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ギルド

 青年の姿が見えなくなると、千早は改めて建物を見上げた。周囲にはまばらに人がいたが、この建物に出入りする者はない。

 いくら夢とはいえ、正体不明の場所に一人飛び込むには勇気がいる。入り口の前で長く葛藤していた千早だったが、やがて意を決してドアノブを掴んだ。


 乾いた音が響く。建物の中はそれ程広くなく、薄暗かった。カウンターの中に男が一人、他に人の姿はない。

「やぁ、これは珍しい! 君は本物かい?」

 男は千早を見て大仰に驚いてみせた。話が見えてこない千早は苛ついた目で睨む。

「本物ってどういう意味ですか。なんの説明もなしにここまで連れてこられたんです。いい加減教えて下さい。夢のくせに不親切すぎる」

 男は何故か気の毒そうに千早を見た。

「そうか、本物らしいね。いらっしゃい、ルーキー。君を歓迎する……まぁまぁ、ちゃんと説明するからそんなに睨まないでくれ」


 男はダンと名乗った。ギルドの職員だという。ダンは滔々とワタリについて、ギルドの役割について語り出した――


 ――そもそも、千早が夢だと思っているこの世界は、夢でもあり、現実でもある。千早が実在するように、他にもまた、同じ様に実在し、同じ世界を共有して夢見る人間が複数存在するのだ。

 そこで彼らは、自らの事を「ワタリ」と呼ぶようになった。二つの世界「ウツツ」と「ユメ」をワタリ歩く存在として。

 ワタリとなるのは突然である。年齢も、性別も、人種も、全く関係なく、ある日突然、夢を見る。この、特殊なユメを。その後は死ぬまで永遠にワタり続けることになるのである。この場合の死とは、どちらの世界で死んでも両方の世界で死ぬことを意味する。

 ワタリは大半が早死にであった。理由は、ユメの世での貧困や虐待に起因している。身よりもなく右も左も分からない土地にいきなり放り出された人間は、為すすべもなく飢える。運良く誰かに拾われたかと思えば、大抵の場合人身売買に出され、奴隷として過酷な環境でこき使われた挙げ句捨てられた。

 その状況を打開すべく、ギルドは立ち上げられた。主旨は、ワタリ間の相互協力の推進。具体的には、衣食住の補助、ユメの世に関する情報提供、簡単な仕事の斡旋、更にはウツツの世でオンラインゲームを装ったコミュニティーサイトの運営まで行っている。ワタリの、ワタリによる、ワタリの為の組織である。

 これにより多くのワタリが救われるようになった――


 千早はダンが話す途中も、「有り得ない!」「無茶苦茶だ!」を連発していた。しかし、その度に「ウツツの常識はユメで通用しないんだ」とダンに諭されるのだった。

 千早が半信半疑なまま不承不承納得すると、ダンは満足そうに頷いて、鍵を渡してきた。

「これは君の部屋の鍵だ。3ヶ月間は無料で貸し出している。その後出て行くも残るも君次第だが、4ヶ月目以降は家賃を徴収するからそのつもりでね。

 因みに、食事も同じく3ヶ月は1日1食の配給があるから、その間に身の振り方を考えるといい」


 千早が鍵を受け取り、渡された地図を片手にギルドから出ようとしたとき、ダンの声が響いた。

「健闘を祈る。死ぬなよ、ルーキー!」

 千早はげんなりとして振り返った。

「やめて下さい。縁起でもない」


プロローグ的なものはこれで終わりです。

次から本格的に千早が動き出します。

よろしければお付き合い下さい。

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