表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

ニルフのこと

 ルカーニの母方の祖父母、前子爵夫妻は、ルカーニの治癒の力を知らない。


 ジャックから「山に猛獣が多いわりに、里に降りてこない」と話が出た時、一瞬ルカーニに何か力があるのではないかと恐れた。


 ララナの治癒の力の時も、突然に能力が目覚めたことを思い出す。

 小さく生まれたララナは、大きな病気があるわけではなかったが、少し動くと息が切れやすく、激しい運動が出来なかった。


 それでも他には変わりなく、元気で冗談も大好きな普通の女の子だった。


 ある日遊んでいるうちに、ジャックの友人が川で溺れて意識をなくし、(前子爵)が医者を呼んでいる間、子供達と(前子爵夫人)が邸で看病をしていた。


 ジャックも友人の親を呼んでくると、一時的に留守にすると、ララナは友人の手を握りしめて、「目を覚まして。元気になって」と祈った。


 するとその友人の全身が光で包まれ、ゴホッと水を吐くと意識が戻ったのである。


 それには本人(ララナ)も妻も驚き、気のせいだと思った。

 その後に医師が到着し異常がないと告げられると、安堵と共に不安に駆られた。


 

 普通、平民や下位貴族には魔法が発現しないとされている。昔は今より国々の交流が盛んで、他国(魔国と呼ばれる)から我が国の王家に嫁いだ女性の力が、魔法の起源だと言われていたからだ。


 本来王家に列なる者しか、発現しない前提になっているのだ。


 けれど長い歴史の中では、王族の庶子などもいたのだろう。時々魔力を持った者が生まれるのだ。


 強い魔力は国の為に徴用されることが多いが、ララナは体が弱く、国の為に働くのは現実的ではない。

 だからこれはなかったことにしようと、みんなで相談したのだ。ララナも家族と一緒にいたいと言って、応じていたのに。


 情報が漏れたのは、助けた少年(ジャックの友人)からだった。

 勿論悪意はなく、純然たる感謝からだったが。


 

 意識がない状態の中で聞いた、ララナの言葉が何故か自分を救ったと確信していたのだ。

 後にお礼に来た(ジャックの友人)の両親は、「助けて頂いてありがとうございました。領主様自ら医者の手配まで、本当に感謝します」と頭を何度も下げていた。


 それでも(ジャックの友人)だけは、「お医者さんが来る前にララナが治してくれた」と言うのだ。

 私達は、「記憶が混乱しているんだよ。丁度飲み込んだ水を吐き出したから、良くなったんだよ」と伝えたが、納得していないようだった。


 彼の両親は、「変なことを言ってすいません」と謝罪し帰って行ったのだが。




 

 その後はすっかり忘れていたのに。

 重病の息子を救いたいガラナルの両親は、藁にも縋りたい思いで賞金を出していろんな方法を試していた時に、ジャックの友人の話も聞いたらしい。


 平民からすれば、金貨が貰える機会は逃したくなかったのだろう。眉唾物でも賞金は貰えたようだ。



 お金を受け取ったジャックの友人は、金貨を貰った後に事後報告で我が家に謝罪に来た。

「思わずララナのことを話してしまった。ララナが治さないと、お叱りを受ける。すまない」などと言って。


 金貨のことを知らない我々は、彼を憐れに思い手を貸してしまったが、欲からララナを売ったのだと知った後は何とも言えない気持ちだった。


 その時ばかりは、助けたことを後悔したものだ。


 ララナがガラナルを治癒した後は、伯爵家にもララナの力を内緒にして貰っていた。噂が広がれば、今度こそ王家に利用されるだろうから。


 だが内緒にしたことで、「体の弱い子爵令嬢ごときが生意気な」などと、令嬢達に妬まれることになるのだから…………。

 結婚だけは回避したかった。

 

