バジル
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後日談ひとつめです
バジル視点になります
「大体さ、みんな魔法石の価値をちゃんと分かってないよね」
僕は魔法石を次々と拾い集め、軽く鑑定しながら袋に入れていく。これらは以前は王国の所有物になったけど、現在は半数がアル様の取り分になる。以前の国王様との謁見でそう決められたことが発表された。国王様はアル様に激甘だよね。
「うん、質が良い魔晶石が多いな。精霊石も二つ。今日は良い成果だ」
今日の探索調査は大成功だった。燃焼石や魔法石の数もかなり多かった。
「そうはいっても、私、魔法道具って生活用品と魔力増幅のアクセサリーしか知らないよ?」
ソランジュがそんなとぼけたことを言ってくる。
「ちゃんと学園で勉強してた?魔法石や魔法道具は他国にも輸出されてて、貴重な外貨獲得資源になってるんだけど?」
「ち、ちゃんと覚えてるよ!」
ソラは焦って答えてくる。どうだかね。ソランジュは学園の成績は良かったけど、自分に関係ないことは端から忘れていくタイプな感じがする。そのおかげか、魔法戦闘の技術や魔獣の知識は物凄いけどね。
「バジルの場合は自分の研究の為の方が重要だろう?」
シュシュが集めてきた魔法石を渡してくれた。
「シュシュ、ありがとう。……まあね。ソラとアル様のおかげで色々新しいことが分かって助かってるよ」
僕は魔法石の研究で学園にいた頃からいくつかの論文を書いて城に提出していた。それが評価されて、シュシュとの婚約が認められたんだ。学園でソラに負ける訳にはいかなかったのはその為だった。僕は学園にいた頃からずっとシュシュを好きだったから。
「まあ、神晶石といってもアル様やソラの剣なんかは特殊なケースで、何故かアル様とソラにしか使えないみたいなんだけど」
正確に言えばソラのみに使用が許されてるんじゃないかって僕は考えてる。ソラだけがあの青い神獣と白い神獣に認められた存在なんじゃないかって。ソラがアル様に剣を託したから、アル様もあの青い剣を使えてるんだと思うんだ。それでもいくら託されたとしても、あの力に溢れた剣を軽々と扱える人間はそうそういないだろう。
ソラは自分をただの平民だって言うけど、それは大きな間違いだ。その大きな魔力といい、神獣に出会って好ましく思われることといい、良い意味で全く普通の人間じゃないよ。
「一度お城に没収されたけど、結局返ってきたね、この剣」
ソラは自分の手にある白銀の剣を目の高さまで持ち上げた。刀身の金色の光が美しい。この光もソラが持たないと出てこない。ソラとアル様の剣は全身が魔法石(神晶石)でできてる本当に希少な、国宝級の剣なんだ。僕はソラとアル様のチームの一員だからってことで、剣の研究を最優先でさせてもらえることになったんだ。本当に幸運だったよ。まあ、僕のこれまでの功績のおかげもあるんだけどね。
「一度、元王太子殿下がアル様の剣を握って振ろうとなさったけど、手や体が痺れて二日ほど寝込んだらしいよ」
「え?そうなんですか?なんでだろう?」
シュシュの言葉にソラが驚いてる。そうだろうな。僕も研究のために持ったことがあるけれど、すぐに手を離さざるを得なかった。剣に拒絶された感じがして危険を感じたからだ。元王太子は鈍かったのか?
「剣はあの神獣たちの一部なんだろう。恐らくその意思を宿している」
それまで周囲を警戒していたアル様が会話に入って来た。
「剣はソラに与えられたものだから、それ以外の人間には扱えない」
「うん。そういうことだと思うよ」
僕もアル様の意見に同意した。
「へえ、そういうものなんだ……」
相変わらず自分の重要性と事の重大性に全く気付いてないソラが呑気に呟いた。
これは、この先アル様は大変だな……。アル様の力も大概だからお互い様かな。僕はそんなことを思った。
「さあ、今日はここまでにしよう」
幻霧の中、シュシュがパチンと手を打って道案内の魔法を発動した。塔へ続く光の道が現れていく。最近シュシュはアル様にゲートの魔法を教わっていて、習得も間近だということだ。シュシュは研究熱心で努力家だ。それに普段は飄々としてるようにも見えるけど、とても優しくて心が温かい女性なんだ。
「そうだな、早く塔へ帰ってソラが焼いたノワノワを食べよう」
「アル様、あのお菓子好きですよね」
アル様とソラが笑い合っている。そんな二人を見て微笑んでるシュシュの顔を見て僕も幸せな気持ちになった。
アル様が好きなのはソラが作ったお菓子だと思うんだけど……
帰る道すがら防御魔法の展開と魔法石の鑑定に忙しい僕はそれを口には出さなかった。
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