百爪が楽しむ修羅場
完全なお馬鹿な、白牙と蒼牙と白金虎のお話です
蒼牙、蒼貫槍がホープワールドで一度滅びた際に、その欠片から生まれた魔獣。
白牙をライバル視して、何度も挑戦するが、勝てないまま、自分が共に行動していた紅炎甲の代行者の血族の成長を助けている。
ホープワールド時代に、八百刃の手によって、白牙の力と合わせて百爪という八百刃獣を生み出された。
現在の所は、立場上は、フリーの魔獣である。
とある世界の喫茶店。
ブランド物としか思えないようなスーツをスタイリッシュに着崩した人間の姿をとる白牙。
その隣には、やり手のOL風の女性の姿をした白金虎も居た。
白牙は、何故か落ち着かない様子であった。
「やはり、俺一人で話そう。無理にお前に付き合ってもらう必要もないだろう」
白牙の言葉に白金虎は、笑顔に答える。
「いえ、お気遣いは、不要です。向こうの要望とあれば、付き合うのは、当然の事です」
その笑顔に何故か、怖いものを感じる白牙がコーヒーを飲んでいると、入り口が開き、元気そうな少女の姿をした百爪が現れる。
「お父さん、お待たせ!」
小さく溜息を吐く白牙。
「何度も言わすな、そんな変な設定は、忘れろ」
百爪は、白牙の隣に座って言う。
「えー、八百刃様も認めているんだから良いじゃん」
不機嫌そうな顔をする白牙。
「ヤオは、楽しんでるだけだ」
「相変わらずの態度ね」
そう言ったのは、和服姿の美女の姿をした蒼牙であった。
「久しぶりだな」
白牙が挨拶するが、何故か蒼牙の視線は、白牙の隣に座る白金虎に向けられていた。
「このたびは、私の我侭を聞いて貰ってありがとうございます。娘に弟が出来たと聞いたので、その母親と言うのが気になったもので」
一応笑顔で言う蒼牙であったが、それを好意的と受け止めるのは、難しい。
白金虎も同類の笑顔で言う。
「気にしないで下さい。私が、今、白牙様のお仕事を手伝わせていただいております、白金虎と言います。今後、蒼貫槍様の下で働かれる蒼牙様とは、良い関係を気付いていきたいと思っております」
「私は、蒼貫槍様の所に行くとは、言っておりません」
蒼牙の答えに白金虎が驚いた顔をする。
「それでしたら、どちらに? 嘗ての縁で紅炎甲様ですか?」
蒼牙は、淡々と答える。
「今は、白風の人間を鍛えるのを己の仕事と思っています」
仕事の話に入ったと思ってようやく白牙が口を挟む。
「そこだ。お前ほどの高位の存在がいつまでも、この世界の事に干渉しているのは、問題だという声も上がっている。ヤオの奴も、お前がセーイの手助けをしていた関係上、白風家に守護を行うことを黙認しているが、何時までも続けられないぞ」
白金虎が続ける。
「八百刃様の擁護を期待せず、ここは、貴女に相応しい、神の下に仕えるのが正道だと思いますが?」
蒼牙は、真剣な顔をしながら言う。
「この後、この世界は、激動を迎えます。その時までは、見守っていさせて貰えないかしら?」
白牙が頭をかき、判断に困っていると白金虎が言う。
「それならば、神に仕えてからでは、いかがでしょうか?」
首を横に振る蒼牙。
「それこそ、ルール違反になるわ。今の状況は、八百刃様のお世話になっていますが、ギリギリルール違反には、なっていないわ」
そんな中、百爪が手を上げる。
「だったら、お母さんも八百刃獣になれば良いよ。それで、あたしのフォローってことならここに居られるよ」
「駄目です! 蒼牙様は、蒼貫槍様達が先に声をかけております。八百刃獣にしたとしたら、八百刃様に余計な負担を負わせる事になります!」
白金虎の言葉に白牙が口を挟む。
「ヤオだったら、そのくらいは、気にしないと思うが」
その途端、白金虎と蒼牙から睨まれ、顔を百爪に向ける。
すると百爪は、楽しそうな顔をして小声で言う。
「さて、バトル開始。お父さんも余計な突っ込みは、止めといた方が良いよ」
そして、蒼牙は、白牙を見ながら言う。
「私としても、白牙の下につくつもりは、ないわ。いつかは、越すべきライバルだと思っていますからね」
「これは、驚きました。まさか、第一の八百刃獣であられる白牙様とライバルだと言うのですか?」
白金虎の言葉に蒼牙が睨み返す。
「何が言いたい!」
白金虎が鋭い目で返す。
「不相応としか言えませんね」
双方の視線がぶつかり合い、火花を散らす。
蒼牙は、深呼吸をして言う。
「貴女に白牙の何が解るの? 私は、ホープワールド時代からの付き合いよ」
白金虎が即座に反論する。
「長ければ良いって物では、ありません! 少なくとも、今一番長い時間一緒に仕事をさせて貰っているのは、私です!」
蒼牙は、白金虎を上から下まで見てから言う。
「白牙の趣味って変わったのかしら? 昔は、もう少し華がある女と付き合ってたけど。あくまで仕事だけの関係だから、こんな地味でも良いのね」
白金虎が黒いオーラを放つ笑顔で答える。
「高齢の御方には、若い美が解らないという事ですね。すいません、私は、蒼牙様と違って若い者で」
「若だけしかとりえが無いって事かしら?」
蒼牙も黒いオーラを放ちながら笑顔で答えた。
白牙が慌てて言う。
「何か、話が脱線してないか?」
蒼牙も白金虎も答えず、お互いを睨み続ける。
「第一、白牙様は、真面目な御方です。周りの御方がおっしゃる様な女遊びをされているわけがありませんわ!」
白金虎の言葉に苦笑する蒼牙。
「そっちの対象にもならない貴女に見せてないだけよ。ホープワールド時代は、ちょっと八百刃様の傍を離れれば、直ぐ女に手を出す節操無しだったわ」
「それは、昔の事です。今は、違います!」
白金虎の反論に百爪が手を上げて言う。
「でも、いまだに狼打さん達との会合に美女を呼んで、そのままお持ち帰りするって話を聞いてるよ」
その言葉に、蒼牙も白金虎も睨み殺すような目で白牙を見る。
白牙は、慌てて言う。
「おい、そんな話を誰から聞いたんだ!」
百爪は、笑顔で答える。
「狼打さんと一緒に来た闘甲虫さんから」
白牙が拳を握り締めて言う。
「あの野郎は、絶対に狼打の所に転職させてやる!」
そんな白牙に蒼牙が言う。
「その話は、おいておいて、詳しい事を話してくれるわよね?」
「私も、会合の詳細を確認しておきたいと思います」
白金虎も詰め寄って来た。
白牙は、視線を逸らして言う。
「だからな、あれは、だな。男同士だとそういう事もあるって事でな……」
要領の得ない説明で蒼牙と白金虎が納得するわけも無く、白牙は、長々と言い訳を続けることになるのであった。
そんな白牙の姿を八百刃に送る百爪に八百刃が賞賛を送る。
『ナイス、火の油注ぎ。干渉限定解除の件は、OKだしておくよ』
白牙に手を合わせ百爪が言う。
「これも、この世界の為だったの、ゴメンしてね、お父さん」
そんな百爪の企みも知らず、白牙の不幸は、続くのであった。