 でも……結婚していなければ、可愛い孫のルカーニに会えなかったのだから、何とも儘ならないものだ。



 …………などと、ジャックとの会話で前子爵は思っていたのだ。



 この時はルカーニも、自分の力を知らずに笑っていたが、その様子を見守っていたチャンドラーは決意した。


 ルカーニに真実を話しておこうと。




◇◇◇

 実際のところルカーニは病弱ではなく、母のララナとは違っていた。

 滅茶苦茶元気である。

 そうでなければ、地下室でとっくに死んでいたところだ。


 違う点はいくつかあるも、一番はガラナルの血筋だろう。

 彼の伯爵家には過去に第三王子が婿に入ったことや、それ以前にも王家の血筋の者が数人嫁いでいたことで、魔力を受け止める器官が大きく成長したのだ。

 下地のなかったララナとは違っていた。


 後は根性。

 チャンドラーに拾われてからは、何としてでも役に立って楽しく生きたいとの思いで、魔力が増加したのだ。


 その他にも、ララナからの贈り物があった。

 残していく我が子の為に、幾十にも繭のように魔力を編んで、物理攻撃を無効化する魔法と、悪意から逃れる魔法をかけていたのだ。


 追い出された時に拐われなかったのには、理由があったのだ。

 ちなみに自分の轍を踏まぬように、悪意のある者にはルカーニの魔法を関知させない魔法もかけていた。

 そのせいで多少ララナの寿命は縮んだが、彼女に後悔はない。




 そんな感じで能力を知ったルカーニだが、特に力を使うこともなく、使わないことで盛れ出た魔力が猛獣を牽制していたのは安全面で有効だった。



 そうして厳しくも楽しく暮らし、蓄えられた力を瀕死のニルフに使ったのだ。

 もう魔力はほぼ使いきり、猛獣の牽制は出来ない状態なのだが、猛獣は里には来ない。

 却って以前よりも、怯えている個体もいるくらいなのだ。




◇◇◇

 ニルフは魔国の側室の子だった。

 待望の男児の誕生だったが、その子供はテレパシーが生まれてすぐに使えた。


 ※テレパシーとは、ある人の思考や感情が直接他の人に伝わる現象。



 魔法を持つ者が多い国でも珍しいテレパシー能力は、仲間同士で会話できる為、交渉事に有利である。


 けれど側妃が喜んだのは、ほんのつかの間だった。

 その子の声は傍にいる側妃に対してなのか、違うのかは判断できないが、確かに真実を語っていた。


『あーあー、俺の父ちゃん国王じゃないのか? ルーファスって、あのいつも横にいる護衛騎士じゃねえ。

 確かに髪の色は国王と同じだけど、顔とか大丈夫?

 俺はまだ鏡とか見てないけど、いつも傍にいる男の子って、さすがにバレるんじゃない?


 まず一人目は国王の子を産めって言われてたのに、ガッツリ愛人の子じゃん。何で順番守んないのかな?』


「っ、うるさい、うるさい、うるさい!」


 

 まだ名もなき赤ん坊は、祝福として前世の記憶も持ち合わせていた。普通ならまだ、考えることも出来ないであろう生後すぐなのに、冷や水を浴びせられた側妃は殺意を覚えた。


(まずい、まずい、まずい、この子が国王と話せば、不貞がバレてしまう。最悪は私とルーファスだけでなく、公爵家も滅ぶわ! かくなる上は、もう…………)



 そう考えた側妃は、側近の魔導師を呼び出した。

 生まれる前から彼女に仕える専属侍女と一緒に。


 そして二人に告げたのだ。

「この子は呪われているわ。私の思考を読んで、私に返してくるの。ええ、ええ、分かってるわ。かなりのレア能力よね。

 でもね。この子は平然と、自分が私とルーファスとの子だと断言していたわ。

 第一子なのに国王の子じゃないと、腹を痛めた私を非難までして。

 だからもう、捨てて来て頂戴。

 一度記憶を封じたくらいじゃ、危険すぎるし、愛せなる気がしないわ!

 ああ、代わりの赤ん坊は、何処ぞの孤児院で調達して。

 魔力はなくても、黒髪で青い瞳の美しい男児なら良いから。

 国王に似ていなくても、ルーファスにも似ていなければ問題ないわ。

 さあ、行って頂戴。早く!」

 

「分かりました」

「仰せの通りに致します」


 彼らは赤ん坊を抱え、憤る側妃の部屋から出て行く。


「せっかくレア能力なのに、可哀想だな。側妃の浮気のせいで捨てられるなんて」

「こんなに可愛い子を、酷いことです。ねえ、魔導師様、この国から離れた場所なら、この子は生きていけるのではないでしょうか?

