影走鬼を照らす太陽の光
影走鬼の潜入任務です
八百刃の影となり、静かに、しかし確実に事を成し遂げる鬼型の八百刃獣、影走鬼。
その仕事は、世界的な時代の動きに関わる戦いに潜入し、その動向を見極める事。
今回もまた、影走鬼は、ある世界の行く末を決める戦いに潜入を行っていた。
「朝よね」
ベッドの上で呟く長い髪の少女。
そんな少女より先に起きていたサングラスの男が言う。
「何が朝だ!」
そういって男は、カーテンを開ける。
外を照らすのは、数十メートル上にある人工の照明だ。
「俺達の事をこんな地面の下に押し込めたテンを俺は、絶対に許さない!」
男の言葉に、ベッドで横になっていた少女が言う。
「いい加減にしなよ、ナナメだって知ってるでしょ? 地上に向って、生きて帰ってきた者が居ない事くらい」
「だからどうした? 俺は、その最初の一人になってみせる!」
その男、ナナメは、刀を手に宣言し、部屋を出て行く。
少女は、小さく笑みを浮かべて言う。
「そんな無茶な所が好きなんだけどね」
少女が、髪を纏めて一階に下りていくと、美形なのに、汚いツナギを来た男が声をかけてくる。
「ウーエ、昨日もお楽しみだったみたいね。うらやましいわ!」
その少女、ウーエが顔を引きつらせて言う。
「そう、ラーも綺麗に化粧すれば相手してくれるかもよ?」
すると、その男、ラーが溜息を吐く。
「残念だけど、仕事が多くて化粧する暇は、無いのよ」
一階では、ナナメがテンに反抗する作戦の説明をしていた。
ウーエは、昨夜のうちに話を聞いていたので、少し離れたテーブルに着き、酒に手を伸ばす。
しかし、その手が誰かに止められる。
「その年で朝から酒を飲むのは、止めておけ」
驚き、ウーエが声の方を見ると、一人の男が居た。
何処かナナメに似た雰囲気があるのに、影が薄い、少し前からナナメが率いるシャシャー団に入団したエードだ。
「貴方、居たの?」
ウーエが戸惑いながら質問すると、エードが静かに頷く。
ウーエは、肩をすくめながら言う。
「本気で影が薄いわね。ところで聞かなくて良いの?」
エードは、グラスの酒を飲みながら答える。
「ここからでも聞こえる。それに、俺は、ただ自分の仕事をこなすだけだ」
溜息を吐くウーエ。
ナナメ達、シャシャー団は、この世界の人類を地下に押し込めて支配するテンと呼ばれる支配者に反抗し続けている。
強いカリスマ性を持つナナメの下には、テンに反意を持つ若者達が集まり、武力行動を続けていた。
ナナメの行動力、ラーの技術、ウーエの戦闘力とでかい胸が原動力となり、その力を伸ばしていた。
この日のテン意向を伝え、暴虐の限りを尽くしていた組織の基地への襲撃も、武器や食料の略奪を成功し、終了しようとしていた。
「ほら、早く逃げなさい!」
ウーエが、短銃で牽制し、刀で敵兵を切り裂きながら、仲間に檄を飛ばす。
そんな時、一発の凶弾がウーエに迫る。
ウーエがそれに気づいた時には、既に遅く、ウーエは、死の恐怖に目を瞑ってしまう。
しかし、ウーエに凶弾が命中することは、無かった。
「最後の最後まで諦めるな」
ウーエが目を開けると目の前には、凶弾を弾いたエードが居た。
「五月蝿い、あんくらい避けられたわよ!」
ウーエが顔を真赤にして強がる。
「そうか、それなら良い」
反論もせずに乱戦の場所に戻るエードであった。
「……何なのよ」
影が薄いと思っていたその男の強さに戸惑うウーエであった。
「今日も大勝利だ!」
アジトにしている酒場で勝利の宴を開くナナメ。
皆が馬鹿騒ぎをする中、独り静かに酒を飲むエードの所にウーエがやってくる。
「騒がないの?」
エードが頷く。
「はっきり言おう、俺は、シャシャー団に一人の兵士として居るだけの男だ。それ以上でもそれ以下でもない」
ウーエが厳しい目でエードを見る。
「まさかテンの手先!」
エードが苦笑する。
「違うな。しかし、俺は、真に仕える者が居る」
ウーエが眉を顰める。
