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泥酔

作者: あ、どうも

人によっては不快に感じられる表現もありますので、ご注意ください。

ただし、恐らく、多分、何となく、それらの全てが抽象的な表現になっているので直接的に気持ちの悪いことが起こる話ではありません。

 安い酒で酔ったりしない。そんな頭の悪い信念があったのは遠い昔のことであって、今となっては、不味い酒しか喉を通らなくなってしまった。健全なアルコール飲料では、健康的で不快なほろ酔い気分にしかなれず、ストレス以外の何物でもない。貧弱な酒で酔うようになったかと思うと、俺も随分衰えたものである。

 しかし、衰えることは悪いことだとは思ってはいない。それが自然なことかもしれないが、今の自分を肯定するように出来ているだけかもしれないが、現実と精神のミスマッチの補正かもしれないが、まあ、その、何だ、俺にとって説得力があるのは、衰え、病み、滅び行くことに興味が持てるようになったからだ。生死を意識することを拒み、命あるものを贔屓せず、死にたくないけど生きたい訳でもない、そんな考えだった俺が興味を持てたのは、良い退屈凌ぎとなって喜ばしいことである。


 詰らない酒で不健康に泥酔したい。


 眠らない町は明々と騒がしい割に、現実逃避を促進させる成分が含まれているのか、光の中に飛び込みたい衝動に駆り立てられる。高速で行き交う光に堕することに興味を持つことは聊か危険なことのように感じられるが、実際命を危険にさらすのではあるが、想像し、思い描くことくらいは許してやりたい程に魅力的ではある。何処に惹かれているかと問われると、自分で理解している範囲では、自らの終わり方を選べることではないかと考えている。命あるものは、いついかなる時でも生きようとすると仮定すると、他の生物では例外があるかもしれないが、少なくとも俺の知るヒトの場合、通常死に方を選ぶことは出来ない。ほぼ確実に、仕方なく、避けきれずに、詰んだ状態で止むを得ず亡くなっていく。それがその人にとって幸せなものかどうかは別として、計画的に方法やら状況やらタイミングを考えて選択的に行った人は希なのではなかろうか。

 一歩踏み出せば、自ら最期を積極的に選択したことになるのである。淡くピンボケした世界は優しく、冷たく、柔らかで、何処か遠くにある音源から細やかなストレス性の刺激物が漂ってくる。漂白された俺の身体はドロドロと溶け出し、形を失っていく。ああ、気持ち良い。とても、気持ちが良い。

「おい、おっさん!!」

 何だ騒がしい。液状化して流れ出してるおっさんに声を掛ける物好きがいるとはビックリだ。だが、今俺が求めているのはカラミ相手ではなくチープドリンクである。

「汚ねーよ」

 色が抜けて溶け出す人体は、まあ、汚いでしょう。

「ちょ、お前、入ってくんな!!」

 入るって何だよ? あれ? そうか、

「空き缶か」

 汚い町ではあるものの、最近は清掃活動に力を入れていて、大きな通りでは歴史の感じられる汚物以外のゴミが落ちているのは希である。そんなレアな食み出し君がドローリ新食感おっさんを拒否している。誰にもかまってもらえなさそうなくせに。

「そーだよ……。っておい、溶け出してるよ!! どうすんだよ!! ちょ、やばいって、まずいって、困るって!!」

 それは大変だ。ついにおっさんゴミと合体だ。まさか空き缶とセックスすることになるとは思わなかった。更には、これは子供が生まれた瞬間親の存在がなくなるという融合タイプで、残念ながら俺は子育て出来ないらしい。まあ、いろいろ問題ありそうだけど、造っちまったもんはしょうがねえよな。出来ちゃった……、最近は授かりとか言うのか? 何でもいいけど、もう後には引けねえってやつだ。止める気は無い。諦めてくれ。

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 一度で良いから嫁になってみたかったんだ。

「よろしくってなんだよ、ふざけんなよ、こらっ……、てめっ……あ、が、ごぼごぼ……」

 さよなら汚物、バイバイ汚物、ありがとう汚物。そして新たな汚物の誕生を祝おうではないか、おめでとう。ついでに、かなり斬新な死を経験できたのかもしれない。やったね。


 淀みを増したドロドロは不自然に勢いを増して流れ出す。フローラルな異臭を放つ化学反応が仄かな熱源となって生温かい加速を誘発する。粘膜がベタつく不快感が滑らかに踊りだし、シッポリした界面活性剤は下心を募らせ、発情した無機質がセックスアピールを解き放つ。

