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【Bar風花】第二章 縁側に灯る炭火と芋の香り 〜骨抜きチキンとカリカリ豚足の甘い誘惑〜

【前書き】


※ 本作は『Bar 風花』の定休日を描いた、とある日の物語です。

※ 美和のオフの顔や、深雪の大好物を囲む賑やかな食卓をお楽しみいただけます。

※ 作中に登場するお酒『月の中』およびお料理は実在・再現可能なものです。


夕闇がゆっくりと風花町を染めていく頃、平屋の縁側にはパチパチと炭の爆ぜる音が優しく響いています。

グラスを置いたバーテンダーが、ひとりの女性に戻る特別な日。

ふくよかな芋焼酎の香りと七輪の温もりに包まれた、甘やかで温かな宵のひととき。

どうぞ、そっとカウンターの向こう側を覗いてください。

 夕闇が静かに風花町を包み込み始める頃、平屋の縁側からはパチパチと心地よい炭の爆ぜる音が響いていた。

 本日は『Bar 風花』の定休日。普段の凛としたプロの顔をすっかり下ろした美和は、髪を緩やかに束ねたラフな部屋着姿で、縁側にちょこんと腰掛け、天の隣にぴったりと身体を寄せていた。その右腕にすがりつくようにして、異色瞳をトロトロと細めている。

「……んふふ、天ちゃん。今日はお仕事お休みだから、ずっと天ちゃんのお隣にいられる……♪」

「美和さん、危ないよ、七輪の火が近いからね。でも、こうやってのんびり過ごせるのは嬉しいね」

 天は穏やかに微笑みながら、団扇を手に炭火の勢いを調整している。そこへ、ほんのり頬を桜色に染めた千草がおっとりと姿を現した。片手にお料理が載ったお盆を持ち、もう片方の腕で一升瓶を大切そうに抱えていた。

「あらあら♪ 美和様ったら、本当に天さんから離れませんわねぇ。ふふ、お待たせいたしました! お昼の買い出しで仕入れてまいりました、みゆきちゃんの大好物づくしでございますわ♪ 今日の飲み物は、宮崎の伝統的な本格芋焼酎『月の中(つきの中)』をご用意いたしました」

 千草の言葉が終わるか終わらないかのうちに、気配もなくすっと現れたのは、純白のボブヘアに黄金色の瞳を輝かせた深雪だった。小柄な体を天の背中にくっつけ、コアラのようにぴたっと張り付いている。

「……てんにぃ……。……ちぐ姉ぇが……みゆきのごちそうと……『つきのなか』……もってきた……」

「あはは、深雪ちゃん、起きたんだね。よしよし、一緒に食べようね」


◇


 食卓に並べられたのは、綺麗なサシが入った見事な馬刺しのふた皿。鮮やかなピンク色の身に白い粉雪のような脂が網目状に広がる「霜降り」と、深紅の宝石のように澄んだ輝きを放つ「上赤身」だ。脇には特製のさらし玉ねぎとおろし生姜、柚子胡椒、そして九州の濃厚な甘口醤油が添えられている。

「……ん( ´∀` )✨ ……ばさし……。……みゆき、これ……だいすき……」

「ふふ、みゆきちゃん、冷たい馬刺しなら火傷の心配もございませんから、安心してお召し上がりくださいな♪」

 猫舌の深雪にとって、冷たい馬刺しは自分のペースで無限に食べられる最高のごちそうだ。上赤身でさらし玉ねぎを生姜醤油とともに手際よく巻くと、小さな口で(はむっ)と頬張る。

