―第五話ヒュート
―第五話―
“塔”はやはり“遺跡”だった。
大小様々な赤茶色の薄汚れた石がうまくはめ込まれ、森に生えている奇怪な植物が間に入り込み根を張っていた。
…この分ではたぶん中にも入り込んでいるのだろう。そして遺跡の頂上は、とても人が住むには不可能なほどに崩れ落ちていた。
光は、その辺りから漏れている。
「うひゃ〜、すっげぇ傾いてるよ。よく保ってるなぁ〜。」
ガウロは下から順に上を見、誰にともなく言う。
「やっぱりずいぶん古い建物ね、ひょっとしたら“ヒュート”が作ったものかも。」
もともと半分程開いていた、厚い黒っぽい石で出来た戸を触り、興味深げにルネットが言った。
「ヒュウト?何だそれ?」
ディオルがルネットに問う。…視線は光から外さずに。
「まったくアンタは…
もっと書物を読みなさい。力だけじゃこの先やってけないわよ?」
「いんだよオレは、ただ闇者を殺れりゃそれで。」
「……。」
ディオルが切り離したように言うと、ルネットは一瞬戸惑い押し黙った。
そこへニコニコと、空気を読んでいるのかいないのか、ガウロが言う。
「だよね〜♪ディオ太は字、読めないもんな♪」
「バカにしてんのかテメェ!読めねぇ訳ねぇだろが!」
「バカじゃね〜かぁ〜♪」
「うるさい!“ヒュート”について知りたいんじゃないの!?」
気を取り直しルネットがいつものように鋭く怒鳴る。ヘラヘラ顔のガウロに今にも飛び蹴を食らわそうとしていたディオルだったが、ピタリと動きを止めると。
「…っ、そぉだよ!で?結局何なんだ?」
と、不貞腐れ気味に話を戻した。
はぁ〜…。と、ルネットはため息を一つつくと、
並んで立っている2人を交互に見ながら
諦めたように説明をしはじめた。
「“ヒュート”っていうのはね、…昔、この星に住んでいた種族の人々を指す言葉よ。
そして、私達が生まれる前からここに住み、長きに渡って闇者と戦ってきた人々のね。
…今はもう誰も生き残っていないと言われてるけど、その頃造られた遺跡なんかもまだ数多く残ってて
今あるその古い書物なんかも、そのヒュートたちが残してくれた物なのよ。」
「知ってる知ってる〜♪本で読んだことある、聖者が出てきたおかげで闇者を全滅できたんだよな〜。」
ガウロは得意気にそう言ったが、
「…アホか、そんなん誰だって知ってるっつーの。じゃなきゃ軍つくってまで聖者探しする訳ねぇだろが。」
「………そのとおりよ。」
2人の冷たい視線が痛く突き刺さるだけだった。
「でっでも、何で誰も生き残ってないんだよ〜?聖者が出てきて闇者を滅ぼしたなら、今でも普通にヒュートが暮らしてるはずだろ?」
「確かにな、それに“ヒュートっていう種族”って事は、オレ達とどっか違ったって事か?」
「だから!書物を読みなさいってば!!いい?そもそもヒュートっていうのは、今の私達と違って身体的にとても優れていたの、
皆それぞれ魔法とは違うもう一つの特殊能力をもっていた…どういうものかは解らないけど、
とにかく!私達とは違う人種なのよ。
そして、滅ぼした闇者が復活する事を知らなかった。闇者は甦るのよ、人の心の中から“憎悪”や“嫌悪”の気持ちが消えないのと同じようにね。“闇”の力も消える事はないんだから。
…そして復活した闇者によって滅ぼされた。平和になったと信じ込んで油断してたのね…きっと、もし生き残ってるヒュートがいたとしても、新しい生命。私達“スコーシア”が生まれるまでの何百年もの間生きているとは考えられないわ。」
そこまでをルネットは息つく暇もないほど一気に語り終わると
「他に質問は?」
と、口をポカンと開けている傍から見ればアホ面丸出しの2人に聞いた。
そして2人共、声を出すのを忘れたかのように
ただ黙って首を横に振る。
「そお、じゃあ急いで中を調べましょ。もうとっくに日が落ちてるわよ?早くしないと危険だわ。」
「…………了〜解〜。」
「……ぉう。」
説明しきってスッキリしたのか、『ライト・ニング』という小さな光かりの球をつくる魔法を唱えると、足軽げに進んでいくルネット、その後について行きながら、ボソッとディオルがガウロに呟き程度の声で言った。
「…今の説明、解ったか?」
「いや〜、さっぱり何がなんだか…。」
「「………。」」
日頃闇者と戦う為、体を鍛える事しか考えてない2人には、
…当然のように“読書”なんてゆう単語が当てはまるわけもなく。
……理解力もなかった。