 ダイナミカルな発展を魅せるベトベトではあるが、その温度の上昇に反して俺の心は冷めつつあった。と、言うのも、これは合体と言うよりも捕食に近いものではないかと思う。捕食であっても、それなりに食われるものは食うものに影響し、今までとは別の、あるいは、食べれなかった自分とは別の、異なる存在になると言えなくも無い。だが、およそ俺の感覚を基準にしてしまえば、別のものと分類できるような特徴的な性質を持っていない。俺はまだ俺のままだった。

 まず、空き缶を跡形も無く分解して、自分の体組織のフレイムワークに合うように再構成してしまったことに問題があるだろう。元の自分には無い成分があるにしろ、精々純度が落ちた程度である。ああ、詰まらない詰まらない。


 どうせなら、食べられる方が初体験な感じで面白かったかもしれないのに。


 そう、食べられるに類似した行為を行うには単純には相手の方が大きければ良い。俺が不純物になれば良いと言うことだ。どれくらいの規模でやればいいだろうか……。分解能にも因るであろうが、相手があまりに大きいと、例えばコスミックなスケールでは不純物にも満たなくなってしまうだろうし、食われること固有の特徴的な体験が出来ない可能性がある。


 やれやれ、被食者になるのも中々大変だ。


 ベタではあるが大地に飲み込まれると言うのはどうだろうか。土に帰りたい的なイメージだ。そのためには……、細かくなろう。アスファルトの隙間に根を張るように、愛想笑いで力学を如何様し、分子半径をそこそこ小さくして、ダラダラしない様にお洒落なフラクタル構造を形作りながら、母なる大地に頂かれよう。

 意外と命に厳しい大地は、優しさのかけらも見せることなく俺の水分を奪っていく。所々腐敗しつつも、神経系はそれほどヤル気を見せてはいないのだが、骨が底力を発揮する。ドロドロはカチカチになり、骨となり、血管となり、身体となり、鋼となす。瞬く間に大地を縛り、母を破壊し、世界を滅ぼす。

 意外とチッポケでちゃちいワールドは、俺の骨格にしがみついた部分を残して落っこちてしまった。まあ、落っこちることが出来る程度に星は安定しているようで、俺程度では惑星を侵食することは出来なかったようだ。ちっちゃな町とその土台を半壊させる程度。まあ、俺なんてそんな程度の残念なションボリさ。不恰好にも俺に縋る歴史の残りカスが吸着し、寄生し、同化する。


 俺の一部になるくらいなら、落ちてしまえば良いのに。

 ここで滅んでおかなければ、泥沼だよ。

 ここで積極的に死を選ぶのはとても賢明な選択だと思うんだ。

 

 何せ俺だ。

 可愛い女の子でも、綺麗なお姉さんでも、エッチな娘さんでもない。

 俺だ。


 本当に良いの? 

 そう?

 侵略者ともセックスできる?

 

 否、別に拒んでいる訳ではない。

 勿論、望んでいる訳でもない。

 ただ、そうだな、興味ができなよ。


 そう、退屈してたんだ。そして、俺はこの愚鈍で深いな塊に関心がある。これは良い機会だ。俺は俺であることをやめて、俺の上に立ち、俺の上で歩き、俺の上で酔ってみたい。


 だから俺は辞めだ。

 私は……丁寧すぎる。

 僕……って柄じゃない。

 あとは……駄目だ、出てこない。

 

 あー。

 そのー。

 ソレガシ……とか?


 ソレガシ? それがし? 某。ああ、変だけど、悪くない。ダレダレとジブンの間にありそうなコレコレ感が素敵だ。某、今から骨の町を散策したりしなかったりだ。自分で言うのもなんだが似合ってないな。某はゴチャゴチャテンコ盛りとの合体と言うか、全く気持ち良くない冷え切った乱交の末、ぽっと出で分裂したいらない子なので、流石に俺とは違うと思われたのであるが、何故だか意識は連続していて違和感が無い。俺とはつくづく残念な奴なのだろう。まあ、某には関係の無いことではあるが。