「……ん……! 赤身と玉ねぎ……さっぱりしてて……無限にいける……。……てんにぃも、あーん、する……? ……みゆきが、たまねぎ巻いてあげる……」

「ありがとう、深雪。あーん……ん、美味しい! 玉ねぎのシャキシャキ感とお肉の旨味が最高だね」

 千草がロックグラスの氷へ向けて『月の中』を静かに注ぎ入れると、ふわりと芋焼酎ならではのふくよかな香味が穏やかに立ち上った。

「この『月の中』のロックは、馬刺しの甘口醤油と脂の旨味を優しく包み込んでくれますわね。美和様、どうぞ」

「んん〜っ! ロックでキュッと締まった芋のまろやかな甘みが、お肉の脂をすっと切ってくれて最高……! 甘口醤油との相性も抜群ね。千草、買い出しありがとう!」


◇


「それから美和様、昼間に商店街で仕入れたお野菜とお豆腐たちも、小鉢にしてお持ちしましたのよ」

 千草が最初に出したのは、ひんやりと冷やされた『ナスとパプリカの出汁浸し』だ。素揚げされたナスと赤・黄のパプリカが、澄んだ出汁の中で艶やかに輝いている。

「わあ、色鮮やかで綺麗! ナスが出汁をたっぷり吸ってて、パプリカの甘みがすっごく濃密……!」

 美和が一口食べて目を輝かせると、千草がすかさず「『月の中』を水割りにいたしますと、お出汁の旨味と芋のやわらかな甘みが綺麗に寄り添って、後味がとても軽やかになりますでしょう♪」とおっとり微笑む。

 深雪も小鉢からナスをちょこんと箸でつまみ、冷たい出汁と一緒に(はむっ)と口に運んだ。

「……ん……! ひんやりしてて……ナスがじゅわってなる……。……てんにぃ、パプリカあまい……」

「本当だね。優しい出汁の旨味と芋の甘みがすごくよく合って、ほっとする美味しさだよ」


◇


 続いて食卓を彩るのは、甘辛いタレの香ばしい匂いを漂わせる「名古屋風チキンバー」。カラリと揚がった手羽中に濃厚な甘辛タレが絡み、たっぷりと振られた白ごまと黒胡椒が食欲を激しくそそる。

「……てんにぃ……深雪チキンバー……(ちょこん)」

 深雪が天の袖をちょこんと引っ張る。千草がすかさず「ちぐ姉ぇ特製の素早い骨抜き解体」でチキンバーの骨をサッと取り外すと、深雪はお箸でちょこんとつまんで(はむっ)と口に運んだ。

「……ん……! サクサク……タレが甘からくて……おいしい……。……あ……(お口の周りにタレがついちゃった)」

「ふふ、みゆきちゃん、お口の周りが大変なことになっていますわ♪ はい、ふきふきいたしましょうね」

 千草が優しくハンカチで拭き取り、美和が冷たいお茶をセットする完璧な「櫻庭家甘やかしフォーメーション」。美和も千草が手際よく骨を外してくれたチキンバーを受け取ると、サッとかぶりつき、追うように水割りにした『月の中』を口に含んだ。

「はぁぁ……濃厚なタレに、水割りのやわらかな芋の旨味が寄り添って幸せ……♪」

 と息を吐く美和の横で、天も「本当、この組み合わせはたまらないね」と嬉しそうに目を細め、グラスを傾ける。


◇


 ここで千草が端の方へ、分厚く切り分けた『厚揚げの生姜ネギ味噌焼き』を並べた。香ばしい味噌と刻みネギ、おろし生姜の香りが炙られて一気に立ち上る。

「厚揚げは表面をカリッと香ばしく焼いて、この甘辛い生姜ネギ味噌をじっくり焦がすのが一番でございますわ♪」

「うわぁ、この焼き味噌の匂いだけで『月の中』が飲めちゃいそう……!」

 千草が「温かい厚揚げには、お湯割りがよく合いますわ」と、湯気がふわりと立ち上るグラスを差し出す。

 美和が香ばしく焦げ目のついた厚揚げを口に運び、そのままお湯割りの『月の中』を口に含む。厚揚げの香ばしさと豆腐のコク、ネギ味噌の辛味が、お湯割りによって解き放たれた芋のふくよかな香りと見事に調和する。

 深雪も天に小さく切り分けてもらった厚揚げを大事そうに頬張ると、サクサクの皮となめらかな豆腐の食感に目を細めた。

「……ん……! お味噌がこうばしくて……おいしい……。……てんにぃ、このお豆腐……すき……」


◇


 そして、本日のメインイベント。精肉店で丁寧に下処理された「豚足」の炭火焼きだ。

 あらかじめ柔らかくボイルされた豚足を、天が七輪の網の上へと並べる。ジューッという音とともに余分な脂が落ち、香ばしい煙が立ち上る。豚足がじっくり焼き上がるのを待つ間、千草が熱々の小鉢をそっと添えた。

