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 隼人が家に帰って目についたのはリビングのテーブルに乗っていた新聞紙の一コマだった


『元いじめられっ子、年商10億の社長に!!秘訣は耐えぬく事!!』


 僕は後どれだけ耐えればいいんだろう…隼人はそう思いながら、自分の部屋へと進んでいった


           ◯


 隼人の通う学校は東京都内にある私立学校、隼人が通うクラスではいつもの日常がある、それは教室の後ろで行われている暴力、それを受けているのは隼人、彼は虐められているのである


 殴る、蹴るなどの暴行を受け隼人の体は毎日のように怪我を負っている、それは表に見える怪我や、服などに隠れる怪我と様々である、表に見える怪我は、親には部活で怪我をしたと嘘をつき誤魔化している


 そして今日も隼人はいつものように暴行を受けていた


「おらっ!」


 隼人を殴る人物、いじめの主犯格である上畑隆次、彼は取り巻きに隼人を羽交締めにさせ意気揚々と殴っている


「おい、真野しっかりと押さえとけよ!」


 そう言って隆次は後ろへと下がり、助走できる距離を取ると走り出し隼人の首へと自分の腕を全力でぶつけるラリアットを放った


「っかはぁ!…」


 隼人は床へと倒れ込み、口からは唾液が垂れ流れている


 すると教室の前のドアが開き隼人達のクラスの担任である前川悠斗が入ってきた


「お前ら、席につけホームルームを始める」


 担任である悠斗はまるで何もないかのように淡々と席に着くようにと生徒達にいう


 席から離れていた生徒は隼人を除いて、全員席につきそれから少ししてから隼人は体を引きづりながら自分の席に着いた


 そして悠斗は出席確認取り終え、必要最低限の連絡事項を伝えると教室を出て職員室へと戻っていった


 この学校に隼人の味方はいないのだ、一緒に育った幼馴染も、部活動で仲良くなった友人も、クラスの担任、誰一人として彼を助ける者はいない


            ◯


 市川隼人がいじめられるようになった原因はとても単純だ、隼人は最初はいじめられていなかった、最初にいじめられていたのは、隆次がラリアットをする時隼人を羽交締めにしていた真野大希だったのだ


 隼人は別に正義感が人一倍強いわけでもなかった、しかしあの日、幼馴染の日名川美織が「いじめをする人って最低よね」そう言ったのを聞いたからか、それともただ単に気まぐれなのか、隼人は隆次が行っている大希へのいじめを止めてしまったのだ


「もうやめてあげようよ」


 その一言が彼の地獄の日々の始まりだった


 今まで隆次やその取り巻き達にいじめられていた大希はターゲットから外れ代わりに隼人が隆次達の暴行の対象へと変わったのだ


 最初は我慢していればすぐに興味をなくしこの暴行も終わると隼人は思っていた


 しかし暴行は1週間2週間経っても終わる事なく、1ヶ月2ヶ月と過ぎていき半年経ち、今では2年生の12月になっていた


 そして彼にとっての地獄は、ただ暴行を受けているだけではなかった、助けたられた大希は隼人に感謝もせずにあろうことか、いじめられる側からいじめる側になった、最初こそ隆次に命令され怯えながらだったが、人とは慣れるものでいつからか怯えは消え、やられる側だったのがやる側になったからか気が大きくなり、今では隼人に暴行を加えることに楽しみすら覚えている


 さらには「いじめをする人って最低よね」と言っていた幼馴染の美織は今、その最低と揶揄していた隆次と付き合っており挙句「いじめられてて何もできないなんてすごくダサいよね」と隼人のことを見下してすらいる


 朝は暴行、昼も暴行、授業が終わり夕方になっても暴行、馬鹿の一つ覚えのように暴行しか行われていないが、様々な裏切りにより彼は暴行に受ける痛みよりも心に負っている痛みの方が大きかった


