水産蛙が残した功績
ご隠居コンビの一人、水産蛙の活躍した時代の話が途中で少し入ります
水産蛙、カエル型の八百刃獣で、八百刃獣の中では、大地蛇と並ぶ年長組み。
しかしながら、普段は、仕事をしない中位八百刃獣である。
しかし、そんな水産蛙も昔は、仕事をしていたのだ。
八百刃の神殿の八百刃の執務室に一刃の八百刃獣が呼ばれて居た。
「解っていると思うが、今回の件は、重要だぞ」
白牙に釘を刺され、頭を下げる中位になったばかりの牛の八百刃獣、闘士牛が頭を下げる。
「了解しています」
しかし、八百刃がお気楽に手を振る。
「別にそんなに気負わなくても大丈夫だって」
闘士牛は、戸惑う。
「しかし、今回の会議には、あまり我々よりじゃない神々が参加なさいます。舐められる訳には、いきません」
そう、今回の闘士牛が任された仕事は、中位の闘神の会議の監視の仕事である。
参加者の中には、嘗て八百刃と敵対した事がある神々も居る為、上位の八百刃獣の参加は、内々のうちに拒絶されてしまった。
「この会議の中心的な神としても、古株の神々を刺激したくないと言うのは、解るが。締める所は、締めておきたい」
白牙の言葉に八百刃が手を上げる。
「だったらあちきが行こうか?」
白牙は、一切関知せず続ける。
「お前の役目は、あくまで八百刃の指示で動くことを強調する事だ。間違っても自己判断で動く事を容認するような流れにするなよ」
「この命に代えましても」
緊張した面持ちで執務室を出る闘士牛を見て白牙が言う。
「正直、力不足だと思うが? 同じ中位でももっと古参の八百刃獣を向かわせるべきじゃなかったのか?」
八百刃が苦笑する。
「若いのにもチャンスをあげないとね。まあ、それでもサポートは、つけるけどね」
闘士牛が神殿を出ようとした時、古参の八百刃獣だが、この頃は、八百刃獣の神殿でごろごろしている水産蛙が声を掛けてきた。
「闘士牛殿、すまないが乗せて行ってもらえぬかのう?」
闘士牛が嫌そうな顔をする。
「水産蛙殿、残念ですが、私は、これから八百刃様に頼まれた重要な任務ででかけなければいけないのです」
水産蛙も頷く。
「重要な仕事なんじゃろう。だから、仕事している風に見てもらえるから一緒に行って仕事して振りでもしておけと、八百刃様に言われておるのじゃ。周りの目もあるから、八百刃様には、余計な気を使わせてしまって申し訳ないのー」
しみじみ言う水産蛙。
実は、闘士牛も水産蛙と風乱蝶のご隠居コンビをよく思っていない八百刃獣の一刃である。
「そう思われるのでしたら、常日頃から仕事をなさっては、如何ですか!」
敵意丸出しの対応だが水産蛙は、平然と言う。
「そうは、言っても、わしや風乱蝶の様な特技特化の八百刃獣に出来る仕事は、多くない。そういった仕事は、若手に任せた方が良いと判断されているのじゃよ」
闘士牛は、窓際族八百刃獣と勝手に判断し、そんな八百刃獣の事にも気を配る八百刃の優しさに新たに畏敬の念を深める。
「解りました。しかし、本当に重要な用件なのです。余計なことは、しないで貰いたい」
「すまんのう」
水産蛙は、そう言って、闘士牛の上に乗るのであった。
会議は、最初から難航していた。
議長の神、戦場への補給を司る茶道車が言う。
「ですから、現場の意思と言うのも解りますが、八百刃様のご意見を無視するわけには、行きません」
それに対して、この場に居る神々の中でも年長、ホープワールド前から存在する神のリーダー格の神、砲撃を司る黄弾砲が言う。
「戦闘しか能が無い若造の意見等聞いて居られるか。現場には、現場の考えがあるのだ!」
この場に居た半数近くの神が賛同する。
それを見て、闘士牛が緊張した面持ちで言う。
「黄弾砲様、八百刃様は、決して現場を軽く見ておりません。そして、八百刃様は、最上級神であられ、その命は、絶対の筈です」
