第11章:王国に咲いた希望の花
私たちの努力は、ついに王国全体を動かす大きな力となった。グリーンヴァレー農業学校から巣立った優秀な人材たちが、王国各地で次々と成果を上げ始めたのだ。彼らは、干ばつに苦しむ土地に緑を蘇らせ、痩せた土壌を豊かな畑へと変えていった。長年の懸案だった王国の食糧問題は、劇的な改善を見せた。
この功績を称え、国王陛下自らが、私たち夫婦を王宮に召還した。かつて、私が失意のうちに去ったその場所に、私は今、王国への貢献者として、胸を張って立っていた。
謁見の間。玉座に座る国王陛下の前で、私とエドワードは並んで頭を垂れた。国王は威厳に満ちた声で、私たちの功績を讃えた。
「セリーナ・グリーンフィールド、エドワード・グリーンフィールドよ、面を上げよ」
「そなたたちの尽力は、この王国を飢饉の危機から救った。その功績は計り知れない。よって、セリーナには『豊穣の聖女』の称号を、エドワードには『大地の賢者』の称号を授与する。そして、グリーンフィールド家を、男爵家から伯爵家へと昇爵させることをここに宣言する」
「豊穣の聖女」。かつて「悪役令嬢」と呼ばれた私が、今や聖女と呼ばれるようになった。人生とは、なんと不思議なものだろうか。隣に立つエドワードも、平民の血を引くことを蔑まれてきた彼が、今や伯爵として、その才能を国中から認められている。私たちは、ただひたすらに、自分たちの信じる道を歩んできただけだった。しかし、その歩みは、いつしか国を救うほどの大きなうねりとなっていたのだ。
表彰式の後、ささやかな祝賀会が開かれた。多くの貴族たちが、私たちに祝福と賞賛の言葉をかけてくる。その中に、憔悴しきったリオン元王子の姿があった。彼はもはや王太子の座を降り、一人の王族として静かに暮らしていると聞いていた。彼は遠くから、ただ黙って私たちの姿を見つめているだけだった。その瞳には、深い後悔と、そしてほんの少しの安らぎのような色が浮かんでいるように見えた。
すべてが終わり、グリーンヴァレーへの帰路につく馬車の中、私はエドワードの肩にそっと寄りかかった。
「私たち、伯爵夫妻になってしまったわね」
「ああ。だが、俺たちは何も変わらない。明日も、畑に出て土をいじるだけだ」
エドワードはそう言って、優しく笑った。そうだ、私たちは何も変わらない。称号や身分は、私たちの本質を変えるものではない。私たちの幸せは、いつもこの緑豊かな大地の上にあるのだから。
その数年後、私とエドワードの間に、第二子となる可愛らしい娘が生まれた。私たちは彼女を「クロエ」と名付けた。兄のアランは、小さな妹ができて大喜びで、優しく彼女の面倒を見てくれる。
豊かな農地、活気のある学校、愛する夫、そして可愛い二人の子どもたち。私は、かつて夢見ることすらできなかった、完全な幸せを手に入れていた。
国王陛下から表彰された日、私は壇上で凛として前を見つめていた。その視線の先には、絶望の淵にいた過去の自分と、それを乗り越えて手に入れた、光り輝く未来が広がっているように思えた。




