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第二章 輝く左手と、親友の凱旋〜Bar風花、騒がしき祝福の夜〜

【Bar風花 -kazahana-】第二章 輝く左手と、親友の凱旋 〜Bar風花、騒がしき祝福の夜〜


※Bar風花シリーズ・第二章開幕です。

※第一部までの流れを知っているとより深く楽しめますが、単独でも大丈夫です。

※お酒(特に最高級シャンパン)、指輪の輝き、親友の熱い祝福、笑いと涙が混じった賑やかな夜が好きな方向け。

※今回はいつもの静かなBar風花が、少しだけ騒がしく、幸せでいっぱいになります。


 開店準備中のBar風花。

 カウンターでグラスを磨く美和さんと、いつもの席で微笑む天ちゃん。

 ふとした会話から明かされる「神の蔵」の秘密と、左手に移った輝く指輪。


 そこへ飛び込んできた親友・響子ちゃん。

 「離婚したって聞いたよ!」と息せき切って駆けつけた彼女が、カウンター越しに見た光景に絶叫する。


 「えええええええっ!? 結婚!? おめでとうーーー!!」


 神様の力で呼び出される極上のシャンパン。

 響子ちゃんの泣き笑いの祝福。

 そして、伝票の代わりに「一生分の笑顔」で精算される、最高の祝杯。


 Bar風花へようこそ。

 今夜は、左手の指輪が輝く、騒がしくて温かい祝福の夜をお届けします。

 どうぞ、グラスを片手に笑いながらお付き合いください。

 開店準備中


 紫煙の代わりに、微かな桜の香りと、磨き抜かれたグラスの輝きが満ちる店内。


  カウンターの中では美和さんが、そしていつものカウンター席では執筆の作業を終えた天ちゃんが、穏やかな時間を共有していた。


 カウンターに置かれた伝票と、棚に並ぶ琥珀色のボトルを見比べながら、あまねはふと、ずっと気になっていた疑問を口にした。


 「ねぇ、美和さん……前々から不思議だったんだけど……『風花』のお酒の仕入れって、一体どうなっているの? 注文を出している様子もないのに、気づけば最高級のヴィンテージが補充されているし、在庫が切れたのを見たことがないんだけど?」


 グラスを磨いていた美和さんの手がピタリと止まった。


 彼女は視線を泳がせ、困ったように頬をかいた。


 「あ、あはは……やっぱり気づいちゃった? ええとね……建前としては皇グループの飲料部門が閉店後の深夜に補充してくれてることになってるんだけど……」


 「建前、ってことは本音があるんだよね?」


 天がじっと見つめると、美和は観念したように息をつき、カウンターの向こうで身を乗り出した。


 「実はね、私、お酒の神様(木花咲耶姫)だったでしょう? ……あのね……私、某英雄王の『ゲート・オブ・バビロン』みたいに、古今東西あらゆる時代のお酒を呼び出せる『神の蔵』って力を持ってるの……」


 「……は?」


 美和がそっと右手を虚空に差し出すと、何もない空間に、はらはらと舞い散る桜の花びらのような淡い桜色の靄が発生した。


 「見ててね、天ちゃん」


 彼女は靄の中へ、まるで馴染みの戸棚に手を突っ込むような動作で腕を入れる。


 数秒後、引き抜いたのはよく冷えた1本のボトル——ラベルに黄金に輝く「KRUG」の文字が刻まれた、市場ではまずお目にかかれない希少なヴィンテージ・シャンパンだった。


