7 視察
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*セルジュ視点あります
セルジュ第三王子殿下は転移の魔法陣を使ってやって来た。応接室代わりの会議室には事務的な長いテーブルが二つ。窓側の上座にセルジュ第三王子殿下が座り、その前にアルベール様、その隣にシュシュ先輩が座っている。私とバジル君は二人の後ろに護衛のように立っていた。
私は別にいなくてもいいと思うんだけどな……。セルジュ殿下に会いたくない私はそんなことを思ってたけど、セルジュ殿下の意向で落星の谷調査隊の隊員全員の話を聞きたいとのことだった。セルジュ殿下は護衛だろうか、一人の騎士風の男性を伴ってた。その茶色の髪の人はセルジュ殿下の後ろに立っている。
「君達も座ったらどうだ?」
セルジュ殿下が何故か私の方を見てそう言った。
「ということなので、バジル、ソラも座りなさい」
シュシュ先輩に促された。
え?やだな……。頃合いを見て逃げようと思ってたのに。この会議長引くの?
バジル君も嫌そうだけど、シュシュ先輩の隣の椅子に座った。え?そこに座るの?私、どうしよう……。考えてアルベール様から一つ空いた隣に座ろうと思った。アルベール様が中々座らない私を見かねてか、私の手を引いて隣に座らせた。
「なっ……!」
セルジュ殿下の声が上がった。
「あ、あの、アルベール様?」
アルベール様はそのまま手を離してくれない。
「……大丈夫だ。ソラ」
アルベール様が正面を向いたままぼそっと呟いた。ああ、私が嫌がってるの分かっちゃったんだ。優しいなアルベール様は。
「アルベール……様、それにソラ……だと……?」
セルジュ殿下の顔が険しくなる。ああ、これ王族への不敬罪で逮捕されたらどうしよう……。内心冷や汗をかいて俯いていた。私の手を握ったアルベール様の手に力がこもった。そこへニナさんがワゴンでお茶とお菓子を運んでくれて、会議が始まった。
ああ、相変わらず目に優しくない金髪だわ……。セルジュ殿下は深い青い色の目を細めて結晶石を見つめている。あれ以来何度か幻霧が落星の谷に発生して探索調査を繰り返し、魔晶石や結晶石を見つけていた。一角獣のシエルにも手伝ってもらった。
「ほう、これがここで採れたという結晶石か。これで全てですか?兄上」
セルジュ王子の言葉に思わず私は左手を隠した。悪いことはしてないけど新しく作ってもらったブレスレットをつけてたから、間違っても見せてくれとか言われたくなかったんだ。新しいブレスレッドは透明な結晶石と小さな青い魔晶石がいくつか連なったデザインで、シュシュ先輩デザイン、バジル君加工という作品だった。綺麗でお気に入りだ。一応青星塔からの支給品ということになる。
「…………ああ」
「そうですね。こちらでほとんど全てです。まだ鑑定中のものもございますが、はっきりと鑑定が済んだものをお持ちしております」
アルベール様の言葉をシュシュ先輩が丁寧に補足してる。
「鑑定はこちらのバジル・ギュメットが行っております」
「ああ、君か。彼の鑑定なら信頼できるな。これからもよろしく頼む」
そっか、バジル君もセルジュ殿下と知り合いなんだね。同じ学園で同じ学年だったんだもの当たり前か。それにしてもさっきからチラチラとセルジュ殿下がこっちを見てる気がする……。やっぱりアルベール様と距離が近いから不興を買った?それにしてもあまり似てない兄弟だよね。私は目を伏せてなるべくそちらを見ないようにしてた。
あーあ、早く終わらないかな……。実は昨日ついでにミエルーフという蒸し菓子をつくって冷やしておいたのだ。今日のおやつに食べようと思って。これは母さんが昔よくつくってくれたおやつで、昨日のノワノワが受けが良かったから調子にのってつくってしまった。
ってあれ?テーブルの上のお菓子のお皿!他のお菓子と一緒にノワノワがのってる!ニナさん?!あれは本当は王子様に出すようなお菓子じゃないのに……。アルベール様にはあげちゃったけど。アルベール様のお皿、ノワノワだけなくなってる……。気に入ってくれたんだ。嬉しいな。思わず隣のアルベール様を見つめてしまった。
そうこうしてる内に会議は終わった。会議といっても主にシュシュ先輩とセルジュ殿下が会話してただけだったけど。その後は施設の見学を一通りして帰って行った。特に声をかけられることは無かったけど、終始見られていたみたいで息苦しかった。
何だったんだろ?
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何だ?何故あんな顔をしてるんだ?彼女は……。
視察を終えて王都へ帰って来た僕は報告書を書きながら思い返していた。
ソランジュ・フォートレル
平民ながら魔力は歴代の魔法学園の卒業生達の中でもトップクラスだといわれている。魔力が強い者は主に貴族に生まれるといわれているこの国では珍しい。彼女の魔力は王族にも匹敵するだろう。
けれど彼女はいつも何かに追い立てられたような表情をしていた。
周りの貴族達に嫌味を言われていたせいもあるだろう。両親を亡くし、病弱な妹をかかえ、働きながら勉強もして学年二位の成績を収めている。その苦労のせいもあっただろう。
気にはなっていたけど、いつも彼女は強張った顔をしていて、壁を作られたように感じて上手く話しかけられなかった。僕が王族だからだろうが、彼女の方も緊張していたのだろう。僕の周囲の者達は物腰の柔らかい者達が多かったから、彼女みたいな女性には僕も慣れていなかったし。
ただ、僕には王族特有の能力があり、彼女の魔力の輝きが見えていた。彼女の魔力はとても純粋で美しかった。本当に美しくて……。仲良くなりたいと思っていたんだ。ずっと。それなのに。
僕にはあんな笑顔を見せてくれたことは無いのに。何故あんな柔らかな笑顔で兄上を見ていたんだ。
それにアルベール兄上だ。兄上とはあまり交流が無かった。もちろん王宮で会えば普通に会話をしていたけれど、兄上はあまり表情が変わらない人だ。それなのに、何故ソランジュ・フォートレルを見る兄上の目はあんなに優しいのか……。彼らに今まで接点は無かったはずだ。ここへ彼女がやって来てからの短い間で二人はあんなに打ち解けたというのか……。
少なからぬショックを受けた僕はあることを思い付いた。そして城に帰って手続きを済ませる事にした。
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