闘威狼と共に戦う者
それは、まだ最上級神になる前の話
闘威狼、八百刃獣の中でも随一の武闘派と呼ばれている。
そんな闘威狼の戦いの中でも屈指の戦いがあった。
八百刃がホープワールド卒業し、数多の世界に関わる神になった後、当時の神々との戦いが激化していた。
そんな中、闘威狼が八百刃から一つの世界の守護を命令された。
「この世界には、多くの天人が居る。彼らを守護するのが貴方の仕事だよ」
八百刃の言葉に闘威狼が頷く。
「謹んで拝命いたします」
八百刃は、少し考えてから言う。
「はっきりいっておく、あちきの予測では、ここを護りきるのは、困難で、貴方が滅びる可能性もある。それでも、あちきは、貴方にここを任せる」
「高き信頼を光栄に思い、それに答える為に、全てをかけて当たらせていただきます」
闘威狼の覚悟に八百刃がその場を離れていく。
闘威狼は、八百刃から託された世界を見回す。
そこは、通常の生物が住むには、難解な世界。
神の道具として生み出され、転生した、翼持つ高位者、天人が住む世界であった。
「神の一部には、天人を再び、神の道具として活用しようとする一派も居る。それから見事、護りとおすことが、私の使命」
そう言っている間にも、神の僕たちの襲撃が始まる。
「さっそく仕事とは、忙しいな」
苦笑しながらも戦いを開始する闘威狼であった。
幾多の戦いがあり、闘威狼も疲労から、眠りについていた。
そんな中、気配を感じ、目を覚ますとそこには、銀翼の天人が居た。
「もうしわけございません」
頭を下げる銀翼の天人に闘威狼が告げる。
「別に構わない。お前の名は、何と言う?」
「私の名前は、デンゴースと申します。偉大なりし、戦いの神の使徒様」
銀翼の天人、デンゴースの言葉に苦笑する闘威狼。
「そんなにかしこまらなくてもよい。偉いのは、あくまで八百刃様だけ、我々は、八百刃様の刃の一つでしかないのだからな」
「いいえ、我々を護ってくださっている貴方様もまた、崇める対象です」
デンゴースの言葉に闘威狼が困った顔をして言う。
「せめて闘威狼と呼ぶが良い」
「はい、闘威狼様」
デンゴースは、それから何かと、闘威狼の身の回りの世話をするようになった。
何時もの様に戦いから帰った闘威狼を待っていたのは、傷ついたデンゴースであった。
「どうしたのだ?」
デンゴースは、慌てて手を振って言う。
「闘威狼様が気にするような事では、ございません!」
闘威狼は、怒気を籠めて言う。
「私の問いに答えよ!」
デンゴースは、慌てて言う。
「これは、その、天人の中には、八百刃様以外の神の元、神の道具として生きる事こそ正しいと言う者もいまして、その者達との争いで……」
闘威狼は、小さく溜め息を吐く。
「その者達の気持ちも解らぬでは、ないな。しかし、八百刃様は、あくまで自分の意思で戦う者を求める。ただの道具としての存在など、お認めにならない」
デンゴースが驚く。
「しかし、闘威狼様達は、その、八百刃様の僕として絶対服従なのでは?」
戸惑いながらの質問に闘威狼が笑みを浮かべる。
「我々は、絶対服従しているのは、自分の意思でだ。そして八百刃様は、常に我々を信じてくださっている。ただの道具として切り捨てる事も、弱者として擁護することもない。自分と共に戦う者として扱ってくださる。その上で、責任者として常に責任をとる態度を崩さない。本当に素晴らしいお方だ」
「凄いお方なのですね?」
デンゴースの言葉に闘威狼は、自信満々に頷く。
「何れは、頂点に立たれるお方だ」
「私も、いつかお会いしてみたいです」
デンゴースの言葉に闘威狼が困った顔をする。
「八百刃様は、凄すぎるから、会うだけでも大変だぞ」
「努力します!」
デンゴースが拳を握り締めて断言する。
その日も、闘威狼の戦いは、続いていた。
今回は、神が直に戦線に参加してきた。
