水産蛙と共に行く
短めの神々同士の戦いの話
聖獣戦神八百刃は、その実力からグングンと地位を高めていった。
今回の話は、その途中、水産蛙と組んで行った戦いです。
「さてどうしたものかね?」
八百刃の言葉にその肩に乗っている水産蛙が苦笑する。
「どうするも何も、援軍を呼ばなければ、このピンチは、抜けられないと思いますがな」
八百刃が頬をかく。
「そうは、言っても、他の所もいっぱいいっぱいだからね」
「まず他の心配をする所が、八百刃様らしい。それで案があるのですか?」
水産蛙の言葉に八百刃が悩む。
「現在は、複数の戦闘系の神々に包囲されていて、その使徒との連携で、抜け出すのは、ほぼ不可能。ついでに言えば、広い空間だから、水産蛙の力を使ったプレス作戦も使い辛い。そして、他の八百刃獣は、別の戦場で今も交戦中で余裕が無い。見事に八方塞だね」
そんな状況でありながら水産蛙は、悠然としていた。
「そうですね。八方塞です。かなりピンチと言っても良いですが、凌ぐくらいなら出来るでしょう?」
八百刃が頷く。
「まあね。問題は、これには、制限時間があるって事だね。包囲網を突破して、敵の要塞に接近して、要塞を使用不能にしないとこの戦線は、盛り返せない」
「タイムリミットを考えれば、そろそろ、動きませんとなりませんね」
水産蛙の言葉に八百刃が頷く。
「そうだね。それじゃ、動きますか」
こうして八百刃は、水産蛙に力を注ぎ込み始めるのであった。
「まだ見つからないのか!」
八百刃追撃の責任を負う神、黒破斧が使徒達に怒鳴り散らす。
「八百刃の隠行が完璧です。我々の力では……」
苛立ちを感じながらも黒破斧は、笑みを浮かべた。
「とにかく、八百刃をここに足止め続ければ、要塞は、護られ、我ら管理派の処理に近づく筈」
そんな中、黒破斧の使徒の一人が駆け込んでくる。
「今、八百刃の力を感知、例の水産蛙の力で大量の水を生み出しています!」
「自棄になったみたいだな。こんな状況では、そんな力が通じると思っているのだからな。急いで包囲網を狭めてやれ!」
黒破斧の指示の元、八百刃の包囲は、狭まっていく。
当然、相手の攻撃である、水を弾き返しながら。
そして、包囲網が完成し、黒破斧が八百刃を見下ろす。
「これでお前も最後だな」
八百刃が笑みを浮かべた。
「ありがとうね、こんなに包囲を狭めてくれて。そうじゃなければ成功しなかったよ」
「何を言っているのだ? お前の水が我らによって封じられている事が解らないのか!」
黒破斧の怒声に八百刃が包囲網の一点を指差す。
「完全な包囲網があだになったね、水が包囲網の中に溜まり、包囲網の弱いところがはっきりしたよ」
八百刃の指差した地点から決壊が起こり、大量の水が神や使徒達を飲み込む。
その騒乱に便乗して八百刃は、見事に包囲網を抜け出すのであった。
「クソー!」
叫ぶ黒破斧であった。
包囲網を抜け出した後、水産蛙が話しかける。
「ここは、直に要塞に向かわなければいけませんね」
それに対して八百刃が後方を見て思案する。
「これは、直に行かないほうが良いかもね」
「どういうことです?」
水産蛙の質問に八百刃があっさりと答える。
「要塞攻撃が読まれている以上、効果は、高が知れている。ここは、要塞への直接攻撃に拘る場面じゃない」
そして八百刃は、姿を消した。
「来ていないだと!」
要塞に到着した黒破斧が驚きの声をあげると、要塞に居た仲間が頷く。
「そうだ、お前からの報告を受けて、例の対策をして待っていたのだが、八百刃の攻撃は、無い」
「どうなっている。包囲網を突破した以上、直にも要塞を使用不可能にするものかと思ったが?」
黒破斧が困惑する中、新たな報告が来た。
「八百刃が現れました。例の如く、大量の水を放ち、要塞を使用不可能にするつもりみたいです」
それに対して要塞に居た黒破斧の仲間が苦笑する。
「もう準備は、出来ている。要塞の各部に排水装置を作っている。直に作動さえるのだ!」
黒破斧達、管理派の予測通り、八百刃の放った水は、排水装置によって、要塞にダメージを与える事無く、排水されきった。
「早過ぎないか?」
黒破斧が、排水が早すぎる事に違和感を覚えていると、周囲が慌しくなった。
「大変です! 排水装置の所から監視派の神々が攻め込んで来ました!」
それを聞いて黒破斧が歯軋りをする。
「最初から、その予定だったのか!」
自分に迫ってくる神と武器を交えながら悔しがる黒破斧であった。
現在の八百刃の神殿。
「相手の排水装置を侵入ルートに使うなんて、凄い戦略です」
水産蛙から当時の話を聞いた赤風犬が嬉しそうに告げると、水産蛙が頷く。
「八百刃様は、おっしゃった。戦いとは、常に相手の予期しない所から攻め立てる物だと。どんなに実績があろうとも、それに拘れば負けるのは、必定」
赤風犬が何度も頷いている横を白牙が駆けていく。
「どうかしたのか?」
水産蛙の質問に白牙が怒鳴る。
「あの馬鹿、また分身を作って抜け出しやがった。毎度毎度、よく次々と違う手を思いつく。対応するこっちの身にもなれって言うんだ」
そのまま、八百刃追撃にでる白牙を見ながら水産蛙がしみじみとつげる。
「八百刃様は、良い意味でも、悪い意味でも、我々の想像を越す神という事じゃ」
強く頷く赤風犬であった。