 始めのうちこそ担任である前川悠斗に助けを求めようとしたが隼人はそれをやめた、なぜなら悠斗が隼人を助けることができないことを知っていたからだ


 まだ大希がいじめのターゲットだった頃、悠斗はいじめを止めようとしていた、隆次にやめるよう注意もした、それに対して隆次は返事をするがそんなのはただの空返事でしかなくやめることはない


 そして悠斗は学校長に直接いじめの件伝えたが校長は、無視をしろと命令した、隆次の親は学校の建っている地域での有力な政治家であり、多額の寄付もされている、それに体裁を機にする校長にはいじめがあると学校の評判が悪くなると言いむしろ揉み消せという始末であった。

 隼人はそのやりとりをたまたま校長室の前を通りかかった時聞いてしまったのだ、それを聞いたからこそ教師からの助けがないことを彼は知っていた


            ◯


 昼休みの弁当の時間になると隼人は弁当を持ちすぐに教室を出る、教室にいると隆次達からの暴行を受けてまともに弁当を食べれないからである


 隼人は毎日食べる場所を変え隠れるように弁当を食べている、しかしそれはほとんど意味をなさない、隆次の取り巻きの誰か一人が彼を尾行して隼人の邪魔をするからだ、だからできるだけ隼人は急いで弁当を食べる、そうしないと弁当に土を混ぜられたり、朝のように暴行を受け、そもそも食べることすらできないからだ


 そして隼人はいつものようにすぐに教室を出ると、隆次達はニヤニヤと笑いながら隼人が教師を出るをのを見ていた。隼人はそれを感じながら怯えながら、そそくさと食べる場所を決め隠れ急いで弁当を食べ始めた


 しかしこの日、隼人は何事もなく弁当を食べることが出来た、久々に何事もなく弁当を食べるが出来た隼人は昼休みが終わるギリギリまでその場に留まり、終わる頃に教室に戻ることにした


 教室に戻り隼人は教室のドアを開けるとそこには隆次が待っていたかのようにいた、そして


「おっら!!戻ってくるのが遅ぇだよ!!」


 強烈な一撃が隼人の腹を襲う、そしてご飯を食べて間があまりないこともあり隼人は吐いてしまい、床には隼人の吐瀉物が広がる


「ふざけんなよ!!きたねーなー!!テメェのクソみてえな母親が作ってくれた大切な弁当だろう、吐いてんじゃねーよ!!」


 そう言って隆次さらによろめいている隼人に蹴りを入れる

 それを見ている隆次の取り巻き達はクスクスと笑っている、大希はまるでとびっきり面白い漫才でも見たかのように腹を抱えて大袈裟に笑っていた


 隼人は吐瀉物を吐いたままその場に倒れ込んだ


「えっ…何気持ち悪い…」


 倒れ込んでいる隼人の後ろからそう言ったのは、友人達と屋上で弁当を食べて戻ってきた美織だった


「ほんとうに気持ち悪い、ゴキブリよりも気持ち悪いわ、早くなんとかしてくれない」


 幼馴染は心配するそぶりすら見せず、それどころから、ゴキブリ以下と蔑み自分の席へと戻っていった


 隼人の心は今にも崩壊寸前だが隼人は親に迷惑を心配をかけまいとする思いだけでなんとか耐えていた、しかしそれもいつまで待つかわからない、彼の心はもう、少しの力が加わっただけで割れてしまいそうなくらいにヒビが大量でボロボロの状態だった


 そして、痛みが落ち着いてから隼人は自分が吐いた吐瀉物を清掃し出した、それを手伝う者は気にするものは誰一人としていなかった


            ◯


 全ての授業が終わりホームルームも終わるとその日の最後の暴行が始まる。夕方の暴行はその後に何もないため、どの時間帯よりも長い暴行を受ける、隆次とその取り巻きを含んだもの達が変わりがわりに殴る蹴るを繰り返す。


