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24杯目 マンハッタンの夜 ~女王のカクテルと、甘い煙と、揺れる白いスカート~

【Bar風花】マンハッタンの夜 ~女王のカクテルと、甘い煙と、揺れる白いスカート~


 ※かなり大人向けの贅沢&ちょっぴり色っぽい単発エピソードです。

 ※マンハッタン(ジョージ・T・スタッグ+パイクスビル+カルパノ・アンティカ・フォーミュラ使用の超プレミアム版)・自家製生チョコ・S.T.Dupontスリミーライター・極細手巻きタバコ・紫煙・ジャズ・脚立の上の美和さん…が好きな方向け

 ※戦闘・ラブ進展なし。ひたすら「濃厚で妖しい夜」を味わうだけ。R-18寄り要素(軽めのエロティック描写)あり、ご注意ください。


 古い知り合いの美女・ソーニャが久しぶりに来店。

 「美和、あのマンハッタンを作ってくれない?」その一言から始まる、特別な一杯の夜。


 バックバー奥の超レアボトルを引っ張り出し、脚立に上る美和さんの白いスカートが揺れる。

 隣でソーニャが悪戯っぽく微笑みながら、彼の視線をからかう。

 甘い桃の香りの紫煙が漂い、デュポンのスリミーがカチッと鳴る。


 そして完成したマンハッタンは、琥珀色に輝き、自家製チェリーが沈む。

 一口含めば、怪物級バーボンの深みと、ベルモットの王様の甘みが絡み合い、ビターズがキリッと締める。

 原価がとんでもない一杯を、常連だけに許される贅沢。


 紫煙とジャズと、ほろ苦い余韻と、微かに漂う色気が混じり合うBar風花の夜。

 今夜は、少しだけ妖しく、少しだけ甘く。


 ゆっくり、味わってください

 「美和、久しぶりにあのカクテルを作ってくれない?」


 ソーニャの声が、静かな店内に柔らかく響いた。


 二人の手元のシャンパングラスはすでに空になっている。


 テーブルの上には、さっきまで華やかだったシャンパンのボトルが、首を傾けて横たわっていた。


 彼はふとグラスを眺めながら、次は何を頼もうかとぼんやり考えていた。


 そのとき、隣に座るソーニャが、フルーツの小皿から福岡産のあまおう苺をフォークで丁寧に刺し、赤く艶やかな果肉を唇に運びながら、ゆっくりと言った。


 「あのマンハッタン……久しぶりに飲みたくて…」


 美和はちょうど小さな白い小皿に、数種類のチョコレートを繊細に盛り付けている最中だった。


 指先でそっと位置を調整しながら、顔を上げて微笑む。


 「ああ、あのマンハッタンですか?」


 「そう。やっぱり美和の作るあれじゃないと、なんだか物足りないのよね」


 美和は最後に抹茶チョコレートを中央に配置し、満足そうに小さく息をつくと、小皿を二人に差し出した。


 「ソーニャさんには、私の自家製生チョコレートの盛り合わせを。右からビター、ミルク、抹茶です。そして彼さんには……いつものピエール・エルメのオレンジピールチョコレートを」


 「!?ちょっと、美和〜!貴女の生チョコは確かに最高だけど、エルメのオレンジピールが出てきたら話は別よ!」


 ソーニャは即座に反応し、彼の小皿からオレンジピールのチョコレートを一本、するりと奪い取った。


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、それを口に放り込む。


 「ん……やっぱりこれ、反則よね。色男、悪いけど私の生チョコとエルメのチョコ、シェアしてちょうだい♪」


 彼は苦笑しながら、自分の皿をソーニャの方に少し寄せた。


 こういうやり取りが、この店の日常だった。


 ソーニャさんはピエール・エルメのチョコレートを満足そうに食べ終えると、高級ブランドのハンドバッグの中から取り出したのは、S.T. DupontのSlimmy(スリミー)だった。


