闘歌蟋蟀が見せる戦いの形
仮面ライダーモドキの闘歌蟋蟀がメインですが、水流操竜達も出てきます
闘歌蟋蟀人間大のコオロギ、中級八百刃獣。
翅を使った音攻撃から近距離戦までこなす、戦闘派である。
八百刃が六極神と呼ばれる前の邪悪な存在達との戦いでは、多くの功績を挙げている。
しかしながら、近頃は、戦闘意欲高揚歌の監査が主な仕事になっている。
「いい加減、無理だと思うぞ」
そう言うイルカの八百刃獣、船翼海豚に対して、竜の八百刃獣、水流操竜が怒鳴る。
「馬鹿いえ、この戦線は、絶対に維持するぞ!」
それに対してスライムの八百刃獣、水牢粘が言う。
「しかし、八百刃様もこの戦線維持は、難しいと言われて居る。指定された撤退許可領域にも入っている」
「まだだ! まだ、絶対撤退領域に達していない。ここで踏ん張れば八百刃様の仕事も楽になる!」
水流操竜の意見に多くの下級八百刃獣が同意する中、船翼海豚が告げる。
「無理をして損害を出したら白牙殿から長い説教を喰らうぞ」
その言葉に一瞬嫌そうな顔をするが水流操竜は、拳を握り締めて言う。
「大丈夫だ、もう直ぐ増員が来る予定だ。それも中級八百刃獣。そうすれば、ここの戦線を維持する事も可能だ」
現在、水流操竜達は、中級神に匹敵する力を持つ闇獣王が持つ勢力の封鎖を行っていた。
しかし、十分な戦力が回ってこず、苦戦を強いられる水流操竜達であった。
船翼海豚が難しい顔をする。
「それが変なんだ。闇獣王自身は、強力だが、他は、逃がしても直ぐに問題にならないから、闇獣王の監視だけし、他は、問題のあった後、対処するって話が進んでいるから戦力が回されていないって話だぞ。それが、今更中級の増援なんて明らかにおかしいぞ」
水流操竜が憎々しげに船翼海豚と水牢粘を見て言う。
「私もお前達が余計な馬鹿話をしなければ、こんなやっつけ仕事に回されてないぞ!」
水牢粘がのんびりと言う。
「そのことは、置いておいて……」
「置いておくな! 本気でここで活躍しないとまともな仕事に戻れないんだぞ!」
水流操竜が必死に言う中、下級の八百刃獣の一刃がやってくる。
「増援が到着しました」
「ようやくか! 待ってたぞ!」
水流操竜がその八百刃獣を見て固まる。
「すまなかった。急いで来たんだがな」
やって来た闘歌蟋蟀を見て納得する船翼海豚。
「そうか、闘歌蟋蟀だったら、手が空いてるな」
「そういえば、実力もあるのにどうして何時も仕事から外されてるんだ」
首を傾げる水牢粘に船翼海豚が答える。
「タイマン勝負だったら、中級でも屈指の指に入るが、トラブルも多いんだよ。確か、前の任務中に現地の神を半殺しにして、大クレームが来て干されてた筈だ」
「あれは、仕方ない事故だった」
闘歌蟋蟀の言葉に水流操竜が怒鳴る。
「確認も何もせずにいきなり攻撃して、事故が通じるか!」
闘歌蟋蟀が困ったって顔をして言う。
「しかしだな、蝙蝠の羽根を生やして、デカイ玉座に座ってたんだぞ、悪の首領と思うだろう」
大きく溜息を吐く水流操竜。
「諦めて、撤退しよう。八百刃様の事だ、次の手も考えている」
水流操竜は、船翼海豚の言葉に従いそうになるのを必死に堪えて水流操竜が言う。
「ここで諦めたら終りだ! とにかく戦闘能力だけは、頼れる筈」
その時、警報がなる。
「相手が攻めてきた」
水牢粘の言葉に水流操竜が命令を告げる。
「四天王は、中級八百刃獣で防ぐ。お前達は、包囲網を突破しようとする奴を防げ」
こうして、封鎖戦が再開される。
下級八百刃獣を蹂躙するのは、闇獣王の配下の四天王、ダークタイガー、ダークフェニックス、ダークドラゴン、ダークタートル。
そこに凄まじい水流が八百刃獣と四天王の間を隔てる。
「もうきやがったか!」
ダークタイガーが舌打ちする中、ダークフェニックスが水流を超えようとしていた。
「行かせん!」
船翼海豚が水流から飛び出てダークフェニックスと空中戦を繰り広げる。
「水は、わが力の一部なり」
ゆっくりと水流を突破しようとするダークタートルだったが、その周りを強固な牢獄が展開される。
