表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/48

第三話「簡易魔術」

 朝だった。


 鳥の鳴き声で目を覚ました永和は、頭上に広がる柔らかな空色に、ほんの少し現実感を取り戻す。


 昨日は、爆破。


 魔物を爆破。


 地面を爆破。


 そして寝床も、なんか爆破しそうになってユーニスに怒られた。


「……魔術師って、もっとスマートなもんだと思ってたんだけどなあ……」


 ぼやきながら起き上がると、隣でユーニスが焚き火の準備をしていた。


 フードを脱いだ彼女の金髪が、朝の光でさらさらと揺れる。


「起きた? 水、汲んであるわよ」


「あ、ありがとう……ユーニスって、ほんと頼りになるな……」


「魔力放出しかできない爆破男よりはね」


「ぐっ……!」


 思わず刺さる言葉に、永和は地面に崩れ落ちそうになった。


「今日は、近くの街に行くわよ」


「街……」


「えぇ、チィア王国という国の領土にある、ザキカメアという街よ」


 その響きだけで、少し胸が高鳴る。


 転生して三日目。ようやく“人のいる場所”に行ける。


「街には何があるの? というか、この世界って、常識とか文化ってどんな感じなんだ?」


「歩きながら話すわ。準備して」



 森を抜けて舗装された街道へ出ると、視界が一気に開けた。


 土と石を混ぜた道の両脇には、点々と木々が並び、遠くに小さな建物の影が見える。


「まず、“アトリア通貨”ってのがこの辺り一帯の共通通貨。銀貨一枚で、街の宿が一泊できるくらい」


「ほうほう」


「チィア王国の言語は“共通語”がメイン。 文字は後で教える。 種族はいろいろいるけど、今の時期は人族が主流ね。 エルフや獣人、ドワーフもそれなりにいる」


「転生者とかは?」


「少ないし、目立つ。だから魔力とか、力を見せすぎない方がいいわ」


「……すでにめっちゃ爆破してますけど」


「そこなのよね。だから、街ではできるだけ大人しくしてなさい。下手に魔術使うと“呪術師”扱いされるわよ」


「それはヤバそう……」


 会話を続けながら歩く道中、突然、草むらが揺れた。


「……来たわね」


「魔物?」


「弱い個体よ。永和、やってみる?」


「お、任された!」


 草むらから現れたのは、モグラに似た二足歩行の小動物。丸っこい胴体と黒い目、そして鋭い爪が特徴だ。


 が――


「いけっ、俺の! 簡易魔術!」


 手のひらを突き出し、息を吐くように魔力を放出すると、ドカンッ!という音とともに魔物が煙の中に消えた。


 爆風、風圧、土煙。草木がなぎ倒される。


「……ちょ、ちょっとやり過ぎた? あれ、小動物じゃなかった?」


「やっぱり出力が大きすぎるのよ……まあ、結果オーライだけど」


「もう“爆裂高校生”って名前で生きてくしかないのかな、俺……」


 落ち込む永和に、ユーニスは肩をすくめて言った。


「威力だけは一流だから、いいじゃない」



 街が見えた。


 灰色の石造りの城壁に囲まれた中規模の都市。門の前には人々の行列と、警備兵らしき人物の姿がある。


「ここが……街……」


「“レイナード”っていう交易都市よ。冒険者も多くて、転生者には都合がいい場所」


 門を抜けて入った街の中は、まるでゲームのようだった。


 石畳の道、活気のある露店、行き交う人々の装備や衣装。


 金属鎧に剣を背負った兵士。肩にネコを乗せた獣人の女。浮いてる謎の水晶を操ってる魔術師らしき男。


「すご……」


「まずは宿を取るわ。あんた、何も持ってないでしょ?」


「う……確かに」



「部屋は一つしか空いてないわ。二人で使うしかない」


「えっ……」


 宿のカウンターでそう言いながら、ユーニスはさも当然のように鍵を受け取る。


 対して永和は、耳まで真っ赤になっていた。


(ま、待て……一部屋って、え、同じ部屋ってことだよな? いやでもユーニスは冷静……え、これ、ドキドキしてんの俺だけ!?)


「……なに黙ってんの?」


「い、いや別に!? べつに全然!? ふ、普通に寝るだけだし! 気にしてないし!!」


「……そ。変なことしたら燃やすからね」


「はい! 全力で健全で爆破します!」


「健全と爆破は共存しないわよ」


 半ば引きつった顔で部屋に入った永和は、木製のベッドが一つあるだけの簡素な室内に、とりあえず深呼吸した。


 ユーニスは荷物を椅子に置き、軽く背伸びしていた。


(ユーニスって、ほんと綺麗だよな……耳のこともあるけど、それでも美人だし、優しいし)


 無駄に鼓動が早くなる自分をごまかしながら、永和は気を逸らすように声をかけた。


「そ、そうだ、装備とか買った方がいいんじゃない? 服もこれ転生時のままだし……」


「そうね。じゃあ、買いに行きましょうか」



 街の道具屋で、永和はようやく“それっぽい”格好を手に入れた。


 黒い軽装のローブに、ベルトポーチ、魔力の流れを少し補助してくれるという簡易魔導手袋。


「これ……俺が払うべきじゃない?」


「いいわよ、出してあげる。あなた、何も持ってないんだし」


「でも、それじゃ流石に悪いっていうか……何かで穴埋めさせてください。働くとか、手伝うとか、なんでもするから」


 そう言った瞬間、ユーニスがくすっと微笑んだ。


 そして、さらっと言う。


「じゃあ、今日の夜、一つ頼みたいことがあるの」


「……え?」


「……?」


「ええええええええええ!?!?」


 部屋の鍵を握りしめたまま、永和の叫びが、レイナードの夕暮れに響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
勘違いしてる永和くんはずかしいよー
永和、覚悟はいいか?俺はできてる
初な永和くんが可愛いと思いますよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