【Bar風花】第二章 鹿児島旅行・2日目 白き猛獣と躍動の鰹節 〜サンタクロースな夫と二つの特大ぬいぐるみ〜
【前書き】
※本作品は『Bar風花』一行による鹿児島旅行の二日目を描いたエピソードです。
※作中に登場する観光スポット、グルメ、車両の描写は実在のものをモデルにしております。
※『Bar風花』が紡ぐ温かな家族の休日を、どうぞごゆっくりお楽しみください。
南国の眩しい青空のもと、風花町の一行が巡る鹿児島旅行の二日目。
白銀の毛並みを誇る美しき猛獣や、丼の上で舞い踊る黄金の鰹節、そして深い青にたゆたうジンベエザメ。
子どもたちの弾けるような笑顔と特大のぬいぐるみを乗せて、青いエクシーガは思い出の九州路を軽やかに走り抜けます。
どうぞ、そっとカウンターの向こう側を覗いてみてください。
鹿児島旅行 2日目
第一章:白き猛獣と、晴天の朝
鹿児島・天文館の朝は、抜けるような青空で幕を開けた。
『皇ホテル鹿児島』の最上階。遮るもののない大きな窓からは、朝日に照らされて堂々と鎮座する桜島が、まるで一行の旅を祝うかのように穏やかな噴煙を上げている。
二日目の始まりは、ホテルのメインダイニングでの豪華な朝食からだった。
磨き上げられた銀のカトラリーが整然と並ぶテーブルに、鹿児島の旬を凝縮した鮮やかな料理が次々と運ばれてくる。黒豚の生ハムと新鮮な地魚のマリネ、桜島どりのエッグベネディクト、そして地元産のみかんを贅沢に絞った生ジュース。
「あらあら、真理亜ちゃん。お野菜も食べないと、動物さんに負けちゃいますよ♪」
千草が甲斐甲斐しく真理亜のプレートに彩りを添える。
「……ポタージュ、美味しい。……温まる。……戦闘準備、完了」
深雪はまだ少し眠たげな黄金色の瞳をしばたたかせながら、温かなスープをゆっくりと胃に流し込み、スリープモードからの復帰を試みていた。
美由紀さんは、洗練されたホテルのサービスと料理の質に圧倒されながらも、隣で目を輝かせる娘を見て、ようやく心の底から柔らかな笑みを浮かべていた。
チェックアウトを済ませ、一行は再びガレージに置かれたスバル・エクシーガGTへと乗り込む。
天がイグニッションキーを回すと、ボクサーエンジンが再び心地よい低音を響かせた。鮮やかなソニックブルーマイカのボディが、地下駐車場の照明を美しく反射している。
目指すは、南へ車を走らせること約三十分。平川動物公園だ。
「真理亜ちゃん、あそこはね、入った瞬間に『驚くこと』が待っているんだよ」
天がバックミラー越しに真理亜に話しかける。
「えっ、なあに? ライオンさん?」
「それは着いてからのお楽しみ」
エクシーガは鹿児島の海岸線を軽快に駆け抜ける。大人数と大きな荷物を乗せても一切のストレスを感じさせないターボのトルク感に包まれ、車内には千草が選んだ穏やかなBGMが流れていた。
動物園のゲートをくぐった瞬間、真理亜は「わあっ……!」と息を呑んで立ち止まった。
目の前に広がるのは、広大なアフリカ園。そしてその背景には、青い海と雄大な桜島が借景としてそびえ立っている。
「真理亜ちゃん、見て! キリンさんよ! お空に届きそうくらい背が高いわね」
美和が真理亜の手を引き、草原を模したエリアを指差す。本物のキリンが長い首をしなやかに動かし、高い木の葉を食べる様子に、真理亜は言葉を失っていた。
しかし、この日のさらなる主役が別にいた。平川動物公園の象徴――ホワイトタイガーだ。
強化ガラス越しに、白銀の毛並みに漆黒の縞模様を纏った巨体が、音もなくこちらへ歩み寄ってくる。
「……白梟と、同じ色。……強そう。……カッコいい」
深雪が、これまでにないほど瞳を大きく見開き、ガラスにぴったりと張り付いた。執行者としての本能が、地上最強の捕食者の美しさに共鳴したのかもしれません。真理亜もまた、その神々しい姿に「白いトラさん、魔法使いみたい……」と頬を紅潮させていた。
さらに一行を癒やしたのは、ユーカリの木の上で丸くなるコアラたち。
「あらあら、まあまあ♪ 深雪ちゃん、あの子あなたにそっくりですよ」
千草が笑いながら、寝ぼけ眼のコアラと、天の裾を掴んでウトウトしている深雪を見比べる。
「……あれは、深雪。……似てる。……充電、必要」
深雪はシンパシーを感じたのか、コアラに向かって小さく手を振っていた。
