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月華猫が焦らされる休戦の時

休戦を主に司る月華猫だが、それを止められる事もある

 月華猫は、戦いの停止を司る事を主な仕事をしている。

 しかし、戦いの停止と言うのは、決して不用意に行えないものであった。



 ホーマルド帝国とレイディッス共和国の長い戦乱で、両国は、疲労していた。

「もう、わが国には、戦いを続ける力は、ありません」

 そう進言するのは、帝国の若き将校、マルマッティであった。

 それに対して、帝国の大将、ホールマが首を横に振る。

「ここで停戦を申し込めば、帝国が負けを認めた事になる。それだけは、出来ない」

「そんな事を言っている場合ですか! 国内の生産力は、低下しきり、多くの餓死者を生み出しているのですよ!」

 マルマッティの言葉にホールマは、受け付けなかった。



「大将は、解っておられない!」

 自室に戻りマルマッティが苛立ちをこめて近くの花瓶を叩き落とす。

 そこから零れ落ちる花を手に取ると何故か、気分が落ち着いた。

「私が興奮しても何も始まらない。共和国との停戦の道を探さなければ」

 部屋を出るマルマッティだったが、そこにポニーテールの掃除婦がやってくる。

「丁度良い、花瓶を割ってしまったんだ。片付けておいてくれ」

「解りました」

 頭を下げて部屋に入る掃除婦。

 そして、部屋に入ると一匹の猫、月華猫が居た。

『毎度の事なので突っ込むのも面倒なのですが、何で居るのですか?』

 掃除婦をやっている八百刃の分身が苦笑する。

「そろそろ疑問に思っているだろうと思って」

 それを聞いて月華猫が渋々頷く。

『確かにそうです。どうして、私の力で、停戦派の行動を抑制しているのですか? これ以上の戦争の継続は、マイナスしか生まないと思われますが?』

 八百刃が花瓶の欠片を拾いながら言う。

「だったら、今停戦したらプラスになると思う?」

 月華猫が考えてから告げる。

『停戦して国力を復活させられればプラスになると思われます』

 八百刃は、細かい欠片を箒で集めながら答える。

「そしてまた戦争を始める。まったく同じ戦争をね。それじゃ、戦争をやった意味も止めた意味も無い。停戦は、させる。だけどそのタイミングは、今じゃない。それまで頑張って」

