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炎翼鳥が悩む義理と人情

人の中に紛れて過ごす炎翼鳥、その目的とは?

 八百刃獣は、戦闘と異界干渉に関しては、大きな権力を有している。

 逆を言うと、それを外れると出来るとことは、かなり制限される。



 そこは、商いが盛んで商社のトップが政治に大きく影響を与えていた。

 ヤマキタグループでも有数の名家の娘、コーリスは、窮地に立たされていた。

「これは、議会で決まった事なのですよ。例えコーリス様でも覆させられません」

 相手の男は、勝利を確信していた。

 今回の計画、大規模な開発計画は、議会が主導であり、いくらヤマキタグループに強い影響力が有ろうと、決定してしまった事を覆す事は、出来ない。

 そしてその計画を推し進める事でコーリスの財産を削り今後の企業計画に致命的なダメージを与える事になるはずだった。

 そこにコーリスの若い執事が入ってくる。

 その姿を見て、八方塞がりの状況に暗い顔をしていたコーリスの顔が明るくなる。

「エーヨク!」

 その執事、エーヨクが頭を下げる。

「只今帰りました。例の開発計画ですが、延期が先ほど議会で決定しました」

 男が立ち上がる。

「そんな馬鹿な!」

 エーヨクが微笑む。

「何でも、ある特定企業からの不正な融資が発覚したそうです」

 男が青ざめる。

「貴様、何者だ?」

 エーヨクは、淡々と答える。

「私は、幸運にも、コーリス様に拾って頂いた執事業界のけもの執事です」

 事後対策の為、飛んでいく男に満足そうな顔をするコーリス。

「エーヨク、今回もありがとう。両親が事故で亡くなった後、泣くことしか出来なかった私の傍にいて助けてくれた。貴方が居なかったらとっくの昔に親戚達に遺産奪い取られてたわ」

 信頼を寄せるコーリスにエーヨクが微笑みながら言う。

「私のしたことなど僅か、全ては、コーリス様の努力の成果です」

 お互いを尊重し合う良好な関係をきづく二人であった。

「そうそう、エーヨクが居ない間に新しいメイドが入ったの。挨拶しなさい」

 コーリスに促されポニーテールの小学生に見えるメイドが頭を下げる。

「初めまして、エーヨク様。あちきは、ヤオと言います。どうかよろしくお願いいたします」

 エーヨクの顔がひきつる。

「何か彼女に問題でもあった?」

 コーリスが確認するとエーヨクは、慌てて否定する。

「そういう訳ではございません。そうそう当家で働く上での注意点を説明するので私の部屋に来てください」

「解りました」

 ヤオが素直に応じた。



 エーヨクの私室に二人が入るとすぐにエーヨクが膝をつく。

「八百刃様、今回の事に関する処罰は、如何様にも受ける所存です」

 ヤオ、八百刃は、苦笑する。

「別に貴方を処罰するために来たわけじゃないの、偶然だよ。でも、その様子じゃ、自分のやっている事が越権行為って認識は、あるんだね、炎翼鳥?」

 エーヨク、八百刃の一刃、炎翼鳥が頷く。

「戦争や異界に関わらない場合に、コーリスの様な世界に影響力がある存在に干渉すれる事が越権行為だと判っております。しかし、もうしばらくだけお見逃し頂けないでしょうか?」

 ヤオが頬をかく。

「コーリンに生き写しだもんね、ほっとけ無かったんだよね?」

 エーヨクが苦悶の表情で告げる。

「移民状況の確認をしていた時にコーリンの子孫であるコーリスが両親を失い、最悪の運命に晒されようとしてたのをしり、人の姿をした分け身を生み出して傍に送ってしまいました」