 「……はい、どうぞ♪」


 天は、差し出されたボトルと、ドヤ顔をしている美和を交互に見た。


 「……何……その、一部の酒飲みには喉から手が出るほど突き刺さるけど……人生においては致命的に無駄な力は……」


 「無駄って言わないでよ! これで天ちゃんが『あのお酒飲みたいな〜』って思った瞬間、私が世界一のバーテンダーになれるんだから!」


 天は苦笑しながらも彼女の屈託のない笑顔に胸を温かくした。


 「もう……。でもそうやって笑ってくれるなら、その無駄にすごい力も悪くないか」


 そうして二人は、極上のシャンパンを片手に開店前のカウンターで穏やかな会話を続けた。




 その日の開店直後——カラン!とドアベルが乱暴な勢いで鳴った。


 「彼さ〜ん! 聞いたよ! 大丈夫!? 元気出して!」


 飛び込んできたのは息を切らした響子ちゃんだった。


 彼女はカウンターに駆け寄るなり、天ちゃんの肩をバシバシと叩き悲壮な決意を湛えた瞳で叫んだ。


 「離婚したって聞いたよ! もう、そんなに一人で抱え込まないでよ。今夜は私が奢るから! 浴びるほど飲んで、嫌なこと全部忘れちゃおう!」


 「あ、いや、響子ちゃん。……それはちょっと情報の更新が……」


 天ちゃんが苦笑しながら、なだめるように手を上げたその時だった。


 カウンターに身を乗り出していた響子ちゃんの動きがピタリと止まった。


 彼女の視線は、天ちゃんの左手の薬指に釘付けになっている。


 そこには、シンプルながらも重厚な輝きを放つ真新しいプラチナの指輪が鎮座していた。


 「……え? あれ? 彼さん、左手、それ……」


 響子ちゃんは、磁石に吸い寄せられるように今度は美和さんの手元へと視線を飛ばした。


  美和さんがシェーカーを磨くために持ち上げたその手。


 「……あ!! 美和さんの右手にあったはずの指輪が……左手に移ってる!!」


 「ちょっと待って! どういうこと!? 離婚して落ち込んでるんじゃないの!? これって、もしかして……もしかして!!」


 響子ちゃんの声が跳ね上がった。


 美和さんは、少し顔を赤らめながらも隠すことなく左手をそっと天ちゃんの隣へ並べた。


 「ふふ、ごめんなさい、響子ちゃん。……私たち改めて『家族』になることにしたの」


 「……えええええええええっ!? 結婚!? 再婚!? っていうか初めからこれ狙いだったの!? 彼さん、やるじゃん! 策士じゃん! おめでとう!おめでとうーーー!!」


 響子ちゃんは、店内に響き渡る大声で叫びながら、二人を交互に抱きしめそうな勢いで飛び跳ねた。


 「もう、なによー! 慰める準備万端で来たのに、これじゃ私が一番のピエロじゃない! でも……よかったぁ……本当によかったよぅ……!!」


 彼女の目には、いつのまにか大粒の涙が浮かんでいた。


 自分のことのように喜び泣き笑いする。


 それが響子ちゃんという女性の何よりの温かさだった。


 「……じゃあ響子ちゃん。奢ってくれるっていう言葉に甘えてもいいかな? 慰めじゃなくて、俺たちの『門出』のために」


 天ちゃんがそう言って笑うと、響子ちゃんは鼻をすすりながら力一杯頷いた。


 「当たり前でしょ! 今夜は朝まで帰さないんだから! 美和さん!とびきり高いお酒出して!!私が世界で一番幸せな二人に最高の祝杯をあげるんだから!」


 開店直後の静かなバーは、いつのまにか親友の笑い声と祝福の涙で満たされていた。


 右から左へ移った指輪はただの飾りの変更ではない。


 それは、二人が数千年の時を経てようやく手に入れた「揺るぎない居場所」の象徴だった。



 

