信賞必罰
信賞必罰という言葉がある。
善き者には褒美を、悪しき者には罰を与えるという四字熟語だ。
俺の組では、それを厳格に適用している。
組の利益になるものには、それに見合った階級を与え、損失になるものは、降格させる。
そのおかげで、俺の組は繁栄を続けていた。
「組長、一つご報告があります」
若頭筆頭が、周りに誰もいないタイミングで俺に耳打ちをした。
「戦争が起こります、儲けるのであれば、これはいいチャンスになると思います」
「武器の売買か、それとも人を送るか」
「武器です。それも、現地へと直接送ります」
「ふむ、それでどれだけの利益が出るんだ」
「この国が戦争に勝つということに貢献することができます。さらに、現地マフィアのコネも作れるでしょう。海外進出の足掛かりとなります」
「場所は」
「満露の国境付近です」
「あそこか…よし、行って来い」
「ありがとうございます」
礼を言うと、若頭筆頭は一礼して部屋から出た。
「…ふむ」
考えを一巡させ、ある結論に達すると、俺はとあるところに電話を掛ける。
「ああ、俺だ。面白い話を聞いたんだが、どうかな」
懇意にしている株ディーラーは、戦争が起こるという話に、すぐに食いついた。
「わかりました、親分の頼みとあれば、粉骨砕身の努力をいたします」
「ああ、よろしく頼んだぞ」
電話を置くと、すぐに若頭筆頭が帰ってくる。
「では、これから海外へ飛びます」
「警察や軍の連中にはばれんなよ」
「わかりました」
さらに一礼し、部屋から出ていく。
数週間後、実際に戦争は始まった。
場所は若干ずれていたが、それでも最終的には聞いた通りの情報の場所にきた。
若頭筆頭は、それによって多額の上納金をおさめてくれた。
一方、株ディーラーは、大損をしたという。
「…お前との縁は、これまでのようだな」
ディーラーとの電話で、俺は告げる。
相手の意見を聞いていれば、この商売はできない。
言いたいことを言い切ると、すぐに電話を切る。
「お前には、褒美を取らす。すぐに答えることはできないが、必ず取らす」
「ありがたき幸せ」
若頭筆頭へと俺は告げた。
これが、俺がつとめて行っている信賞必罰だ。