「残念だが、ここで足止めだ」
水牢粘がその力で動きを封じる。
「わが力で打ち破らん!」
「やらせん!」
ダークドラゴンと水流操竜が正面からぶつかり合う。
この間に突破しようとする闇獣王の雑魚達は、他の八百刃獣が対応していた。
あぶれた形になる水流を超える力を持たないダークタイガーが舌打ちする。
「またこの展開かよ」
その時、燃える歌が流れる。
「何だ、この曲?」
ダークタイガーが首を捻っているとその前に闘歌蟋蟀が現れる。
「四天王と我等の一対一の対決。良い形だ。俺は、八百刃獣が一刃、闘歌蟋蟀」
何故かポーズをとる闘歌蟋蟀の背後で爆発が起こる。
「ならば死ね!」
爪から強烈な闇の塊が放たれる。
それをまともに喰らう闘歌蟋蟀。
「口ほどでもないな」
余裕の笑みを浮かべるダークタイガー。
「まだだ、俺は、まだ戦える!」
立ち上がる闘歌蟋蟀。
「しつこいやつめ!」
ダークタイガーの両手から放たれる十字を描く闇を正面から受け止めて片膝を着く闘歌蟋蟀。
「この程度で倒れる訳には、いかない!」
「ならば直接喰らえ!」
ダークタイガーが闘歌蟋蟀に接近して闇を纏った爪を振り下ろす。
「サラウンドキック!」
闘歌蟋蟀のカウンター的に放ったキックがダークタイガーにクリーンヒットする。
「馬鹿な……これ程の力があったのか?」
そのまま崩れさるダークタイガー。
それに他の四天王も驚く。
水流をコントロールしながらという事もあり、ダークドラゴンに苦戦していた水流操竜が言う。
「こっちを手伝ってくれ!」
それに対して闘歌蟋蟀が首を横に振る。
「一対一の対決に手を出すなんて無粋な事は、出来ない」
水流操竜の操る水流が一瞬だけ止まる。
「馬鹿か!」
心からの叫びだったが、ダークフェニックスとドッグファイトを繰り広げていた船翼海豚が言う。
「そういう奴だって、忘れたのか?」
水流操竜がダークドラゴンと戦いながら言う。
「解ってたが、怒鳴らずにいられるか!」
妙な空気に残りの四天王達が戸惑う中、水牢粘が言う。
「水牢粘、戦っていない。闘歌蟋蟀頼む」
水牢粘がダークタートルを開放する。
「この水流が逆に我を護ってくれる」
そんな余裕を見せるダークタートルに闘歌蟋蟀が言う。
「その心の余裕が死亡フラグと思え! サラウンドショット!」
正拳と共に放たれた音の衝撃波が水流すら震わせて一気にダークタートルを打ち砕く。
「馬鹿な! あんな正拳の衝撃波があれほど強力な訳が無い!」
ダークフェニックスの言葉に船翼海豚が頷く。
「闘歌蟋蟀は、常に翅を擦り合わせて強力な衝撃波を溜めている。それを正拳の方向に開放したのが今の技だ」
ダークフェニックスがある事に気付き、質問する。
「あの正拳に意味があるのか?」
船翼海豚があっさり答える。
「全く無い。単なるポーズだ」
仲間がやられたのに流れる微妙な空気に困惑するダークフェニックスとダークドラゴンも冷静だった船翼海豚の淡々とした攻撃と水流操竜の八つ当たり気味の攻撃で滅びる事になった。
「さあ、遂に最終決戦だ!」
闘歌蟋蟀が期待感の高まる曲を流しながら言うが船翼海豚が手を横に振る。
「それは、駄目だ。オレたちが出来るのは、他の世界に干渉しようとする奴等を倒すだけだからな」
眉を顰める闘歌蟋蟀。
「随分と中途半端だな」
水牢粘が答える。
「闇獣王は、まだ明確な多世界干渉を行っていない。自分の世界に居る間は、違反者じゃないから罰も与えられない」
船翼海豚が苦笑する。
「水流操竜の頑張り過ぎなんだよ。四天王の一匹でも他の世界に行かせて干渉させれば、明確な違反になる。そうなれば討伐として大戦力を一気に送れていたんだからな。オレも今頃、八百刃様のプリティーな顔を見てられた筈だぜ」
水流操竜が毅然とした態度で言う。
「八百刃様は、そういった大の為に小を切り捨てるやり方を嫌う。だからこそこの封鎖の維持を続けていた」
闘歌蟋蟀が水流操竜達に背を向ける。
「八百刃様は、自分の信じる正義を行えと命じられている。俺は、俺の正義をなすまでだ」
「待て!」
