ。新型の投入で兵士の力量に左右される事は、なくなり、完全に駒扱いにされる。一緒に新たな雇い主のところに行こうぜ?」

 ソスケは、攻撃の切れ目を見ては、撃ち返す。

「俺は、駒で構わない。信念ない人殺しは、単なる殺人鬼だ!」

「残念だぜ!」

 ガウンは、新型で壁に大穴を開けて逃亡する。



 ガウンの新型奪取による逃亡から、半年、ガウンが流出させた技術により戦場は、更に悲惨さを深めた。

 戦況を覆す為に多くの新型兵器が投入され、兵士は、駒の様に数値だけの存在になって行った。

「またかよ!」

 顔に大きな傷を負っていたサルサが舌打ちする。

 彼の手には、ろくにテストもされていない新型がある。

 因みに彼の顔の傷は、新型の暴発の為だった。

 ソスケは、戦場では、使う事が無くなったナイフを今でも研いで居た。

「俺達は、駒のなかでも使い捨てにしやすい駒だから、新型に問題があっても良いって判断だろう」

 苛立つサルサ。

「全部ガウンのせいだ! 奴さえ裏切らなかったら俺達がこんな立場になることも無かったんだ!」

 ソスケは、ナイフの刃に己の顔を映し、誓う。

「奴の首にこのナイフを突きつける」

 そんな中、二人の技官がやって来て、若い技官が言う。

「今回の新型の説明に来ました」

 サルサがからかい半分に質問する。

「何発撃ったら暴発するんですか?」

 古い技官が睨む。

「計算上、暴発は、有り得ない。もしも暴発するとしたら、お前達の使い方に問題が有るのだろう」

 兵士達が睨み返す。

「完璧な道具何てない」

 ソスケの言葉に古い技官が肩をすくめる。

「お前達は、そう言って、何でも兵器のせいにする」

 サルサが掴みかかる。

「もう一度言ってみろ!」

「一般兵士が私にこんな事をしてただで済むとおもっているのか?」

 古い技官の言葉にサルサが更に苛立ち拳を振り上げるとその腕をソスケが掴む。

「止めるんだ。ここで技官と争っても何にもならない」

 渋々拳を下ろすサルサ。

「後は、お前に任せる」

 古い技官は、若い技官に全てを押し付け、逃げていく。



 若い技官は、全ての説明を終えた後、ソスケのナイフを見る。

「随分と年代物ですね?」

 ソスケは、ナイフを見つめる。

「戦争孤児で、傭兵の真似事をしていた。人殺しになんの感慨も無かった。そんな俺に戦う意味を与えてくれた人の形見だ。弾薬も切れた後、その人が命を引き換えにこのナイフで最後の敵と相討ちになったんだ。その日から俺は、あの人の代わりに軍で戦う道を選んだ」

 若い技官は、納得する。

「まさに、命を救ってくれた最高の武器何ですね?」

 頷くソスケであった。

 戦いは、激化していき、兵器の高性能になり、兵士の数と新兵器の性能だけが戦況を左右される様になった。

 そんな戦場でソスケは、ガウンと再会する。

「久しぶりだな。そしてお別れだ」

 ガウンの手には、最新型のガトリング砲があった。

 次々に死んでいく仲間達。

「お前だけは、許さん!」

 ソスケも直ぐ様撃ち返すがガウンには、届かない。

「残念だったな。俺がお前達を裏切ったのは、このバリアが開発されていたからだ。これさえあれば無敵だ!」

「貴様、そんなくだらないものの為に仲間を売ったのか!」

 ソスケが睨む中、ガウンのガトリング砲の銃身が向けられる。

「終わりだ!」

 死神の鎌が伸びたがソスケは、諦めなかった。

 生き残る為に回避運動を続けた。

 結果としては、それがソスケの命を救った。

「サルサ!」

 叫び自分を庇ったサルサを抱き起こすソスケ。

「……これで、借りが返せたな。借りっぱなしじゃ、死ぬに死ねないからな」

「馬鹿を言ってないで、確りしろ! 死ぬんじゃない!」

 そう言いながらも、多くの死を目の当たりにしてきたソスケには、サルサの死は、覆せないものと映った。

 そんなソスケに若い技官が現れ告げる。

「サルサさんが作ったせっかくチャンス、逃げましょう」

 ソスケが首を振る。

「奴だけは、ここで倒す」

 固い決意を決め、走り出すソスケ。

「無駄だ! このバリアが有る限り、俺には傷ひとつ負わす事も出来はしない!」

 ガウンが高笑いをあげる。

 しかし、ソスケは、銃を撃ち続け、接近する。

「無駄だと言っているだろうが!」

 苛立つガウンにソスケが告げる。

「バリアを使っている間は、お前も武器を使えない」

 冷や汗を垂らすガウン。

「……流石に良いセンスだ。しかし、いつまで弾がもつかな?」

 嘲笑するガウン。

 そして、ソスケが弾切れになり、銃から弾倉を外した。

「終わりだ!」

 ガウンがバリアを解除し、砲身をソスケに向けた。

 長い硬直の後、倒れたのは、ガウンだった。

 その首には、かつてソスケが宣言した通りガウンの首には、あのナイフが突き刺さっていた。

「新兵器に頼りすぎだ。最後に勝負を分けるのは、兵士の覚悟だ」

 ナイフを引き抜きソスケは、サルサの遺体を清める中、敵の増援がやって来た。生き残った仲間が攻撃するがバリアで防がれる。

「終わりだ……」

 仲間達が絶望する中、ソスケだけは、諦めない。

「バリアは、絶対じゃない対抗できる!」

 銃を構えた、その時、若い技官が現れた。

「見事でした。貴方は、兵器の性能だけでは、戦いに勝てないことを証明しました」

 ソスケは、淡々と答える。

「誉められたところで、俺の命が風前の灯だと言う事実は、変わらない」

 若い技官は、首を横に振る。

「この実験は、終了です」

 若い技官の姿が太刀魚に変化し、その口から放たれた水撃がバリアを無効にしていった。

『貴方の活躍には、我が主も喜ぶでしょう』

 消えていく太刀魚。

 その後、軍事費の増大で逼迫していた両国が休戦し、急激な軍縮が行われるのであった。

 ソスケは、その中、少ない予算で国を護れる兵士の教育に勤しむのであった。



 八百刃の神殿。

「結局、最後に戦いを左右するのは、兵士の意志だな」

 水撃太刀魚の報告に白牙がそう締めくくる。

「ところで八百刃様は?」

 水撃太刀魚の問い掛けに、着ぐるみが応える。

『ふもっふ!』

 長い沈黙の後、水撃太刀魚が言う。

「まさかと思いますが……」

 白牙は、着ぐるみと視線を合わせない様に説明する。

「新型のパワードスーツらしい……」

 水撃太刀魚も視線を逸らす。

「次の仕事に向かいます」

 着ぐるみ、八百刃が手を振る。

『ふもっふ! (頑張ってね!)』

 水撃太刀魚は、気付かないふりをする。

 本来なら許されない事だが、白牙も注意しない。

 着ぐるみが気にいったのか、そのまま報告書の整理を始める八百刃であった。

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