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闘甲虫が手伝う仁義の道

水流操竜が闘甲虫と一緒に仕事をする話

 闘甲虫トウコウチュウ、カブトムシ型の武装タイプの八百刃獣で、新名の第一使徒、狼打ロウダのサポートを行っている。

 一応は、外部折衝関係のトップ、上位八百刃獣である。

 常時、新名の神殿に居る為、新名の使徒と間違えられる事が多い。



 上位八百刃獣に睨まれて、出向をさせられている水流操竜は、今回、六極神の一柱、時空神新名の神殿に来ていた。

「よくきたな」

 迎えたのは、八百刃獣の一刃でもある、闘甲虫であった。

「お久しぶりです、闘甲虫様」

 水流操竜が頭を下げると闘甲虫が答える。

「久しぶりだな。それより、今回の仕事の内容を聞いているか?」

 水流操竜が首を横に振ると闘甲虫が説明を開始する。

「新名様の配下の一柱、橙出弾トウシュツダン殿が、離反行為に出た。お前も知る、紫縛鎖の配下に下ったと言う話だ。今回は、その討伐が目的になる」

「了解しました。指揮は?」

 水流操竜の言葉に闘甲虫が答える。

「本来なら、狼打がとる予定だったが、本来の仕事の方で緊急性が伴う事態になった為、こちらに一任されている。一応は、最終責任者は、俺になっているが、知ってのとおり、俺は、サポート型だ、メインは、お前に任せる」

