54 聖晶石と神晶石
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「…………これ、魔晶石でも精霊石でもないよ」
そう言ったきりバジル君は絶句してしまった。
黒い魔獣の黒い霧は集まって一粒の大きな魔法石になった。ブランが頭にのせて私の所へ持って来てくれたその石をバジル君に渡して鑑定してもらったんだ。
「どっちでもないってどういうこと?まさかただの燃焼石なの?」
「これは、多分……聖晶石だと思う。いや、この力、もしかしたら、それ以上かもしれない」
「…………えええええ?!」
シュシュ先輩と私は同時に叫んだ。
バジル君が返してくれたその黒い輝石をアル様に手渡した。
「アル様っ!これで自由になれますね」
倒した魔獣が落とした魔法石は、基本王国の所有物になる。でも王様の出した条件は聖晶石を見つけること。これで条件はクリアだ。アル様の望みは叶う。
「聖晶石……これが……」
アル様は石を日の光にかざした。
ん?日の光?!霧……晴れてる……!青い魔獣が現れた時は空の一部だけだった青空も今は随分広がっている。
『ピークは過ぎたようだな』
青い魔獣が青空を見上げてる。
「ピーク……活性期とやらのか?」
アル様が青い魔獣に尋ねた。青い魔獣は頷いてアル様の顔を少し見つめた。
『そうか、お前は紫の目の男の末裔か。懐かしいの』
そう言った魔獣は少しだけ笑ったように見えた。
「アル様の事、知ってるんですか?」
『かつて我を青き神獣と呼んだ者……』
「青き神獣……」
青い魔獣は空を見上げた。
『そろそろ時間だ。この雲が晴れれば我々は存在できなくなる』
そうなんだ……。幻霧の未闇の地は異世界って本当なのかな?あの霧が魔獣達の命を繋いでるの?
「あ、あの!力を貸してくれてありがとうございました!」
私が慌ててお礼を言うと青い魔獣は今度ははっきりと笑った。
『またいつか会おうぞ』
『ソラー、またねー』
青い魔獣とブラン、黒馬さんとシエルは未だ幻霧の立ち込める西の森(未闇の地)へ戻っていった。ちなみにシエルは私に気のすむまですりすりして、最後に私の魔力を食べて帰っていった。
みんなが霧の中へ消えてから、テオフィル王弟殿下とかセルジュ様、クレール様がやっと近づいて来たのがなんだかおかしかった。
それから黒い魔獣が壊した建物は急ピッチで修理が行われ、怪我人の治療も行われた。西の森の幻霧は相変わらず濃いけど、王都に立ち込めていた幻霧は徐々に薄らいでいった。私達も王都での後片付けや、怪我人の治療、事情聴取、報告書の提出等々で結構忙しくて、なかなか落星の谷に帰れないでいた。
「結局ジュリエンヌ様もフランセット様もひっぱたけなかったな」
お城に用意された部屋でテーブルに頬杖をついた。お行儀が悪いけどここにはシュシュ先輩しかいないからいいのだ。
「まだ言ってるのかい?ソラ。彼女達には相応の罰が下るはずだよ」
シュシュ先輩がお茶を飲みながら困ったように笑ってる。
「それよりもお互い結婚式のドレスを選ばないとね。国王陛下との謁見もあるし」
そう!アル様は約束通り王族から抜けることが決まった。それでも今回の功績で高位貴族の地位を授けられて領地を頂くことになった。最初アル様は断ったんだけど、私との婚約を認めるからって説得されたみたい。
そうなんだ。私はこの度アル様と正式に婚約することになりました。何だか夢みたい……。それに驚いたことにシュシュ先輩とバジル君も婚約したんだよ!なんか、前々から二人で話し合ってて今回発表することにしたみたい。
「シュシュ先輩、改めて婚約おめでとうございます」
「うん、ありがとう。ソラもおめでとう」
「ありがとうございます。……結婚式かぁ……リリアーヌが先のはずだったのに……」
リリアーヌは避難命令を無視したということで罰金刑になった。実はリリアーヌのように森に入っていた人間は他にもかなりの数がいて、魔法石を所持していた者達は全員同様の刑に処された。罰金とは言っても軽いものでは無く、支払いができない者は強制労働が課せられた。ちなみにニコラの家族の中にもそういった者達がいて、ニコラの家は商売を縮小することになってしまった。だから二人の結婚はもう少し先になりそう。
「リリアーヌから援助をもとめる手紙が来たけど、あの子はすごく反省するべきよね」
と言う訳で私は一切援助はしないことに決めたんだ。
幻霧の発生した森へ入ることは禁止はされてなかった(実際、魔獣を恐れて幻霧発生中の未闇の地へ入る人はほとんどいなかった)。だけどこの事件があってからは一般人が未闇の地へ入ることは禁止されることになった。それまでは魔獣に襲われても自己責任で実際に行方不明者も死亡者も出てたんだ。
「大変だよ!!」
私達がまったりとお茶を飲んでると、バジル君が慌てて部屋へ入って来た。
「ソラとアル様の剣!!聖晶石よりももっとずっと上の力があることが分かったんだ!!」
バジル君は珍しく物凄く興奮してる。
「君達の剣は神晶石って呼称することになったよ!!」
「へえ、そうなんだ……」
「そうか」
「反応が薄いよ!!」
バジル君の絶叫がこだました。
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