その言葉に黄弾砲は、鋭い目で闘士牛を見る。
「たかが使徒の分際で神に意見するつもりか!」
その怒気に怯む闘士牛。
茶道車は、慌てる。
「黄弾砲殿、八百刃獣に対するその様な態度は、八百刃様への反意ととられますぞ!」
会場は、ざわめくが黄弾砲は、気にした様子も見せずに言う。
「どうとでもとれば良いだろう、あの若造がここに来ることなどある訳が無いのだからな」
その余裕の真意、それは、八百刃が自分達の様な小物の為に態々動く筈が無いという、情けない物であるが、会場に居る者達の通念であった。
闘士牛は、目の前の黄弾砲の怒りに触れるのを覚悟しながら言う。
「八百刃様は、常に我々八百刃獣を通じて全てを監視されておられております」
その一言に黄弾砲が暗い笑みを浮かべる。
「ならば、お前が居なくなれば、大丈夫だな」
その手の先に力が集まるのを確認し、青褪める茶道車。
「黄弾砲殿、八百刃獣に手を出されては……」
「煩い、あの若造にとって、この程度の八百刃獣等、幾らでも代わりが居るわ!」
黄弾砲に力を放たれそうになった闘士牛が滅びを覚悟した時、その背中で気配をけして居た水産蛙が言う。
「代わりなど居ない、八百刃様ならそうおっしゃる」
その瞬間、黄弾砲の顔が引き攣る。
「水産蛙だと! 何でお前程の八百刃獣がここに居るのだ! 約束と違う!」
それに対して水産蛙が答える。
「約束は、破られておらん。ワシは、中位の八百刃獣だからの」
冷や汗を垂らすのは、黄弾砲だけじゃなかった。
黄弾砲に賛同していた神々も一気に顔を青褪めさせ、沈黙する。
事態が飲み込めない闘士牛を残し、この後、茶道車の進行で順調に会議が進むのであった。
会議終了後、闘士牛と水産蛙は、茶道車に呼ばれた。
「どの様なご用件で?」
戸惑う闘士牛。
茶道車は、小さく嘆息した後に言う。
「やはり、八百刃様の掌の上と言うところですな。まさか、あの状況を想定して、要塞潰しの異名を持つ水産蛙殿を送って来るとは」
「懐かしい名じゃの。いまだにその名前を覚えている者がいるんじゃな」
水産蛙の言葉に茶道車が肩を竦める。
「ご謙遜は、止めて下さい。あの神々の大戦の中、八百刃獣の中で一番恐れられていたのは、今は、上位に居る者達で無く、貴方だったのですから」
意外な真実に驚く闘士牛。
「どういうことですか?」
苦笑する茶道車。
「そうか、八百刃獣の中でもあの戦いを知らない者が居るのだな。教えてやろう、あの大戦の中、そこに居る水産蛙殿が何をやったのか」
ホープワールド崩壊後、八百刃は、当時の神々の争いに、ホープワールドを作った時空を司る神、実名の属していた、監督派の神々として参戦していた。
茶道車もそんな神の一柱だった。
しかし、茶道車が参戦して居た戦いでは、全ての世界を完全管理しようとしていた管理派の神々に押されていた。
「人など、我々神が管理してこそ存在意味があるのだ!」
そう宣言し、力を解き放つ、当時管理派だった黄弾砲。
「違います! 人々の意思を尊重し、行き過ぎないように監督する事こそ我等、神の役目です!」
茶道車は、必死に交戦した。
そして、個人主義で、連携がよろしくない管理派の神々が劣勢になるが、自分達の要塞にひき下がる。
舌打ちする茶道車。
「あの要塞さえなければ、一気に勝負を決められるのに……」
悔しげな監督派の神々。
そこにやって来たのが水産蛙を連れていた八百刃であった。
「遅れて、すいません」
頭を下げる八百刃に茶道車が苛立ちを籠めて言う。
「はい、遅いです。もう管理派は、要塞に逃げ込んだ後ですよ。こうなったら、奴等が再び攻勢に出てきたところを狙うしかありません!」
それに対して八百刃が答える。
「そういう事ならお任せて下さい。あの要塞を使い物にならなくしますから」
