表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/61

水産蛙が語る匠な戦神

水産蛙の昔語りその3です

 水産蛙は、管理派との戦いの際に高い戦果を挙げていた。

 本来ならば上位に属してもおかしくないのだが、ジョーカー的扱いゆえに中位の八百刃獣になっている。



 新入りの八百刃獣、赤風犬が大量の資料を持たされ、神殿を走りまわされていた。

 そんな中、のんびり歩いていた水産蛙にぶつかる。

「すいません!」

 必死に頭を下げる赤風犬。

「気にせんで良い。それより仕事の途中なのだろう? 急ぎなさい」

「はい。ありがとうございます」

 最後に一礼して駆け出す赤風犬。



 八百刃の睡眠時間(構成情報の整理を行っている状態で寝ているのに近い状態になる)、働いている八百刃獣も居るが、多くの八百刃獣にとっては、休息の時間であった。

 そんな中、赤風犬は、先ほどの謝罪をしようと水産蛙を探していた。

 そこに、赤風犬をよく思っていない八百刃獣が現れる。

「何をやっているんだ?」

 それを聞いて赤風犬が素直に答える。

「先程、水産蛙様にぶつかってしまい、その謝罪をしようと探しているのです」

 それを聞いた回りの八百刃獣(下位が殆ど)が蒼褪める。

「おい、お前、何て事をしたのだ!」

 赤風犬が申し訳なさそうに言う。

「確かに中位の八百刃獣にぶつかるなんて、無礼もいい所ですが……」

 言葉は、途中で遮られる。

「馬鹿! 水産蛙様は、対外的には、中位って事になっているが、管理派との大戦時に多くの戦果を挙げているんだ。実質上位の八百刃獣だぞ!」

「本当ですか?」

 驚く赤風犬を見て、周りの八百刃獣達が逃げに入る。

「俺は、関係ないからな!」

「俺も、何も命令してないぞ!」

「俺は、急げなんて言ってない!」

 一気に消えていく八百刃獣に赤風犬もとんでもない事態だって事に気付く。

 そんな時、噂をすればなんとやらとばかりに水産蛙が現れる。

「これは、さっきの新入りさんだね。遅れなかったかい?」

 慌てて頭を下げる赤風犬。

「水産蛙様が偉いお方と知らず、無礼の数々、なんと謝罪をすれば良いのか……」

 水産蛙が首を横に振る。

「少なくともこの八百刃の神殿では、偉さなど、気にする必要は、無いぞ。あるのは、担当している仕事の重要度。あの時は、私は、仕事をしていなかった、お主が仕事を優先するのは、当然の事だ」