 漆黒のラッカー仕上げに、繊細なピンストライプのギヨシェ彫刻が施され、縁取りは18Kローズゴールドで優雅に縁取られている。


 厚さわずか7mm。世界で最も薄い高級ライターの一つでありながら、女性の手のひらにすっぽりと収まるほどのスリムさで、まるでジュエリーのように洗練されていた。


 ソーニャはそれを指先で軽く持ち上げ、親指でキャップを滑らせるように開く。


 「カチッ……」


 控えめだが確かな金属音が響き、続いて


 「クリン……」


 と、デュポン特有の短く澄んだ開閉音が店内の静けさを優しく裂いた。


 ガス噴射口は細く洗練され、点火輪(フリントホイール)はダイヤモンドカットのようにきらめいている。


 細身のガスライターで火を付けると、炎は静かに、しかし力強く立ち上がり、淡い青みがかったイエローフレームが彼女の唇元をほのかに照らした。


 ターボ式の派手な風防炎ではないが、この薄さでこれほど安定した炎を生み出す職人技に、彼は内心で小さく感嘆していた。


 彼女は極細の手巻きタバコに火を移すと、ゆっくりと紫煙を吐き出した。


 甘い桃のような妖艶な香りが、煙と共に店内に広がっていく。


 ソーニャは煙を吐きながら、ライターを指先でくるりと一回転させ、再びハンドバッグの内ポケットにそっと収めた。


 その一連の動作は、まるで高級アクセサリーを愛でるような優雅さで、甘い香りの煙と相まって、Bar風花の夜をさらに濃密に、妖しく染め上げた。


 「ああ、このライター……もう何年も愛用してるの。デュポンのスリミーよ」


 彼女は目を細めて、どこか懐かしそうに微笑んだ。


 「薄くて軽いのに、存在感がすごいのよね。火をつけるたびに、ちょっとした儀式みたいで……落ち着くの」


 そう言いながら、もう一口深く吸い込み、ゆっくりと煙を天井に向かって吐き出す。


 紫煙は照明の光を受けて淡く揺らめき、アート・ブレイキーのブラシワークと混じり合いながら、店内に漂った。


 彼は自分のパイプに火を入れ直し、彼女の横顔をちらりと見た。


 マクレーランドのパルオーマインを別注でシャグカットにしてもらい、S.T. Dupontのスリミーで火をつける。


 アメリカの高級タバコとフランスの最高峰ライターが交錯するその姿は、まるで贅沢の結晶のようだった。


 (……お金がある人って、本当に色々と次元が違うな)


 彼は内心でそう思いながら、軽くドン引きした気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりとパイプを燻らせた。


 控えめな音量で流れている『I Remember Clifford』のメロディに合わせ、二種類の甘い香りの紫煙が静かに絡み合い、Bar風花の夜を優しく包み込んでいく。


 ◆ ◆ ◆


 美和さんはしばらく目を閉じて、何かを思い出すようにじっとしていた。


 やがて、ゆっくりと目を開き、柔らかな笑みを浮かべる。


 「承知いたしました。では……ソーニャさんのご要望のマンハッタンをお作りしますね」


 そして彼の方をちらりと見て、優しく付け加えた。


 「彼さんも、よろしければいかがですか?」


 断る理由などどこにもない。


 それに、何よりソーニャが「特別だ」と言ったその一杯が、どんなものなのか気になって仕方なかった。


 「お願いします」

 

