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赤風犬が望む就職先

 精霊獣、それは、神々の力の奔流、人が自然と呼ぶ物の吹き溜まりに発生する特殊な存在。

 その精霊獣もまた、強い熱を司る神と風の神の力の流れから生まれた存在。

 名を赤風犬セキフウケンと言う。

 精霊獣は、その出生によって大きく力が左右されるが、基本的には、神々によって生み出された神獣より劣り、彼等の様になれない力の零れかすとも呼ばれる魔獣より勝って居ると言われ、多くの精霊獣は、生まれた世界と共に生き、その流れの中で死んでいく。

 しかし、赤風犬は、違った。

 赤風犬の在った世界は、大きな戦いで自ら世界の寿命を縮めようとしていた。

 それは、その世界に住む精霊獣の寿命を縮める事と同義であり、一部の過激な精霊獣が戦いを止める為、愚かな人間達を滅ぼそうとした。

 そんな彼らの前に立ち塞がったのが聖獣戦神八百刃であった。

 八百刃は、その場に居た全ての精霊獣を一瞬で滅ぼす力を持っていたのにも関わらず、最初に放った言葉は、謝罪であった。

「あちき達の管理が届かないため、迷惑をかけました」

 八百刃は、その場で頭を下げたという。

 精霊獣達は、戸惑っていた。

 自分達を生み出す元になった神々よりも更に高位の力を持つ八百刃が自ら足を運び、謝罪しているのだ、それがどれだけ大変な事かくらい直ぐに理解できた。

「この争いは、あちきに預からせてください」

 精霊獣達に逆らう権利も力も無いにも関わらず、八百刃は、願った。

 それに反を持つ精霊獣は、存在せず、その後、八百刃がその争いに決着をつけ、世界の安定を取り戻したのである。

 その圧倒的な力と真摯な心に多くの精霊獣が八百刃を崇拝した。

 赤風犬もその一体であった。

 赤風犬は、直接八百刃の姿を見ることも出来なかったがそのオーラを感じ、その言葉を聴いて、自らに誓ったのだ、八百刃様に仕える八百刃獣になる事を。

 赤風犬は、その後、激しい修行を行い、自らの世界の束縛から抜け出し、そして、多くの苦難を乗り越えて、ようやく八百刃の神殿に到着した。



 そんな赤風犬は、神殿の入り口で緊張をしていた。

「ここが、八百刃様の神殿。ここに八百刃様がいらっしゃるのか……」

 赤風犬が、唾を飲み込む。

「そこの精霊獣さん、何処かの神様のお遣いですか?」

 ポニーテールな少女が声をかけてきた。

「えーと、君は、この神殿の関係者?」

 少女は、あっさり頷く。

「そう、ちょっと蛍桃瞳がまた馬鹿な暴走して、滅茶苦茶広い範囲に影響与えているから、皆出払っているよ。あちきは、お留守番なんだよ」

 少し不満そうな顔をする少女を赤風犬は、単なる下っ端だと思い告げる。

「八百刃様にお取次ぎを頼みたいんだけど、どうしたら良いか解るか?」

 少女は、質問を聞いて少し不思議そうな顔をする。

「直接会わないと駄目な事なの?」

 赤風犬が頷く。

「直ぐに会えるとは、思っていない。でも会って、八百刃獣に加えてもらうためには、どうしても会う必要があるんだ」

 それを聞いて手を叩く少女。

「八百刃獣志願なんだ。運が良いよ、普段だったら、そういった類の連中は、ライバルを減らそうとする下位の八百刃獣に追い返されるのが常だからね」

 赤風犬が苦虫を噛み潰した顔をしていう。

「やっぱりここでもそんな事があるのか」

 少女が頷く。

「八百刃獣は、決して楽な仕事じゃないから、そのくらいの事は、突破できないと駄目だから敢えて目を瞑っているんだけどね。まあ、やった方も後で上位の八百刃獣から怒られるんだけどね」

 真剣な顔をして赤風犬が言う。

「それでなんだが、どうすれば八百刃獣に成れる君は、知っているか?」

 少女は、指折り数えながら手順を教える。

「普段だったら、会うまでに今言った、下位八百刃獣の嫌がらせを突破して、中位の八百刃獣へのお伺いから始まり。その中で、自分の部下として使っても良いと判断した中位の八百刃獣が上位の八百刃獣に申請を上げて、そこで、志願者の身元調査が行われるんだよ。敵も多いからスパイ等の可能性もあるからね。それら全てをクリアして初めて直接面談に移り、そこで落ちる志願者も多いよ」

「やっぱり大変そうだな」

 赤風犬が少しだけ落ち込んだ風にも見えたが、直ぐにやる気を取り戻して言う。

「だけど、諦めるつもりは、無い。絶対に八百刃獣になってみせる!」

 その言葉を聞いて少女が言う。

「どうしてそんなに八百刃獣に成りたいの? ハッキリ言っておくけど、八百刃獣って特権少ないよ。戦争管理って性質上、どうしても一箇所の長期滞在が少なく信仰対象に成り辛いから、神になれる可能性も低いし、戦場以外では、優先権も少ないのが実情。今だったら、パワートライアングルのトップの新名がお勧め。あそこは、戦闘能力が高い使徒が少ないから上手くいけば早く出世出来るよ」

「特権も出世も関係ない。俺は、八百刃様の下で働きたいんだ。八百刃様のオーラを感じたとき思った。あのお方は、決して上から物を見る事をしない。同じ位置に立って、一緒に進んで行こうとなさる御方だと。そんな八百刃様の手助けに少しでも成りたいから、俺は、八百刃獣になりたいんだ!」

 思いを切々と語る赤風犬に少女は、少し恥ずかしげに頬をかきながら言う。

「それじゃあ、最後に聞きたいんだけど、貴方にとって戦いって何?」

 赤風犬がまっすぐな瞳で答える。

「正しいことを正しいと思うこと。回りの皆に精霊獣が八百刃獣になるのは、無理だと言われた。それでも俺にとって八百刃獣となって八百刃様の手助けをする事が正しい事であって、その思いを貫いてきたからこそここに居る。そして、貫き通すつもりだ」

 少女は、手を叩く。

「合格だよ」

「もしかして、君は、中位の八百刃獣だったりするのかい?」

 赤風犬が失礼な事をしたかなと思っている時、少女が赤風犬の額に指を当て告げる。

「赤風犬、貴方は、八百刃獣となり、全ての世界の存在が正しい事を行えるようにする為に全力を尽くす事を誓えるか」

 赤風犬は、真剣な顔で答える。

「誓います!」

 その次の瞬間、契約がなされ、赤風犬は、八百刃獣と化し、目の前に居るのが誰なのか悟った。

「八百刃様!」

 そう、赤風犬がずっと話していた少女こそ、聖獣戦神八百刃であったのだ。

「まあ、所属等は、皆が帰ってきてから決めるから、ゆっくり待ってね」

 そこに白牙の不在の間の代行役、白暫虎がやってきていう。

「八百刃様、執務室にお戻りください。やっていただく仕事は、山ほどあるんですから」

 八百刃は、嫌そうな顔をして言う。

「あちきも現場に行って働きたいよ」

「駄目に決まっています。ところでそこの八百刃獣は、見かけないですが、何処の所属ですか」

 白暫虎の問いに慌てる赤風犬。

 とにかく、こうして赤風犬は、八百刃獣となったのだが、周囲の下位の八百刃獣が通る段階を幸運だけで突破した彼には、色々とやっかみがついてきて大変なトラブルにも巻き込まれるのだが、それは、また別の問題と言う事で。

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