「他の人? どんな人?」
エードが言う。
「偉大な神様だよ」
肩をすくめるウーエ。
「信者って訳ね。だったら念仏でも唱えていれば良いのよ」
エードが遠い目をして言う。
「あのお方には、どうやっても返しきれない恩義がある。俺には、それを返すために戦い続ける義務がある」
理解できず、頬をかくウーエであった。
シャシャー団は、その力を強め、遂には、地上に通じるテンの要塞の襲撃の日がやってきた。
「長かった戦いも今日で終わりだ! テンを倒して俺達の手に地上を取り戻すんだ!」
ナナメの檄にシャシャー団の兵士達が叫ぶ。
「ナナメ団長が居れば、テンにだって負けないぞ!」
「そうだ、ナナメ団長についていけば、どんな困難にも打ち勝てるぞ!」
「ナナメ団長と一緒にテンを倒すぞ!」
そんな様子をウーエは、何処か冷めた顔で見ていた。
「……シャシャー団も変わった」
横に居たラーが仕方ないって顔で答える。
「人数も増えて、今は、大シャシャー団で呼ばれているわ。最初から居たメンバーも私と貴女、それに彼くらいね」
ラーが指差した先には、今だ、平のエードが居た。
ウーエは、少し考えてからエードに声をかけた。
「一つ聞いて良い? どうして本気を出さないの? 貴方が本気を出せば、幹部にだってなれた筈よ」
エードが淡々と答える。
「前にも言った。俺は、ただの一人の兵士。それだけなのだ」
その後、エードは、珍しく躊躇した後に言う。
「本来ならこれは、ルール違反なのかもしれない。でも一言だけ言わせてくれ。ナナメも人間だぞ」
それだけを言い残してエードは、その場を離れた。
「そんな当たり前のことを何で今更?」
首を傾げるウーエであった。
出撃前にナナメは、独り瞑想をしていた。
「ちょっと良い?」
そこにやってきたウーエをナナメが抱き寄せてキスをする。
顔を真赤にして離れたウーエが怒鳴る。
「こんな時に何するの!」
ナナメが苦笑して言う。
「景気づけだ。行くぞ!」
マントを羽織って団員の所に向うナナメであった。
「皆、おかしいよ」
戸惑いを隠せないウーエであった。
大シャシャー団の襲撃は、苛烈で、過激だった。
そして、ナナメは、多くの損害を出しながらもテンに刀を突きつけていた。
「ここまでだ! 俺達は、地上を取り戻すぜ!」
それに対して、簡素な椅子に座っていた何処にでも居そうな男性が疲れきった顔で立ち上がる。
「そうですか、もう来ましたか」
その言葉に、ウーエは、違和感を覚えた。
「ナナメ、少し待って。話を聞きたいの」
ナナメは、そんなウーエの意見をきって捨てる。
「黙れ、こいつに何も言う権利は、無い。こいつの所為で死んでいった仲間の恨みはらす!」
ナナメの刀が振り下ろされる。
そんな中、テンがウーエの部下として生き残っていたエードを見て言う。
「貴方も居たのですか。すいませんが後は、頼みます」
「俺の仕事でもある」
エードの答えを聞きながら、テンがこときれた。
「どういうこと? あなたテンの手先では、無いって言ってたじゃない!」
ウーエが詰め寄ると、エードが答える。
「手先では、無い。テンを送り込んだ者と俺の主が繋がっているだけだ。主からは、今回の顛末を見届けるように指示を受けている」
ナナメの刀がエードに向けられる。
「この裏切り者が!」
ウーエがエードの前に立つ。
「待って、彼も一緒に戦ってきた仲間じゃない!」
ナナメが怒鳴る。
「退け! そいつは、テンと同じ種類の人間だ。俺達を家畜としか見ていない。ここで殺す! 邪魔をするならお前もだ!」
ウーエが咄嗟に目を瞑る。
「何度も言わすな、最後の最後まで諦めたら駄目だ」
ナナメの刀は、エードの体を捕らえた。
そして、エードは、倒れる。
「エード!」
ウーエが縋りつく。
「俺達の勝利だ!」
ナナメの宣言に活気つく中、ウーエが涙を流しながら言う。
「どうしてよ! どうして斬ったの!」
「敵だったからだ」