旅の前半の締めくくりは、お土産コーナーだった。真理亜と深雪は、ぬいぐるみの棚の前で真剣な「品評会」を始めている。
「天ちゃんお兄ちゃん、このトラさん、さっきのタイガーさんみたいにカッコいいね」
「……てんちゃん。……このコアラ、……ふわふわ。……あったかい」
二人の切実な眼差しを受けた天は、迷うことなく店員を呼んだ。
「すみません、この一番大きなホワイトタイガーと、一番大きなコアラをください」
「天さん、そんな! 高価なものですし、大きな荷物になりますわ!」
慌てる美由紀さんの制止を、天は穏やかな笑顔でかわす。
「美由紀さん。これは僕の『独断』です。旅の思い出は、重ければ重いほどいいって言うでしょう?」
渡されたのは、子供の背丈ほどもある特大のぬいぐるみ。
真理亜はホワイトタイガーをぎゅっと抱きしめ、「天ちゃんお兄ちゃん……ありがとう! 真理亜、ずっと大事にするね!」と、弾けるような笑顔を向けた。
深雪も自分とほぼ同サイズのコアラを必死にホールドし、天の脇腹に顔を埋める。
「……てんちゃん、……最高。……みゆき、……これで夜も、……寂しくない」
美和はその光景を、慈しむような瞳で見守っていた。
「天ちゃん、あなたも立派な『サンタクロース』ね」
第二章:南端の薫風と、踊る黄金
平川動物公園を後にした一行は、さらに南へと舵を切った。目的地は、薩摩半島の南端に位置する指宿。
真理亜ちゃんに見せてあげたいのは、動物たちの躍動だけではない。この土地が育んだ、力強くも繊細な「食の鼓動」もまた、天が贈りたい体験の一つだった。
国道225号線を南下し、左手に穏やかな錦江湾、右手に開聞岳の端正な姿を望むシーサイドドライブ。
ソニックブルーマイカのエクシーガGTは、アップダウンの続く海岸線を滑らかに走り抜けていく。
「真理亜ちゃん、あの山は『薩摩富士』って呼ばれているんだよ。とっても綺麗だろう?」
天が指差す先、円錐形の美しい山容が青空に真っ直ぐ突き刺さっていた。
「富士山みたい! 天ちゃんお兄ちゃん、あの山もお空を怒ってるの?」
「ふふ、あちらは静かに、私達を見守ってくれているみたいね」
美和が優しく微笑む。
三列目では、深雪が窓に鼻を押し付け、潮の香りを肺いっぱいに吸い込んでいた。
「……海の匂い。……削り節の、……気配。……ターゲット、……近い」
指宿市内に到着した一行が向かったのは、地元でも評判の『元祖・指宿鰹節ラーメン』の名店。暖簾をくぐった瞬間、店内を支配する芳醇な出汁の香りに、真理亜と深雪の瞳が同時に見開かれた。
「お待たせしました!」
運ばれてきたのは、丼を覆い尽くさんばかりの、文字通りの山盛り鰹節。指宿特産の最高級「本枯節」を、提供する直前に極薄に削り出した逸品だ。
「わあ……! トラさんのたてがみみたい! 鰹節さんが、踊ってる!」
真理亜が歓声を上げる。熱いスープの湯気に乗って、極薄の鰹節が「ゆらゆら」と、まるで生きているかのように複雑なダンスを踊っている。
「……すごい。……動いてる。……精密機械の、……パーツみたい。……綺麗」
深雪もその幻想的な動きに釘付けだった。黄金色の瞳をキラキラと輝かせ、箸を付けるのも忘れて丼を凝視している。
一口啜れば、鶏ガラと魚介のダブルスープに、追い鰹の旨味が爆発的に広がっていく。
「……んん! 美味しい! 天ちゃんお兄ちゃん、お口の中が幸せでいっぱい!」
「あらあら、まあまあ♪ 二人とも、そんなに慌てなくても鰹節は逃げませんよ」
千草が楽しそうに笑いながら、二人の口元を優しく拭う。美由紀さんも、その力強くも上品な出汁の味わいに、「こんなに美味しいラーメン、初めていただきました……」と、深く感動していた。
第三章:青の深淵と、黒潮の記憶
指宿の鰹節ラーメンで心もお腹も満たされた一行は、再びエクシーガGTに乗り込み、帰路の途上へとついた。
次なる目的地は、鹿児島港にほど近い『いおワールドかごしま水族館』。指宿スカイラインを経由して一気に北上する山道のワインディングも、水平対向ターボの力強いトルクによってエクシーガは何の苦もなくクリアしていく。
車内では、巨大なホワイトタイガーとコアラのぬいぐるみが三列目を占拠し、真理亜と深雪はその「新しいお友達」に囲まれながら、楽しそうに身を寄せ合っていた。