水流操竜が止めるのも聞かず闘歌蟋蟀は、闇獣王の元に向かった。
闇獣王は、自分の玉座で目を閉じていた。
そこに爆音と共に扉がぶち破られてバイクみたいな乗り物サラウンド号にのった闘歌蟋蟀が現れる。
「お前が親玉だな! 四天王は、倒した。残るは、お前だけだ!」
それに対して闇獣王が目を開けて、疲れた表情で告げる。
「ようやく来たのだな。さあ、戦いだ!」
無数の闇が一気に闘歌蟋蟀に襲いかかかる。
闘歌蟋蟀は、サラウンド号のアクセル全開で回避する。
「流石は、八百刃獣だけは、あるな。しかし、無限に高まる我が力に勝てるか!」
周囲の闇を吸収して巨大な闇の玉を生み出す闇獣王。
闘歌蟋蟀は、大きく後退して言う。
「偉大なる八百刃様の名に懸けて勝つ!」
闇獣王が遂にその闇の玉を開放する。
「ならばこの闇を打ち破って我を滅ぼせ!」
「ハイパーサラウンド号アタック!」
闘歌蟋蟀が自分の溜め込んだ衝撃波をバイクに注ぎ込み、最大加速で闇獣王の闇を突き破る。
しかし、突き破ったところでサラウンド号は、崩れ落ち、闘歌蟋蟀も全身にダメージを負っていた。
「残念だ。これで終りだな」
闇獣王が再び闇を集め始めた時、闘歌蟋蟀が最後の力を振り絞り素手で闇獣王の胸を貫く。
「これが、俺の最終技、ビートルズフットパンチだ!」
自分の身長の何倍も飛び上がる昆虫の足の力を使った強力なアッパーパンチだった。
闇獣王は、笑みを浮かべる。
「これで、この世界に光が戻る。感謝する」
その言葉を残して闇獣王は、消滅した。
八百刃の執務室。
今回の事で呼び出しを喰らった闘歌蟋蟀と水流操竜達。
「解っていると思うけど、今回の事は、明確なルール違反だよ」
八百刃の言葉に水流操竜が言う。
「それは、闘歌蟋蟀が勝手にやった事です!」
白牙が睨む。
「言い訳の前に、止められなかった事を恥じろ!」
沈黙する水流操竜を尻目に闘歌蟋蟀が言う。
「自分の正義にそっての行動、いかなる処分も覚悟の上です」
それに対して、八百刃が手元にあった資料を白牙に渡す。
「この闇獣王討伐の口実は、不要になったね。事後処理を頼むと、天包布に伝言をお願い」
船翼海豚が言う。
「どういう意味ですか? あれは、討伐出来ないから封鎖を行っていたと考えていましたが」
それに対して八百刃が頷く。
「あちきも直接干渉は、時期尚早だと思っていた。そんな時に天包布から、あの世界が、闇と光のバランスが崩れて居ると連絡があったの。調べてみると、滅ぼされてる筈の闇獣王が光の勇者を逆に倒して居たの」
白牙が後を続ける。
「本来ならそんなイレギュラーが発生していたら、その世界を担当する神から連絡があり、それなりの対応をとるのだが、その神々が失態の発覚を恐れて上に報告しなかった。そして現状に至り、もはや闇獣王を我々が滅ぼすしかあの世界を救う術は、無かったのだ」
闘歌蟋蟀が闇獣王の最後の言葉を思い出す。
「自分の世界に自分を滅ぼせる者が居ないことを知って、あんな事をしていたのか」
八百刃が頷く。
「そうでしょうね。正直、神々の失態の尻拭いをさせた感じだね」
辛そうな顔をする八百刃に白牙が言う。
「本来ならもっと早く滅びて居た筈の奴が滅んだだけだ。これでその世界のバランスが戻るのなら問題は、無い」
苦笑する八百刃。
「ありがとう」
空気が和らいだのを感じ水流操竜達が気を抜いていると八百刃が言う。
「でもね、天包布が用意した口実を使わず闇獣王を滅ぼしたのは、無論問題なのよね」
一気に緊張する水流操竜達。
白牙が幾つかの書類を渡して言う。
「暫く天包布の所に出向して来い。向こうでは、こっちに回すかどうか悩んでいる案件が山ほどあるから仕事には、困らないぞ」
「あっちには、可愛い女の子いるかな?」
船翼海豚が楽しそうに言う。
「仕事なら何処でやっても一緒」
淡々と言う水牢粘。
「仕事か、全力でやらせてもらいます!」
新たな仕事に燃える闘歌蟋蟀。
そんな三刃を見て水流操竜が叫ぶ。
「私の上級八百刃獣になる夢が!」
その場に居た者達は、優しくその叫びを無視するのであった。




