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―第八話―ミフィア

―第八話―


「早く早く!だいぶ時間をロスしたわ、急いでアスティカに戻りましょ!」

ルネットがせかせかと2人の前を小走りに走りながら言う。

現在地は今だにロナの森の奥深く、星どころか月もとっくに姿を表し

森の不穏的な空気を一層強めていた

…のだが

「ルネ〜!自分だけ身軽だからって先行くな〜。」

遺跡につくまでディオルが持っていた3人分の荷物を持ち、ルネットに文句を言いながらもまったく苦になっていない軽がるしい足取りで追い掛けているガウロと。

そしてやはり取り残された残りの1人が、ブスッとした不機嫌オーラ全開の顔をし

名前も解らない1人の少女を背負いながら。

「テメェ等ざっけんなよ!!何でオレがよりによってこんな“闇者バルスモドキ”おぶんなきゃなんねーんだよ!!」

と糸を切ったように叫びちらしていたため、

その空気はだいぶ薄れていた。

足を止めバッと勢い良くルネットが振り向く。

「その子を連れてきたのは誰よ?」

「なっそ、れわ…。」

口籠もるディオル。

「ディオ太〜〜♪」

すかさず陽気にガウロが言った。

「うっせぇ!言わなくても解ってんだよ!」

「よって倒れたその子を運ぶ義務はディオル。あんたにあんのよ!」

それだけ言うと前に向き直り今度は小走りではなく本気で走りだした。

ガウロもそれに続いて

「荷物持ってやってんだから早く来いよ〜。」

と言いながら後を追う。

「…〜〜〜〜くっそぉ。」

少女は、3人に何かを言い微笑んだ直後倒れた。


突然に、何の前触れもなく。それからは瞳をしっかりと閉じ

安らかな寝息を立てている。

重さはちっとも気にはならなかったが、ディオルは少女に触れるのが嫌だった。

…憎い闇者、その闇者と話す不思議な言葉を使う少女…。

「あいつらの仲間なんじゃねぇのか?」

ポソリと怪訝そうな声で呟く。


はじめはアスティカへ連れていく事さえ反対した、だがルネットが絶対に連れていくと言い張り譲らず、

そのため渋々少女を連れ遺跡を出たのだが…。



…自分で背負えってんだ。


そう心の中で毒づきながらも、その手はしっかりと少女の体を支えているのだと思うとディオルは益々嫌気がさす。ディオルは横目で自分の肩にもたれかかっている少女を見る。

月に照らされた輝くような白肌

暗闇の中でも生える青紫の滑るような長い髪

少女はただ一言美しかった。




「夜なのに昼間より闇者が出なかったわね。」

アスティカの宿屋に到着し、少女をベットに寝かせた後

ルネットが唐突に言う。

「あ〜、そいやそだなぁ、ロナの森の闇者は夜寝るんじゃねーのぉ?」

床に座りコーヒーを飲みながらガウロが答える。

正直ガウロと苦いコーヒーはあまりに不釣り合いだなと思いながらルネットは話続けた。

「バカ!普通に考えておかしいと思わないの!?

闇の力をかりてる生きものが一番活動しやすいはずの夜に寝るわけないじゃない!」

「それもそぉだなぁ〜。」

「……はぁ。バカ。」

「何〜?バカバカって、意地悪すんのは好きな人って証拠だぜ〜?ルネ。」

「意地悪じゃなくて呆れてんのよ!!」

「へ〜♪」

「ちょっと、聞いてるの!?」

「聞いてるって〜。」

「……もぅ!」

これ以上の会話は無理と判断したのか、ルネットは

窓の側に立ち

腕を組み眉にしわを寄せて未だ不機嫌そうなディオルの方へ顔を向ける。

「ディオルも…、いい加減機嫌治しなさいよ。」

額に手をあてながら言った。

「オレは絶対認めねぇ!」

弾かれたようにディオルが叫ぶ。

「ディオ太〜、もぅ決定したんだって!」

「何でこんな奴の面倒見なきゃなんねーんだ!こんな闇者と話すような奴!!」

「あれは“ヒュアリー語”よ。」

ディオルの機嫌は森を抜けてからも良くなるどころか悪くなる一方だ。

その最大の理由は、先程彼が言ったように

ルネットの独断で正体不明の少女を保護する決定をした事だ、理由を聞いても『放っておく訳にもいかないし、気になる節がある』とはっきり告げる事はなく、納得いかないディオルに慣れたようにサラッとした態度でルネットが答え。彼女もコーヒーをカップに入れ一口それを飲んだ。