 顔を殴るもの、腹を蹴るもの、隼人は様々な暴力を受ける。1日の中でこの時間が隼人にとって最も苦痛の時間である


 1時間ほど経ってようやくその日のイジメに飽き隆次達は倒れている隼人を放置して教室を出て帰っていった


 今日の地獄が終わった隼人はフラフラにならながら家に着いた


「ただいま」


 隼人がそう言うもいつもなら「おかえり」と母から返事が返ってくるがこの日は返事が返ってこなかった


 晩御飯の食材を買いに行っているのだろうと隼人は思い、リビングに向かいテレビのリモコンを手にしてテレビの電源のスイッチを押した


 テレビをつけるとある会社の社長のドキュメンタリーがやっていた


 隼人はその社長をどこかで見たことがあるよな気がした、実際に生で見た訳ではないがどこかで見た覚えがある


 そしてテレビ画面のの左上の端に元いじめられっ子社長という見出しがあるのを見て、いつか新聞で見た社長だと気づいた


 たしか『元いじめられっ子、年商10億の社長に!!秘訣は耐えぬく事!!』とかいう見出しだった気がする、その社長のドキュメンタリーのようだ


 あの時はいじめを思い出したくないためにその記事を読もうとしなかったが、今はなぜかそれを見ようと隼人は思いチャンネルを変えずにそのドキュメンタリーを見出した


 テレビに映っている男性は「自分が高校生の頃は毎日のように殴られ、トイレでは水をかけられ、教科書は破かれると酷いいじめを色々と受けていました」それを聞き隼人はどんなところにも隆次のような人間がいてまた自分と同じ人間もいるのだと思った


 男は続ける「しかし今はどうですか、僕は年商10億の社長、タワーマンションの屋上に住んでいる、僕のことをいじめていた人たちは汗水垂らして働いてやっと生活している毎日、ある日いじめをしていた内の一人が僕の前までやってきたんです。そしてお金がなくて困ってるんだ、俺たち友達だろ、友達の頼みだ助けてくれないか?と言ってきたんです」


 男は笑いながら続きを話す「まだ僕をいじめられていた頃の弱い人間だと思ったのかすごく上から目線で笑えましたよ、それで僕は言ってやったんですよ、僕の友達に君みたいな野蛮な何も考えてなさそうな人はいなかったけどな、あーでも僕の嫌いな同級生に君みたいなバカそうな面をしている最低な人間はいたな、って言ったんです」


 男の話を聞いているレポーターの人は若干引き攣った顔をしていたが男はお構いなしに喋る「いじめをしてきた人間は変わらないもので、頭に血が昇ったのか、僕に襲い掛かろうとしたんですが、会社の前だったので警備員に取り押さえられ、そのまま警察に引き渡しましたよ、変わる努力をしなかった末路ですね」


「なるほど、変わる努力をした社長と変わる努力をしなかった同級生ということですね」


 レポーターがそういうと男は含み笑いを浮かべ鼻で笑った


「そうですね、その通りですね」


「では最後に何か伝えたいことはありますか?」


 レポーターはこれで終わりと言うように男に聞いた


「じゃあ最後にもしこれを見ている人に今いじめられてる人がいたら、まずは耐えてくださいそして今自分をいじめてる人達を見返すことを原動力にして変化を求めてください、そうすればいつか必ず日が昇る日が来るはずです」


 男がそう言ってからレポーターが締めの言葉を言うと番組は終わった


(耐える?僕はもう充分耐えたんじゃないの?いつかっていつ?2年生が終わるまでのあと3ヶ月それとも卒業するまで?さっきの人は成功したみたいだけど僕は成功できるの?隆次君は僕をいじめていたことなんか忘れてのうのうと親の力を使って生きていくに違いない、なんで…どうして…僕はこんなにも耐えないといけないの)


 隼人の心は何かに押されたような感覚がしたそれと同時にヒビだらけだった心が、高いところから落とされた、ガラスのコップのように砕け散った

 そして彼の心の考えに黒いモヤが立ち上った

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