「たかが、使徒の分際で!」
放たれた雷に弾き飛ばされる闘威狼。
「とどめだ!」
神の一撃が闘威狼に襲い掛かろうとした瞬間、その神に雷球がぶつかる。
「何者だ!」
神が睨んだ先には、デンゴースが居た。
「たかが道具の分際で!」
神の雷がデンゴースを貫く。
「闘威狼様、今です」
瀕死のデンゴースの言葉に神が慌てる。
「しまった!」
「このチャンス、逃さない!」
闘威狼の爪が神を捉えた。
「大丈夫か!」
闘威狼の言葉に、今にも命の炎が消えそうなデンゴースが答える。
「勝ったのですね?」
強く頷く闘威狼。
「ああ、お前のおかげだ!」
「良かった……」
そのまま、意識を失うデンゴース。
「デンゴース!」
闘威狼が叫んだ時、一匹のユニコーン、八百刃獣の一刃、癒角馬が現れる。
「八百刃様からの命で飛んできた。その者を助ければ良いのだな?」
「頼む!」
闘威狼の言葉に癒角馬が頷き、その力で、デンゴースの一命を取り留める。
「私は、助かったのですか?」
闘威狼が頷く。
「八百刃様の助けだ」
「感謝の言葉がありません」
感動するデンゴース。
そんなデンゴースを仲間の下に返した後、闘威狼が言う。
「今回の事は、本当に感謝する」
癒角馬が複雑な顔をする。
「八百刃様も神との争いの被害者と言う事で、特例を認めて下さったが、本来は、禁止事項なのだぞ」
闘威狼が頷く。
「罰則もあるのだろうな?」
癒角馬が頷く。
「この世界の者が神に逆らったという記録は、色々と騒動の元になるだろう。その是正の為に、条件付きでの神の指揮下入りが決定された」
闘威狼が辛そうな顔をする。
「あいつらの真の自由は、奪われたということだな」
癒角馬が首を横に振る。
「自由とは、自ら手に入れるもの。後は、あの者達の努力しだいだ」
闘威狼がデンゴース達の集落を見下ろして言う。
「きっと、真の自由を手に入れてくれ」
そして、闘威狼と癒角馬は、その世界を後にするのであった。
それから幾多の年月が経った。
「闘威狼、残念な知らせが一つある」
八百刃の執務室に呼び出された闘威狼が驚く。
「何でしょうか? 私の部下が何か失敗でもしましたか?」
八百刃が首を横に振り、白牙が告げる。
「私に侵食された人物が居る世界を知っているな?」
闘威狼が頷く。
「はい。私の体の一部を埋め込み、その力を授けた者の子孫もいますからよく知っています。確か、異界壁が崩落して、異世界からの干渉されそうになった所を現地の者達が防ぎきったという話ですね。見事なことです」
八百刃が小さな溜め息と共に言う。
「あの世界の近くには、天人の世界があり、天人達もまた、あの世界に干渉しようとした」
その言葉に闘威狼が驚く。
「馬鹿な、どうしてそんな事を!」
八百刃が悲しそうな顔をして言う。
「天人の世界を支配する神は、強い自制を求めている。あの世界のあり方は、その神の意思からは、外れていた為、天罰を与えようとした」
悔しそうな顔をする闘威狼。
「私が、もっと力があれば、この様な事には……」
「死亡リストだ」
白牙が提示したリスト、そのトップにある名前を見て闘威狼が歯を食いしばる。
「一人で責任を感じないで、その責任の半分は、あちきが背負うよ」
八百刃の言葉に闘威狼が首を横に振る。
「すいませんが、これだけは、一人で背負わせてください」
そのまま立ち去る闘威狼。
「全てを救うことなんて出来ないって解ってるつもりなんだけどね」
八百刃の言葉に白牙が言う。
「それでも一人でも多くの者を救いたいんだろう?」
八百刃が真剣な顔で頷く。
「それが、あちきが神である理由だよ」
すると白牙が言う。
「ならば、我々八百刃獣は、お前の刃としてお前の前に立ちはだかる困難を断ち切ろう」
「ありがとう」
こうして更なる絆を確信する八百刃と白牙に闘威狼の悲しき遠吠えが聞こえる。