 彼の言葉を聞くと、美和さんがくるりと後ろを向き、小さな脚立を引きずり出してくると、バックバーの奥の方でゴソゴソとボトルを探し始めた。


 ウィスキーのボトルがずらりと並ぶ棚のさらに奥、普段あまり手をつけない場所を狙っているらしい。


 彼女が脚立に片足をかけ、背伸びをするたび、シミひとつない真っ白なスカートに包まれた、形の良いヒップが彼の視界いっぱいに揺れる。


 純白のスカートに包まれた形の良いお尻が小さく波打つように動いて、まるで挑発しているかのようだ。


 生地が薄く張りつめ、わずかに透ける白さが、照明の下で妙に艶めかしく見えた。


  「……っ」


  彼は思わず喉を鳴らし、視線を逸らそうとした。


 が、その瞬間、隣の席から低くくすくすという笑い声が聞こえてくる。


 ソーニャだった。


 彼女は肘をカウンターに預け、頬杖をついたまま、煙草を挟んだ細い指で、ちょうど美和さんの揺れるお尻をゆっくりと指差している。


 そしてその視線は、しっかりと彼を捉えていた。


 ニヤリ、と口角が上がる。


 悪戯っぽく、どこか意地悪く、それでいて妙に色っぽい笑み。


 「ねえ、どう? 目の保養になってる?」


 ソーニャの声はわざとらしく甘く、煙草の煙と一緒に彼の方へ漂ってくる。


 彼は慌てて首を振ろうとしたが、言葉が詰まる。


 顔が熱い。

 耳まで火照っているのが自分でも分かった。


 「いや……その、別に……」

 「ふーん…」


 ソーニャは煙を細く吐き出しながら、目を細める。


 「嘘つき。さっきからずっとガン見だったじゃない」


 美和さんはまだ気づいていないらしく、脚立の上でさらに背伸びをして、


 「あれっ、どこ行ったかしら……あのボトル……」


 と独り言をつぶやいている。


 そのたびにスカートがヒラヒラと小さく舞い、彼の理性はますます削られていく。


 ソーニャは煙草を灰皿に軽く押しつけ、ゆっくりと身を乗り出して彼の耳元に囁いた。


 「ねえ、正直に言っちゃいなよ。今一番見たいのは……美和のそのお尻? それとも……」


 彼女の唇が、わずかに彼の耳たぶをかすめる。


 「……私のほうが、もっと近くで見せてあげようか?」


 その瞬間、美和さんが「あっ、あった!」と明るい声を上げた。


 脚立から降りる拍子に、軽くバランスを崩してよろめく。


 慌ててカウンターに手をついた彼女の顔が、ちょうど彼とソーニャの目の前に来る。


 「え、なになに? なんか変な空気……?」


 無邪気な笑顔で首を傾げる美和さん。


 その背後で、ソーニャはもう一度、悪魔のような微笑みを浮かべて彼を見据えた。


 どうする?