 水流操竜が頷き言う。

「お任せ下さい。そのかわりといっては、何ですが、今後の私の仕事の事なのですが?」

 闘甲虫が言う。

「解っている。俺の方から、口添えして、本来の業務に戻れるようにしてやる」

「ありがとうございます」

 頭を下げる水流操竜であった。



 その後、直に水流操竜と闘甲虫は、橙出弾の居る、世界に侵入した。

 当然、橙出弾の使徒が妨害に入ったが、中位の八百刃獣である水流操竜の敵では、なかった。

 そのままの勢いで、水流操竜と闘甲虫は、橙出弾の前に出る。

「素直に投降して下さい。そうすれば、新名様でしたら、やり直すチャンスを与えてくれる筈です」

 水流操竜の言葉に橙出弾が首を横に振る。

「残念だが、そういう訳には、行かない。これは、仁義に関わる事なのだ」

 それを聞いて闘甲虫が前に出る。

「どういうことだ?」

「闘甲虫様、ここは、私にお任せ下さい!」

 水流操竜が前に出ようとするのを闘甲虫が一睨みで黙らせる。

「何か事情があるのだな?」

「言う訳には、いかない!」

 そういって橙出弾が自分の力の象徴である橙色の弾丸を複数、撃ち出すが、闘甲虫は、あっさりそれを弾く。

「その程度の攻撃は、通用しない!」

 あっさり告げる闘甲虫だったが。

「すいません、けっこうダメージ大きいです」

 水流操竜が、体に幾つかの大きな穴を開けていた。

 闘甲虫は、小さく溜め息を吐いて言う。

「こっから先は、俺がやるから下がっていろ」

「しかし……」

 水流操竜が口を挟もうとするが一睨みで下がらせる闘甲虫。

「良いのか? 二刃ならば、楽に私を制圧出来るだろう?」

 橙出弾の言葉に闘甲虫は、はっきり答える。

「俺達の仕事は、楽かどうかでやるんじゃない。やる事の意味を常に考えて、それにそって全力を出す事が求められているのだ」

 橙出弾が苦笑する。

「随分と大変なのだな?」

 闘甲虫は、笑みを浮かべて答える。

「それができるのも、全て八百刃様がそれを許してくださるからだ」

 それを聞いて橙出弾が言う。

「素晴らしき神だな」

 闘甲虫が頷き言う。

「どうやっても事情を聞かせてもらう!」

「言えぬ事情がある!」

 橙出弾がそう答え、今度は、一つに集中した橙色の弾丸を撃ち出す。

「収束した弾ならどうだ!」

 闘甲虫は、自分の角で正面から弾丸を受けとめる。

 激しく火花を散らす橙色の弾丸と闘甲虫の角。

 そして、力を失った橙色の弾丸が床に落ちるのを確認し、闘甲虫が宣言する。

「何発撃っても同じだ。俺は、受け続ける!」

 橙出弾が次の弾丸を生み出しながら言う。

「何故だ、それ程の力があれば、私を倒すのは、難しくないはずだ!」

 再び放たれた弾丸をやはり角で受け止める闘甲虫。

「簡単だ! 八百刃様は、正しい戦いを求める。お前の戦いの理由を見極められない限り、終わりにさせられないからだ!」

 再び床に落ちる弾丸。

 しかし、確実に闘甲虫が消耗しているのが解る。

「このまま弾丸を撃ち出し続ければ、何れお前の限界が来るぞ!」

 橙出弾が弾丸を生み出しながら言うが、闘甲虫は、微動だにせず答える。

「正しい戦いを求める限り、八百刃獣に限界は、無い!」

 三度放たれた弾丸、それを角で受け止める闘甲虫。

 床に落ちる弾丸、同時に闘甲虫の角にも小さなひびが刻み込まれていた。

「限界は、近そうだな!」

 橙出弾は、そういって次の弾丸を放つ。

「まだまだ!」

 又もや角で弾丸を受け止める闘甲虫。

 双方の戦いは、長く続く事になる。



「闘甲虫様、限界です! 後は、私が!」

 水流操竜がわって入ろうとするが、角に無数のひびを入れている闘甲虫が叫ぶ。

「邪魔をするな! これは、俺の戦いだ!」

「しかし!」

 水流操竜が必死に言うが闘甲虫は、引かない。

 そんな闘甲虫を見て橙出弾が言う。

「どうしてだ! お前は、どうしてそこまで闘える! お前らの仕事は、私を倒す事だろう!」

 闘甲虫が淡々と告げる。

「何度も同じ事を言わせるな、お前の戦いを見極めるまで、終わりに出来ないからだ」

「限界がある! このままでは、お前は、滅びるぞ!」

 橙出弾の言葉に水流操竜も頷く。

「そうです。相手も疲労しています。私、一刃で十分、倒せます!」

 闘甲虫が水流操竜を睨み怒鳴る。

「そんなのだから、お前は、八百刃様に謝られる事になる! 八百刃様が求めているのは、結果だけでは、無いのだ! その途中にある戦いの経緯もまた大切にされている。それが解らない限り、お前は、これ以上、八百刃様に近づくことは、出来ない!」

 黙ってしまう水流操竜。

 そして、橙出弾が渾身の力を籠めて弾丸を生み出して言う。

「次の一発に私の全力を籠める。もしもそれを受け止められたら、全てを話そう。しかし、一切の手加減は、しないぞ!」

「望むところ!」

 闘甲虫が答えると、橙出弾が弾丸を撃ち放った。

 そして、闘甲虫は、無数のひびが入った角でそれを受け止める。

 その瞬間、角が欠け、破片が飛び散る。

「このくらい堪えてみせる!」

 それでも闘甲虫は、怯まず、弾丸に挑む。

 弾丸は、闘甲虫の角を砕きながら進んでいく。

「闘甲虫様!」

 水流操竜が大声を出す中、角の根元の所で弾丸が力を失い、地面に落ちた。

 そこで、闘甲虫も力尽き、地面に落ちたが、動くのも辛そうな中、尋ねる。

「約束通り、事情を話してもらおう」

 橙出弾が頷き告げる。

「私は、まだホープワールドにいた時、紫縛鎖様に私の第一使徒を助けていただいた事があるのだ。その時、約束したのだ、いずれこの借りは、返すと。そして、紫縛鎖殿から、声をかけられた、八百刃様を倒すための計画に力を貸せと。私は、約定通り、力を貸す事にした。それ以上でもそれ以下でもない」

