―第九話ダジストにて
第八話の題名を間違えてしまいました(;。Д。;)誤解した方がいたらすいません…(>ω<:)
―第九話一
果たして
「〜ガッウロ、ルネェ♪♪ディオ〜ォオ♪」
それを歌と言っていいのかどうか、
解らないほど微妙な音程とリズムを刻み、しかし少女ミフィアは楽しげに覚えたての言葉を並べてフワフワの膝丈ドレスの上からすっぽりとコートを羽織りニコやかに歩いていた。宿屋で代金を払い終えるとルネットの指示の元
いつものメンバー3人と新たに加わった少女1人は次の町ダジストへのそう遠くない道程をひたすら歩く。天気は良好
気温も暖かく
晴れ渡った青空に
咲き誇る花々や青い葉が感謝しているようだった。
そんな中
「〜〜だぁあ!うっせぇ!少しは黙れ、この闇者モドキ!」
耐えかねたようにディオルが声を上げる。
が、ミフィアは一体どうとらえたのか
「ルゾル、ツソーヨコゥグ!」
《ツギハ、ニキョクメデス!》
ニコッと笑い返しまた歌いだした。
「…いい度胸じゃねぇかテメェ…!このオレに喧嘩うるつもりか?…あ゛痛ッ!!!?」
口元を引きつらせさらに大声を上げたディオルの後頭部を
ドガンッ
と、どう考えてもこの青空の下には似付かわしくない鈍器で殴りつけたような鈍い音がした。
さわやかな笑顔で全員分の大荷物を持ったガウロが後ろからひょっこり顔をだす。
どおやら今日は彼が雑用係の日らしい。
「まぁまぁディオ太♪ミフィアも悪気はないんだからそんな怒んなって〜。」
「あってたまるか!…そぉだな、今のお前への怒りに比べればコイツに対する怒りなんて確かにちっちぇもんかもなぁっ…!」
「心は常に広く保たなきゃね〜☆暴力反対。」
「人思っきり殴っといて言う台詞かよ!!」
「イヤ、ごめんごめん。ディオ太相手だとつい力入っちゃって〜。」「アホかぁぁあ!!“つい”じゃねえ!殺す気かよテメェ!!!」
ガウロに飛び掛かろうとディオルが地を蹴った瞬間、男2人は避ける間もないくらい素早く強烈なルネットのグーパンチを思い切り頬にくらい
「「ぐはっ!」」
と声を漏らしつつその場に無残にも
仲良く同時に倒れこんだ。
ミフィアはドサッという音に気付き立ち止まって後ろを振り向く。
「はい!バカ2人はどいたどいた!こんな道端で喧嘩して無駄に体力使わないでよ?ダジストに行ったら闇者退治の仕事がまってるんだから。」
ルネットが何事もなかったように手をはたきながらスタスタとミフィアの前まで歩いていくと、少女はクルリとした愛くるしい深紫の目を合わせるよう首を傾げながら
「ゴクジョル?ンイバンナルーシジョ?」
《ドウシタンデスカ?オナカスイタノデスカ?》
とルネットに尋ねたので
ルネットはとりあえず笑顔をミフィアに向けた。
「……だから何でテメェはいつも勝手に決めんだ!聖者探しはどおしたんだよ!」
ジンジン熱い頬を押さえ起き上がったディオルが言う。
「まだ金残ってるだろ〜?また俺バイトすんのぉ?」
ガウロも起き上がりながら言った、実に嫌そうに。
彼らの旅は僅かに配られる軍事資金と、その力を活かした闇者退治などの仕事で賄われていた。
いくら誰もが知っている巨大組織とはいえ、
闇者が増加し目に見て取れる程衰弱した世界危機の影響を受けない訳はなく
その巨大さ故一部隊に配られる金額には限度があった。ディオルたちの隊がいくら上位にあったとて、たった3人ではやはり一ヵ月の宿代がいいところだ。
それ以外にかかる食費武具防具などの代金はすべて自分達で負担していた。
そんな訳で旅をし始めてからというもの3人は闇者退治やらお尋ね者退治をこなし旅の資金を稼ぎながら今までの日々を送っていたのだった。
「もちろん聖者探しはするわよ、でもその前にこの子の服なんかを揃えてあげなきゃ。さすがにこの服装じゃ目立ちすぎるわ。」
そう言って動き回ったため少しはだけたミフィアのコートをしっかりと着せなおす。
「それと今回は報酬がけっこう高値だったからバイトはしなくっていいわよ。」
「よっしゃ〜〜!!」
「そんなうれしいかよ?」
両手を上げ大喜びのガウロにディオルが不思議がって尋ねる。
「ディオ太クンじゃあとてもできない重労働と複雑な人間関係があんだよ〜。」地面に落ちた荷物を持ち上げると、いつものような小馬鹿にした言い方でガウロが答えた。
「ガキ扱いすんな!オレだってなぁ、やろうと思えばできんだよ!!」
ディオルは一度もガウロのように単独で仕事をした事がなかった。
他人と一緒に働くなどやりたいと思った事もなかったが、今は意地の方が先立つ。
「あんたは無理よ。協調性が欠片もないしすぐキレるし。」
「バカだからね〜☆」
「バカ、ね〜♪」
「……………。」
ルネット、ガウロ、仕舞いにはミフィアにまでダメだしされ、すっかり不貞腐れたディオルはその後はクルクル歌いながら踊り回るミフィアにキレる事もなく、ひたすら先へ先へと進んでいった。
そのおかげと言っては何だが、ルネットが予定していたよりも数時間早く
日が真上に昇る頃にはダジストに到着することができた。
