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婚約破棄された悪役令嬢のスローライフ。辺境で農業をしていたら、いつの間にか溺愛されていました  作者: 黒崎隼人


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第9章:愛の結実と新たな始まり

 私たちの結婚式は、初夏の日差しが降り注ぐ、晴れやかな日に行われた。グリーンヴァレーの丘の上に建てられた、村人手作りのガゼボは、白と緑の野の花で美しく飾られていた。


 私が身にまとったのは、高価な絹やレースでできた王宮のドレスではない。村の女性たちが、私のために心を込めて縫ってくれた、素朴で美しいリネンのドレスだった。頭には、子どもたちが作ってくれた花冠を飾った。


 父、ヴァルドリア公爵に手を引かれ、バージンロードを進む。その先には、少し緊張した面持ちで、しかし何よりも優しい瞳で私を見つめるエドワードが待っていた。彼の隣に並ぶと、彼はそっと私の手を握ってくれた。その手の温かさに、すべての不安が消えていく。


 式には、村人全員はもちろんのこと、王都からも父をはじめとする多くの賓客が訪れていた。その中には、かつて私を嘲笑っていた貴族たちもいたが、彼らは今、信じられないものを見るような目で、祝福に包まれる私たちの姿を眺めていた。


 誓いの言葉を交わし、指輪を交換する。エドワードが私のベールを上げ、そっと唇を重ねた。その瞬間、村人たちから割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。色とりどりの花びらが、祝福するように私たちに降り注ぐ。私は、人生で最高の幸福をかみしめていた。


 披露宴は、村の広場で開かれた。堅苦しい挨拶も、複雑なマナーもない。ただ、美味しいものを食べ、語り合い、笑い合う、温かい宴だった。私はエドワードと共に、テーブルを一つ一つ回り、皆に感謝の言葉を伝えた。


 幸せに満ちた新婚生活が始まった。私たちは、夫婦として支え合いながら、開校を目前に控えた農業学校の運営準備に情熱を注いだ。エドワードはカリキュラムの作成に没頭し、私は入学希望者の対応や、教員の採用に奔走した。私たちの学校の噂は全国に広まり、身分を問わず、意欲のある若者たちが大勢集まってきた。


 そんな忙しい毎日を送る中、私は自分の体に起きた小さな変化に気づいた。もしかして、と思い、村の診療所の老婆に診てもらうと、彼女は優しい笑顔で言った。


「おめでとう、セリーナ。あんたのお腹の中に、新しい命が宿っておるよ」


 妊娠。その言葉を聞いた瞬間、胸がいっぱいになった。エドワードに報告すると、彼は最初、驚きで言葉を失っていたが、やがて私を壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめ、「ありがとう、セリーナ」と震える声で言った。彼の瞳には、喜びの涙が光っていた。


 村人たちも、自分のことのように喜んでくれた。あっという間に、村中に私の懐妊の知らせが広まり、誰もが祝福の言葉をかけてくれる。


 秋になり、ついに「グリーンヴァレー農業学校」が開校の日を迎えた。開校式典の日、私は大きくなったお腹を抱え、生徒たちの前に立った。緊張と希望に満ちた若い瞳が、まっすぐに私を見つめている。


 私は生徒たちに、自分の経験を語った。絶望の淵から、いかにして希望を見出したか。土に触れることが、どれほど人の心を豊かにするか。そして、この学校が、彼らの夢を叶えるための場所であることを伝えた。


 式の後、私は初めての授業を行った。テーマは「農業経営学」。壇上に立ち、生徒たちに語りかける自分の姿に、ふと不思議な感覚を覚えた。かつては人に評価されることを恐れ、自分の殻に閉じこもっていた私が、今、こうして大勢の前で堂々と自分の知識と経験を伝えている。


 生徒たちからの鋭い質問にも、私は自信を持って答えることができた。彼らの熱意に応えたい。その一心で言葉を紡ぐうち、私は自分の中に、教えることへの喜びと才能が眠っていたことに気づいた。母親になる私。経営者である私。そして、教師としての私。新しい扉が、また一つ開いた瞬間だった。

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