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晴恵はその話を食い入るように聞いていた。そんな過去があったんだ。かつて、夢を持って神戸に向かったのに、阪神・淡路大震災で何もかも失ってしまった。どうして神様は人々に試練を与えるんだろう。そして、幸せを奪うんだろう。
「そうだったんだ」
と、晴恵は天井を見上げた。天井しか見えないけれど、その先には空があり、美幸と宙が見守っているだろう。健太をどんな目で見ているんだろう。
「その頑張り、きっと天国の美幸さんと宙ちゃんも見てると思うよ」
「本当?」
健太は顔を上げた。見えなくても、頑張りを見ているんだろうか? もし見ているのなら、頑張っているかどうか聞きたいな。
「うん」
晴恵はそれで思った事がある。つい最近、宮崎で大きな地震があった。もし必要なら、ボランティアに行くんだろうか? ならば、自分も行きたいな。その人のために手助けをしたら、きっといい事があるだろうから。
「そういえば先日、宮崎で大きな地震が起きたね。ボランティア行くのかい?」
「必要なら、行こうと思う」
やっぱり行くようだ。そんな積極的な健太の姿勢、好きだな。惚れちゃう。
「積極的な健太さん、かっこいい!」
「ありがとう」
健太は少し笑みを浮かべた。頑張っている事をほめられると、笑みがこぼれる。それを聞くと、晴恵も頑張ってみようと思う気持ちになる。
「私も頑張ってみようかな?」
「本当?」
「うん」
晴恵はそんな健太の積極的な姿に、心打たれた。自分も何か頑張ってみよう。そうすれば、成長できるかもしれない。
「これからの人生も、頑張ってね」
「ああ」
そろそろ家に戻らなければならない。晩ごはんを作る時間だ。
「じゃあね」
「うん」
晴恵は家を出て行った。健太はまた1人になってしまった。だけど、全く気にならない。1人でも、頑張っていける事があれば、全く寂しくない。だけど、誰かと一緒にいると、もっと楽しいのに。
「はぁ・・・」
健太は立ち上がり、青い空を見た。だが、2人は見えない。天国からきっと見ているだろうな。
「美幸、宙、これからも頑張るよ」
そして、今日も日が暮れていく。そんな毎日だ。だけど、天国に2人がいるだろうと思うと、あまり寂しくない。
その夜、もう寝る時間になった。今日も電気を消して、寝室に向かおう。その前に、空を見ておかないと。2人に元気な顔を見せないと。
「今日も空から見てるかな?」
だが、今日も2人は見えない。だが、遠い空のかなたにいるだろう。
健太は寝室に向かった。子供の頃は自分だけではなく祖父母も行きかった廊下。今は自分だけだ。寂しいけれど、それが今の家の状況だ。
寝室にやってきた健太は、再び空を見上げた。
「おやすみ、美幸、宙」
そして健太は、ベッドに横になり、目を閉じた。今日はどんな夢を見るんだろう。
健太が目を開けると、そこには神戸の自宅だ。夢だとわかっているのに、夢じゃないように見える。どうしてだろう。懐かしい我が家だからだろうか?
「あれっ、ここは、家?」
「父さん!」
その声に、健太は振り向いた。そこには宙がいる。そしてその後ろには、美幸もいる。どうしたんだろう。
「パパ!」
「美幸、宙」
宙は健太に抱きついた。まるで、30年ぶりの再会を喜んでいるようだ。もうこの世にはいないのに。
「また会えたね」
「どうして?」
健太は疑問に思っている。どうしてここにやって来たんだろう。会いたくなって、ここに来たんだろうか?
「会いたくなって、夢の中に来たの」
「ありがとう!」
健太は宙を抱っこした。あの時と比べて重たくなったように見える。長年、抱っこしてなかったからだろうか?
「ごめんな、父さん、救えなかった」
いつの間にか、健太は泣いてしまった。あの時、美幸も宙も救えなかった事を悔やんでいた。あの時、1人でも多くの人が救いに来てくれたら、救えたんじゃないかと思う日々だ。
「いいんだよ。パパが悪いんじゃない」
「わかってるよ。でも、あの時、1人でも多くのボランティアがいれば、救えたかもしれないんだ」
美幸は健太の考えに納得している。確かにあの時、1人でも多くの人が救いに来てくれたら、私たちは救われたんじゃないかと思っている。
「そうだね。その気持ち、わかるよ」
「だから、今頑張ってるんだ」
美幸はそんな健太の姿を見て、かっこいいと思った。あの時救えなかったからこそ、あんなに頑張っているんだなと。
「頑張ってるパパ、私、好き」
「ありがとう」
そろそろ天国に帰る時だ。残念だが、また夢の中で会えたらいいな。
「じゃあ、私はもう帰るね。さよなら、パパ」
「さよなら」
突然、辺りは光に包まれた。目を開けると、朝の実家だ。結局、今日も1人で目が覚めた。もう30年もそんな日々だ。
「ゆ、夢か・・・」
健太は立ち上がり、朝の空を見た。やはり、2人の姿は見えない。だけど、夢の中で再会できた。自分のやっていることは間違っていない。世のため、人のために頑張っているんだ。
「美幸、宙・・・。これからも、父さん、頑張るよ・・・」
そして、健太は改めて決意した。あの時救えなかったから、その分、自分が頑張らなければ。もうあんな悲劇を繰り返さないためにも。