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第二章 風花町の陽だまり〜何もしない、贅沢な休日〜

【Bar風花 第二章】風花町の陽だまり 〜何もしない、贅沢な休日〜


※第二部・完全なる甘々癒し日常回です。

※戦闘・シリアス・事件・恋愛の進展など一切ありません。

※ただただ「何もしない」という、最高に贅沢な一日をたっぷり描写しています。

※脳を溶かしたい人、胸をきゅんきゅんさせたい人、至福の時間を求めている方だけどうぞ。


 風花町の神社奥、桜の咲く平屋の家。

 指輪をはめて三ヶ月が過ぎたある、特別な休日。


 朝は隣で目覚める美和さんの寝起きボイスから始まり、庭で摘んだレモンで作るパスタ、縁側での膝枕、

そして夜は自宅カウンターで振る舞われる「スウィート・ホーム」。


 神である美和さんが、ただの「妻」として天ちゃんに甘える。

 天ちゃんが、ただの「夫」として彼女を抱きしめる。


 何も起こらない。

 ただ、二人が一緒にいる。それだけで十分すぎる一日。


 Bar風花のカウンターとは違う、もう一つの「家」の物語。

 今日は店を閉めて、陽だまりの中でゆっくり溶けていきましょう。


どうぞ、布団の温もりとレモンの香りに包まれてお読みください。

 風花町の朝は、鳥のさえずりと、庭のレモンの葉を揺らす風の音で幕を開ける。


 和室に差し込む柔らかな光が、隙間なく並んだ二つの布団を照らしていた。


「……ん。……天ちゃん、まだ寝てるの?」


 隣から聞こえる、鈴を転がすような低い囁き。


 目を覚ますと、すぐ隣で美和さんが僕の腕を抱きしめるようにして、潤んだ瞳で僕を見つめていた。


 寝起きの少し乱れた黒髪と、パジャマの隙間から覗く白い鎖骨。


 かつての女神は、今や完全に「僕の隣で目覚める女性」になっていた。



 

 「……今日は、どこにも行かないわよ。一日中、あなたを離さないんだから」


 そう宣言した彼女は、エプロンを締めると、僕の手を引いて庭へと出た。


 青々と茂ったライムとレモンの木。


 美和さんは手慣れた手つきで、完熟した黄色い実を一つ収穫した。


 「今日のブランチは、このレモンでパスタを作りましょうか。……天ちゃん、ニンニクを刻むのを手伝って?」


 狭い台所で、背合わせに立ち、料理を共にする。


 時折、彼女がわざと僕の背中に自分のそれを預け、甘えるように体重をかけてくる。


 「……ふふ、くすぐったい? でもね、こうしてあなたの体温を感じながら料理を作るのが、今の私の、一番の『祈り』なの」


 皿に盛られた、庭のハーブとレモンのパスタ。


 窓を開け放ち、縁側に腰を下ろして食べる食事は、どんな高級レストランのフルコースよりも、僕たちの魂を深く満たしてくれた。



 

 午後の穏やかな時間。


 僕は縁側で読書を、美和さんは僕の膝を枕にして、心地よさそうに目を閉じていた。


 「……天ちゃんの手、温かいわね。……このまま、時間が止まってしまえばいいのにって、また思っちゃった」


 「止まらなくていいんだよ、美和さん。……止まらないからこそ、明日もまた、君の新しい笑顔が見られるんだから」


 僕は彼女のヘテロクロミアを隠すように、そっと瞼を撫でた。


 右目のワインレッドと、左目の琥珀。その奥にある数千年の記憶は、今やこの穏やかな午後の微睡みの中に、安らかに沈んでいる。


 彼女は僕の手を掴み、自分の唇へと運び、指先に小さく、熱い口づけを落とした。



 

 空が薄紫色に染まり、庭の木々が影を長く伸ばす頃。


 美和さんは「今日は特別よ」と言って、僕をリビングの隅にある小さなカウンターへ誘った。


 そこには、彼女が自宅用揃えたバーコーナー。


 彼女は慣れた手つきでシェーカーを振り、冷えたグラスに琥珀色の液体を注いだ。


 「カクテル名は……『スウィート・ホーム』。……そんなカクテル、本当はないけれど。でも、今の私の気持ちよ」


 カチン、とグラスを合わせる。


 今まで飲んだどの酒よりも、少しだけ甘くて、少しだけ切ない、至福の一杯。


 「……大好きよ、天ちゃん。……明日も、明後年も。……ずっと、私の隣にいてね」


 窓の外、神社の桜が風に舞い、二人の影を優しく包み込んでいく。


 神話でもなく、魔法でもない。


 風花町の片隅で、ただ愛し合う二人の、どこまでも平穏で、最高に激甘な休日は、静かに更けていった。

あとがき


 「風花町の陽だまり」、いかがでしたでしょうか。


 正直、書いていて自分でも顔が緩みっぱなしでした。

 「何もしない」というのが、こんなに贅沢で、こんなに愛おしい時間なんだなって、改めて実感した一日でした。


 美和さんは神様です。

 数千年の時を生きてきた彼女が、それでも「今日もあなたを離さない」と腕を抱きしめてくる。

 天ちゃんは、そんな彼女の隣で、ただ温かい手を握り返す。


 派手なイベントも、大きなドラマも必要ない。

 庭のレモン一つ、膝枕一つ、グラスをカチンとする音一つで、二人の世界は完全に満たされる。


 これが、僕が第二章で一番描きたかった「家族の形」であり、「夫婦の形」でした。

 Bar風花の夜は大人っぽくて少し切ないけど、この家の中は、ただただ甘くて温かい。


 ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

 脳がとろとろに溶けた方、心がきゅんとなった方、ちょっと羨ましくなった方……みんなの反応がとても楽しみです。


 第二章はまだまだ続きます。

 次は海里くんがまた遊びに来る話かもしれないし、三人で庭バーベキューする話かもしれないし、もっともっと甘い休日が来るかもしれない。


 どうか、またこの陽だまりに遊びに来てくださいね。


 それでは——明日も、風花町の朝は優しい光で始まりますように。


天照(Bar風花)

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