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星降りの谷 私、もう王都には戻りたくありません!  作者: ゆきあさ


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57 星降りの谷

来ていただいてありがとうございます!




「シュシュ先輩っ!そっちへ行きました!気を付けてくださいっ」


「大丈夫だよ、ソラ。上位防御魔法を展開してるから」

シュシュ先輩の言う通り魔獣がシュシュ先輩のかなり手前で弾かれた。


星降りの谷ではただいま絶賛幻霧発生中だ。今日もシュシュ先輩、バジル君、アル様と私は調査探索を続けてる。


今日襲い掛かってきたのは背丈ほどあるムカデ型の魔獣達だ。活性期が終わってから、各地の未闇の地では収集できる魔法石の質が上がってるけど、その分出現する魔獣も多く強くなっている。


「結局、幻霧の活性期ってなんだったんでしょうかっ!」

私はパワーアップしたブランの剣でムカデ魔獣に切りつけた。やっぱり私の腕じゃ一撃必殺と言う訳にはいかないみたい。弱点の火魔法を叩き込んでとどめを刺した。私の左手首には新しくバジル君に作ってもらった精霊石のブレスレッドがある。


「文字通り、幻霧の発生が濃くなり、より強い魔獣が生まれる期間というところだろうね」

「魔法石の質も上がるよね。次の活性期っていつなんだろう?」

シュシュ先輩が答え、バジル君がわくわくしながら目を輝かせる。

「やめてくれ。黒い魔獣(あんなの)はもう御免だよ」

シュシュ先輩は嫌そうにため息をついた。


バジル君が拘束の魔法で動きを止めた魔獣をアル様が一刀で切り伏せて倒した。後には大きな魔晶石が残った。

「喋りながら討伐とは余裕が出てきたな。だが、くれぐれも油断はしてくれるなよ」

アル様は魔獣達から目を離さずに剣を構えた。

「分かってますよ、アル様、いや、我らが領主様」

バジル君がまぜっかえした。その顔にはいたずらっぽい笑顔が浮かんでる。

「その呼び方はやめてくれ」

アル様は嫌そうにため息をついた。


そうなのだ!なんと青星塔を含めた星降りの谷全体と未闇の地の一帯がアル様の領地になったの!このことが国王様との謁見で発表されたことのうちの一つ。それに伴って落星の谷は正式に星降りの谷って呼ばれることになった。


アル様は貴族の位をもらってこの辺境の地一帯を治めることになったんだ。アル様が王家を出ることにみんな驚いてた。私の周りにいた一部の人達はささーっと離れていった。わかりやすいね。


シュシュ先輩とバジル君もいずれはこちらで居を構える予定なんだって。それから新しく移り住んでくる人もぽつぽつ出てきた。殆どが調査隊を引退したような人や民間の調査チーム(王国の許可が必要)の人達だ。力自慢のベテランが多いので頼りになる。各地の未闇の地では幻霧がやや薄らぎ、一月後には幻霧が完全に消えた。再び以前のような未闇の地での調査探索が始まってる。


「それにしてもここが領地で本当に良かったのかい?もっと王都の近くの土地が予定されていたと聞くが」

「当然、断った」

短く答えながら次々とムカデ魔獣を倒していくアル様。青い魔獣からもらった大きな剣を軽々と振り回しててやっぱり凄い……。私は拘束の魔法改め、金の茨の魔法でムカデ魔獣達の動きを止めて倒しながらアル様の綺麗な剣技を見つめてた。



突然、魔獣達が動きを止めた。そして怯えたようにどこかへ走り去っていく。あ、これって……!霧の中から今までの倍以上の大きさのムカデ魔獣が現れた。

「大きい……!」

そしてさっきまでと色が違う。真っ赤な体に複数の角。火属性かな?