 それを聞いて水流操竜が驚く。

「そんな、使徒の為に、自分の立場を捨てるなんて!」

 橙出弾が揺ぎ無い態度で言う。

「使徒だからだ、奴らは、私の為に、全てをかけて働いてくれる。その使徒の為に受けた恩は、何を捨てようとも返さないといけないのだ」

 闘甲虫がそれを聞いて、頷く。

「納得した。新名様と狼打には、俺の口から事情を説明しておく。好きにしろ」

 それを聞いて橙出弾が驚く。

「良いのか?」

 闘甲虫が頷く。

「全ての責任は、俺がとる」

「そんな、大事になりますよ!」

 水流操竜が慌てるが、闘甲虫は、平然と言う。

「安心しろ、お前には、責任行かないようにしてやる」

「そういう問題でなくて!」

 必死に説得しようとする水流操竜だが、闘甲虫は、受け付けない。

「さあ、急げ。新たな追っ手が来るぞ」

 それを聞いて橙出弾が頭を下げる。

「感謝する」

 こうして、逃亡を開始する橙出弾とその使徒達であった。

「逃げちゃいますよ!」

 水流操竜が慌てるが、闘甲虫は、気にしない。

「次に会った時は、敵同士かもしれないぞ、覚悟しておけ」

「今だったら、勝てますよ!」

 必死の水流操竜を睨んで黙らせる闘甲虫であった。



 八百刃の神殿の八百刃の執務室。

「そういうわけで、今回の事は、あちきが全責任を負います。ご迷惑をお掛けしますが、すいません」

 八百刃は、新名の代理として来た狼打に頭を下げる。

 狼打は、困った顔をして言う。

「事情は、闘甲虫から聞いていますよ。あのままこちらに戻る事も考えられないですから、仕方ないことですが、実害があるのは、八百刃様ですけど、本当に良かったのですか?」

 八百刃が頷く。

「それが正しい思いでの戦いなら正面から受けとめるだけです」

 それを聞いて狼打が苦笑する。

「本当に変わっていませんね。お前も苦労するな」

 狼打が同情の視線を送ると傍に控えていた白牙が言う。

「とっくの昔に諦めている。今回は、そっちの面子も潰したんだ、正式に抗議をしてもらっても構わないと思うぞ」

 狼打がそ知らぬ顔で言う。

「上位八百刃獣である闘甲虫が重傷を負っているんです、仕方なかったって事にしますよ。それでどれくらいで復活しそうですか?」

「俺がそんなにやわだと思っていたのか?」

 角がもう復活していた闘甲虫が姿を現す。

「随分と早い復活だな?」

 狼打の質問に白牙が言う。

「上位八百刃獣を甘く見るな。あの程度の神の攻撃で本当にダメージを食らうか」

 それを聞いて、狼打が納得する。

「なるほど、やられたふりをしたんだな」

 闘甲虫が苦笑する。

「相手の本音を聞きたかったからな」

 そして、白牙は、溜め息を吐く。

「そんな事も気付かない八百刃獣も居たがな」

 同席させられていた水流操竜が、体を小さくするのを見ながら狼打が言う。

「それでも強敵になりますよ?」

 八百刃が頷く。

「それでも、それがあちきの業なら相手をするまで」

 その揺ぎ無い表情に誰もが強い信頼をよせた。



 その暫く後の話。

 白牙が八百刃を引っ張り戻ってくる。

「だから、橙出弾の事で責任があるから、あちきが直接対応するのが筋だと思うんだよ」

 必死に言う八百刃に白牙が怒鳴る。

「当事者の闘甲虫が対応してるんだ、任せておけ。お前が現場に出れば、周りがとことん迷惑するんだって、いい加減理解しろ!」

 その様子を見た闘甲虫の口添えで、本来の仕事に戻った水流操竜が呟く。

「八百刃様のお考えを完全に理解することは、難しいですね」

 上司に天道龍が遠い目をして答える。

「そんな事が出来たら、八百刃獣の苦労がかなり減るだろう」

 周囲の八百刃獣全部が力強く頷くのであった。

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