 この国の人は魔法が使えますが、動物も魔力で攻撃してきます。赤ん坊はたぶん即死でしょう。

 でも隣国の向こうなら、魔法が殆ど使えないそうですから、生き延びる可能性がありますわ」


「そうだね。仮にも王子を危険に晒したくない。行ってみようか?」

「お願いします。可哀想そうですが、忘却魔法で今までの記憶を消してから行きましょう」


「捨てられる記憶はない方が良いからな。そうしよう。テレパシー能力も前世の記憶も、成長と共に思い出せるようにしておこう」

「……貴方のような有能な魔導師様がいるのですから、捨てずとも良いものを……」


「不貞がバレるのが恐いんだろ?」

「覚悟もなく快楽を求める売女が! バチが当たれば良いのに」


「貴女は彼女の専属侍女なのに、そんなこと言って良いのかい?」

「ふっ、専属侍女なんかじゃないですよ。体の良い八つ当たりの出来る奴隷のようなものですわ。

 側妃の母親の妊娠中から、そんな扱いをされてきましたから」


「大変だな」

「今さらですよ。家の維持の為に売られたようなものです。ただ生きているだけの存在なんです。……それでも赤ん坊を育てられるのを、楽しみにしていたんですよ。こんなに可愛い、うっ」


「生まれる場所は選べないからな」

「でも、これから幸せになれるかもしれない。祈ろう」

「ええ、そうですよね。ありがとうございます、魔導師様」


 お互いに側妃に仕えることで、以前より連帯感を感じた二人は、さらに信頼感が増していく。



 その後に赤ん坊を魔法で眠らせ、能力を封じた後、ルカーニのいる教会に捨てたのだ。

 何度か転移魔法を使いこの国に来たが、誤算だったのは季節が魔国と違って、冬だったことだ。


「どうしましょう。このままでは寒さで死んでしまうわ!」

「ああ、取りあえず俺の服を巻いておこう。そして保温魔法も。だが別の赤ん坊を見繕ってすぐに戻らないと、貴女は折檻を受けるのでは?」


「そのくらい構わないわ。私が抱いているから、魔導師様は赤ん坊を確保して下さい。

 確かミザロワ神父と言う人がいる教会は、お金で孤児を渡してくれると、この国出身の侍女が言っていましたから」

「ミザロワ神父か。聞きながら探してくる。貴女は寒くないか?」


「ええ、大丈夫よ。気にしなくて良いわ」

「じゃあ、行ってくる」



 走り去る魔導師を見つめながら、赤ん坊の温もりを感じる侍女。

「貴方の辛さに比べれば、私の寒さなど些細なものだわ。教会の前に人が通りそうな時に、貴方を置いていくわね。私の姿を見られる訳にはいかないから」


 未だ魔法で眠る赤ん坊に、泣きそうになりながらも優しく話しかける。


「あ、歩いている人が来たわ。じゃあね、坊や」


 拾ってくれることを期待し雪の上に赤ん坊を置くが、赤ん坊に気付くも通り過ぎて行く。


「そんな、どうして。赤ん坊がいると言うのに!」



 王都から離れたここの教区は6つの教会があるも、補助金が少なく貧しい地区だった。

 殆どの者が赤ん坊を養う余裕などないのだ。


 だと言っても、見つかってはいけないので、賑やかな場所にも行けない。

 今さら他国に行く時間もない。


「ああ、どうしよう。この子を地面に置く度に、体温が下がっていくわ」


 人が去っていく度に抱き上げて、赤ん坊を抱きしめるが、保温魔法も効果がなくなり体が冷えきっていく。


「ああ、神様。この子をお救い下さい。どうか、お願いします」


 そう祈った時現れたのが、孤児院から戻って来たルカーニだった。

「今日は風邪で休んだ保育士さんの代わりに、頑張って手伝ったから遅くなっちゃった。それにしても寒いなあ」



「今度こそ、お願いします。神様」

 侍女は教会前の扉の前に赤ん坊を置き、隠れて祈った。


 

 ルカーニは赤ん坊に気づき、抱きしめた。

「まあ、赤ん坊がこんなところに。こんなに冷えて可哀想に。

 親もなく生きるのは辛いこと。このまま神に召される方が幸せかもしれません。けれど、私は貴方と出会ってしまいました。恨んでも良いから、どうか生き延びて下さいね」


 そう言ってルカーニが祈ると、赤ん坊の全身が光輝き頬に赤みが差した。それは侍女も滅多に見ない、特級の治癒が炸裂した瞬間だった。


「あぁ、神様、うっ、ありがとう、ございます、本当に、ひぐっ、良かったぁ」



 今にも消えてしまいそうなニルフの命は、この世に繋がれ、慟哭のような泣き声が響いたのだ。

 