淡々と答えてナナメをウーエが睨みつけながら断言する。
「ナナメは、変わった! 昔のナナメだったら、もっと話し合おうとした。今のナナメには、力しか無い!」
一瞬だけナナメが止まったが、ナナメは、強い意志を込めて言う。
「死んだ仲間の為にも俺は、強くなければいけなかったんだ!」
そして、ナナメは、要塞の掌握に動き出した。
ナナメによるテン殺害後の、地上開放、地下に住んでいた人々は、狂喜乱舞し、地上に向った。
そんな中、ウーエは、アジトだった酒場で酔っ払っていた。
「もう、どうなったって知らないんだから!」
そんな酒場に暗い顔をしたラーが入ってきた。
「あれ、これは、偉い偉い技術長官様では、ないですか? 戦いも終わって、仕事が無くなったあたしに、何か用ですか?」
ラーは、躊躇していた。
その様子に何かを感じて、ウーエは、水桶に顔を突っ込み、酔いをある程度さまして言う。
「新組織の方で何かあったの?」
ラーは、戸惑いながらも答える。
「地上に出た人達の中に死人が出ているって話し聞いてる?」
ずっと酒場に居たウーエが首を横に振るとラーが続ける。
「テンによって閉ざされていた地上への道を開放して、多くの地上への移民を行ったの。でも、その中から死者が出始めたの」
ウーエの顔に真剣みが増す。
「どういうこと? まさか地上には、有害な物質でもあったの?」
ラーは、首を横に振って言う。
「それだったらまだ救いがあったわ。問題は、もっと根本的で、手の届かない事。太陽の光ってどんな物か知っている?」
ウーエが肩をすくめる。
「温かくて明るいって知識としては、知ってるけど、あたしは、まだ地上に出ていないから、浴びた事が無いわね」
ラーが辛そうに言う。
「浴びないほうが良いわ。テンの残した資料を調べて解ったんだけど、人体に強力すぎる紫外線が含まれているのよ」
ウーエが信じられないって顔をする。
「でも、昔は、太陽の光の下で暮していたんでしょ?」
ラーが頷く。
「大きな戦争があって、その時に使用した兵器の所為で、太陽光から紫外線をカットするオゾン層が破壊されているの。テンは、私達から摂取した税で、オゾン層の回復作業を行っていたの。本人は、贅沢どころか、休む暇も無かったみたい」
ウーエの脳裏に、テンが死んだ部屋が思い出される。
それまで戦った、直接ナナメ達を支配していた役人達が居た豪華さが全く無い部屋、本人の人柄が今更ながらも理解できた。
「それじゃあ、あたし達がやった事って何?」
ラーが視線をそらして言う。
「多くの犠牲を払って、人が住めない地上への道を開けただけ」
ウーエは、愕然とした。
重い沈黙の中、ウーエがある事実に気付く。
「それじゃあ、また皆地下で暮らす事になるのね?」
ラーは、答えない事にウーエは、嫌な予感を覚えた。
「どうしたの? まさかと思うけど、無理やりでも地上で暮そうというの? 死人が出てるんだから少しでも早く戻らせるべきでしょ」
ラーが後ろめたそうな顔で言う。
「ナナメは、耐えられる人間も居る。耐えられない弱い人間は、それまでだと、地上移民を進めているの」
ウーエは、顔を引きつらせながら言う。
「地上に居る人間には、事情を説明しているんでしょね?」
ラーは、首を横に振るのを見て、ウーエが怒鳴る。
「ナナメに文句を言ってやる!」
酒場を出て行こうとするウーエの腕を掴むラー。
「駄目よ、以前のナナメじゃないの。もう私の言う事も全然聞いてくれない」
ウーエが振り返って言う。
「だからって黙っている訳には、いかない。これ以上の死人を出さない為にも行く」
そしてウーエは、かつてテンが居た要塞、今は、大シャシャー団の本部に向う。
「だから、全ての情報を開放するべきよ!」
ナナメが座る豪華の机を叩くウーエ。
「そんな事をしたら、俺達のやってきた事が無駄になる。死んだ仲間の為にもそれだけは、出来ない!」
ウーエが眉を吊り上げる。
