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風乱蝶が巻き起こす太陽風

宇宙戦争のお話です

 風乱蝶フウランチョウ、群生した蝶、全部で一体の魔獣であった。

 風を操るその能力は、高く、水産蛙と共に八百刃の切り札として、中位に属している。



 巨大な宇宙船、ハルマゲドン。

 その中にいる人間は、たった一人の男性だった。

「イブ、この任務は、何時まで続くんだろうな」

 男の言葉に、宇宙船の人工頭脳、イブが答える。

『敵対銀河勢力との休戦が終るまでです』

 大きく溜息を吐く男。

「そんな日が来るのかね?」

『一年以内に戦争の再開の確立は、五パーセント、五年以内でしたら、二十パーセントです』

 イブの機械的な答えに男、お互いの銀河に致命的な一撃を放つ事が出来る報復艦の艦長、ラグナックが眉を顰めて言う。

「和平に拠る終戦の可能性は、無いのか?」

『その可能性を導き出せる根拠は、ありません』

 呆れた顔をしてラグナックが言う。

「だよな。そうでなければ、こんな物騒な船で睨めっこなんてしないよな」

 ラグナックが乗る報復艦の前には、同能力の報復艦がある。

 この二隻は、お互いの監視と言う役割を持っていた。

 協定が破られれば、その力を発揮させる事になるが、使われる事は、まずないとも言われて居る。

 詰り、これは、その力を発揮することの無い、張子と言っても良い。

 ラグナックの一族は、高い権力を持って居たが、ラグナックは、一族を嫌い、家を出ようとした。

 その代償として、この無意味で非生産的な任務につかされて居た。

「詰まらない任務だけど、実家で骨肉の争いをするよりは、ましだな」

 ラグナックは、呑気に持ち込んだ全てが電子情報のこの世界では、珍しい紙の本を読み始める。

『以前から気になっていたのですが、何故紙の本なのでしょうか? ハッキング防止の為に、外部から完全に遮断されていますが、駐在者の為の娯楽用データでしたら充実しているつもりですが?』

 イブの質問に苦笑するラグナック。

「自分の指で紙を捲る、それが良いんだよ」

『理解できません』

 イブの言葉にラグナックは、本を読みながら言う。

「単純な話だ。電子の情報は、読み易過ぎるんだ」

 ますます混乱するイブ。

『読み易いのに何か問題があるのですか?』

 ラグナックは、運動用のエアロバイクを指差して言う。

「どうしてあんな物があるか解るか?」

 イブが即答する。

『はい。人体は、適度の負荷が無ければ退化する為です』

 ラグナックが頷く。

「そうだ。読書も一緒だ。直接、電子情報を脳に送り込んだり、目線だけで自動的に文章を読み上げてくれたり、人工知能のサポートで簡単かつ確実に文章を読み込む事が可能になった。しかし、それでは、読む力が退化するからな」