ダジストはお世辞にも活気に満ちた町とは言えず、
高値で闇者退治を依頼するだけの事はあって至る所に闇者が付けたらしい傷跡が目立ち、修復が間に合わないのかもはやそれすら放棄したのか、町並みは荒れて重苦しい空気が人々を包んでいた。
「ヨネヌィティワヨネ?」《ココハドコデスカ?》
途中ルネットに被らされたフードを邪魔そうに指でいじりながらミフィアが言った。
「ミフィア、ここからはヒュアリー語は禁止よ。ダ・メ、解った?」
ルネットはミフィアに見えるように口の前でバツ印をつくりゆっくりと話す。
それをなんとなく理解したのか、ミフィアはコクンと頷くとフードを深く被りなおした。
「おい、早く入ろうぜ、腹へった。」
ディオルが腹部を押さえながら言うと
「オレも〜、まずは飯食おうよ。」
ガウロも同意した。
こんな時ばっかり意気投合するんだから…。
ルネットは思いながら周りを見渡した。
「仕方ないわね、邪魔な荷物も置いときたいしそこの宿屋に行きましょ。ご飯はそれから。」
指差したのは町の入り口に一番近くにあったにもかかわらず
周りは木に覆われ古ぼけた傷がいくつもある
つぎはぎだらけな赤や黄色が入り交じったおかしな壁色でできた、いかにも何かでそうな所だった。ディオルとガウロは思わずゴクリと息をのむ。
隣でミフィアが興味深げに建物を見つめていた。
「…ルネって、時々男より度胸あるよね。」
「どういう意味?」
ニッコリ恐い笑みを浮かべボキッと指を鳴らす。
「どこ行ったってきっと似たようなものよ、いいわよね?ここで。」
嫌とは言わせない空気が2人をとらえた。
「…モチロン、オッケーデス。」
「…ココデ、イイデス。」
「いいで、すぅ〜!」
先の2人と比較すると場違いなほど明るいミフィアの返事にルネットは調子が狂ったのか、
「行くわよ。」
とだけ言い宿屋の扉をあけた。
「なんっでこうなるんだよ!!」
部屋の中にディオルの声がこだまする。
宿屋の一室には、ルネットとガウロの姿はなく、鏡の前で櫛やはさみを持って遊ぶミフィアと部屋の真ん中に立ち尽くしたディオルの2人きりだった。
時は少しさかのぼって数分前
中は思っていたよりひどい造りではなかったが、やはりつぎはぎだらけで不気味な事に変わりわなく。
部屋をいつもどおり3つとり、各々の部屋に荷物を置くとルネットの部屋へ集まった。
集まるなり。「じゃあ私はひとまずミフィアの服を先に買って来るわね。少しだけ待ってて。」
そう言ってさっさと財布を持ち消えるルネット。
その姿を見送った直後、
「んじゃその間に剣を磨いとくかぁ〜、昨日の闇者の所為で刃がボロボロだったし…。」
「おいっ!コイツは誰が見てるんだよ!」
立ち上がったガウロを引き止めディオルが言った。
コイツとは勿論ミフィアの事だ、当のミフィアはコートを脱ぎすてると物珍しげに色んな物を物色していた。
「そりゃディオ太がみてるしかないっしょ〜、俺は刃物出すから危険だし。」
しれっと当然のように答える。
「ッざっけんな!!オレがこんな奴見る訳ねぇだろが!」
声を荒げて言い返すが
時すでに遅し。
ガウロは手を振り
「よろしく〜♪」
と言いながらバタンとドアの向こうへ消えていったのだった。
そして現在にいたる。
「……くそっ!」諦めたのか、ディオルはドカッと音をたててその場にあぐらをかき座り込んだ。チッチッチ…
部屋にもともと設置されていた時計の音がやけに響いて聞こえる。
いや、そう聞こえたのはたぶんディオルだけだろう。ミフィアは今だ鏡の前で
「ヨネカ…ヨネゴ??」
《コレワ…コウ??》
と一人呟きながら手に持った櫛の先っぽをペシペシ頭にあてていた。
旗から見ればおかしな光景である。
「おい…。」
うるさいぞ。と意味を込め低めのトーンでディオルが言う。
チッチッチ…
だがミフィアに伝わる訳もなく、さらにペシンと櫛をおでこにあて
今度ははさみにその意識を移し、シャキンシャキンと音をたてただした。
トントンとイライラしながらも膝を人差し指で叩くディオル。
「…おいっ!」
先より少し大きめに声をあげた
が、ミフィアは気付かずに尚もシャキンシャキンと音をたてる。
チッチッチ…
トントン
シャキンシャキン
チッチッチ…
トントントン
シャキンシャキンシャキン
「だぁぁ!うるせぇってんだよ!!黙れ!!」
ついに痺れを切らしたディオルがミフィアの方に振り向きざま怒鳴った
――瞬間。
ジャキンッ!
「「………。」」
はさみが
確かに何かを勢い良く切り落としたような音がした。
「…は、まさか。」
ディオルが小さく言うと、肩をすくめ“やっちゃった”と言わんばかりの際どい笑顔を顔いっぱいに広げて。
「ディオォ、ワゴクヨ…。」
《ドウシマショウ…。》と、ミフィアが弱々しく言いながら振り向いた。
手元をみると少女の手には滑るような青紫の髪がしっかりと握られていた。
「アッアホかぁぁぁぁああ!!!!」
今日一番の大きな声をあげ、ディオルは生まれて初めて“早く2人よ戻って来い”と、
切に願うのだった。