 隠れた場所から見守る侍女は、見代わりの赤ん坊を連れて戻った魔導師に、側妃の赤ん坊のことを伝えた。


「良かったな。きっと幸せになれるさ」

「はい。私もそう思います」


「連れて来たこの子も、幸せになれるかな?」

「……どうでしょう? 王宮は恐いところですから」


「まあ、そうだな。でも俺は、この子の味方でいるつもりだ。俺が選んだのだから。いざとなれば、この子を連れて逃げるさ」

「そんなお覚悟をなさっているのですね。この子はもう幸せですわ」


「どうだろうな? 俺は母親しか知らないし、結婚したこともないから」

「それは私もですわ。側妃様の傍にいても、爵位の高い侍女が甘やかして、私は尻拭いしかしてませんから。出来れば幼子を育ててみたかったです」


「そうか」

「はい。叶わぬ夢ですね……」





◇◇◇

 そんな魔導師は、その後筆頭魔導師となり、放置されている身代わりの赤ん坊だった王子が成長後、魔法を教え込んでいく。

 そして底の浅い側妃は別件で断罪された。

 自棄になって身代わり王子のことを暴露をする前に、魔導師から彼に真実を話し、あの時の侍女と一緒にルカーニの住む町に転移して来たのだった。


 側妃が冷遇する身代わり王子を侍女は、これまで手厚く世話をしていたので、彼も心を許していた。


「私にとっての両親は、お二人のようなものです。これからもよろしくお願いしますね」

「勿論です。最期まで盾となります」

「私もです、王子」


 胸に手を当てる二人に、苦笑いする身代わりの王子。


「いや、王子は止めてよ。お父さん、お母さん。……そう呼んでも良いですか? それと敬語も止めて下さい」

「ああ、勿論です、勿論だ。王子も敬語はなしで、お願いします」


「うん。分かったよ! お父さん」

「ふふっ、本当の親子見たいね」


「本当の親子だよ。ね、お父さん」

「そうだよ、母さん。ずっと一緒だったのだもの。他の誰よりね」


「そうですね、うっ、もう家族よね」

「ねえ、お父さん、お母さん。僕に名前を付けて下さい。新しく生きる為に」


「じゃあねぇ、カインはどう?」

「はい。良いですね」


「それじゃあ、お母さんの名前も考えて欲しいな」

「う~ん、う~ん。ベリーはどうですか?」

「良いわね、ありがとう」


「じゃあ、なんだ。俺のも頼むよ」

「う~ん、お母さんは考えた?」

「ええ、幾つかね」

「本当? 言ってみてよ」


「アストラとか、ホルンかな」

「僕、アストラが良いと思います」

「そう?  私もそれが第一候補だったのよ」

「じゃあ、アストラで」


「ああ、ありがとう。良い名だな」

「てへへ、喜んでくれて良かった」


「これは家族になって初めてのプレゼントね。今度はケーキとご馳走でお祝いしょうね」

「わーい。楽しみ!」

「俺は、酒も頼むよ」

「はいはい、分かりましたよ。ふふっ」


 全てを捨てて逃げて来た3人だが、心は温かくて泣きそうだった。

 ちぐはぐの3人は今、冒険者になって、ジャックと共闘している。


 貴族は美しい顔の者が多いが、カインもとても整ってた。何と魔力も程ほどにある。


 側妃の注文で美しい男児を連れ帰ったアストラだが、無意識に魔力を感じた者を探したのだろうか?


 今となっては分からないが、猛獣討伐にはもってこいである。ベリーも土魔法が使えるので、捌いた後の不要な死体を処理する時に役立っている。


 資金を貯めてから一戸建てを購入し、この地に根づいている。


アストラは、星、矢と言う意味がある。

ベリーは、カインの好物。

カインは、ベリーの子に付けたかった名前である。




◇◇◇

 今ではこの3人は、ルカーニやニルフとも交流を持ち、仲の良い隣人として暮らしていた。

 ベリーはニルフを見る度に「大きくなったね。幸せそうだね」と涙ぐみそうになる。


 10才で能力の戻ったニルフは、チャンドラーの元で魔法を学び、力の制御を習得していた。

 けれど、どう考えても知人のようなベリーのことが気になり、彼女の心を探っていることを悟らせずに、静かに読んだ。

 