 ヤオは、小さくため息を吐いた後、命じた。

「あちきの許しがない限り、コーリスが死ぬことになってもこの世界で力を使う事を禁じます。もしも破ればあちきがこの世界に来ている意味が無くなるからね」

 エーヨクの顔に緊張が走る。

「それほど大事なのですか?」

 ヤオは、気楽に言う。

「なに、あちきが頭を下げて、頑張れば取り返せる事、最終判断は、自分でしなさい。あちきは、メイドの仕事あるから」

 立ち去るヤオを見ながら、拳を握り締めながらエーヨク。

「八百刃様が頭を下げる事等、このみを失おうとあってはならない事だ」



 暫くは、平穏な日々が続いた。

 夕食後のお茶の時間、コーリスがとう。

「エーヨク、この頃浮かぬ顔をすることが多いが悩み事があるのか? 私に出来る事なら何でもしてやるぞ!」

 エーヨクが作り笑顔で言う。

「私の悩みは、コーリス様の結婚相手の事だけです」

 その誤魔化しは、コーリスには、通じない。

「エーヨク、私を馬鹿にしないでください」

 エーヨクがどう誤魔化そうか考えているとお菓子を運んできたヤオがばらす。

「エーヨク様は、元からの主から釘を刺されたのです。エーヨク様がコーリス様の下で働く事が自分にとってマイナスになると」

 驚いた顔をするコーリス。

「本当なのか!」

 エーヨクは、否定しようとしたがコーリスの真剣な顔に覚悟を決めた。

「私は、そのお方を尊敬し、恩義も感じています。それがゆえに心苦しく感じております」

 コーリスが必死に言う。

「ならば、私が許しを貰える様に話をしよう!」

 エーヨクが首を横に振る。

「不要なのです。あのお方は、忠告は、されても強制は、しません。それどころか、私のせいで発生したトラブルでも自分の責任として処理なさってしまい、責任をとらされる事がありません」