「こちらは商店街の豚肉と豆腐、たっぷりのネギを合わせた『豚肉と豆腐とネギの旨辛生姜炒め』でございます。生姜の風味が効いておりますので、『月の中』のロックと合わせると脂の甘みが引き立ちますわ♪」

「……とんそくカリカリ……。……てんにぃ、まだ……?」

t豚足に夢中な深雪は、七輪の上をじっと見つめている。

「もうすぐだよ。豚足は表面をじっくり焦げ目がつくまで焼いて、皮目をカリッとさせるのが一番美味しいんだ。よし、出来上がり!」

 天が炭火でキツネ色に焼き上げた豚足を皿へ盛り付ける。熱々の湯気が立つカリカリの豚足を目にした深雪は、身を乗り出して小さな口を開けた。

「……ハフッ……あつッ……!(うるうる)」

 やはり重度の猫舌、焼き立ての熱さに目が涙目になってしまう。

「あはは、危ない危ない。深雪、待っててね。フーフー……フーフー……はい、これで熱くないよ」

 天が優しく「フーフー」と息を吹きかけて適温に冷却した豚足を渡すと、深雪はぱっと表情を輝かせて(はむっ)とかぶりついた。

「……んっ……! かりっ……トロ〜ッ……! ……カリカリのなかが……トロトロ……! ……てんにぃのフーフー……とってもおいしい……♪」

「ん〜〜っ!! この豚肉と豆腐の炒めもの、生姜が効いててお酒が止まらないよ〜!」

 さらに美和は深雪に負けじと香ばしい豚足にかぶりつき、溢れるコラーゲンと濃厚な旨味に「んん〜っ、表面はパリッパリで中がトロトロ……! 天ちゃんの焼き加減、天才的……!」と目を輝かせる。

 お口の周りをツヤツヤにさせて嬉しそうにはむはむと頬張る深雪の姿に、千草はおっとりと微笑みながら温かいおしぼりを手に取り、その口元を優しく拭い取ってあげた。

「ふふ、みゆきちゃん、お口の周りが美味しそうなことになっていますわねぇ♪」

 天と美和もおしぼりで手を整えつつ、湯気がふわりと立ち上るお湯割りのグラスに手を伸ばす。その光景を満足そうに見つめながら、千草は優しく言葉を添えた。

「香ばしく焼き上げた豚足や厚揚げの濃厚な脂には、やっぱり温かいお湯割りがよく合いますの。『月の中』のふくよかな芋の甘みが引き立って、お口の中の脂を綺麗に包み込んでくれますでしょう?」

 縁側に流れる、ゆるやかで温かな時間。大好物とお野菜たっぷりの料理でお腹いっぱいになり、天の膝の上で満足そうに目を細める深雪の笑顔と、七輪の温もり。そして大好きな人たちの幸せな笑い声と『月の中』の香ばしい余韻に包まれながら、櫻庭家のおうち居酒屋タイムはどこまでも賑やかに、甘く深まっていくのだった。

【あとがき】


最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

今回は『Bar 風花』の定休日、櫻庭家のごちそうタイムをお届けいたしました。

日頃は凛としてカウンターに立つ美和さんが、天ちゃんの隣でトロトロに甘える姿や、「甘やかしフォーメーション」に守られながら冷たい馬刺しや炭火焼きを楽しむ深雪ちゃんの可愛らしさを感じていただけましたら幸いです。

宮崎の伝統的な芋焼酎『月の中』は、ロック・水割り・お湯割りと飲み方によって多彩な表情を見せてくれます。脂の乗った料理やお出汁、焼き味噌の香ばしさと重なる最高のペアリングを、ぜひ想像しながらお楽しみください。


作品を気に入っていただけましたら、下部の【ブックマーク追加】や【評価(★★★★★)】、温かいご感想をいただけますと大変励みになります。


皆様の夜が、心地よい一杯とともに穏やかでありますように。

天照(Bar風花)

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