 響子ちゃんの泣き笑いの声が店内に響く中、美和さんは優しく微笑み、カウンターの奥にある重厚な木の扉に手をかけた。


 「響子ちゃん、少しだけ待っていてね。……今夜は私たちの『宝箱』を開けることにするわ……」


 そう言って彼女は、地下へと続く狭い階段を降りていった。


 数分後、美和さんが胸に抱くようにして持ってきたのは、ラベルに刻まれた「S」の文字が誇り高く輝く、伝説のシャンパーニュ——『サロン』だった。


 「わっ……なにこれ、見たことないくらい高級そう……! 美和さん、これ本当にいいの?」


 響子ちゃんが目を丸くして身を乗り出す。


 美和さんは、抜栓の音さえも「天使のため息」のように小さく響かせ、三つのロブマイヤーのフルートグラスに真珠のような泡を注ぎ込んだ。


 「ええ。今日という日のためにずっとこの子は指名されるのを待っていた気がするの。……天ちゃん、お願い」


 天ちゃんは、左手の指輪を隠すことなくグラスを取り、響子ちゃんの目を見つめた。


 「俺たちの『再会』を誰よりも信じて励ましてくれた響子ちゃんに。……そして僕の隣にいてくれる美和さんに。……乾杯」


 「乾杯……!!」


 3人はグラスを掲げる。


 口に含んだ瞬間、完熟したリンゴや蜂蜜、そして長い年月だけが醸し出せる深いコクが三人の心に染み渡っていく。


 「……おいしい……!なんていうか幸せの味がする……。天ちゃん、これいくらするの? 私、財布の中身足りるかな?カード切らなきゃ!」


 響子ちゃんは親友としての「筋」を通そうと必死だった。


 天ちゃんは、カウンター越しに美和さんと視線を交わした。


 二人の間には、最初から一つの答えしかなかった。


 「大丈夫だよ、響子ちゃん。……これは俺たちが君に『見つけてもらった』お礼なんだから」


 「何言ってるの! 私がお祝いしたいって言ったんだから払わせてよ!」


 「ふふ、じゃあ……」


 美和さんが悪戯っぽく微笑んで、一枚の白紙の伝票を響子ちゃんの前に差し出した。


 「今夜の代金は、響子ちゃんの『一生分の笑顔』でいただくわ。……領収書は私たちのこの左手の指輪ということで、どうかしら?」


 「……もう……美和さんまで彼さんみたいなこと言って……!」


 響子ちゃんはまた少し目を潤ませて、けれど今度は満面の笑みで二度目の乾杯を求めた。


 結局、その夜の伝票は最後まで書かれることはなかった。


 地下のセラーから運び出された至高の一杯は、支払われるべき対価ではなく、三人の「愛」と「友情」という、換算不能な価値によって完全に精算されていた。


 深夜の風花町。

 『Bar風花』の窓から漏れる明かりは、いつもより少しだけ明るく、温かく。


 左手の指輪と、空になった伝説のボトルが、二人の新しい門出を静かに、そして誰よりも力強く祝福していた。

あとがき


 第二章 輝く左手と、親友の凱旋、いかがでしたでしょうか。


 ……とうとう、第二章に突入です。


 数千年の時を経て、ようやく二人が手に入れた「揺るぎない居場所」を、左手の指輪という形で皆さんにお見せできました。

 響子ちゃんが「離婚したって聞いたよ!」と飛び込んできた瞬間から、店内が一気に祝福モードに変わる流れを書いていて、私自身もずっとニヤニヤしていました。

 彼女の泣き笑いと「奢るから!」という勢い、本当に可愛くて愛おしいですよね。


 神の蔵から出てくるKRUGやサロンのシャンパンも、ただの豪華な酒ではなく、二人の新しい門出と響子ちゃんの友情を祝福する「特別な一杯」として選びました。

 この夜のように、静かなBar風花がたまに賑やかになるのも、シリーズの新しい魅力だと思っています。


 読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。

 第二章はここからさらに、二人が「人間の時間」を歩み始める物語が続きます。

 響子ちゃんをはじめ、色々な仲間たちもどんどん登場する予定なので、どうか温かく見守っていただけたら嬉しいです。


 それでは、左手の指輪を輝かせながら——次回もBar風花のカウンターでお待ちしています。


天照(Bar風花)

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