「何の冗談? あたし達は、そんな下らないプライドの為に戦ってきたの? 違うでしょ! ナナメが言わないんだったら、あたしが全部暴露する」
ウーエの言葉にナナメが座ったまま睨む。
「そんな事は、許さない」
ナナメが指を鳴らすと、護衛の人間がウーエに銃を突きつける。
「大人しくしていることだ。お前も英雄だ、黙っていれば贅沢な生活を保障してやる」
ナナメの言葉にウーエは、刀を抜き、護衛の銃を弾き言う。
「見損なった! 少なくとも以前のナナメだったら、自分の拳で解決しようとした。もう本当に昔のナナメじゃないのね! さようなら!」
ウーエがナナメに背を向けて部屋を出ようとした時、ナナメが銃口をウーエに向ける。
「俺は、外さないぞ!」
ウーエは、背を向けたまま言う。
「撃ちたければ撃てば良い。色々教えて貰った恩もあるし、何度も命を救われた。だから、ナナメにだったら殺されても良い」
躊躇するナナメ。
そして、銃声が鳴り響く。
「どうして撃ったの?」
ウーエが涙を流しながら言う。
「こうするしか無かったのよ」
そう答えたのは、ウーエの後を追って来たラーだった。
「気にするな、俺もお前等だったら納得して逝ける」
胸から血を流すナナメ。
「死んだら駄目、その程度の傷くらい、今までだって何度も乗り越えてきたじゃない!」
ウーエが叫ぶがナナメは、遠い目をして言う。
「あの頃は、どうしても地上の、太陽の下に出たかった。テンを倒した後、何度か地上に出たが、強い日差しは、確かに辛かったが、それが地上で生きるって事なんだろう。俺も、ラーの調査報告書は、見てた。細かい事は、解らないが、このまま地下に潜っていても意味が無い事が解った。あの日差しの下で生きて、俺達がそれに耐えられる様にならないといけないと思った。でも、もう良いかもしれない、俺の願いは、叶ったんだから」
そのまま目を閉じ、ナナメは、二度と目を開ける事が無かった。
そして、集まってくる大シャシャー団の幹部達。
「ナナメ団長が死んだ。次の団長は、誰だ?」
「あの戦いで活躍した俺こそ、相応しい筈だ!」
「何を言っている、今後の管理を考えれば、私がなるべきだろう!」
ナナメの死を悲しまず、新しい団長を選ぼうとする幹部にウーエが怒鳴る。
「貴方達、何を考えているの! ナナメが死んだのが悲しくないの!」
幹部の一人が淡々と答える。
「団長が亡くなったのは、確かに大きな損害ですが、我々には、やらなければいけないことがあるのです」
その一言にウーエが切れた。
「もういい、ナナメの死を伝えないといけない人は、いっぱい居るからそこをどいて!」
しかし、幹部達は、護衛の人間でウーエを囲ませて言う。
「残念ですが、ウーエ様には、暫く大人しくしていてもらいます。ナナメ団長には、準備が整ってから、立派な国葬を行います」
ウーエが刀に手をかけるとラーが制止する。
「駄目よ、この人数では、勝ち目がないわ」
「だからって、こんな事が許されて良い訳ない!」
ウーエが刀を抜く。
幹部達は、嬉しそうな顔を隠しながら言う。
「これは、困りました。シャシャー団時代からの古参の幹部二人が、ナナメ様の成功を妬んで射殺ですか。これで、新しい団長選択は、楽になります」
ウーエが歯軋りをした時、影が動く。
『この者達は、俺が止める。お前の信じた行動をとれ』
影が起き上がり、鬼の姿になりウーエを促す。
驚く幹部達を蹴倒し、ウーエが駆け出す。
幹部達が慌てて指示を出す。
「殺せ! 間違っても通信設備に近づけるな!」
護衛の人間が動こうとしたが、影から起き上がった鬼が、前に立ち塞がる。
『あの者の戦いは、正しいと判断された。よって、邪魔をするお前達に敵対する』
影の鬼が手を振ると、影が動き、護衛達を無力化し、幹部達の動きを封じてしまう。
『後は、ウーエ次第だな』
再び影に消えていく鬼であった。
「何を伝えるつもり?」
ラーの言葉にウーエがマイクを手に、ラーに全域放送の指示を出す。