 悔しげなエーヨクの顔に何も言えなくなるコーリスであった。



 夜中のベッドの中、先ほどのエーヨクの顔が頭から離れず、眠れないコーリス。

「エーヨクは、私より、前の主の事の方が大切なのだろうか?」

「独占欲ですね。でも忘れないで下さい、忠告を受けてもエーヨク様は、ここを辞めていないって事実を」

 部屋の外で待機していた筈なのに傍に居るヤオの言葉にコーリスが気付く。

「エーヨクは、辛くても私の傍に居てくれている。そんなエーヨクに私は、何が出来る事は?」

 ヤオが頭を撫でながら言う。

「早く一人前になって、エーヨク様を心配させないようになれば良いよ」

「でもそれって、エーヨクが居なくなるって事ですよね?」

 悲しそうに言うコーリスにヤオが頷く。

「人生、出逢いと別れの連続。出来るのは、その出逢いを素晴らしい物にするかどうかだけだよ」

「エーヨクとの出逢いは、素晴らしい物にしたい」

 コーリスは、大人への階段を登り始める。



 勉強をするコーリスを見守るエーヨクにヤオが言う。

「いつまで傍にいてあげるつもり?」

「そう長くならないでしょう。それより、八百刃様の仕事は、順調ですか?」

 ヤオが頭をかく。

「いまいち、最期の方では力かりるよ」

 エーヨクが頭をさげる。

「当然の事、今、力になれない不覚をお許し下さい」



 更に数日が経ったある日、開発計画を推し進めていたあの男が不気味なマントを羽織った連れとやって来た。

 それを見てエーヨクが嫌な予感を覚えて反応しそうになった時、ヤオがテレパシーで伝えてくる。

『反応しない。あちきの目的だよ』

 それを聞いて、エーヨクが自分の予感が正しいことを悟る。

「コーリス様、私も時間が無いのです。今回の計画には、莫大な投資を行っている以上、無理にでも協力して頂きます」

 コーリスは、はっきりと告げる。

「貴方の計画は、一部の建造業者しか利益をもたらしません。そんな計画に力を貸す謂れは、ありません」

 男が笑みを浮かべ、マントの連れが前に出る。

「恩恵は、ある。あれは、我々の基地として、神々の戦いに利用される。尊き事であろう」

 コーリスが眉を寄せる。

「何を言っているのですか?」

 マントの連れは、袖から蛇を出す。

「キャー!」

 思わず飛びのくコーリスの前にエーヨク。

「お嬢様には、指一本触れさせない!」

「普通の人間に私の蛇の相手が出来るかな?」

 マントの連れが出した蛇の牙から滴る毒は、床を溶かし始める。

 エーヨクはヤオを見るが、ヤオは、動かない。

 その意味をかみ締め、エーヨクは、胸に入れていた万年筆を抜き出し、投擲する。

 マントの連れは、咄嗟に払いのける。

「そんな物が通用すると思ったのか?」

 しかし、そういったときには、エーヨクの姿は、消えていた。

「これならどうだ!」

 シャンデリアにぶら下がっていたエーヨクが体を振ってシャンデリアを落して、マントの連れを下敷きにする。

「おい、こんな事でやられたなんて言わないだろな!」

 次の瞬間、シャンデリアが吹き飛び、マントの連れがマントを外し、体から大量の蛇を生やした体を晒す。

『よくもやってくれたな。たかが人間の分際で!』

 体中の蛇が伸び、エーヨクに迫る。

 エーヨクは、避けない。

 決して避けられない訳じゃなかった。

 しかし、避けた場合、コーリスに危険が及んだ。

「エーヨク!」

 コーリスが叫ぶがエーヨクが笑みを浮かべて言う。

「このくらい平気です。体をはって護れる危機で済んでいる幸運に感謝したいほどです」

『やせ我慢は、よせ! お前に注入した毒は、常人なら発狂してもおかしくない激痛を放っている』

 蛇男の言葉にエーヨクが自分の体に噛み付いた蛇の頭を握りつぶす。

『何をする!』

 痛みに顔を歪める蛇男にエーヨクが告げる。

「お前は、知らないのだな。大切な者の盾にもなれない苦痛を。あの時の心の苦痛に較べればこのような物は、蚊にさされた様な物だ!」

 ペーパーナイフを投擲し、蛇男の目に直撃させる。

『貴様!』

 のたうちまわる蛇男。

 この以上状況に男が逃げようとした時、蛇男が男の四肢を蛇で固定する。

「何をする! 私は、お前の言うとおりにしてきただけだ!」

『あの男に地獄を見せてやる。その為の生贄となれ!』

 蛇男は、そういって蛇に力を入れる。

「痛い! 何でもするから、止めてくれ!」

 命乞いをする男だったが、蛇男は、あっさりその四肢を引き抜き絶命させる。

『さあ、ここに門を開け!』

 空間が歪み、空中に巨大な穴が生み出される。

 その間にもコーリスは、蛇から開放されたエーヨクに縋りつき泣いていた。

「エーヨク、死なないで!」