 集めた欠片を回収して出て行く八百刃であった。



 マルマッティが共和国の考えを同じする者達を巻き込み、一つの作戦を計画した。

「本当に宜しいのでしょうか?」

 部下の問いかけにマルマッティが頷く。

「上層部が、戦争を継続させようとしているのは、単にこの最終兵器があるからだ。それさえ無くなれば、戦争を継続出来ない筈だ」

 マルマッティは、共和国の工作員を手引きして、帝国で開発していた最終兵器を盗み出させた。

 それは、帝国でも大問題になり、施設の警護責任者でもあったマルマッティも罪に問われる。

 自室謹慎を命じられたマルマッティだったが、やり遂げた達成感で落ち着いて居た。

「掃除に来ました」

 掃除婦の八百刃が現れる。

「よろしく頼む」

 マルマッティが部屋に入れた。

 八百刃は、部屋の掃除を終えて、最後に告げる。

「月華猫、次のステップに移って」

「何を言っているのだ?」

 戸惑うマルマッティを尻目に花の力を発動していた月華猫が姿を現す。

 驚くマルマッティを月華猫が、辛そうな顔で見てから、八百刃に顔を向ける。

「どうなったか知りたいって顔だね?」

 月華猫が多少戸惑った後に頷く。

『八百刃様のやり方に逆らうつもりは、ありません。しかし、結果だけは、教えて頂けませんか?』

「猫がしゃべっただと!」

 驚愕するマルマッティを無視して八百刃が答える。

「良いよ。そこのマルマッティさんの手引きで最終兵器を手に入れた共和国は、予測通り、扱いに誤り暴発させて、死の大地を作った。後は、貴方の力で休戦に持ち込むだけ」

『なるほど、下手に最終兵器を使わず休戦しては、威力があげる恐れがあった。暴発させて牽制したのですね。死者は、減らせましたか?』

 月華猫の言葉に八百刃が肩をすくめる。

「この世界の人類滅亡は、防いだ。でも、やっぱりこの手の方法は、基本的に好きじゃないよ。それでも、人が自ら気付く必要があったからね」

 予想外の展開にマルマッティが叫ぶ。

「さっきから何を言っているのだ。共和国がそんな事をする訳がないだろう!」

 八百刃は、答えず、月華猫を連れて部屋を出て行く。

 慌ててマルマッティが追いかけるが、その姿を見つける事が出来なかった。



「マルマッティ殿は、まだ謹慎中の身です!」

 必死に止めようとする兵士達を振り切り、マルマッティがホールマ大将の所に現れた。

「大将、共和国がわが国の最終兵器を暴発させたのは、本当ですか?」

 周りが驚愕する中、ホールマは、平然と告げる。

「耳が早いな。共和国も無謀な事をした。しかし、そのお陰で帝国があの最終兵器を使った唯一の国と悪名を受ける事が無くなったな」

「どういう意味ですか?」

 マルマッティの質問にホールマが苦笑する。

「どんなに強力でも、侵略する土地を死の大地に変える兵器は、使えぬと言う事だ」



 その後、マルマッティは、軍を辞めた。

 それを前後するように共和国との形だけの休戦協定が結ばれ双方が国力の回復に努める事となる。

 しかし、再び戦争が起こることは、マルマッティには、判っていた。

 後に、彼は、知人に次のように漏らしていた。

「どんなに我々が動こうが神の導きからは、逃れる事は、出来ない。戦争を始めるのも、終わらせるのも神のさじ加減だ」

 休戦と再戦を続ける帝国と共和国の事を皮肉った台詞と周囲は、理解した。

 真実は、違う。

 マルマッティは、確信していた、自分達が神々の掌で踊らされていることを。



 八百刃の神殿。

「また、危険な兵器が出てきたな」

 報告資料に目を通して、嫌そうな顔をする白牙に八百刃が告げる。

「危険じゃない兵器って無いよ。刃物が無い世界に剣を持っていくそれだけで多くの死を生むことになる。所詮、あちきに制御出来ることなんて、致命的で暴走し易い兵器を使用させないようにする事くらいだよ」

 仕事の報告に来ていた月華猫が呟く。

「私の力で戦争なんて無くせば、そんな悩みが無くなるのに」

「月華猫、八百刃様の存在を否定する事を言うとは、何を考えている!」

 白牙が叱るが八百刃が苦笑する。

「そうかもね。でもね、世の中には、危ないものも必要な事があるし、生き残るためには、相手を滅ぼさなければいけない時もある。皆が幸せに生きる事は、出来ない。何故ならば、不幸がなければ幸せが存在できないから。貴方は、不幸を無くなるのなら幸せは、不要だと思う?」

 月華猫が長い沈黙の後、答える。

「幸せの無い生に、意味は、無いです。難しいですね」

 八百刃が頷く。

「簡単な事じゃない。戦争なんて無ければ良いと誰もが思う。危険な兵器だってね。でもそれがある事で、平和が作り出される。戦争と平和は、表裏一体なの。戦争が無い世界には、平和だって無い。そこにあるのは、ただの存在するだけの無意味な日々だから」

 白牙も頷く。

「だからと言って、戦争や兵器を無秩序に放置する訳には、いかない。それこそ全てが無に帰す。そうさせないための八百刃様なのだ」

「そうでした。これからも仕事をがんばります!」

 月華猫が次の仕事に向かっていく。

「悩みながら成長していく、それは、神やその使徒も一緒だね」

 いい事を言った風な八百刃に白牙がいくつかの資料を見せる。

「成長させたかったら、お前が現場に出るのは、止めろ」

 八百刃が資料から視線を逸らしながら言う。

「やっぱり責任者は、いざって時の為に現場に居ないといけないと思わない?」

 白牙がきっぱりと告げた。

「思わん。お前は、ここでじっとして居れば、いざって場合も八百刃獣でどうにか出来る!」

 その後、長々と説教を受ける破目に陥る八百刃であった。

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