「全部」
準備の最中、ラーが呟く。
「どうしてこんな事になってしまったのかしら?」
ナナメを殺した罪悪感に暗い表情を見せるラーにウーエが何も答えられなかった。
そこに再び影が起き上がり、鬼の姿をとる。
『簡単だ、ウーエ以外、誰もナナメの隣に立てなかったからだ。ナナメも人間なのだ、誰かによりかかりたくなる事がある。それが出来なくなった時、間違っていると解っていてもまっすぐに進むしか出来なかったのだ』
その言葉にウーエが、鬼の正体に気付く。
「エードだよね?」
ラーが驚愕する中、ウーエが辛そうに言う。
「こうなる事が解っていたから、忠告してくれていたんだよね?」
その影の鬼が言う。
『俺は、影走鬼。偉大なる聖獣戦神八百刃様の八百刃獣の一刃。この戦いの行く末を見守る者。それ以上でもそれ以下でもない』
苦笑するウーエ。
「そうだったわね、貴方は、何も言っていない。あたしも覚悟を決めた」
そして、ウーエは、地下と地上に居る、通信が届く全ての人間に、太陽光の紫外線が強すぎて、抵抗力が無い人間には、危険な事。
その為の対応をテンが行っていた事。
そしてナナメが死んだ事を伝えた。
その上でウーエが言う。
「あたし達がした事は、間違っていたのかもしれない。でも、何時かは、地上に出なければいけなかった。今がその時だと信じたい。多くの犠牲が出る事でしょう。だから強制は、出来ません。自分の意思で次の世代の為に地上に移り住む意思がある人だけ、あたしと一緒に地上で生きていきましょう。そして、あたしは、誓います。最後の一人になってもあたしは、地上で生きていく事を」
ウーエが通信を終えて振り返ると、もう影走鬼の姿は、無かった。
大シャシャー団は、この放送を陰謀だと隠蔽工作を行ったが、一度白日の下に晒された真実を捻じ曲げる事は、出来ず、逆に今更になって事実を隠蔽する極悪人として、人々の批判を集める事になった。
その後、地上で生きる者の指導者としてウーエが、地下でそれをサポートするものとしてラーがたった。
ウーエは、強い紫外線に晒され続け、三十歳を迎える前に死んでしまったが、その志は、引き継がれ、数代後の人類は、強い紫外線を浴びても平気な人類へ進化した。
後世の歴史学者には、この一連の事件を早すぎた暴挙と言う者も居るが、同時に、ナナメやウーエが犠牲を覚悟して動かなければ人類は、永遠に地下で暮していたと言う者も居る。
そして、その歴史の裏、テンや影走鬼の存在は、伝説に付加された作り話として扱われていくのであった。
影走鬼が、一連の報告書を作成し、八百刃に提出した。
「彼等は、自然と闘っていたのですね?」
八百刃は、首を横に振る。
「彼等が本当に戦っていたのは、過去の自分だよ。生物の究極の目的は、生き残る事。あそこで踏みとどまる事は、生物としては、正解だけど、更なる高みに向かう為には、必要だったの。一度、失敗したあの世界は、切り捨てさえ検討されていた。それを担当の神が必死フォローしてあそこまで持ち直した。今回の事件が、世界の消滅か、継続かを判断する試験だった。結果は、合格。この報告書を担当の神様まで届けて」
報告書を受け取り、影走鬼が退出しようとした時、八百刃が言う。
「そのままだと、強く禁じていた忠告行為をした事がばれるから、白牙と相談して、直しておきなさいよ」
影走鬼が慌てて頭を下げる。
「すいません。ただ、昔の自分を見ている様で、忠告してしまいました」
苦笑する八百刃。
「許容範囲内だから良いよ。でも、次からは、気をつけてね」
「あの時の御恩を返せるように、誠心誠意頑張らせて頂きます」
最後にもう一度頭を下げて移動する影走鬼を見送る八百刃が怪しい笑みを浮かべる。
「これで、白牙の気がそらせるぞ。魔王の力をデータ化して、扱う人類、あちきが直にいって調査しよう」
山の様な報告書の束から必要な書類だけを抜き出して、出かける準備をする八百刃であった。