「私は、死にません。しかし、お別れの時が来たみたいです」

 虫の息のエーヨクの言葉にコーリスは、涙を止める事が出来ない。

「どうしてそんな事を言うの?」

 エーヨクが微笑み答える。

「貴女が一人前の女性になったからです。私は、本来の仕事に戻らなければいけないのです」

「エーヨク……」

 そんな空気を無視して蛇男が勝ち誇る。

『愚かな男だ! 無駄に足掻いた事で、人には、抗うことも叶わない存在と相対する事に成るのだからな!』

 そんな姿を見てエーヨクが苦笑する。

「正直、助かりました。貴方がヘタレで、もっと頑張られたらコーリス様を守れなくなるところでした」

 落ち着いたままのエーヨクに蛇男が苛立つ。

『その余裕が何時まで続くか見ものだ!』

 そして、穴から圧倒的な神気が流れだす。

 それを確認してヤオが言う。

「炎翼鳥、一柱残らず、捕らえろ!」

 エーヨクが膨らむ。

「何!」

 困惑するコーリスの目の前でエーヨクは、炎の翼を持つ鳥、炎翼鳥の姿に戻った。

『偉大なりし、我が主、聖獣戦神八百刃様に逆らう、愚か者は、我が一人残らず、捕らえる』

 炎翼鳥の翼から放たれた炎が、炎翼鳥の登場と同時に逃げ出そうとした神々を包囲し、確保していく。

 蛇男がその場にしゃがみこむ。

『なんで、こんな所に上位、八百刃獣がいるのだ?』

「あの男の計画で作っているのが、神々の力を増幅する特殊な建物だって解った時から、あんた見たいのが引っかかると思って張って居たのよ」

 解説するヤオを見て、蛇男が全身から汗を噴出す。

『嘘だ! なんで六極神の一柱、八百刃様が居るのだ!』

 こうしてヤオの仕事は、無事に終わった。



「人の姿になった方が良くない?」

 ヤオの忠告を無視して炎翼鳥は、本来の姿のままコーリスに告げる。

『私は、八百刃様のご命令でここに居ました。主に逆らう不届き者達を捕らえるのも終わったので、ここに居る理由がありません』

 コーリスが哀しそうな顔で言う。

「偉い神様の使徒様だったのですね。色々とご迷惑をお掛けしました」

 頭を下げるコーリスに背を向ける炎翼鳥の足をヤオが叩く。

「あのね、嘘を吐いてどうするの? 炎翼鳥がここにいたのは、仕事は、関係ないよ。貴女を護りたかったからだよ」

『八百刃様!』

 制止しようとする炎翼鳥を睨むヤオ。

「別れが辛くなるから嘘を吐くなんて、駄目だよ。どんな別れでもきっちりと別れないと」

 コーリスが炎翼鳥を見上げる。

「本当なのですか?」

 炎翼鳥は、人の姿をとり、恥ずかしそうに言う。

「短い間でしたが、コーリス様に仕えられ幸せでした。それでも、私は、八百刃獣なのです」

「解っています。お仕事を頑張ってください。私も頑張ります」

 コーリスが精一杯の笑顔を作るとエーヨクがコーリスを強く抱きしめて告げる。

「コーリス様もお元気で。貴女の子孫が途絶えるまで応援し続けます」

 それを聞いてコーリスが少し恥ずかしそうに言う。

「最後の思い出に、キ、キスをしてください!」

「それは……」

 困惑しヤオを見るエーヨクだったが、ヤオは、あさっての方向を向いて無視をきめこむ。

「駄目ですか?」

 上目遣いで聞いてくるコーリスにエーヨクは、キスをした。



 八百刃の神殿。

「コーリスさんも早くいい旦那さん見つかると良いね」

 八百刃の言葉に炎翼鳥が頷く。

「本当です。きっと可愛い子供が産まれる事でしょう」

 そんな中、白牙がやってくる。

「ヤオ、一つ聞いていいか?」

 八百刃が首を傾げながら言う。

「何?」

 白牙が爪を伸ばして怒鳴る。

「現場に行くなと何度言えば解るんだ、ボケ!」

「今回は、管理派の神々の一気に捕まえる為で、しかたなくよ」

 弁解する八百刃に白牙が言う。

「あの状況から考えて上位八百刃獣が一刃いれば十分。今回は、何故か丁度潜伏していた炎翼鳥が居たんだ、任せておけば良かっただろう」

 視線を逸らす炎翼鳥。

「微妙な判定が必要だったんだから良いじゃん!」

 わがままモードの八百刃に白牙が大きく溜め息を吐く。

「お前が動くって意味がよく解っていないみたいだな。お前の気配を感じただけで、周囲の神々からの問い合わせが大量に発生し、他の最上級神から抗議きているんだ」

「確かに今回は、大事だから気配を放っちゃったけど、いつもは、しないんだから良いじゃん」

 八百刃の反論を白牙が斬って捨てる。

「大事じゃないんだったら出る必要も無い。色々仕事が溜まっているから暫くは、休みなしだからな」

「イヤー!」

 泣く八百刃を引きずっていく白牙であった。

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