私達は襲い掛かってくるムカデ型魔獣を迎え撃った。私の金の茨が魔獣を縛り付け、動きが止まったところでアル様が剣を振るって、あっという間に倒してしまった。魔獣は真紅の石を落として消えた。


『あれー?僕達のでばん無かったよー』

 

どこからか残念そうな声が聞こえると思ったら、霧の空にブランとシエル、それにアル様の黒馬もいた。


『ピンチにかっこよく駆けつけようと思ったのに―』


「ブラン!シエル!黒馬さんも!」

シエルはともかく、ブランにこんなに早くまた会えるとは思ってなかった。

「あなた達って普段はどこにいるの?」

三人(?)は顔を見合せた。


『んー、どこだろう?』


「わからないの?」

「分からないというよりは説明が難しいのではないかな?」


『そーそー、難しいー』


ブランの言葉にシエルと黒馬も頷いたみたい。シュシュ先輩と私は顔を見合せて笑った。


やっぱり未闇の地って不思議だ。いつか全てが解明される日が来るんだろうか。



「うーん、一度神晶石(すごいの)を見ちゃうと精霊石もありがたみが無いなぁ」

バジル君が深紅の魔法石を鑑定してた。精霊石だったんだね。


「贅沢を言わないで欲しいな。精霊石も他ではあまり採れないんだからね」

「分かってるよ、シュシュ。けどさあ……」

バジル君は不満顔だ。


「どうやら、魔獣はもうこの辺りにはいないようだな」

周囲を見ていたアル様が剣を下ろした。


『みんなにげちゃったー』


みんなで周りに落ちてる魔法石を採集してこの日の探索を終えた。活性期の影響なのか普段よりもたくさんの魔法石が採れた。


『じゃあ、またねー』


手伝ってくれたブラン達はまた霧の中へ去っていった。

「ブラン達についていったら、何があるんだろう?」

「ソラはまず道案内の魔法をできるようにならないとだね」

「私だってできますよ、シュシュ先輩!……ちょっとの距離なら……」

繊細な魔力コントロールは苦手なんだよね……うう。

「それじゃダメじゃん」

「プッ……」

バジル君がダメ出しをするとアル様がふきだした。

「あ、アル様まで!酷いです!」


そんな風に笑い合いながらみんなで青星塔へ帰った。ああ、お腹空いちゃった。






その夜、青星塔の屋上で私はアル様と話をしていた。今夜は流れ星がたくさんでいつもより賑やかな夜空だった。


「王都ではゆっくりできなくて残念だったな」

「そうですね。あのカフェの店主さん達にもご迷惑をかけてしまいました……」

国王様との謁見の後、私とアル様は街へ出てあのカフェに行くことにしたんだけど、どんどん周囲に人が集まって来て、カフェの前に着く頃には収拾がつかなくなってしまったのだ。なんとか、アル様が幼い頃にお世話になってた騎士様のお宅へはご挨拶に伺えたけど、それも夜になってしまって申し訳なかった。ここのお屋敷にはアル様がこっそりゲート用の印を付けていた。


青星塔へ帰る前に買い物もしたかったんだけど、無理そうなので諦めたんだ。それと結婚式も延期になった。国王様が国を挙げての結婚式をするって仰ったんだけど、アル様が辞退した。私達は知り合いだけのこじんまりした式を挙げたかったんだ。でも、王都の様子を見てて普通の結婚式は今は挙げられないってわかったから、延期。みんなの熱が冷めるまで待つことにしたの。



「シュシュテインの言う通り、王都の近くの領地の方が良かっただろうか……」

「いいえ!そうすると周りの貴族様達との交流が必要になってくるって聞きました。私、そういうのはちょっと……」

アル様が貴族だから、結婚すると自動的に私も貴族の仲間入りなんだよね。


「ああ、そうだな。今も西の森の調査を手伝って欲しいと要請が来るくらいだ。近くに住んだら、どんなに厄介なことになるか……」

「そうですね……神獣の剣士様」

額を押さえるアル様に苦笑いで答える。

「ソラも笑い事じゃないぞ、神獣の巫女殿」

アル様がムッとして仕返ししてきた。どうやら私達の呼称はそう決まったらしいんだ。これも国王様との謁見で発表されたこと。


アル様と私は何も変わらない。不遇の王子様(元)とただの平民なのにね。




「面倒なので、私、もう王都へは戻りたくありません!」


「ああ、俺もだ」



私達は笑い合い、そっと口づけを交わした。





星降りの谷にひときわ大きな星が流れた。








ここまでお読みいただいてありがとうございました!

本編はこれで完結となります。

少しでも楽しい時間を過ごせて頂けてたら幸せです。

後日談をいくつか考えておりますので、完結設定にはしておりません。

不定期更新となりますが、良かったら読んでやってください。


ブックマークや評価、たくさんのいいねをありがとうございました。とても励みになりました!

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