53 戦闘終了
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「何だ?霧が晴れた?」
シュシュテインは空を見上げた。周囲の騎士や兵士や調査隊の面々にも困惑が広がる。突然霧が薄まり、一部青空が見えている。そこから青空を切り取ったような異形、大きな蛇のような魔獣が降りてきた。
黒い魔獣を西の森の入り口へ追い詰めた時に想定外のことが起こった。避難指示を無視した幼子と少女が黒い魔獣に襲われかけたのだ。幼子の方はソラが保護し自分の元へ連れて来た。怪我も無いようで治癒魔法使いの女性が安全な場所へ連れて行ってくれた。
問題なのはもう一人の少女だ。アルベールの剣と、ブランとソラが名付けた白い魔獣の攻撃でしばらく動けないようだったが、その少女が現れた途端狂ったように黒炎の攻撃を繰り返し始め、周囲の木々に燃え移り黒い炎の森と化してしまった。
勿論シュシュテイン達もただ黙ってそれを見守っていたわけではなかった。防御魔法や結界で延焼を防ぎつつ黒い魔獣への攻撃を繰り返した。しかし目に見えるダメージは与えることができなかった。
黒い魔獣が森へ向かって特大な黒炎を吐き出した瞬間に、ソラとアルベールが少女を庇って防御魔法を展開したけれど、二人は黒炎に飲まれてしまった。
「ソラっ!アルベール様っ!」
シュシュテインの悲壮な声が響く。その時だった。霧が晴れて青空と青い魔獣が現れたのは。
「新たな魔獣……だと?」
テオフィル王弟殿下が愕然と呟いたのが聞こえた。兵士や騎士の間でも「お、大きい」、「そんな……」とか「もう駄目だ」という声が上がった。深く青い色の巨大な魔獣。その登場に周囲が絶望したのを感じた。
「しまった!魔獣の体が再生してしまう!」
シュシュテインの予想通りに青い魔獣に落とされた黒い魔獣の羽根が再生してしまった。
「あれが青い魔獣……」
シュシュテインの隣でバジルが呟いた。
「そうか、あれがソラとアル様が出会ったというもう一体の魔獣か!」
ソラが言っていた魔獣の特徴がぴったり合う。
「叔父上おそらくあの魔獣は大丈夫だと思います。それに兄上とソランジュ・フォートレルがいますから」
セルジュの言葉にテオフィルは戸惑っている。
「セルジュ、一体何を……」
「あれを見て下さい」
セルジュの指さす先には黒い魔獣と対峙するアルベールとソランジュの姿があった。
「何だ?あの剣は?」
テオフィルやセルジュには二人が持つ剣から魔力とは違う圧倒的な力を感じた。
突然現れた青い魔獣はそれ以上何をするでもなく二人を見守っている。
まずは黒馬に乗ったアルベールが動いた。明らかに剣の威力が上がっている。ブランとの連携で魔獣に次々とダメージを与え続ける。
ソランジュは今のところ防御に徹しているようだが何かを狙っているようだ。時折剣をふるい、その度に魔獣の動きが鈍っていく。美しい金色の雷光が黒い魔獣の体表に茨のようにまとわりついている。
魔獣の動きが止まった次の瞬間、ソランジュの剣が魔獣の腹を切り裂いた。人の手が腕が見え始め、やがて銀色の髪とドレスの人間が魔獣の腹から落ちていった。
「ジュリエンヌッ!」
テオフィルが走り寄り、ジュリエンヌを受けとめた。途中までブランが追いかけて来ていたがテオフィルの姿を見てソラの元へ戻っていった。
その後は圧倒的だった。
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「これで全力が出せるな」
ジュリエンヌ様を解放した後、アル様は魔獣を圧倒していった。
「アル様、凄い!」
黒馬に乗って魔獣を切りつけていく。次第に歓声が上がるようになって、ジュリエンヌ様を失ったのも影響してるのか魔獣はみるみる力を失っていった。
あ、もちろん私だって応戦したよ。ブランの牙の剣は魔力を底上げしてくれるのか、別の力(これは多分ブランの力)も入って来て魔獣に魔法がよく効くようになったんだ。剣に全力の魔力をのせて拘束の魔法をかけて黒い魔獣の動きを止めて、アル様の周囲に防御魔法をかけ続けた。アル様に魔獣が攻撃をしようとするたびに金色の盾がアル様を守ってるのが見える。
「とどめだ。一緒に行くぞ!ソラ!」
「はいっアル様!」
アル様と二人で動きの止まった魔獣に剣を突き立てた。
黒い魔獣は絶叫を上げて、次第に黒い霧のようになっていった。
『終いだな』
『やったー!ソラすごーい!』
地上からも歓声が上がった。
「やりましたね!アル様」
「ああ、ソラのおかげだな」
「アル様が凄いんですよ!」
私達は笑い合った。
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