第十話「超大吉」
朝、俺は窓の外から差し込む光で目を覚ました。
見上げた天井は見慣れた木の板張り。
異世界に来てから、もう何日が経っただろうか――少しずつだが、この風景にも慣れてきた気がする。
体を起こすと、隣のベッドにはユーニスの姿。
珍しく、すやすやと寝息を立てていた。
「……なんか、すごい寝てるな」
軽く呟いた俺に、ベッドのユーニスが目を細めずに言った。
「色々あったし……今日は、休みにしよ」
「あ、起きてた」
「うん……寝るけど」
そう言って、もう一度体を布団に沈める。まじかよ。この人、意外なとこ多いんだよな……。
「……俺、ちょっと街を見てくるね」
「ん、行ってらっしゃい。あ、小遣い」
寝転がったまま、小袋を投げてよこす。
「面白い道具とかあったら買ってみて。いい経験になるから」
「……ありがたく頂戴します」
結局、彼女はそのまま微動だにせず寝息を立て始めた。
……ということで、俺はひとり街へ繰り出すことにした。
◇
街は朝から賑わっていた。
石畳の大通りには多くの人が行き交い、道端では露天商が大声で商品を宣伝している。
野菜の匂い、香辛料の匂い、獣の匂いが混ざり合って、活気に満ちた空気をつくっていた。
旅人風の格好をした男たちが行き交い、革鎧を着た冒険者たちが笑いながら通りを歩く。
(……この雰囲気、なんか良いな)
けど、活気がありすぎて、ちょっと落ち着けない。買い物とかも、どうしても人が多すぎて集中できない。
自然と人通りの少ない方へと歩を進めていた。
気がつけば、裏通りの狭い路地を歩いていた。
左右に並ぶ店は、どれも薄暗くて、どことなく怪しい雰囲気を醸している。
小瓶に入った怪しげな液体を売る男、色あせた薬草を棚に並べる女、歯のない笑顔で「いらっしゃい」と言う老人――
どこを切り取っても、雰囲気がある。
(おぉ、面白そう……)
そうして視線を巡らせていると、一つのテントが目に入った。
――“占いの館 ムトゥ”
建物ですらない。ただ道の端に小さなテントが張られており、そこに手書きの看板がぶら下げられていた。
“貴方の運命占います!! 一占いたったの銀貨3枚!!”
(……うわぁ、怪しすぎる。高ぇし)
普通なら、絶対に関わらない。
前世なら絶対にスルーしてた。
でも、今は――異世界。
もしかしたら、本当に“当たる”かもしれない。
「……うし、行ってみよう」
俺は、テントの入り口をそっと潜った。
◇
「やあ、いらっしゃい」
中にいたのは、全身に暗い紫のローブを纏った女だった。
その顔はフードの影で見えず、ただただ、どこまでもシンプル。
装飾もなければ、色味もない。
まるでただの布きれをかぶっただけの女。実に怪しい。
「う、占い一回、お願いします」
「ああ、いいだろう。銀貨三枚だ」
言われるがままに支払う。
女は手元の台に銀貨を並べると、両手をこちらに向け、ぶつぶつと何かを唱え始めた。
(……おお、始まった)
細い指がゆっくりと宙を描き、空気がわずかに揺らぐ。
不思議な空気感に、俺は自然と息を潜めた。
そして、数分後。
「……二つ、見えたよ」
「二つ……?」
「ああ。見えたのは、あんたの“明日の運勢”と……」
女の声がわずかに低くなる。
「あんたを襲う奴のこと」
「えっ」
なんか急に物騒な単語が飛び出してきたぞ。
「襲うって……俺を?」
「ああ。では、そちらから話そう」
女は静かに語り始めた。
その声は低く、だが不思議と耳に残る。
「黒髪の女だ。身長は高め。この辺では珍しい髪色だから、すぐに分かる。しかも……特殊なスキルを持っている」
「特殊な……」
なんかもう、この時点で嫌な予感しかしない。
今の話だけで、十分怖い。
だが、女の口からさらに続く言葉が、決定的だった。
「そして……“七日以内”に来る」
「……」
ぞくり、と背筋が震える。
(え、えええ……)
別に全部信じてるわけじゃない。
でも、異世界なんだ。
スキルとか魔法とか、占いだって本物でもおかしくない。
だんだんと、信じざるを得ないような、妙な空気に飲まれていく。
しかも七日って。
カウントダウンかよ。
「……はは、いやでも……」
苦笑しながらも、足が勝手に震えていた。
「それと、もう一つ」
「……はい」
女は、一拍置いてから言った。
「明日の運勢、だが……」
じらすように溜めた。
俺は思わず、息を止めてしまった。
女は少しにやけたように言った。
「超大吉」