「どうやって? 強力な複数の神の力で構成されたあの要塞には、生半可な攻撃は、通じない。侵入しようにも強固な壁を生み出され、入り口は、一箇所のみ。挙句の果てに、あの中は、迷宮と化している。手の出しようが無い!」
茶道車の説明に八百刃が笑顔で答える。
「理想的な状況ですね。水産蛙の力が十全に発揮できますよ」
「お任せ下さい」
自信有り気に答える小さく、それ程強力な力を持つとは、思えない水産蛙を、茶道車を含む、監督派の神々は、不審に思った。
「この要塞が有る限り、我等が負ける事は、無い!」
勝利を確信する黄弾砲。
「なんだ、この水?」
一柱が声を上げ、首を管理派の神々が首を傾げる。
その中、慌てて出口付近に居た筈の一柱が来て叫ぶ。
「監督派の奴等が入り口から大量の水を流し込んできた!」
その言葉にその場に居た管理派の神々は、苦笑する。
「なんと無駄な事を。我等は、神だ。この要塞が水で満たされようと死ぬことは、無い」
黄弾砲の言葉に誰もが頷いた。
しかし、その考えは、甘かった。
「……もう駄目だ」
管理派の一柱が力尽きた。
黄弾砲は、自分の周囲に強力な場を構成し、水を防ぎながら悔しげに呟く。
「こんな事になるなんて……」
要塞を覆いつくした水、それは、八百刃の力に満ちた水。
神々のとっては、他者の意思が籠められた水の中に居るのは、意思の侵食を意味する。
多少の水ならば、黄弾砲のやっているように場を作り、防ぐ事が出来た。
しかし、今回は、まさに要塞を満たすほどの水。
それは、圧倒的な質量として管理派の神々の場を押し潰そうとして居た。
「なんとか排水が出来ないのか!」
「駄目だ、この要塞の壁は、完璧でそんな穴は、開けられない上、消失させる量より、増える量の方が多いのだ!」
そんな仲間の会話に黄弾砲が舌打ちする。
「まさか、完璧すぎる要塞が逆に足枷になるとは……」
「私は、要塞を出るぞ!」
一柱の言葉に黄弾砲が怒鳴る。
「馬鹿を言うな、今は、あそこは、監督派が詰めている。要塞内からの攻撃が行えない今、敗北するだけだ!」
「だったら、どうする? あいつみたいに侵食されて滅びるのを待つか!」
その言葉に対する反論を黄弾砲は、もって居なかった。
「結局、その要塞に居た管理派の神々は、全面降伏した。あの戦いで、水産蛙殿は、そうやって要塞を潰していった。その為、あの戦いをしる神々には、上位八百刃獣以上に恐れられている」
茶道車の説明に闘士牛は、驚き、水産蛙を見る。
「懐かしいのー。しかし、大きな戦いが無い今は、楽隠居中じゃ」
水産蛙の気楽そうな言葉に茶道車が溜息を吐く。
「そんな事を言って、八百刃様は、今回の様な事件を想定して、貴方達をとっておかれているのでしょうね。本気で恐ろしい御方だ」
強い畏怖を持つ茶道車であった。
帰り道、闘士牛が謝罪する。
「すいませんでした。私は、貴方がたの事を誤解しておりました」
水産蛙は、気にした様子もなく答える。
「いいんじゃ、誤解されるような立場に居ることこそ、ワシらに必要とされる事じゃからの」
闘士牛が見えてきた八百刃の神殿を見て呟く。
「私達が仕える八百刃様、なんと強大なのでしょうか?」
水産蛙も頷く。
「ワシらでは、到底及びもつかぬ御方じゃからの」
そして、闘士牛が神殿に到着した。
「そこを退け!」
白牙が物凄い形相で出て行った。
闘士牛が驚いている間に水産蛙が偶々帰ってきて居た闘甲虫に尋ねる。
「どうしたのじゃ?」
闘甲虫が苦笑する。
「また、卵料理を食う為の分身を放っていたらしいんや。白牙は、それを回収に行ったんやと」
何も言えず、ただ水産蛙と闘甲虫を見る闘士牛に水産蛙が告げる。
「色んな意味で及びもつかぬ御方なのじゃ」
その一言に頷く闘甲虫であった。