水族館の入り口をくぐり、エスカレーターを上がった先。一行を待っていたのは、世界最大の魚類、ジンベエザメが悠々と泳ぐ「黒潮大水槽」だった。
「わあ……! 海の中に、お星様が泳いでるみたい!」
真理亜がガラスに張り付き、声を上げる。ジンベエザメの背中の斑点模様が、深い青の中でキラキラと輝き、まるで夜空をそのまま水に沈めたような美しさだ。
「……大きい。……潜水艦みたい。……音がない。……カッコいい」
深雪も黄金色の瞳をかつてないほど見開き、その巨大な影を追いかける。彼女の「白梟」としての鋭い感性が、巨大な生命体が放つ圧倒的な静寂と調和していた。
「真理亜ちゃん、あのジンベエザメは『ユウユウ』っていう名前なんだよ。鹿児島の海には、こんなに大きなお友達がいるんだね」
天が優しく教えると、真理亜は「ユウユウさん、真理亜たちのこと見えるのかな?」と小さな手を一生懸命に振っていた。美由紀さんはその光景を隣で見守りながら、天のさりげない気遣いが真理亜の世界をどんどん広げていくことに、深い感謝を抱いていた。
続いて向かったのは、「イルカの時間」を間近で見られるプール。
「あらあら、まあまあ♪ あんなに高く飛べるなんて、魔法みたいですね」
千草が楽しそうに手を叩く。イルカたちが水面を割り、空高くジャンプするたびに、真理亜と深雪にきらきらとした水飛沫が舞い降りた。
「……速い。……自由。……深雪も、……あんなふうに、……舞いたい」
深雪がイルカの動きに合わせて八卦掌の足運びを無意識に真似ようとして、天に「深雪、ここは道場じゃないよ」と優しく窘められ、少しだけ頬を膨らませる場面もあった。
美和は、そんな賑やかな一行の背中を見つめながら、バーテンダーとしてではなく、一人の女性としてこの穏やかな時間を噛み締めていた。天がくれたこの旅は、まだ「家族」ではない美由紀さんたちとの間に、言葉を超えた確かな信頼の糸を紡いでいる。
第四章:夕暮れの帰路、聖域への帰還
水族館を出る頃、鹿児島港には静かに夕闇が降りてきていた。対岸の桜島が、紫色の綺麗なシルエットとなって海に浮かんでいる。
「さあ、みんな。風花町に帰ろうか」
天の言葉に、真理亜が少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐに三列目のホワイトタイガーを見つけて笑顔に戻った。
「天ちゃんお兄ちゃん、ありがとう! 真理亜、今日のこと一生忘れない!」
九州自動車道に入ると、一日の興奮が心地よい疲れへと変わっていく。
三列目では、巨大なホワイトタイガーを抱いた真理亜と、コアラを枕にした深雪が、寄り添うように深い眠りに落ちていた。
美由紀さんは、助手席の美和と、ハンドルを握る天の力強い横顔を見つめ、静かに心の中で呟いた。
(いつか……本当に、この人たちの家族になれたら……)
ソニックブルーマイカのエクシーガGTは、思い出という名の重く温かな荷物を乗せて、月明かりに照らされた夜の九州路を、ボクサーエンジンの力強いビートとともに走り続けた。
そこには、再び日常という名の聖域――『Bar 風花』の灯りが、彼らの帰りを待っている。
【あとがき】
今夜も『Bar風花』にお越しいただき、誠にありがとうございます。
今回は、鹿児島旅行二日目の賑やかで心温まる一日をお届けいたしました。
平川動物公園でのホワイトタイガーやコアラとの出会い、指宿の鰹節ラーメン、そしてかごしま水族館での雄大なジンベエザメ。
真理亜ちゃんと深雪ちゃんの素直な歓声と、二人に大きなぬいぐるみを贈る天ちゃんのサンタクロースのような温かさ、そしてそれを見守る美和さんや美由紀さんの穏やかな心の交流を描かせていただきました。
まだ言葉通りの「家族」という形ではなくとも、旅の思い出を一つずつ重ねることで芽生えていく確かな絆と、聖域へと帰る温もりを感じていただけましたら幸いです。
作品を少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク登録や下の評価欄(★★★★★)、温かいご感想などをいただけますと、次の物語を紡ぐ大きな大きな励みとなります。
またのご来店を、心よりお待ちしております。
天照(Bar風花)




