狂料狒々が手伝う料理対決
蒼牙対白金虎の二回戦、料理対決です
狂料狒々(キョウリョウヒヒ)、物凄く身体能力が優れたヒヒの魔獣だった。
何故か料理することを第一として、現在は、戦場料理の管理をやっている。
「よくぞ、来た。このキッチンコロシアムに」
中央に立つ、六極神の一柱、新名の第一使徒、狼打が宣言すると、隣に居る白牙が怒鳴る。
「こんな空間をわざわざ新名に作らせてまで、何をするつもりだ!」
狼打が高らかに宣言する。
「キッチンコロシアムでする事と言ったら、料理勝負に決まっている。今回の課題料理は、白牙の好みだ!」
野次馬として集まった八百刃獣達が拍手する。
「だから、どうしてそうなる! だいたい、こんな無駄な事をしている余裕が俺やお前にあると思っているのか?」
狼打は、苦笑する。
「言っておくが、これも最大の譲歩案なんだぞ。当初は、最上級神が揃い踏みする予定だったらしいからな」
頭を押さえる白牙。
「何処をどう間違えたら、そんな大事になるんだ」
それに対して、小声で八百刃獣達が囁く。
「そりゃ、八百刃様の右腕として、神々の世界に多大な影響力を持つ白牙様の嫁選びだったら、六極神でも気になるよな」
白牙の一睨みで黙る八百刃獣達。
「下手にごねると、本気で最上級神が動くぞ」
狼打の囁きに白牙が諦める。
「それでは、出場選手の紹介だ。まずは、八百刃獣としては、まだまだ若手、八百刃の秘書官も勤める、白金虎!」
紹介に答え、猛々しい雰囲気を持つ白牙と違い、知的な雰囲気を持った白い虎、白金虎がエプロンをした女性に変化して、キッチンに立つ。
「料理を作った事が殆ど無いだろう彼女には、ハンディーとして、神々にも匹敵する料理の腕を持つ、狂料狒々がサポートにつく」
紹介に答えて、とても料理包丁には、見えない長包丁をもった狒々、狂料狒々が白金虎の隣に行く。
「その対戦相手は、ホープワールド時代から居る、実は、古株魔獣、蒼牙」
クールな雰囲気をまとった青い虎が割烹着を着た女性の姿に変化する。
「こちらの助っ人は、白牙との子供、百爪」
幼女の姿をしている百爪が元気に手を振る。
「その誤解をいい加減、止めろ」
疲れた顔で白牙が言うが狼打は、無視する。
「お互い、勝負の前に正々堂々戦いを誓い、握手を」
白金虎が蒼牙に近づき、手を差し出す。
「よろしくお願いします」
蒼牙は、その手を握り返して言う。
「安心しなさい、手加減してあげるから」
白金虎の眉間に血管が浮かぶ。
「狼打様の仰るとおり、正々堂々と戦いましょう」
蒼牙が笑顔で答える。
「本気でやったら勝負にならないでしょ?」
白金虎は、睨みつける。
「その自信。叩き壊して見せます!」
そう宣言して自分のキッチンに戻る白金虎。
「何時も全力で戦うのが心情のお母さんがあんな挑発するなんて珍しいね」
不思議そうな顔をして百爪が尋ねると、蒼牙が危険な笑みを浮かべて言う。
「料理は、心よ。あんな、怒りが篭った状態では、ろくな料理が作れないわ」
頬を掻きながら百爪が言う。
「本気で容赦がないな」
そして狼打が右手を上げる。
「勝負開始!」
右手が降りると同時に、双方の料理が始まる。
しかし、ながら、白金虎側では、即座に問題が発覚した。
「料理ってどうやるのですか?」
根本的な質問に流石の狂料狒々も動きが止まる。
「おい、どういうことだ?」
狼打が睨むと白牙が答える。
「元々、世界管理の為に生み出された神獣の白金虎が料理なんてやった事がある訳ないだろう」
「だったらどうして、料理対決の話題が上がっていたんだ! だから、仕方なくこんな勝負になったんだろうが!」
狼打の当然の質問をすると百爪が手をあげる。
「どちらが、お嫁さんに相応しいという話から、家事全般が必要だってことになって、その第一勝負として料理対決があがったの」
大きく溜息を吐く狼打。
「白金虎、やめておくか?」
「いえ、やります!」
白金虎が強い意志を籠めて言うと、呆れた顔をして蒼牙が言う。
「あのね、根性でどうにかなる物じゃ無いのよ」
「それでもやります!」
白金虎の硬い決意に、周りが困っていると狂料狒々が言う。
「白金虎、白牙の好みを考え、言う。それを狂料狒々作る」
狼打が思わず手を叩く。
「それだ! 元々、料理の事では、万能な狂料狒々だ。ここは、白牙の好みを捉えているお前が料理を選び勝負するって事にしておけ。それがお互いの為だ」
「解りました」