 と、目で問いかけてくる。


 彼は、ただただ言葉を失ったまま、二人の視線に挟まれて固まるしかなかった。


 続いてビターズの棚から二本、冷蔵庫からはベルモットを二本。


 最後に小さな保存瓶と、レモンをカウンターの上にある柑橘類の入った籠から取り出した。


 「まずこちらがバーボンの『ジョージ・T・スタッグ』。

 バッファロートレース蒸留所が作る、年間数百本しか出荷されない超プレミアムな一本です。

 大の特徴はその度数……ほぼ70度に近い怪物級のバーボンです」


 次に手に取ったのは琥珀色の美しいボトル。


 「こちらはライウイスキーの『パイクスビル』。

 ヘブンヒルバーンハイム蒸留所のライで、55度。スパイシーで力強い個性が特徴です」


 続いて、クラシックなラベルのベルモット。


 「スイートベルモットは『カルパノ・アンティカ・フォーミュラ』。

 ベルモットの王様と呼ばれる、昔ながらの製法で作られた逸品です。

 コクと甘み、香りのバランスが抜群で、マンハッタンにはこれ以上のものはないと言われています」


 「そしてドライベルモットは『ドリン』。

 アルプスのシャンベリーで造られた、高山植物を使った伝統的なレシピ。

 ユニ・ブランの酸味とハーブの清涼感が特徴です」


 美和はさらに小さな瓶を二本並べた。


 「アロマチックビターズは『ビタートゥルース ジェリー・トーマス・オウン・デキャンタ』、オレンジビターズは同じくビタートゥルースのオレンジ。そして……」


 小さなガラス瓶を愛おしそうに持ち上げる。


 「これは私が地元の佐藤錦で作ったチェリーの自家製漬け込みです。

 3種類のウィスキーで2週間漬け込んで、さらに黒糖シロップとアロマチックビターズを加えて寝かせました」


 最後に、無農薬のレモンを手に取る。


 「こちらは地元の農家さんが作ったノーワックスのレモン。

 皮を薄く削いで、レモンピールにします」


 美和は説明を終えると、バックバーの棚からウォーターフォードのリスモア・マティーニグラスを二脚、慎重に取り出した。


 美しいカットが光を反射し、すでにただ置いているだけで高級感が漂っている。


 グラスにキューブアイスを入れ、冷やし始める。


 その間にも、ミキシンググラスに氷を入れ、ミネラルウォーターで素早くステア。


 グラス全体を冷やすための儀式のような動作だ。


 水を切ると、ビターズを数dash。


 アロマチックとオレンジ、それぞれ丁寧に。


 そして――メジャーカップを使わず、迷いなく二種類のウィスキーと二種類のベルモットを注ぎ入れる。


 白く細い指に挟まれたバースプーンが、まるで指揮者のように回転を始める。氷がカチカチと小さく音を立て、液体が静かに踊る。


 その音さえも、ジャズのブラシのような優雅さがあった。


 十分に冷えたところで、ストレーナー越しにゆっくりとグラスへ。


 最後に、短冊型に切ったレモンピールをグラスの上で捻り、精油を飛ばす。


 そして自家製チェリーをカクテルピンで刺し、そっと沈めた。


 完成したマンハッタンは、照明の下で琥珀色に輝き、ウォーターフォードの深いカットが光を乱反射させていた。


 ローズゴールドのピンが刺さった真紅のチェリーが、静かに揺れている。


 「お待たせいたしました。マンハッタンです」


 美和は満面の笑みで二人にグラスを置いた。


 「さあ、どうぞ」


 彼はそっとグラスを持ち上げ、一口。濃厚で深いウィスキーの旨味。


 ベルモットの複雑な甘みと香り。


 ビターズがキリッと締め、全体を驚くほど奥行きのある味わいにまとめ上げている。


 普段、彼はマンハッタンを頼むとき、甘さを抑えるためにウィスキー4:ベルモット1くらいの割合を好んでいた。


 だがこの一杯は……違う。


 レシピはクラシックに近いはずなのに、素材の力が強すぎて、甘さが嫌味にならず、むしろ深遠な余韻を生んでいる。


 隣でソーニャが目を閉じて、ゆっくりと味わっていた。


 「……流石ね、美和。貴女はやっぱり最高よ」


 グラスを置いて、ソーニャは満足げに息をつく。


 「それに、このウォーターフォード……随分と良いものを使ってくれたのね」


 美和は少し照れくさそうに笑った。


 「ありがとうございます。このマンハッタンは、ウィスキー評論家のニール・リドリーさんがウィスキーマガジンで紹介していたレシピを参考にさせていただきました。


 ……正直に言うと、使っているウィスキーがあまりにもレアなので、1杯の原価がとんでもないことになってます」


 彼女は小さく肩をすくめて、悪戯っぽく続けた。


 「だから、ソーニャさんか……彼さんみたいな方々にしか、基本的には出さないんです」


 その言葉に、彼の胸の奥がじんわりと温かくなった。


 常連冥利に尽きる、何とも嬉しい一言だった。


 「あらら? 美和ってば、古い付き合いの私と同じくらい、この色男が大事なの?」


 ソーニャがイタズラっぽく目を細める。


 「ち、違いますって! ソーニャさんも彼さんも、どちらも大切な常連様で……!」


 美和が慌てて手を振る姿に、ソーニャはますます楽しそうに笑い出す。


 彼はそのやり取りを横目で見ながら、静かにグラスを傾けた。


 琥珀色の液体が揺れ、チェリーが小さく沈む。


 紫煙とジャズと、甘い香りと、ほろ苦い余韻。


 この夜は、まだまだ終わらない。


あとがき


今夜のマンハッタン、いかがでしたでしょうか?


 ジョージ・T・スタッグ(ほぼ70度近い怪物バーボン)とパイクスビルのライウイスキーをブレンドし、カルパノ・アンティカ・フォーミュラで甘みを深く、ドリンのドライでハーブ感を加え…という、かなり贅沢なレシピを参考に書きました。

 (実際の原価を考えたら、バーで出したら1杯数万円コースになるレベルです)


 美和さんの脚立シーンは、意図的に「無自覚な色気」を強調して、ソーニャさんの小悪魔っぷりと対比させてみました。

 ソーニャの「私のほうが近くで見せてあげようか?」の一言で、読者の皆さんがどんな顔をしたか想像すると、ちょっとニヤニヤしてしまいます(笑)


 S.T.Dupontのスリミーも、薄さ7mm(実際は9mm前後ですが雰囲気重視で)のジュエリーみたいなライターとして、煙草を愛でる儀式感を強く出せたかなと思います。

 紫煙の甘い桃の香りとジャズが絡む描写は、書いてて自分でも「これは本当に贅沢だな…」と酔ってきました。


 Bar風花は、ただお酒を飲む場所じゃなくて、こんな「濃密で、少し危うい夜」を楽しめる場所だと思っています。

 常連の彼が、ソーニャと美和に挟まれて固まってる姿…共感できる人、結構いるんじゃないでしょうか?


 読みに来てくださって、本当にありがとうございます。

 またこんな夜が書けたらいいな、と思っています。


 それでは、次はカウンターで、あるいは隣の席で。


感想で「ここが好きだった!」とか教えてくれたら、次のお話の参考にします。

いいねも、こっそり励みになるので……よろしくお願いします。


天照(Bar風花)

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