「…ヒュアリー語って…。」

「ヒュートが使う言葉よ。ディオル、一体あの子あそこで何してたの?」

「何って言われても、」

チラッと身動き一つせず、すやすやと眠っている少女を見るその目付きは

まるで闇者を見ているように鋭く、憎しみさえ感じとれるとルネットは思った。ディオルは顔をルネットに戻し言う。

「寝てたんだよ、変な光った糸みたいのに包まれて。」

「寝てたぁ?あんなトコで?」

ガウロが間抜けな声を上げる。確かに遺跡は人がとても住める状態ではなかったし、周りに闇者がウヨウヨしてる中

寝てたと言うのだから、驚くのも無理はない。

「そぉだよ。」

「どおして光があんたにだけ見えたのかは、」

「んなの解る訳ねぇだろ!とにかくオレは絶対反対だかんな!!」

ディオルが言い切ると、ガウロとルネットは数秒間

目で合図をしてるかのように見つめ合い。

「この子に直接聞いてみるしかないわね。」

「ディオ太役たたないからね〜。」

そう言って残りのコーヒーを2人揃って飲み干した。

「おいコラッ!テメェ等オレの話し聞いてたのかよ!」

「聞いてたわよ。無視しただけ。」

「尚悪いんだよッ!!」

「ほら、用が済んだらさっさと部屋戻るぞ。役たたず〜☆」

「ブッ殺すぞ!!?」と言っても力でガウロに適うわけもなく

ディオルは首をガッシリ片手で抱えられながらズルズル部屋から引きずり出される。

「それにしても本当に何でお前しか見えなかったんだろなぁ〜?」

廊下を歩きながら心底不思議そうにガウロが問う。

「…オレが聞きてーよ、そんな事。」

ボソッと言ったディオルの答えをガウロは何故か聞こえないふりをしてそのまま部屋に戻っていった。


外は暗く

部屋の中も微かな月明かりがなければ真っ暗な状態だった。そんな中部屋に入り明かりも灯さず壁を背もたれに床に座る。

ディオルは腰から剣を外し隣に置いた。

そうだ、

確かにオレは光が見えたし声が聞こえた

最後には消えそうな位小さな光と

何て言ってたのかもサッパリな声が…けど


「アイツが、オレを呼んだのか?」


一人小声でそう言った。

何の為に

何の目的で?考えるなんて自分らしくないと解っていても

留まる事なく疑問は次から次えと溢れるように浮き出てくる。だが結局の所、ルネットの言うように少女に直接聞かなくては

きっと解らないままなのだろう。

思い巡らせていると


足元に光が射した。

気付けば、日が昇りはじめている。

「もう朝か…。」

今日は遅れる訳にいかねーな。

鬼隊長発案恐怖の特別メニューをやらされてはたまらない。ディオルが顔を洗い再び剣を腰にさした

――瞬間

「ガウロー!ディオルー!!部屋に来てーー!!」

ルネットの物凄い大声がディオルの耳を貫く、何事かと思い木で出来たドアを勢い良く開け猛ダッシュでルネットの部屋へ走る。入ると、すでにガウロが立っていた。

「どおしたんだよ!?」

ディオルが問う。

「この子…!」

ルネットが何か言いかけた、ディオルの目がルネットの奥の青紫の影を捕らえる。

「!!」

少女は目覚めていた、ニコニコと笑いながらベットに座り、足をブラブラ動かしている。

「起きたんだね〜、よかったよかった。」

ガウロが笑顔で言った。

「うん…、目を覚ましたのは大分前なのよ。でも」

「でも、何だよ?」

ディオルが聞く。

「この子ディオルより頭いいかも…。」

「テメェッ!!どーゆう理屈だそりゃあ!!!」

右足を前に踏み込み、ルネットの発言にすかさずつっこむディオル。

「ティグイヌクトゥ!ミフィアな!よろしにくー!」

《ハジメマシテ!》

「は…?」

「あ〜、なるほどねぇ。」

突然少女が立ち上がり口を開いた、ディオルは動きをピタリと止め少女を凝視する。ものすごく珍しいものを見るような顔つきをして。

「ンティ…おはようね。」