 すると赤ん坊の自分を、間接的に助けてくれたことを知ったのだ。そしてルカーニのしたことも、言葉も。


 突然の情報に知らず涙が出て止まらず、先に泣いていたベリーからハンカチを渡されて心配される程だった。


 この時の情報から、ミザロワ神父の巧妙に隠していた人身売買の情報を得て、チャンドラーと相談し追跡調査を開始したのだ。

 アストラはニルフの能力を知りながら、彼に分かるように思考を提供してくれたのだ。

 その時ミザロワの元から連れて行ったのが、カインだと言うことも隠さずに。


 ニルフに捕まるなら本望だと考えるアストラに、「僕は憲兵ではないですから。友人でしょ?」とテレパシーで笑って伝えた。


 初老に差し掛かるアストラは、「ありがとう」と言って涙を堪える。

 今夜だけモヤモヤするだけで、きっと明日からは蟠りは薄れるだろうと思いたい。


 ここにいる人は、みんな何らかの被害を受けているように感じる。

 でもみんなとても活気に満ちていて、こっちも楽しくなってくるんだ。





◇◇◇

 またまたその後に、ニルフはチャンドラーの推薦で助祭になり、ミザロワ神父の仕切る教会に派遣され、直接の証拠集めをすることになる。

 その間に(ミザロワ)の取り引き先をチャンドラー達が調査し、次々に摘発していった。


 調査の資金提供先は、ルカーニの家族の前子爵夫妻と、現子爵である。


 ミザロワ神父が溜め込んだ資産はかなり多くあり、一旦子爵達へかかった分を返却した。

 国へ報告書を提出すると、ミザロワ神父の後処理に対して、国から人を派遣してくれることになった。


 国王は売られていった子供達の追跡調査も行い、可能な限り救出してくれると約束もしてくれた。


 チャンドラー司教の教区に、ミザロワ神父がいたことで罰が加えられることも懸念したが、国王は貧しい教区で奮闘する(チャンドラー)に、責任は問えないと不問にして下さった。

 今までの働きが認められたのだろうと思い、少し嬉しくなる。

 元々6つ全ての管理が難しいから、部下に神父がいるのだから。

 

 後はあまり、貴族が絡んでないと良いな。

 




◇◇◇

 僕はベリーの情報を得てから、ルカーニのことが気になっている。

 何があっても母親のように接してくれるルカーニだが、今の僕はそうじゃない感情も持ち合わせていた。


 親代わりのチャンドラーとハルジャーは、「好きにすれば良い」と、放任気味だ。

 取りあえず反対はされていない。


 幼い時の癖か、ルカーニが孤児にせがまれて歌うのを聞くと、今でも眠気を催すので危ない。


 彼女が間違って何処かに嫁に行ったらと考えて、立ち直れないほど妄想が進むくらい好きなっている。


 僕は今16才、ルカーニは29才だ。


 まずはお茶に誘う? 節約中だから、僕が入れる方が良いかな? なんて考える今日この頃だ。


「ニルフ、元気ないわね? ちゃんとご飯食べてるの? 無理しちゃ駄目だからね。困ったことがあれば言うのよ」


 困ったことは、僕を子供扱いする貴女(ルカーニ)ですよ。なんて言えずに、「大丈夫です。僕を心配してくれてありがとう」と答えてしまう。



 幸せなんだよ。

 けれどもっとと思うのは、我が儘なのかなぁ?


 今日も静かに夜が更けていき、山に有刺鉄線を仕掛けるニルフがいる。最後にアストラの雷魔法を付与し、人間には感電しないように調整して貰う。

 木の上に跳ね上がるロープを編んだ罠や、長い筒で入ったら出られない罠も仕掛けている。

 山には子供の冒険者もいるので、もし間違えて罠にかかっても、重症にはならない気配りも忘れていない。


「ニルフってすごいね。よくこんな罠を思いつくよ。これで里が守られているから、頭が上がらないよ」


「ああ、本当にな。鉄線も自分で鍛治屋に頼み込んで、作って貰ったんだろ? 根性あるぅ」


「いや、それほどでもないよ。元から知ってることだし」


「もう、そんな。謙遜しなくて良いのよ。真面目なんだから」

「ルカーニってば。僕、そんなに真面目じゃないよ(前世は林業だから、山が職場だったし)。買い被りすぎだよ。まあ、褒められるのは嬉しいけどさ」


「まあ、可愛いこと。頭、撫でちゃおう」

「もう、ルカーニ。せっかく整えたのに、ぐちゃぐちゃだよ」

 

 頬を染めるニルフだが、鈍感なルカーニには伝わらないよ。直球で行けとか、いろんな指示が小声で聞こえる。


 ルカーニ以外の人には、僕の気持ちはバレてるんだよな。参っちゃうよね。なんて考えるニルフだが、30才近いルカーニには、結婚とか恋愛は意識下で除外されていた。

 

 先はまだまだ遠いニルフなのである。

 


 

※有刺鉄線は、いくつもの刺のついた鉄線のこと。敷地や物の保護を目的として、それらを囲うために用いられる。「バラ線」とも呼ばれる。



 


 ニルフのことやリファインのことが半端なので、もう少し続きます。前、後で終わらなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