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出会い

初投稿です。お目汚しすいません。

 驚きに身を固くした男二人が向かい合っている。片方は少年とも呼べるかもしれない、まだ顔には幼さが残っている。

 先に動き出したのはもう片方の青年だった。おもむろに腕を上げ、

「えーと……どちら様?」

頭をかいた。困惑した顔を浮かべているが、そこに緊張は見えなかった。対する少年は冷や汗をたらし、緊張に身をこわばらせたままだ。

 「すいません、この家の人ですか。僕は怪しい人間じゃありません。見るからに怪しいかもしれませんけど違うんです。あの……まず何故僕はここにいるんですか?」

 青年はまた頭をかいた。首を傾げる。

「それはこっちが訊きたいねぇ。どっから入ったの?」

「わかりません。気づいたらここにいました」

 青年の傾げた首がゆっくりと戻され、頭をかいていた手は顎に当てられて何やら思案する様子を見せる。少しの間沈黙が広がったが、続いて青年は少年の肩をいきなり両手で掴んだ。

 少年はびくりと反応し、後ずさろうとしたが、掴まれた力は思いの外強くかなわない。

「僕は一つの可能性に気づいた。確かめるためにテストします!」

 唐突な言葉に少年は声も出ない。ただ唖然として青年を見つめている。

「君の出身は?」

「……は?」

「君はなんという国のなんという土地で生まれたのかな?」

 意図不明な質問に少年は戸惑いを見せる。青年を伺い、その顔に本気の色を見て視線をさまよわせた。何故か、ウキウキと目を輝かせているような。

「……日本の東京ですけど……」

「ビンゴ!」

 わけが分からない少年を後目に、青年は一人で手を叩いて喜んでいる。

「あの……?」

「わかったよ、うん。成る程ね。迷える子羊に道を示してあげよう。」

 今度は少年の手を取って歩き始める。少年は焦った様子でそれに抗い、手を振り払った。

「ちょっと待って下さい! なにもわかりません! 警察に突き出すつもりですか」

 必死の形相を見せる少年とは対照的に、青年はいたってのんびりと頭をかいている。どうやら癖らしい。

「違うよ。もっと君に相応しい場所がある。君はねぇ、ワタったんだ。だったら行くべき場所は一つ」

 そう言うと今度こそ歩き出してしまった。少年は睨むような、縋るような目で青年の背を見つめていたが、逡巡の後青年の後に続いた。


「あの! ちゃんと説明して下さい! なんなんですか、どうなってるんです!? ここはどこですか! 知ってるなら教えて下さい!」

 少年には見向きもせず突き進む青年に、少年は必死で追いすがった。服の裾を強く引っ張ると、ようやく面倒臭そうな顔が向けられる。

「引っ張らないでよ、服が伸びちゃう……周りをよく見てごらん。ここがどこに見える?」

 その言葉で、初めて気づいたとでもいうように少年が辺りを見回した。しかし収穫はなかったのか、苦い顔で青年を睨む。

「分からないから訊いたんですよ。中世ヨーロッパとでも?」

「そう見えるなら、少なくとも日本ではないよね」

「だから……!」

 苛ついた少年はなおも言葉を続けようとしたが、ふと何かに気づいたように口を噤んだ。少年が立ち止まっても青年は構わず歩き続けた為、小走りになりながら青年に話しかける。

「そんなのは有り得ない。僕は確かに自分の部屋にいました。つまり、これは、夢ですね?」

 そう、その場所は少年からすると明らかに異質だった。まるでタイムスリップしたかのような石畳の街並、道行く人々。つい先ほどまで自室で寝転んでいた少年が時をおかず移動するなど現実的に有り得ない。

「あ、気づいた? まぁ、そういうこと」

 あっさりとした青年の態度に少年が眉を顰める。

「認めるんですか。あなたが本物じゃないことを。変わってますね……いや、僕の夢なんですけど」

「それは違う。君だけの夢じゃない。僕は僕で夢を見てる」

 頭を振った青年の言葉は、しかし少年の心に響かなかった。その様子に肩をすくめ、青年はひたすら歩を進めた。


 夢だとわかってからの少年は、途端青年に話かけるのをやめた。かわりに、興味深そうな様子で辺りを見回している。しかしそれも、進むうちに段々と不安げな顔を見せ始めることとなった。

「あの、どんどんうらびれていきませんか。どこにむかってるんです?」

 青年は相変わらず、歩をゆるめず振り返りもしなかったが、言葉だけは返した。

「もうすぐ着くよ。もう見えてる」

「えっ?」

 それ以上は言わず、再び黙々と歩き続けてしまう。暫くしてようやく立ち止まり、少年を振り返った。

「はい、到着ー!」

 少年が見上げた先には、一軒の店らしき建物があった。白い壁に木製の看板が掲げられている。

「ここは?」

「ワタリのギルド」

 少年が耳慣れない単語に顔をしかめる。

「ワタリ? ギルドって、モンスター退治でもさせるつもりですか?」

「したければすればいい」

 無責任な言い方に少年が何か言おうとすると、その唇に青年の人差し指が押し当てられた。

「これ以上はギルドの職員にきいて。こういう説明、面倒臭くて嫌いだよ……じゃぁ、僕は行くね」

 そう言って、少年の言葉も待たず踵をかえす。唐突の接触に一時呆然とした少年が、慌てて声をかけようとした時には、青年は既に離れたところを歩いていた。

「あ」

 ふと立ち止まった青年が振り返り、少年に声をかけた。

「名前を教えてもらっても? 忘れるかもしれないけど、聞いておきたい気がする」

「鞍馬千早です。あの……あなたは、」

「クラマチハヤ、クラマチハヤ。格好いい名前だね。機会があったら、また」

 千早の言葉は完全に無視して、今度こそ振り返ることなく青年は歩き去っていった。


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