渋々受け入れる白金虎。
こうして勝負は、再開するのであった。
最初に料理が出来上がったのは、狂料狒々が獅子奮迅の働きを見せた白金虎側であった。
「狂料狒々殿に作って頂いたのは、最高級のステーキです。松坂牛と呼ばれる最高級の牛肉を使用し、これ以上の物は、無い筈です。それと胃腸に優しい、卵スープ。こちらは、烏骨鶏の卵をしようしています」
自信満々の白金虎。
「本当に美味しそうだな」
狼打は、自分の前に置かれた物をさっさと口につける。
「これは、凄い。流石は、狂料狒々だ」
「お前、この勝負をしているのが誰か覚えているか?」
白牙の突っ込みに狼打が視線を逸らして蒼牙に向ける。
「そっちは、どうだ?」
すると百爪が指を唇に当てて小声で言う。
「いまは、大切な所だから黙ってて」
次の瞬間、蒼牙がオーブンを開けて言う。
「最高の状態よ」
そういって白牙達の前に出されたのは、骨付き肉と海藻サラダだった。
「それでこの肉は?」
狼打の質問に蒼牙は、自信たっぷり答える。
「世間一般的に出回っている牛、それもそのままでは、とても硬くて食えない、最低価格部位。時間の流れに干渉して、十時間以上かけてゆっくりと火を入れて柔らかくしたわ。海藻サラダは、格安のふえるワカメちゃんよ」
白金虎が不機嫌そうに言う。
「白牙様がそんな貧乏臭い物は、食べません!」
「懐かしい味だよな。俺も傭兵時代は、金が無くってこんな肉しか食えなかったなー」
狼打がしみじみと言うと白牙が骨を齧りながら答える。
「肉が食えるだけましだ。俺の場合は、肉がついている方が珍しかった」
意外そうな顔をする白金虎に対して蒼牙が説明する。
「白牙が食事をしていた時代は、あの貧乏と親友と言われる八百刃様と一緒だったのだぞ、豪華なものを食べれる訳がない。卵スープも八百刃様の好みと一緒だと思ったからだな?」
小さく頷く白金虎に百爪が説明する。
「食い意地がはった、八百刃様が食べなくても平気なお父さんに自分の好物を分ける訳ないじゃん」
狼打が手を叩く。
「なる程な。確かにそれは、一理ある」
白牙は、何も言わない。
白金虎が信じられないって顔をする中、ホープワールド時代から八百刃獣をやっている連中が、懐かしそうにしている。
白金虎が悔しそうにし、蒼牙が勝利を確信する中、白牙が言う。
「だが、純粋に美味しいのは、白金虎側だな」
空気が固まる。
白金虎の顔に生気が戻る。
狼打は、呆れた顔をして言う。
「それで良いのか?」
白牙がしまったという顔をして慌てて言う。
「無論、蒼牙の方もあの頃を思い出して美味しかったぞ」
自爆する白牙ににじり寄る白金虎と蒼牙。
「白牙様、やっぱり、思い出の味が良いのですか?」
悲しそうに言う白金虎。
「所詮、成金と同じなのね」
攻める視線を向ける蒼牙。
脂汗を滝の様に流す白牙の肩を叩き、狼打が告げる。
「はっきりさせろよ」
重苦しい空気の中、影が起き上がり、影走鬼が現れる。
「白牙殿、紫縛鎖の一派が、大きな動きをしている。急いで、対策会議を……」
重い空気に気付いて、途中で言葉を切る影走鬼に駆け寄り白牙が言う。
「そうか、大至急会議を始めるぞ。お前らも、仕事だ!」
一人、先に戻っていく白牙。
「仕事ですから仕方ありません」
白金虎が諦めて、自分の仕事に戻っていく。
そして、八百刃獣達が帰った後、残った蒼牙に狼打が言う。
「どうして、こんな戦いに参加するんだ?」
苦笑する蒼牙。
「単なる遊びですよ。私は、あれとは、同じ位置に居られませんからね」
少し悲しそうな蒼牙に狼打が言う。
「覚悟が決まったのか?」
「たぶん、あの世界の大戦を最後まで見る事が出来ない。それが私に告げられた神託で、蒼貫槍様とも密約が済んでいます」
蒼牙の言葉に狼打が頭をかきながら言う。
「八百刃様の戦いの予知は、外れまい。いっその事全てを八百刃様に任せる訳には、いかないのか?」
蒼牙が首を横に振る。
「新たな段階にあの子達が進むための助けになりたいのです」
百爪が少し寂しそうな顔をする。
「お母さん……」
蒼牙と百爪は、人の世界に降りて行くのを見送りながら狼打が言う。
「神と呼ばれる新名や八百刃様でも、出来ることには、限界がある。最後にその世界の運命を決めるのは、その世界に生きる人々の意思。あの世界、馬鹿息子が迷惑をかけ、孫娘と曾孫が住む世界。乗り越えてくれ」
祈るように呟く狼打であった。