 ネチネチする。俺と愉快な不純物達はネチネチ、ベトベト、ギトギトで、歩きにくい。俺は結構硬くなっていたつもりだったが、某にとっては不愉快なほどに泥沼だ。折角興味が持てたと言うのに、劣悪な環境ではモチベーションが急降下してしまうではないか。腹立たしい。ああ、でも、イライラしてるのが少し新鮮だ。憤りを感じるほどに感情の起伏が発生することが、久しく使っていなかった筋肉をストレッチする様な爽快感と苦痛が突き抜ける。


 くはっはっはー。

 やばい。

 気持ちの悪い笑が止まらない。


 劇的に低い、しかし、ゼロではないモチベーションを発狂気味に有効活用しながら、ねちょねちょを掻き分けて進んでいく。一週回って爽やかさを発揮する万物屍ミキシングは驚くほど優しさに溢れている。少しだけ食欲が湧いてきた気がした。天変地異を生き抜いた蛆虫が溢れかえっていて、食らい尽きたい衝動に飲み込まれそうだ。しかしながら、蛆虫が某を食らうならともかく、その逆は興ざめもいいところなので、欲求は生まれたが興味を持つことは出来なかった。


 某は贅沢者だ。

 はっはっはー……。

 ハックション!!


 鼻水の様な放射線廃棄物が止め処なく漏れ出してくる。それは、辛うじて生き残った命を蝕み、蛆虫を絶滅に追いやっていく。屍はゲチョゲチョのなかでプカプカだ。どうも、お亡くなりになった方は赤く染まっていく様で、紅の断末魔がミステリーサークルを描き出し、やがて血は凝固し瘡蓋となって道となる。それは、驚くほど快適で、赤い高速道路で某は足を獲得した。

 


 急激な再生、突発的な起床、勇敢な脂汗。

 グロテスクな親しみは、安心感と清潔感を伴って血みどろを支え、某を導く道を示す。



 一歩進めば血が通い、一歩進めば波打ちうねる。

 一歩進めば熱を帯び、一歩進めば噴出し笑う。

 一歩進めば骨灰集い、一歩進めば重さに揺れる。

 一歩進めば淡白纏い、一歩進めば変数果てる。



 ぎこちないヨチヨチ歩きは、懐かしい敗北と共に細かく震え、傲慢な動力源は力任せに押してくる。 



 二歩進めば脂が悶え、二歩進めば不動が睨む。

 二歩進めば皮が轟き、二歩進めば羞恥が瞬く。

 二歩進めば網が蔓延り、二歩進めば仮初現る。

 二歩進めば某繋がり、二歩進めば俺が蠢く。



 二足歩行は留まり知らず、暖帯び熱帯び愛帯びて、ふしだらフラフラぷりんぷりん。



 三歩進めば言霊狂い、三歩進めば疲れを愛でる。

 三歩進めば観感構い、三歩進めば噂を舐める。

 三歩進めば愛憎滾り、三歩進めば上下が諍う。

 三歩進めば他を呼び止め、三歩進めば枕を絞める。



 最大加速は躓き惑い、哀愁詠ってぼんやり伝う、暗転・真っ青・真っ赤っ赤。



 久しぶりに走ったからか、勢いは三歩と共に衰えを隠せず、俺は某に追い縋ろうにも疲労しよろける。呼吸は不規則にドタバタし、カンカンした間接が悲鳴を上げ、血肉が引き裂かれんばかりにバリバリする。迷い迷わす迷宮で、行き止まらずに立ち止まる。重く、五月蝿く、面倒くさい。きりきり、カリカリ、しゃらんしゃらん。



 ……。



 ああ、分かったよ。

 ここまでだ。

 僕は、ここまでだ。


 酔いたかったんだ。

 ただただ、酔いたかったんだ。

 酔いつぶれてみたかったんだ。


 無理してたんだ。

 たったそれだけのことなのに。

 無理してたんだ。


 羨ましいんだ。

 憧れてただ。

 恨めしかったんだ。



 ちょっと、出来心で、一杯だけ。



 出来れば許されたかったんだ。



 こんな僕を許してほしい。

 どうか僕を許してほしい。

 何とか僕を許してほしい。



 許されたい誰かがいるわけではないけれども。

 相対的な罪ではあるけれども。

 それは適応に過ぎないけれども。



 否、違う。

 一寸、違う。

 全く、違う。



 こんな僕を裁いてくれないか。

 どうか僕を切り裂いてくれないか。

 何とか僕を許さないでくれないか。



 僕、俺、某、誰でも良い。



 僕を滅してくれないか。

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