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第六話「初任務」

 朝が来た。


 空はまだ薄い青。街は眠りの名残を残している。


 だというのに、ギルド前はすでに人だかりができていた。


 冒険者たちの会話、武器の音、獣の匂い。生きている音が、早朝の冷たい空気に満ちている。


「じゃ、行きましょうか」


 ユーニスの声に、永和はコクリと頷いた。


「うん……いよいよ、初仕事か……」


 受けた依頼は、“指定区域に現れた低級魔物の駆除”。


 森の中に出現した、小型の魔物を三体倒すというものだ。


 初めての依頼としては無難。とはいえ油断は禁物。永和の胸は、少しだけ緊張で高鳴っていた。



 森までは街から小一時間ほど。


 道中、ユーニスが少しずつアドバイスをくれる。


「いい? 森は生態系があるから、できるだけ魔法は節度を持って使うこと。特に、広範囲に影響が出る攻撃は避ける」


「そ、そっか……うん、気をつける」


「あなたの魔力量は異常だから、ちょっとの出力でも地形に影響が出るのよ。威力を抑えて、精度を上げること。今後、絶対に必要になるから」


「は、はい……っ!」


 森の入り口に立つと、緑が目に優しい。


 陽の光が木々の隙間から差し込む静かな空間。だがその奥には、確かに“魔物”が潜んでいる。


 永和は、ぐっと拳を握った。


「ここが、依頼の森か……」


「静かに。聞こえる?」


 耳を澄ませると、ガサガサという音。小さく、だが確かに草をかき分けるような気配。


 茂みの影から現れたのは、黒い毛並みの獣。猫と猿の中間のような、三本足の魔物が三体、並んでいた。


「……いた」


「ちょうど三匹。ラッキーね」


「うお、マジか。じゃあ二人で……」


「いえ。あなたが全部、やるの」


「えっ」


「初依頼。練習台には丁度いい。……やれるでしょ?」


「えぇ~~~……」


 不安の入り混じった声を出しながらも、永和は前に出た。


「そ、それじゃあ……行きます……!」


 まずは出力を抑えて、最小範囲で、ピンポイントに……!


「簡易、魔法っ!!」


 ドンッ!!


 魔物一体が、破裂するように吹き飛んだ。


 地面もめくれ、周囲の草木がざわりと揺れる。


「くっ……ちょっと強すぎた……!」


 反省しながら、二体目へ。


「これでも喰らえっ!」


 ドドンッ!!


 木の幹が裂け、落ち葉が舞う。魔物は姿ごと塵に消えた。


 三体目も同じように爆破。終わった時には、三体すべてが跡形もなく消えていた。


 そして――


 周囲の森の地面に、きれいな大円が描かれていた。


 爆風で押し広げられた跡だ。樹皮がはがれ、草が吹き飛び、虫の声も静まり返っている。


「……」


「…………」


 視線を感じて振り返ると、ユーニスが腕を組んでいた。


 口元は笑っていない。


 目が冷たい。


「……何してんの?」


「ご、ごめんなさい……」



 森の静けさが戻った頃、ユーニスが再び口を開いた。


「で、討伐の証は?」


「え? 証?」


「ギルドに報告するには、“討伐した証拠”が必要なの。角とか爪とか。体の一部を切り取って持って帰るのが基本」


「えっ……でも、俺、魔物を……全部……粉砕しちゃった……」


「……」


「……ご、ごめんなさいっ!!」



 もう一度、森の奥へ。


 今度はユーニスが前に出る。


 目にも止まらぬ速さで踏み込んだかと思うと、彼女の剣が閃いた。


 スパッ、と音もなく魔物の首が飛び、地面に転がる。


 二体目も、剣が描く赤い軌跡とともに倒され、三体目は脚を斬られて転ばされ、そのまま首を跳ねられた。


 どれも、必要最小限の動きだった。


「すご……」


 永和は、口をぽかんと開けて見ていた。


 倒れた魔物から、ユーニスが角を切り取って小袋に収める。


「これで三体分。これが証」


「うん……ありがとう……」


 戦えなかったわけじゃない。


 ただ、“倒すだけ”ではダメだということが、ようやくわかった。


 街で魔法を暴発させれば、人を傷つける。


 森で大爆発を起こせば、生態系を壊す。


 魔法は、強ければいいってものじゃない。


(少しずつでいい、ちゃんと“使える魔術師”にならないと……)



 街に戻る頃には、日が暮れ始めていた。


 ギルドで報告を済ませ、証の袋を提出。報酬は銀貨三枚。


「初依頼、お疲れ様。上出来、とはいかないけど、まあ……無事だったからいいわ」


「うん……ありがとう。ほんと、色々、勉強になった」


 ユーニスは軽く笑って言う。


「爆破以外もできるようになりなさい」


「はい……っ!」


 二人で並んで、宿へ向かう。


 街の灯りが、静かに二人を照らしていた。

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― 新着の感想 ―
僕も簡易魔法使いたい!!
私も環境を守るようにしたいと思いますよ
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