『なるほど。十分に納得できる説明です』

 イブが満足そうな答えを出すが舌を出すラグナック。

「って言うのは、嘘で、電子情報では、禁止されている本を読むためだ」

 そういってラグナックが見せたのは、この時代では、所有するだけで犯罪のアダルト小説を見せる。

『艦長! ハルマゲドンにその様な物を持ち込まないで下さい!』

 怒るイブを尻目に、本命の本を開く。

「イブ、宇宙を舞う蝶を知っているか?」

 イブがさっきの対応に不機嫌さ示しながら答える。

『データバンクにあります。宇宙船乗りに伝わる伝承で、その蝶が現れた戦場は、壊滅的な損害が出ると』

 ラグナックが宇宙の蝶について書かれた本を読みながら答える。

「彼等は、神の使いとも言われている。彼等が姿を見せた時、それは、神の裁きが落ちる時だとも」

『非論理的です。神など、古代人が考えた夢想でしかありません』

 イブの言葉にラグナックは、遠い目をして呟く。

「それでも俺は、その蝶を見てみたい」

 そんな時、ラグナックの前を蝶が舞った。

「イブ、今のを見たか!」

『何の事でしょうか?』

 イブの答えにラグナックが慌てて言う。

「蝶が、目の前を飛んで行った!」

 イブは、暫く内部チェックをしてから答える。

『その可能性は、零です。ハルマゲドンの中に居る行動が可能な生体は、艦長のみです』

「間違いない!」

 蝶が飛んで行った先に駆けるラグナック。

 そして、見つけてしまう、蝶の群れを。

「これも見えないのか?」

 ラグナックの言葉にイブが不思議そうに答える。

『何が見えると言うのですか?』

 次の瞬間、蝶が消えて、アラームが鳴る。

「どうした!」

 ラグナックの言葉にイブが答える。

『敵性銀河勢力が侵攻を開始しました。この船の兵器の第一プロテクトが外れました』

 ラグナックが慌てて、情報を収集する。

 そして出た答えは、ラグナックが予想した最悪な結果と一致した。

「何を考えているんだ! 下らないプライドの為にどれだけの人間を殺すつもりなんだ!」

 切っ掛けは、下らない事。

 ただ、お互いの親善大使の好みの違い。

 それが口喧嘩に発展し、そのまま喧嘩別れ。

 ギスギスした所に犯行声明が無いテロ活動。

 疑心暗鬼が起こり、止めとばかりに、緩衝空域に軍艦が侵入してしまった。

 そして、両軍が動き、このハルマゲドンによる報復行動が開始されようとしていた。

「全ての戦闘シーケンスをキャンセルしろ!」

 ラグナックの言葉にイブが反論する。

『これは、本部からの通達です。逆らった場合、艦長には、重い刑罰が発生します』

「関係無い! ほんの一握りの人間の感情で多くの人間が死のうとしているんだ!」

 ラグナックの言葉にイブが淡々と答える。

『これは、重大な違反行為です』

 ラグナックは、イブを睨みながら言う。

「何度も言わせるな。ここでの最終判断は、俺がする。その為の駐在なんだからな」

 ラグナックがこの巨大宇宙船に居るのには、明確な理由があった。

 全てをコンピューター制御にして、万が一にもその破壊力が暴走しない為の最終リミッター、それが人間による最終攻撃判断。

 因みに、逆に人の手だけでもその破壊力を行使することは、出来ない。

『艦長、どうしてですか? この任務に就いた過去の艦長は、皆、他の人間の事など気にしていませんでした。今まで私が、攻撃を止める立場でした。こんな逆に攻撃を止められらのは、初めてです』

 戸惑うイブの言葉にラグナックが告げる。

「簡単だ。人を殺すのには、どんな下らない事でも理由が必要だが、人を救うのに、理由は必要ないからだ」

 真摯な目をするラグナック。

 そして、イブが慌てて告げる。

『艦長、敵、報復艦に高エネルギー反応。このまま攻撃しなければ、艦長は、死ぬ事になります。先制攻撃の許可を!』

「不許可だ。俺は、自分の為に数え切れない人間を殺せる人間には、ならない!」

 ラグナックがそう告げるが、その手が震えて居た。

 そんなラグナックの前を再び蝶が飛ぶ。

「あの伝説は、本当だったんだな……」

 ラグナックが呟いた時、ラグナックの心に言葉が伝わる。

『貴方の戦いは、正しい物ですよ』

 ラグナックは、慌てて左右を見る。

「イブ、お前が言ったのか?」

『質問している意味が解りません』

 イブの答えにラグナックが戸惑う中、ラグナックの視界を埋めるような蝶の大群が現れた。

「今度は、蝶を見えるよな?」

 ラグナックの質問にイブが答える。

『何度も申しますが、蝶など何処にも居ません』

 しかし、蝶は、居た。

 ハルマゲドンを攻撃しようとしていた報復艦がまるで突風に煽られた様に吹き飛び爆破していく。

 そして、同じ様に戦闘を行っていた戦艦が敵味方関係なく行動不能に陥っていく。

「どうなっているんだ?」

 ラグナックの質問にイブが信じられないって表情を作り答える。

『不可解ですが、強力な太陽風がこの周囲を襲っています。それも、ハルマゲドンには、一切影響を与えていません』

 画像化された太陽風の流れを見てラグナックは、気付いた。

「あの蝶は、太陽風と同じ動きをしている」

「正確に言えば、風乱蝶の動きに合わせて太陽風が発生しているんだけどね」

 いきなりの少女の声にラグナックが振り返るとポニーテールの少女が居た。

「お前まで幻って事は、無いよな?」

『艦長、その少女は、何者ですか? 百五十秒前に何の前兆もなく現れました!』

 イブの言葉に少女の実在を確認するラグナック。

 そして、少女が手を前に出すと蝶達がまとわりついていく。

「ご苦労様。取り敢えず、神罰としては、十分だね」

 少女は、小さく咳払いをしてから声ならざる声を出す。

『この世界の全ての心ある者に告げる。我は、神。汝等の無情の戦いは、神の怒りに触れた。これ以上の戦いを続けるのなら、この世界は、滅びるであろう』

 威厳と神格を宿した言葉にラグナックが混乱し、人工知能の筈のイブまで圧倒される。

 そんな中、背伸びをする少女。

「お仕事、お終い。そうだ、お兄さん、卵料理ない?」

 無邪気そうな少女の問いに顔を引き攣らせるラグナックであった。



「詰り、お嬢ちゃんは、戦いの神様で、この世界の戦いがあまり宜しくないから、是正しに来たって事で良いんだな?」

 事情を聞いたラグナックの問いにレトルトの卵料理を不満気に食べながら少女が頷く。

「そう、ここってオールドエイジの管轄だったからなかなか、干渉出来なかったんだけど、ようやく許可が下りたんだよ。取り敢えず、さっきのは、一罰百戒の意味を籠めたジャブだよ」

 顔を引き攣らせるラグナック。

「単なるジャブで両軍の主力が壊滅ですか?」

 少女は、ほほをかきながら言う。

「過剰な精神干渉は、したくなかったから力を見せつける必要があったんだよ。それでもこの世界が無くなるよりましでしょ?」

 冷や汗を垂らすラグナックにイブが言う。

『艦長、一つ聞いていいでしょうか? 神とは、こういうものを言うのですか?』

 ラグナックが答えに困っていると、空中から白猫が現れて答える。

『そんな訳が無かろうが! このスカタンが特別なんだ!』

「もう、来たの?」

 嫌そうな顔をする少女に白猫が答える。

『何時まで現場に居るつもりだ。ここの担当の八百刃獣の増員申請もあるんだから早く帰って来い!』

 首を横に振る少女。

「嫌、もっと美味しい卵料理を食べるの!」

『我儘なんぞ聞いてられるか!』

 嫌がる少女を連れて白猫は、消えていった。

「神様って居るもんだな。想像とかなり違ったが」

 ラグナックの呟きに今度ばかりは、否定できないイブであった。

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