 穏やかな対応にも赤風犬が頭を下げる。

「それでも、ぶつかったのは、私の失態です、すいませんでした」

 その態度を見て、水産蛙が微笑む。

「真摯な態度だ、八百刃様が即決したのも解る。そうだ、少し昔話に付き合って貰えるかの?」

「はい」

 赤風犬が答えると水産蛙が語り始める。

「あれは、管理派との大戦も中盤に差し掛かった所だ」



「ここが終わったら、次は、こっちか」

 ワールドマップを展開して、これからの予定を確認する八百刃。

「連戦が続きますね?」

 水産蛙の質問に頬をかく八百刃。

「そんだけ、頼りにされてるって事なんだけど、敵からは、警戒されてるよ」

 目の前の要塞の様子を探り出した下位の八百刃獣からの報告の確認を終え、頭をかく八百刃。

「正直、水産蛙の力をどう使っても、あの要塞を落とすのは、無理。かと言って力押しするだけの戦力の余裕が無い。結構困ってる」

 水産蛙がそんな様子の主に苦笑する。

「いつも思うのですが、八百刃様が困っていると言う時は、どうしてそう余裕があるのですか?」

 不思議そうな顔をする八百刃。

「そう? あちきは、本当に困ってるんだけどな?」

 水産蛙が首を横に振る。

「八百刃様が本当に困っているときは、口には、しません。何かしらの手段があるのでしょう?」

 八百刃が苦笑する。

「目の前の要塞を落とすのが難しいのは、本当だよ」

「難しくても方法があるって事でしょうか?」

 水産蛙の質問に八百刃が告げる。

「難しい事をやっていたら、他の所に影響が出るよ」

 眉間を寄せる水産蛙。

「それでは、どうするのですか?」

「水産蛙には、頑張ってもらうね」

 八百刃の言葉に水産蛙が頷く。

「それは、構いませんが、やはり、この要塞を攻め落とすって事ですね?」

 八百刃が手を横に振る。

「うんにゃ、ここは、攻め落とさないよ」

 首をかしげる水産蛙。

「そうすると、私は、他の所に行くのですか?」

 再び手を横に振る八百刃。

「水産蛙には、あの要塞を担当してもらうよ」

 本格的に悩む水産蛙。

「攻めないのに私があの要塞を担当するのですか?」

「そう、一番大切な所でしんどいと思うけど頑張ってね」

 八百刃が言葉に、水産蛙をはじめとする誰もが困惑した。



「結局、八百刃様は、そのまま攻めずにその要塞を陥落させてしまった」

 水産蛙の言葉に赤風犬が驚く。

「どうやったんですか? 全く見当もつきません!」

 水産蛙が笑みを浮かべる。

「その時ほど、八百刃様が我等の主だって事実を幸運に思った事は、無かった。八百刃様がとった方法とは……」

 語りを再開する水産蛙。



 要塞では、八百刃の強力な神の気配に緊張を強いられていた。

「要塞潰しの水産蛙も一緒に来ているらしい。油断すれば一発でこの要塞が落とされるぞ」

 管理派の神々が緊張する中、新たな報告が入る。

「大変です、要塞の出口付近で八百刃と水産蛙が大量の水を生産しています!」

 緊張が走る。

「水を逃がす用意だ! 解っていると思うが、水を排水する時に敵に進入させる穴を作るな!」

 要塞内が慌しく動く。

 しかし、一向に水が襲ってこない。

「どうなっている!」

 苛立ちの声が上がるが、入り口付近に居る水産蛙が水の生産を継続している為、警戒を解くわけにも行かなかった。

 緊張が続く要塞内。

「フェイク、偽者では、無いのか?」

 そういった意見も出て、チェックを行うが水産蛙は、本物で、水の量から考えて、準備もなく水を放たれたら致命的な事になる事が明白だった。

「どうなっている!」

 困惑する者が出る中、トップは、巧妙な作戦をとる八百刃の性格を考えて答えを出す。

「こちらが準備している事を察知した八百刃がこちらの隙を突く為に業と焦らしているのだ。こちらが気を抜いた瞬間来るぞ!」

 重苦しい空気が続く中、信じられないニュースが入ってきた。

「やられました! この区域の同志が全て、八百刃の奇襲によって撃退されました。残っているのは、この要塞だけです」

「馬鹿な、八百刃は、この要塞の入り口であの水を生み出す力を注ぎ込んでいたのでは、ないのか!」

 驚愕する神々だったが、もはや後の祭り、孤立した以上、これ以上維持する意味が無くなり、降伏する事になったのであった。



「八百刃様は、最初だけ、私と一緒に水を生み出していたが、後は、私単独で水を生み出させて、他の場所への奇襲に参加なされていた。八百刃様の力が篭っていない水なのどれだけ質量があろうが神々には、効果が薄い。それに気付かず、待ち構えていた管理派の判断ミスだ」

 水産蛙の説明に赤風犬が感嘆する。

「凄い、八百刃様は、水産蛙様との評判すら利用し、自分の居る場所を誤解させて奇襲を成功させたのですね?」

 水産蛙が頷く。

「その通りだ。押すでも引くでもない、第三の選択肢を常に持ち、実行する。それが戦神の匠だろう」

 赤風犬が興奮する。

「さすがは、八百刃様。私は、そんな八百刃様の八百刃獣に成れた幸運を感謝せずには、居られません!」

 水産蛙が告げる。

「そうだ。新人いじめ等に負けず、頑張るのだぞ」

 その言葉を聞いて赤風犬が少し恥ずかしそうに言う。

「知っておられたのですか?」

 水産蛙が苦笑する。

「八百刃様は、全てをお見通しだ。それでも、その状況を改善しないのは、お前がその様な事に負けないと信じているからだ。その期待に見事に答えるのだ」

 赤風犬が強く頷く。

「はい!」

 その時、白牙がその横を通り抜ける。

「白牙殿、どうなされた?」

 水産蛙が尋ねると、激怒した白牙が怒鳴る。

「あの馬鹿が、また抜け出した。毎度毎度、こっちの隙を見つけては、抜け出して現場に出やがって! その労力を事務仕事に回せ!」

 駆け抜けていく白牙を見送り、沈黙する赤風犬に対して水産蛙が遠い目をして告げる。

「色んな意味で、我々の想像を超えるお方なのだ……」

 赤風犬は、どうリアクションをとれば良いのか大いに悩むのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