《オハ…》

ルネットから教えられたのか、たどたどしい言葉遣いで言うと、ペコリと一礼した。

「おはよ〜。」

ガウロが返事をする中、ルネットも立ち上がって説明しだした。

「凄く吸収力があるのよ、身振り手振りすれば何となくこちらの言ってる事を理解できるみたいだし、ちゃんと教えさえすればきっとしっかり話せるようになると思うわ。」

「イヌレ、な、まぇ?ミフィアな〜!」

《ナマエ》

自らを指差しピョンピョンと跳ねながら言う。跳ねる度に薄い綺麗なドレスがフワフワと浮かびあがり、まるで店に売ってる高級人形のようだった。

「ミフィアってゆ〜の?俺はガウロ。よろしく〜。」

ミフィアに近付きにこやかに言うガウロ、相変わらず子供に話し掛けてるような口振りで言う。

「ガ、ウロ?ガウロな!」

「そぉそぉ〜。」

「あ、私もまだ名乗ってなかったわね。ルネットよ。」

ルネットも自分の顔を差しながら言った。

「ル…?」

「ルネだよ、この人はルネ。んでこっちのガキんちょは〜ディオ太♪」

ガウロはすかさず一人一人を指差して教える、

「ちょっと!変な風に教えないでよ!!覚えちゃうでしょ!」

「オレはガキじゃねぇッッ!!!」

2人がガウロに抗議するがされた本人は特に気にした様子もなくむしろ楽しんでいる様子で

「覚えた〜?」

と笑顔で聞く。

「…??ル、ネ?」

「違う!違うのよ、私はルネット!ほら、あんたも自分の名前くらい自分でいいなさい!」

ルネットが慌てて訂正しながら軽くディオルのおでこを叩く。ディオルはそこをさすると面倒くささそうに言った。

「…ディオル、だ。」

ミフィアはしばらくキョトンとした顔をしたがやがてニコッと笑うと、

「ルネット!ルネ〜!ディール!ディオォ!」

言いながら、ガウロと同じように2人を指差した。

「…なんか、微妙に違うわね。」

「コイツ、バカにしてんじゃねぇのか?」

それぞれ微妙な表情で感想を述べる。

「ガウロ、ルネ…ット、ディオォ?♪」

確認するようにもう一度名前を言う。

「だからオレの名前違うっつーの!」

「ミフィシィ、ジョナルーダトゥコゥカ、プルールォ!」

《ミフィヲ、タスケテクレテ、アリガトウゴザイマス!》

ディオルの指摘をあっさり無視した、と言うより何と言ったのか解ならかったのだろうが、ミフィアはトトト…。と3人の向かいに立つように移動すると笑顔で言った。

1人満面の笑顔で。

「「「……。」」」

3人はその場に固まったように黙り込み返事のしようのない沈黙が辺りを包む、窓の外で鳴く鳥の囀りがこれでもかというくらい響き渡り

そして頭から“?”マークをだし不思議そうな顔に変わったミフィアを数秒間見た後、やっと口を開いたのだった。

「…なぁ?」

「何よ、ガウロ…。」

「……今ミフィア何て言ったんだ〜?」

「…解る訳ないでしょ!」「…向こうの言ってる事解んないでどおやって言葉教えんだよ。」

「うっさいわね!何とかなるわよ!何とか!!」

開き治ったようにルネットは大声で言うと、笑顔の上に冷や汗を浮かべ、

そそくさと荷物を持ち上げる、

「さぁ今日も長い一日の始まりよ!早くこの宿出て次の町に行かなきゃ!任務任務!」

と言ってミフィアの手を引き部屋から出ていった。

残された2人は互いを見ると

「あれで…何とかなるかぁ?」

「……オレは反対したからな。」

言いおわるや否やのろのろと自室に荷物をとりに戻るのだった。

今日と言う日は

まだ始まったばかり

だが、これからの

長い日々の幕開けにすぎなかった事を、まだ

誰も知らない朝だった。

今まで忙しく、更新がとても遅れてしまいました。これからはまたちょくちょく更新できるはずなんで♪頑張って書きます↑↑☆

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